炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

7節 生命の肉



「……ライムってば、本当に帰ってこないわよね。雨もあがったし、夜になったら帰ってくると思ったのだけど……」

「まあ、アルゴライムなら心配要らないと思うよ。あの強さだしさ」

 アノニムは知っている。アルゴライムが世界最強になる程の魔力を所持していることを。リリスは知らない。アルゴライムが何者にも負けない程のチカラを手にしていることを。

「アノニム、ライムと戦ったことあるの? 私が戦ったときは、そこまで強くなかった気がするのだけど」

「私はアルゴライムと戦ったことなどないよ。アルゴライムが自分のチカラを理解したのは最近で、リリスと戦ったあとだったからな。無理もないさ。でも、あいつは間違いなく強いよ」

「そうなのね……。じゃあ、あの家と戦争になっても、ライムさえいれば、確実に勝てるわね。人数差なんて関係ないわ」

 アノニムは、リリスの今の発言を聞いて思った。フラグってのは、こんな感じなんだな、そろそろ攻め込まれてもおかしくないな、と。

 アノニムは、優雅に紅茶を飲み干すと、トキューバ家の長、ルータスの現在地を確認し始めた。それで居場所がわかっても、リリスには伝えない。しかし、攻めてきた場合、リリスを殺されないように守りながら、ルータスとキューバルを殺さないようにし、さらに、アノニムの肉体を破壊されないように戦いながらアルゴライムの帰りを待たなければ行けない。

 そして、アノニムは見つけた。もう既に町から出ていて、数百人のトキューバに仕える人間や町の人々を連れてこの屋敷に向かっていた。

「リリス。ちょっと部屋から出ていてくれるかい? やらなければいけないことがあるんだ」

「ええ、良いわよ。じゃあ、何かあったらすぐに呼んでちょうだいね。自分の部屋にいるから」

 意外とあっさり部屋から出ていったリリスに、アノニムは少し驚かされた。どうせ「なぜ? 」とか言われて手間がかかると思っていたからだ。

 リリスが出ていくとすぐにアノニムは魔術の詠唱を始めた。この世界に存在するような低レベルの魔術ではなく、アルゴライムの膨大な魔力を得てしても使用することが不可能な程高位な神によって組まれた魔術式を唱えていた。

「我、errorNo.20エラー番号20の名において命ずる。我が肉体に、生命の恵を与えたまえ。生命の血肉を与えたまえ」

 この詠唱は遠い昔、とある世界で自我を持った機械魔術型人形にアノニムが肉体を与えるために詠唱させて以来、使われた魔術式だった。自我を与えるのは第三者でも可能で、そこまで高難易度の魔術ではない。しかし、肉という物に体内の物質を全て入れ換えるこの魔術は自身でなければ詠唱することができないと決まっており、自身にも死よりも苦しい痛みが襲うほどだ。

 アノニムには今、どんなに苦しくもこの魔術が必要だったのだ。刃物で傷つけられた時に血が出なければ不自然だから。生命体で無いことがバレることはまずないが、もしも見られたら神の手によって消滅させられてしまう。管理者に微かに存在する既存の感情プログラムに『消滅の恐怖』が存在するのだ。なので、アノニムは血を流さなければならない。痛みも感じなくてはならないのだ。

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