黒龍の傷痕 【時代を越え魂を越え彼らは物語を紡ぐ】

陽下城三太

帝都案内


 
 
 晴天。
 行き交う人々の表情は明るく、陰鬱な空気など皆無なこの頃。
 絶好の遠足日和、なんてことは言わないが、心地よい日だ。
 今日はアディンたちに帝都の案内をする。
 その約束を初対面から三日の間に交わしていた。
 ここで生きていく上で必要なことだ、別にめんどくさいなどと思っていない。めんどくさいなど………
 隣でぶつぶつと何事かを呟いているアンナを怪訝そうに見やる赤髪の少年。
「そこまで嫌がるか?」
 別にあの三人を案内することに敬遠してるのではない。
 本当なら庭で日向ぼっこをしているはずの時間帯。それが失われるという残酷な仕打ちに嘆いているだけだ。
 だが仕方ない。
 約束をしたのは自分だ。
 今更それを反古にするなど大人としてあるまじき行為。
 下唇を噛みしめ逆に座り顎を乗せていた腰掛けから立ち上がる。
「お前ら、行くぞ」
 レオの呼び掛けに応じるそれぞれに居間で過ごしていた三人。
 はしゃぎ、嬉々とした表情を見せる深緑の髪を揺らす少女を見ていると『まあいいか』と思えてきた自分に苦笑いを落とす。
「ちゃんとついてきなさいよ、迷子になろうと見つけてあげるけれど」
 魔力が判るためだ。
 ただ一応の釘を刺しておく。
「まずは覚えやすいように一ブロックからだな」
 
 レオの言葉を最後に、一同はギルドから出るのだった。
 
 
 
 うきうきわくわくを通り越し、感情が天元突破しているジャスミン、彼女はことあるごとに感激を覚え、駆け回り、そしてアンナ達を困らせた。
「なあ、アンナ」
 と思考に耽っていた彼女だったが、レオのポツリとした言葉に現実に引き戻された。
「なに?」
 やけに深刻な声音だと首を傾げ、その真意を問う。
「アディンはどうした?」
「どうした、って着いてきてるでしょ?」
 何を馬鹿なことを言っているんだ、と。
 だがしかしレオの訝しげな様子が直ることもなく。
「いや、それがさっきからいないんだが…」
「え、そんなことないわよ。………あれ?どこ?」
 見当たらなくとも近くにはいるだろうと探る、が、魔力の反応も………ない。
「まさか人拐いか?」
「そんなことないでしょ、帝都で人拐いなんてどんな度胸でできるのよ」
 我が兄の統治するこの帝都でそんな芸当、頭がおかしいとしか思えない。というより通りに歩いている誰かに目にされるだけでもその成功率は極端に低下する。
 戦闘系ギルドが幾つもの都の中で随一の数を誇る帝都、そんなところで人拐いなどできたものじゃない。
「アンナ、俺が探してくる。お前は二人を見ていてくれ」
「わかったわ、大丈夫でしょうけどアディンを無事にね」
「当たり前だ」
 私に子供達を託し、レオは姿の見えなくなったアディンを探しに行った。
「無事、よね?」
 
 
 
 
 そのころ、アディンは。
 
 
 迷子になっていた。
 
 
「あれ、みんなどこ行ったんだろ。まあいいか、な、クロ」
 二人の心配をよそにアディンは呑気に通りを歩いていた。
 
 
 
 

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