炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~
22節 遥か昔の記憶part7
ヨルカが街に出て数ヵ月が経った。ルータスの情報は愚か、屋敷で起きていることすら把握できていない。
屋敷から逃げ出して、今までの満足のできる暮らしはできない。人間に見られると、ヨルカであることがばれてしまうので、姿を変える魔術を覚え、住み込みで夜、働きながら生きていた。
いつかの大切な使用人の一人、『ルイ』の名を借りて、見た目の通りの十六才の人間の少女を偽り、人の下で働くということを学んでいる。
「ルイさん、今日はもう上がっていいよ」
「いえ、どうせ帰るのは上の部屋なので、もう少し手伝います」
初めの頃は、敬語を使ったことのないヨルカに対しての先輩たちの態度は冷たいものだった。しかし、ヨルカの元から持つ、明るく、愛嬌のある性格から、溶け込むのもそう難しくはなかった。
「ルイさんは良い人よね~。どうして住み込みでなんているの? 」
「あ……もう良いか。私の家は、少し地位の高めの家だったのですが、あまり私に合わず、家を出て働こうと思ったので、家出をしてしまいました」
「え、そうだったの! ? じゃ、じゃあこんな言葉遣いは不味いよね……じゃなくてですよね? 」
ヨルカの先輩は、親から家を追い出され、ヨルカのとなりの部屋に住み、働いている。
「ああ、やめてください。私はそういうのが合わなくて家を出たんですから。今まで通りでお願いします」
もちろん嘘だ。一番良い嘘を、吸血鬼の長の娘としてのボロが出たときも上手く言いくるめることができるように考えたのだ。
「あはは、そうね。これからもよろしくね。ルイさん」
「ルイで良いですよ。先輩」
「じゃあ、私もルイにただの"先輩"じゃなくて、"ヴェニア先輩"って呼んでほしいな~なんて……」
「そうですね。ヴェニア先輩! 」
ヨルカは笑顔でそう言った。ヴェニアは少し照れながらもヨルカの言葉を受け入れた。
「あっ! そういえばさ」
ヴェニアは、ヨルカの方を向き直して、思い出したかのように言った。
「どうしたんですか? ヴェニア先輩」
「明日の夜、吸血鬼のキューバル様が妹を連れてこの工場に来るんですって」
「……え」
ヨルカの表情は、姉に会える喜びと、会ってしまった後に対する恐怖で曇っていた。例え姿を変えているとはいえ、キューバルなら妹のヨルカを見逃すわけがないからだ。
置き手紙を一枚かいただけで、無断で何ヵ月も屋敷に帰っていないのだ。怒られるに決まっている。
「私……明日休みます。すみません。あの方が来るのならちょっと……」
「どうして? あのカリスマ溢れるキューバル様がお見えになるのよ? 」
確かに不自然だ。キューバルは、人間の街でも狼の集落でも、悪名ひとつない吸血鬼なのだ。それなのに、会いたがらないなんて普通、この世界ではありえない。
ヨルカは、必死に理由を考えた。
「それは……。わ、私、さっきちょっと地位の高めの家に生まれたって言ったじゃないですか」
「うん。言ったね」
「それで……実家にいるときに一度、おね……キューバル様がいらしてお会いしたことがあったんです。その時に、とても失礼なことを聞いてしまいまして……」
「いったい何を聞いたのよ……。大したことがなければもう許してくださっていると思う
よ~」
ヴェニアは気楽にそう言った。できるだけたくさんの従業員をキューバルに紹介したいのだ。
「吸血鬼って長寿じゃないですか。それで、年齢を……」
「明日は部屋で待機、いいね。ルイ、出てこないでね」
キューバルも吸血鬼と言えど女性だ。この世界で、女性に体重や年収よりも聞いてはいけないもの、それが年齢だ。もちろん、ヨルカが考えた嘘ではあったが、本当の話だと思ったヴェニアは、絶対にヨルカとキューバルを会わせてはいけないと思ったのだ。
「もちろん、わかっています。ヴェニア先輩、私の名前も念のため出さないでくださいね。それと、存在も」
「ええ……じゃあルイ、良い朝を」
「はい、ヴェニア先輩、良い朝を」
ヨルカとヴェニアがそう挨拶を済ますと、ヨルカは部屋に入っていった。幸いか不幸か、建物は古く、丁度作業場が見える位置に穴が開いている。
そこから、キューバルを見ることができるが、その代わりに、声を出せばここにいることがバレてしまう。そんな状況だ。
屋敷から逃げ出して、今までの満足のできる暮らしはできない。人間に見られると、ヨルカであることがばれてしまうので、姿を変える魔術を覚え、住み込みで夜、働きながら生きていた。
いつかの大切な使用人の一人、『ルイ』の名を借りて、見た目の通りの十六才の人間の少女を偽り、人の下で働くということを学んでいる。
「ルイさん、今日はもう上がっていいよ」
「いえ、どうせ帰るのは上の部屋なので、もう少し手伝います」
初めの頃は、敬語を使ったことのないヨルカに対しての先輩たちの態度は冷たいものだった。しかし、ヨルカの元から持つ、明るく、愛嬌のある性格から、溶け込むのもそう難しくはなかった。
「ルイさんは良い人よね~。どうして住み込みでなんているの? 」
「あ……もう良いか。私の家は、少し地位の高めの家だったのですが、あまり私に合わず、家を出て働こうと思ったので、家出をしてしまいました」
「え、そうだったの! ? じゃ、じゃあこんな言葉遣いは不味いよね……じゃなくてですよね? 」
ヨルカの先輩は、親から家を追い出され、ヨルカのとなりの部屋に住み、働いている。
「ああ、やめてください。私はそういうのが合わなくて家を出たんですから。今まで通りでお願いします」
もちろん嘘だ。一番良い嘘を、吸血鬼の長の娘としてのボロが出たときも上手く言いくるめることができるように考えたのだ。
「あはは、そうね。これからもよろしくね。ルイさん」
「ルイで良いですよ。先輩」
「じゃあ、私もルイにただの"先輩"じゃなくて、"ヴェニア先輩"って呼んでほしいな~なんて……」
「そうですね。ヴェニア先輩! 」
ヨルカは笑顔でそう言った。ヴェニアは少し照れながらもヨルカの言葉を受け入れた。
「あっ! そういえばさ」
ヴェニアは、ヨルカの方を向き直して、思い出したかのように言った。
「どうしたんですか? ヴェニア先輩」
「明日の夜、吸血鬼のキューバル様が妹を連れてこの工場に来るんですって」
「……え」
ヨルカの表情は、姉に会える喜びと、会ってしまった後に対する恐怖で曇っていた。例え姿を変えているとはいえ、キューバルなら妹のヨルカを見逃すわけがないからだ。
置き手紙を一枚かいただけで、無断で何ヵ月も屋敷に帰っていないのだ。怒られるに決まっている。
「私……明日休みます。すみません。あの方が来るのならちょっと……」
「どうして? あのカリスマ溢れるキューバル様がお見えになるのよ? 」
確かに不自然だ。キューバルは、人間の街でも狼の集落でも、悪名ひとつない吸血鬼なのだ。それなのに、会いたがらないなんて普通、この世界ではありえない。
ヨルカは、必死に理由を考えた。
「それは……。わ、私、さっきちょっと地位の高めの家に生まれたって言ったじゃないですか」
「うん。言ったね」
「それで……実家にいるときに一度、おね……キューバル様がいらしてお会いしたことがあったんです。その時に、とても失礼なことを聞いてしまいまして……」
「いったい何を聞いたのよ……。大したことがなければもう許してくださっていると思う
よ~」
ヴェニアは気楽にそう言った。できるだけたくさんの従業員をキューバルに紹介したいのだ。
「吸血鬼って長寿じゃないですか。それで、年齢を……」
「明日は部屋で待機、いいね。ルイ、出てこないでね」
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「もちろん、わかっています。ヴェニア先輩、私の名前も念のため出さないでくださいね。それと、存在も」
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