フェアリーリーズ

依田行平

第一章 緑の指輪と憂える黒 9

「なぜ?なぜですの」

 ローワライの動向を探っていたレオ・フィルナが、机上に置いてあった資料を握り潰した。

「どうして、ムアードにいると分かっているのに、手をこまねいて見ているだけですの」

「私達が手を出せば戦になるやもしれません」

 そう答えたのは、レオ・フィルナの従者だった。

「ムアードはその昔、ライアルド一の武器宝庫と言われており、それ故に滅ぼされました。ここは他族に助力を請い、ムアードに潜入せしめるのが得策かと」

「他族?」

 レオ・フィルナが考えを巡らせた。

「とういう事は水族に……?」

 水族は炎族と政治的な関わりがあった。その時、扉の外から声がかかった。

「失礼します。聖夜の守人様が参られました」

 従者が扉を開けると、ローワライの兄フェーライ侯爵がいた。

「お久しぶりです、斜光の炎殿」

「フェーライ様」



『やがてこの世から精霊達はいなくなるでしょう』

 風の精霊はそう言った。

「そんな! それじゃ」

 ロエンは言葉を失った。

「精霊がいなくなるとどうなるんだ」

 アシュドがロエンに聞いた。

「自然の均衡が崩れ、この世界は滅ぶ」

「まさか」

 ありえない、と言おうとしたがアシュドも言葉を詰まらせた。

『間違いないでしょう。我らは滅びるが定め』

「定めって待てよ。どうしてそんな落ち着いていられるんだ?」

 風の精霊のその態度に、アシュドがそう聞いていた。

『それも運命なら我らは受け入れます。自然は自然と共に』

 この世界が滅ぶ。

 それは、二人の上に重くのしかかった。

「それを受け取ったとしても、何も変わらないって事か。この世界が無くなるのは変わりようのない事実なのか」

 アシュドが口を開いた。

『それは、我にも解せません。しかし、この宝珠が悪意のある者の手に落ちれば同じ事です』

「僕が悪意を持ってないと?」

『我らはあなたを主だと認めました』

 ロエンが俯く。

『あなたに全てを負わせたくはありません。フィーザもそう仰っておられました』

(お父さんが?)

『すごい魔力の持ち主でした。おそらく光よりも強い。それ故に宝珠を持たなかった事が悔やまれます』

「えっ?」

 ロエンが驚いた。確かに、ロエンの父はすごい力の持ち主だった。

『長い間我の元に留まっていた為、かなり力が不安定になっています。これは』

 その時、風の精霊が何かに感づき、使い鳥に様子を見てくるように命じた。風鳥がその場から姿を消した。ロエンの表情が変わった事に、アシュドが気づいた。

「なんだ?」

 戻って来たリィシアルが言うには、炎族が近くにいるとの事だった。

『おそらく、アサドフェザーの者だと思われます』

 アシュドが顔つきを険しくした。

「やはり、村を出るべきだったな」

『主、我らは炎を払います。主はこの場からお逃げ下さい』

 意を決したように、ロエンが口を開いた。

「待って。僕が行く」

『ですが、主が行かれると大変危険です』

 風の精霊がロエンを止めた。

「解っているけど、これは僕の問題だ」

『主。では、受け取っていただけるのですか』

 ロエンは少し考えた。

「まず炎に会ってから」

『分かりました。どうか、お気をつけて』



 森を抜けた道に、二つの馬上の姿が見えた。一人がロエンの存在に気づき、顔を上げた。

「誰がここへ入って良いと言ったのですか。ここは他の者が汚してはいけない場所。それを解っていて侵すのですか」

「私達はあなたに会いに来たのです。どうか、我らにご同行願えないでしょうか」

 炎の使者はそう言った。

「僕に?」

 ロエンが怪訝そうな顔をした。

「あなたが風珠の継承者だからです」

「何故、僕に」

 嫌そうにロエンはそう聞いた。

「あなただからこそです。あなたはまだ宝珠を手にしてない。それ故に他の力を一番分かってる筈です」

「つまりお前もやな事こいつに押し付けようって事か」

「何」

 突然、木立の陰から声がした。

「なら、何故他の力に関わらすんだ。掟に反するのではなかったのか」

 アシュドの言葉に、使者が彼を値踏みするかのような目で見た。

「しかし! もうなりふりかまっていられないのです。お願いです風珠様」

「僕は、名も名乗らないような人には話もできません」

 ロエンはそう答えていた。使者達は慌てて下馬して、地面に膝をついた。

「これは、大変失礼しました。私はアサドフェザー家の使いでやってまいりましたティセンと言う者です」

 年かさの男がロエンの前に膝を付き、そう述べる。

「私は、ジュデンス家。フェーライ・ユグ卜と申します」

 若い青年がアサドフェザーの横にならい、そう告げた。

「ジュデンス!?」

 ロエンとアシュドは、思わずそう声を上げていた。

「お願いします風様。我が主を助けて下さい」



「本当によかったのか?」

 宿屋に一度戻り、荷物を纏めているとアシュドがそう聞いてきた。

「え?」

「下手すれば戦争に巻き込まれた事になるんだぞ」

 あの後、ロエンは聖夜の守人の長の兄の願いを、断る事が出来なかった。

「あ……えぇっ?」

 アシュドは頭を抱えた。

「僕、貴族からの頼み事なんて、どうしたらよかったのか」

 上の者の冷酷さを聞いてきたアシュドには、それ以上ロエンに何も言えなかった。

(やっぱりあれまずかったかな? 明らかに相手の方が身分上だし。馬から下ろしたし。いや、下馬させてまで名前聞くつもりなかったし)

「ねぇ、アシュド」

「今さら協力できませんなんて言えないぞ」

「そうじゃなくて、えと、その」

 ロエンが言いにくそうに、言い淀んだ。

「何だ」

「アシュドも一緒に来て欲しいんだ」

 アシュドが黙り込む。

「そりゃ、危険だし。一人で行くのが本当はいいんだけど、他族の関わり方とかアシュドの方が知ってるし。それに」

 そこでロエンは、セゾルに言われた事を思い出してしまった。

――たいした力がある訳でもないのに、どうして

「強い魔力には僕の力では敵わないから」

 アシュドが腕組みをした。

「わかった」

 ロエンの体を引き寄せ、唇を寄せてきた。

「あ、アシュド?」

「交換条件だ」

「えっ、ででも」

 ロエンは真っ赤にしながら、耳元にある口元に神経を集中させた。

「俺のこと……嫌いか」

「嫌いじゃないけど」

 アシュドはロエンの首筋に、口で触れた。

「アシュド、だめ! 使者さんが来るから」

「よろしいですかな、風珠様」

 ティセンが咳払いをして、部屋の外に立っていた。

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