炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

11節 エラーの存在価値




 神は、完璧が好きだった。いや、遥か昔から全てが完璧でないと気に入らなかった。だからこそ、エラーの存在が許せなかった。

 管理者には名前がある。神が気に入っていた地球でよく使われる名前を付け、言うことを聞く者だけを可愛がっていた。そして、神は完璧でなく、言うことを聞かないエラーは消滅させていた。

 そんなときに生まれてしまったのが、名無だったのだ。消せないエラー。神は名前も付けず、任務も与えずに放置していた。そして、また生まれてしまった。『言葉を発することのできない、脳内会話以外不可能』というエラーを持ったものが生まれた。

 今度は簡単に消すことができる者だった。しかし、神は"良いこと"を思い付いた。そのとき、神ははじめて呼んだ。

「名無し、errorNo.1! 」

 もちろん、名無ははじめ、呼ばれたことに気づかなかった。しかし、"error"という言葉と"名無し"という今までに神が発したことのなかった言葉で数秒後、自分のことだと気づいた。

「はい、神。用件はなんでしょうか」

 きっと名無に感情があったら泣いていただろう。永遠に発することがないと自覚していたプログラムの言葉をこのときはじめて発することができたのだから。

「名無し、この新しいゴミの面倒をみなさい。それがお前の任務だ」

「かしこまりました。神」

 たったの数秒ではあったが、名無にとって生まれたとき以来初めての会話だった。

 しばらくし、名無は神に呼ばれた"名無し"という言葉が自分の名だと思い込み、"名無し"と名乗るようになった。そして、新しいエラーの管理者のことを二名無にななと呼んだ。神がerrorNo.2と呼んでいたから。

 しかし、ある日、神から二人は呼び出された。

「神、我々に用とはなんでしょうか。」

 名無のその言葉に答えなかった。ただ、神は二名無の前に立ち、手をかざした。

『名無。さよなら……』

 名無には二名無の声が聞こえた。脳内会話ではあるが、聞きなれてしまった妹同然の声だった。

「名無し、お前に対する罰だ」

 そのまま、二名無は光の粒子となり消えた。管理者の死に切なさなどない。別れのプログラム、『さよなら』の言葉と光の粒子だけが死の証拠となり、生きていた証拠は残らない。名無の胸が痛んだ。心も感情も存在しないはずなのに痛みが切なかった。

「お前が名無を名乗ることは認める。しかし、他の者に名付けをするのは認めん」

 神はそうとだけ言って名無の前から去っていった。

「かしこまりました。神」

 いつも通りのプログラムを発し、名無も歩き始めた。どうせ向かうところもなければ、することもないが、二名無が来る前に戻っただけだった。


 数億年が経ち、それから生まれてくるエラー持ちの管理者は次々と様々な言語の"名無し"を名乗るように神から命じられた。そして、名無の任務はエラー達の管理と監視になり、エラーも含め、神周辺はいつも通りに戻るようになった。

 管理者でないエラーは神が消せる者は消し、消せない者は何事もないかのように世界へ送り出した。それが、アルゴライム達だ。

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