炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

18節 遥か昔の記憶part3

 およそ六百年後、ルータスが生まれた。この世界の吸血鬼は、生まれたときから羽を持つわけではない。成長の過程で自然と生えてくるのだ。

「お姉さま、ルータスの羽はいつになったら生えてくるのでしょうね」

 ヨルカも、もう千才を越え、見た目は幼かったが、立派な吸血鬼に成長していた。

「そうね、遅すぎる気がするわ」

 ルータスは生まれて五十年が経過しても小さな羽すら生えてこなかった。もちろん、その事に疑問を持つものは多く、気味悪がって近づかない人間も多かった。

 その時、屋敷には数十人の使用人が支え、吸血鬼も人間も狼も関係なしに協力しあっていた。

バンッ

 広間の扉が勢いよく開かれ、数人の学者たちが入ってきた。

「キューバル様、大変です! 」

「どうしたのよ、ルータスが寝ているのだから騒がないでちょうだい。この子も私の妹なのだから」

 ルータスは、ヨルカが「妹がほしい」と言ったことにより、キューバルとヨルカの妹ということになったのだ。

「ルータス様の羽のことでわかったことがあるのです」

「え? じゃあルータスの羽には異常があるってこと? お姉さま、どう思う? 」

「そういうことでしょうね。ヨルカ、ルータスを起こさないように連れてきてもらえる? 」

「はい、お姉さま」

 ヨルカはそう言い、二階のルータスの部屋に向かった。ルータスの部屋には、乳母の人間と警備の狼がいた。

コンコンコンッ

「ヨルカよ、入っても良い? 」

「はい、ヨルカ様。どうぞお入りください」

 返事をしたのは乳母の方だった。狼はリサの事件があってから皆言葉数が減ってしまった。

「ルータスをお姉さまの所に寝かせたまま連れていきたいの。お願いできる? 」

「かしこまりました。ヨルカ様」

 ヨルカは、その答えを聞くと、広間まで戻っていった。

 自分の部屋の前を通ると今でも焦げ跡が残っている。あの事件でリサが死ぬことはなかったが、酷い火傷を負い、仕事ができなくなってしまって狼の領地に帰っていった。

 ルイも責任を感じ、町に帰っていった。ヨルカは、それ以来羽をしまい続け、チカラを使おうとしていない。

「お姉さま、もう少しでルーちゃん来るよ」

 ヨルカは時々ルータスのことをルーちゃんと呼ぶ。その度にルイのことを思いだし、罪悪感に襲われるが、それも戒めとして受け入れている。

「そう。ありがとうね、ヨルカ」

「……」

 キューバルのヨルカに対するどこか冷たい態度は昔も今も変わらない。ヨルカは、少し寂しい気がしても、昔のように態度には出さぬようにしていた。

「キューバル様、ヨルカ様、失礼いたします」

 ルータスの乳母の声が扉の反対側から聞こえてきた。

「どうぞ」

 キューバルが言うと、人に化けた狼が扉を押し開けた。

「ルータス様、お連れしました」

「ありがとう。こっちに連れてきてくださる? 」

「かしこまりました」

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