炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

X'mas spacialstory (番外編)

「あ、」

 アルゴライムは突然立ち上がった。

 この世界の短い冬。そのなかでも極寒の日に相応しいこの日、リリスとメアリーは地下の図書室に防寒のため、引きこもっていた。

「ライム? どうしたのよ。いきなり大声出して」

 二人の会話は知らないうちに館の中では日本語で安定していた。

「今日は一番寒い日なんですよね? それはつまり冬至ですよね? 」

 アルゴライムは言った。リリスは冬至と言うものを知らないため、何も答えないで読んでいた本に視線を落とした。

「聞いてます? 」

「トウジって何よ。私は知らないから何も言えないわ」

 リリスは本を見つめながら答えた。

「冬至をしようと言っているのではないのですよ。クリスマスをしましょうといっているのですよ」

「もっとわからないわ。前の世界のイベントなら教えてくれないと…」

 リリスは本を閉じてアルゴライムの側に寄った。そして、アルゴライムは説明を始めた。




「…これがクリスマスだったと思いますよ。まあ、私たちは本来の意味なんて忘れてパーティーをしたり騒いでいたんですけどね」

「………それ、何か忘れてない? 私達は吸血鬼よ? 」

 そう。クリスマスの象徴の内の一つ、十字架は吸血鬼の弱点の一つ。その十字架を使うならばこのイベントは諦めなければならない。

「それなんですけどね、意味を追求しないで騒ぐだけなのでいい気がするんですよね。…私の前の世界ではプレゼントを交換してご馳走を食べてました」

「でもねぇ…こんな時期に外に出るのは大変よ? 凍るかもだし、日光は降り注ぐものよ? 」

 二人は悩んだ。吸血鬼の血縁に体温なるものなど存在しない。それ故、気づかぬうちに凍りついていることも多々あるそうだ。

「私には体温ありますよ?寒いのは気になるませんけど、流石に凍りそうなくらい寒ければ気づきます」

「たまに思うわ…貴女、本当に吸血鬼よね…? 」

「少なくとも貴女よりは吸血鬼です」

 リリスは笑った。珍しく大きな声をだして笑った。確かにそうだがリリスが言った吸血鬼かと言う質問には少し冗談が含まれていたが普通に返事してきたライムが何故かおかしく感じた。

「そうよね、確かにそうだわ」

「まあ、私の場合、体内に炎を灯させ、外に出さないようにしている熱なので体温とは違う気もします…」

「まあ、体温でいいんじゃない? 私はそういうの、よくわからないし」

 今思えば、吸血鬼とアルゴライムがバレてしまったのは良かったのかもしれない。この時期は門がしまっている。だから、バレている今でないとアルゴライムはプレゼントなど買いにいけない。それを考えると…良いことだったのかもしれない。アルゴライムはそう思った。

「まあ、凍りそうになったら暖めますよ。早めに行きましょうか」

 アルゴライムのその言葉に賛同して二人は町の方に向かった。森を焼かないように門の前までは歩き、そこからはリリスに持ち上げてもらい、中に入る。町民の人も町に被害を出さないこの方法なら追い出さないといっている。まあ、だからといって歓迎されるわけは全くないのだが…。



「お金はいくら持ってきました? 」

「だいたい百$くらいよ。自分でも買いたいものあるからね」

 この世界の物価とは、三百$あれば人間は五十年間裕福な暮らしをすることができるほどだ。吸血鬼や鬼狼でも三十年は裕福な暮らしをすることができる。そんななか、クローバー家の全財産は相当なものでトキューバ家の全財産の数倍と噂もされている。

「まあ、私もそのくらいですよ。でも不思議ですよね…。あの部屋のお金、減ることを知らないんですよ。この間、金庫を整理しに行くと、最初は千五百億$だったじゃないですか? 」

「ええ、そうよね。それが変わっていない…とか? 」

「いや、病院から血液を高く売ってもらったりして二百$くらいこの世界に来てから使ったはずなんですけど、二千五百億$に増えてたんですよ…」

「…え? 」

 リリスは数秒の間無表情で黙っていた。いや、なにも言えないと言うのが正しかった。リリスはトキューバ家の財産を知っていた。そんな彼女にはこのアルゴライムの言った金額の大きさをすぐに理解することができた。そのための反応だ。

「…え? 」

「それ…数え間違えよ…。今度、私も数えるわ」

「やっぱりそうですよね。まぁ、買い物の別行動にしますか」

 お金の話が終わるとアルゴライムは一度手を叩き、切り替えた。そして、まずは、病院の方へ歩いて行った。リリスは、まったく、と思いながらも、服屋の方へ飛んで行った。



 何時間がたっただろうか。もうほとんどの店が閉まり、辺りは暗くなってしまっていた。少し前から両手に荷物を抱えたリリスが初めの場所で待っていたが、アルゴライムが現れる気配はなかった。



 完全に人の気配がなくなって数時間が経っていた。怒ることにすら無気力になっていたリリスの前に何も持っていないアルゴライムが、現れた。

「いやー、遅くなってすみません。病院でなかなか血液を譲ってもらえなくって…」

「あー、そうだったのね。ところで、貴女荷物は? 」

「ああ、最近見つけたんですけど、吸血鬼の能力のうちの一つでこの水筒の中に液化しまいました。リースのもしまうのでください」

 よく見ると、服と同化していて気づかなかったが、黒い水筒を肩から下げていた。そしてアルゴライムがリリスの荷物に手をかざすと、一瞬アルゴライムの瞳が光ったような気がした。リリスの荷物は赤い液体になって浮かんでいた。それは血液にも見えた。

「さあ、帰りましょう」

「はぁ…。そうね」

 リリスはため息をつきながらもアルゴライムを持ち上げた。

「悪いけど、このまま帰るわよ」

「ええ。お願いします」



「先にお風呂入るから、私の部屋に荷物、置いといてね」

 屋敷についてリリスがアルゴライムを下すと言った。そしてそのまま風呂場に向かっていった。

 アルゴライムは自分の買ったプレゼントなどを取り出すと、残りはリリスの部屋に入れた。そして、水色の大きな紙袋を手に取ると、図書室に向かった。

「探すのに苦労しましたよ。でもこれでパーティらしくなりますね」

 紙袋のなかには紙テープがたくさん入っていた。そして、それで図書室を飾り始めた。しかし、三十分くらい飾ると、自室に戻った。部屋にいないことがばれてこの飾りのことがバレたら意味がないからだ。

 アルゴライムが珍しく、子供のように無邪気に笑っていた。

「ライム?私寝るけど、お風呂入っていいわよ」

「あ、はい。ありがとうございます。おやすみなさい」

「ええ、おやすみ~」

 リリスはそのまま自室に戻っていった。そして、アルゴライムはお風呂に入ると、部屋には戻らず、図書室に向かった。今夜は寝ずに準備するつもりだ。


「ライム? 起きた? 」

 アルゴライムが目を覚ますと、もう昼になっていた。そして、隣にはリリスがいた。準備など終わっていない。見事にリリスにバレてしまった。

「リース! 起きるの早くないですか? 」

「別に、早くないわよ…。もう昼だもの。それよりこの荒れようは何? 」

 リリスとアルゴライムは部屋を見回した。途中から眠くなって片付けよりも飾りつけを重視していたため、部屋が荒れに荒れていた。

「……パーティ会場です…」

「これが? 」

 アルゴライムは目をそらしながら自然に片付け始めた。

「あともう少しなので手伝ってください。パーティしますよ」

「…何か、ようやくいつものあなたに戻った気がするわ。昨日からテンション高くて疲れたわ」

「そうですか」

 いつも通り話を聞かない空返事をした。それを聞いてリリスは少しホッとした。ただ、アルゴライムはこの世界で好きなイベントができることが嬉しかっただけなのだ。だが、いつも話を聞かないでマイペースなアルゴライムとかけ離れたテンションに少し引いていたのだ。



「飾り付けも片付けも終わったことですし、パーティ始めましょうか」

「…そうね」

「? 何か不満でもあるのですか? 」

 アルゴライムは珍しく、リリスの顔色をうかがった。

「不満があると言うよりは、私はまだこのクリスマスをよくわかっていないのよ? パーティって言ったってプレゼント交換はわかるけど何をすれば…」

「じゃあパーティの前にプレゼント交換をしてしまいましょうか」

「え? まあ、いいけど…」




 アルゴライムの思い付きでパーティを始める前にプレゼント交換をすることになった。二人はそれぞれ自室から互いへのプレゼントをとってきた。アルゴライムのプレゼントは藍色の小さな箱、リリスのプレゼントは水色の包みだった。

「はい、リース。気に入ってくれるといいんですけど」

「まあ、私も気に入ってくれれば嬉しいわ」

 二人が交換すると、同時に開け始めた。先にプレゼントを見たのはリリスだった。

「…ネックレス…」
 
 そのネックレスは月がモチーフになっていて、その中心にはアルゴライムの瞳のように赤い宝石が飾られていた。

「オーダーメイドですよ。作ってもらったんです」

 アルゴライムはリリスが目の色が碧いことを気に病んでいたことを覚えていた。それで、瞳ではなくとも赤く光るものをプレゼントしたかったのだ。

「ありがとう」

「いえ、こちらこそ。こんなに素敵なワンピースをくださって本当に感謝しています」

 その服は、いつも来ている服よりも幼い印象を持ち、アルゴライムの顔を幼く見せていた。本当に薄い水色の記事に藍色のレースのついた人形の着るような服。そんな服は来たことのないアルゴライムだったが、とても嬉しかった。

「あ、パーティなのですがね、私も詳しくは知りません」

「え? じゃあどうするのよ」

「始めに『メリークリスマス』と言えばあとは普通のパーティで構いません。この世界にクリスマスパーティのルールなんて無いんですから」

 アルゴライムは笑顔だった。リリスはその笑顔につられて笑っていた。

「それもそうね。…久々に血でも飲もうかしら」

「流石ですね、吸血鬼さん」

「ええもちろんよ。吸血鬼さん」

 二人は全日、病院で譲ってもらった血液をワイングラスに注いだ。そして、グラスを持ち言った。

「「メリークリスマス! 」」

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