Not Change Days

ノベルバユーザー261624

〜察知〜

point of view 朔夜

「俺と長谷川が両想い?」
「ですです! あくまでも私の予想ですけど、ほぼ100%そうだと言ってもいいでしょう!」

 100%と言い切るほどに時野は確信を持っているようだ。

「ははっ、そうだったら願ったり叶ったりだけど、それは流石にないだろう。長谷川も普段と変わらないし、どこにも根拠がないじゃないか」

 そんなに都合良く両想いになんかなるもんか。恋愛アマチュアである俺でも分かるぞ。

「そういう先輩だって『流石にない』と言いましたけど、それには根拠はあるんですか?」
「んー、まあ根拠はないけどさ…」

 曖昧な返事をしてしまう。そんなこと言われても、なんて返せばいいのかサッパリだ。
 俺が返事に困っていると時野が語り出す。

「先輩はこんなことありませんか? 親友や幼馴染がいつも通りの対応をしていても、あ、なんかこいつイライラしてるなぁとか、ちょっと辛そうだなとか、なんとなく察する時ってありません? 例えば蜷川先輩とか」
「あぁ、なんとなくわかる気がするな。いつも通りの表情で元気に振舞ってても、実は朝悲しいことがあったとか、そういうことは何回かあったかもしれない」
「ですよね! 今私が感じてるのはそ・れ・です。樹里自身はいつも通りに過ごしてるつもりだけど、実は能登先輩のことをすごく意識しちゃってるんです」

 ああ、なるほどな、そういうことか。と俺は頷く。
 実際に長谷川が俺に好意を持っているかは別として、確かに付き合いが長くなると、そんな素振りを見せなくても普段と違うなとかは感じることがある。
 特に梓はよくそれがあったっけ。

「まあ、確かに根拠にはなりえないかもですけど、これが私なりの根拠です。先輩の表情を見る限り、わからなくもないって感じですか?」
「そうだな。お前の言う通り心当たりは物凄くあるよ。特に梓にはな」
「やっぱりそうですよね! あと、お前じゃなくて時野葵ですから」

 おっと、うっかりしていた。時野は「お前」と呼ばれるのが嫌いらしい。気をつけなきゃ痛い目見そうだ。

 ちなみに梓の時は弟に自分のプリンを食われてかなり落ち込んでいた、というしょうもない理由だったけど。

「ともかく! 先輩の恋が成就するといいですねっ」
「ははっ、恋愛の神様にでもお願いするさ」

 両手を合わせて祈るポーズをしてみる。時野も便乗して手を合わせて笑う。教室で二人で神頼みをするというシュールな光景の完成だ。

「たっだいまー! って、何祈ってんのよ」

 元気よくドアを開け放つ梓は、お祈りポーズの俺たちを怪訝な顔で見てくる。それが普通の反応だろう。

「いや、気にするな。ただ雑談してただけ…」

 ふと、違和感を感じる。

 前に感じたことある、この感覚。
 なんでこの話題の直後に出てくるんだ。流石にタイムリーすぎるだろう。


「おい、梓」

「ん? どしたー?」


 だけど、絶対に気の所為ではない。



「何・か・あ・っ・た・の・か・?」




 ***




 point of view 梓

 今は5月の中旬。例年よりも平均気温が5度も高いと、テレビではニュースになっていたのを思い出しながら手を洗う。冷たい水が気持ちいい。

 今の私の生活はとても充実していると思う。
 進級しても仲のいいさっくんと大輝と同じクラスになって、可愛い後輩が2人出来て仲良くなれて、今は私含め5人でテスト勉強をしている。すごく楽しい毎日だ。

 ……でも、たまに妙な感覚に襲われる。

 それは、胸を……いや、心臓を細く小さな針でチクチクとつつかれるような感覚。
 激痛ではないが、ちょっとだけ痛い。

 原因はわからなかった。私生活も部活も勉強も調子が良くストレスもなかった。

 そしてその痛みは進級してから突然やってきたのだ。

 さっき樹里ちゃんと葵ちゃんに勉強を教えてる時も、このチクチクが気になって仕方なかった。
 今は心臓は痛んでない。早く教室に戻って痛みなんか気にならないほどに笑い合いたい。

 ただ、今は教室に戻りたくなかった。勉強会をしている時は必ず痛かったから。

 次第にこの痛みは私に不安を植え付け、黒く塗りつぶしていく。
 その不安はみんなが遠くへ行ってしまうような、そんな気持ち。いつもさっくんと大輝のそばに居てふざけ合っていたのに、いつかは離ればなれになって、二度と会えなくなるのではと考えてしまう。

 嫌だなぁ。

 本当に嫌だなぁ。

 こんなネガティブが続くなら……

「屋上から飛び降りちゃうかも」

 思わず口に出てしまい手で覆う。誰かに聞かれてないか周りを見渡すが、どうやら誰もいなかったようだ。

 安心するのと同時に私は私の頬を両手でバシンと叩く。


「元気が取り柄の蜷川梓だ…! ポジティブになれ! 死ぬなんて考えるな!」


 大嫌いな自分を追い出すように、私は私に言い聞かせる。前を向かない私は、私ではない。

 階段の方から大輝と樹里ちゃんの声が聞こえる。飲み物を買って戻っきたのだろう。
 私も戻ろう。い・つ・も・の・私・に・。

 廊下を一歩一歩、自身の不安を踏み潰すように歩を進める。そして、教室のドアを開け放つ。


「たっだいまー!」


 ーーそこには、両手を合わせて祈るさっくんと葵ちゃんがいた。

「って、何祈ってんのよ」
「いや、気にするな。ただ雑談してただけ…」

 どんな話をしていたらお祈りポーズになるのか気になって仕方ない。あはは、と苦笑いをしてしまう。



 その時、さっくんの表情が険しくなった気がした。


「おい、梓」

 表情が変わらないまま私を呼ぶ。

「ん?どしたー?」



「何かあったのか?」



 チクリ、と痛みが走るーー。

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