Not Change Days
〜学習〜
point of view 朔夜
「もぉぉぉぉぉぉ!!!!」
梓が牛のように叫び出す。
「どうして樹里ちゃんはこんなに可愛くて素直で物覚えが良いのぉぉぉぉぉぉ!!!どっかの馬鹿で学習能力皆無な有原さんとは大違い!!」
「う、うるせぇよ!!」
長谷川の頭を乱暴に撫で回しながら大輝をどストレートに貶していく。梓の力はゴリラ並みだ。一刻も早く撫でるのをやめさせないと長谷川が禿げてしまう。
「あ、梓。それ以上撫でると長谷川の毛根が悲しい結末を迎えるぞ」
「そ、それはいけない!」
自分の力がゴリラ並みだということを自覚しているのか、素直に長谷川から手を離した。
長谷川は「あはは…」と笑っているが、その目には輝きがない。待て逝くな、戻ってこい。
「ちくしょー、梓のやつ。頭良いからって散々言いやがって…いくら仲良くても言っていいことと悪いことはあるんだぞ!なあ、葵ちゃん!」
「そうですね!でも事実だし、許してあげましょう!!」
「ちょっとおおお!?」
大輝に「葵ちゃん」と呼ばれた少女の名前は時野葵。長谷川の中学の頃からの親友らしい。
彼女は大輝と同じくテニス部に所属しており、まだ夏を迎えていないのに肌がほんのり焼けていて、運動好きで健康的なイメージを与える。まあ確かに最近は天気が良すぎるから仕方ないのか。
「おまっ、お前ぇぇぇ…俺のメンタルは豆腐だぞ…同じ部活の後輩として気の利いたこと言えないのかぁぁぁ…」
「すみません、私は気の利いた事を言えるほど、言葉のボキャブラリーは多くないんです。あと、お前じゃなくて葵です」
時野は「お前」と呼ばれるのが嫌いなようだ。俺も誰かと喋る時、「お前」と呼んでしまうことがあるので気をつけなければ。
「それに、私は能登先輩のような落ち着いた男性の方が好きなんです」
いいこと言うじゃないか。後輩として可愛がってあげよう。
少しだけ気分を良くする俺を、大輝が血の涙を流しながら睨みつけてくる。大変愉快だ。
現在の時刻は16時半。帰りのSHRが終わりクラスメイトが帰っていく中、俺達は教室に残り勉強会を開いている。昨年からのテスト期間恒例行事だ。
その事をレインで長谷川に言うと、「私も参加したい!」と言ってきたので一緒になって勉強している。親友を引き連れて。
しかし、当たり前のことだが1年生と2年生の勉強内容は違う。1年前に習ったことなんて正直覚えてないため、俺と大輝は彼女達に教えられない。まあ大輝には不可能か。
ここで活躍するのが毎回学年トップを争っている梓だ。1年前の勉強を当たり前のようにスラスラと2人に教えている。流石だ。
「すごいです…!蜷川先輩の教え方がわかりやすくて、授業中ちんぷんかんぷんだった単元も今なら完璧に出来ます!」
「でしょでしょー?これからも私の事頼っていいからねー??」
長谷川がべた褒めすると梓はこれでもかとドヤ顔を披露する。とても憎たらしい。
でも、本当にすごいことだと思う。ここは素直に梓を褒め讃えよう。
心の中でスタンディング・オベーションをしているとガララッと教室のドアが開け放たれた。
「おっ?なんだ、勉強しているのか。ふむ、感心感心!!」
入ってきたのは保健体育を担当している楢山梨香先生だ。
サバサバした性格で凛々しい顔立ちの彼女は、多くの生徒から支持されている。体育を指導している姿は男女関係なく惚れてしまうほどにカッコイイ。独身の26歳。そして何よりこのおっぱい。すっごいおっぱい。
「18時には完全下校だからな。1時間後には帰る準備しとけよ」
その場にいる全員が「はーい」と声を揃える。
「先生!先生は結婚しないの?」
突然大輝がデリカシーの欠片もない質問を投げかける。殺されても文句は言えんぞ、親友。
しかし、楢山先生は気にせずに答える。
「そうだな…そろそろ結婚を考えるべき歳になってきたなとは思うが、なんせ良い男性が現れなくてな。過去に何人か交際をした人はいたが、何かが違ったんだ。その『何か』ってのは未だにわかりきってないが、フィーリングなんじゃないかとは思っている」
フィーリング。確か何となく受ける感覚、雰囲気って意味だったはず。
確かに男女の関係の中には、見えない「何か」も必要なのかもしれない。
よくテレビや雑誌で見かける、「どんな異性が好き?」みたいなアンケートには必ずと言っていいほど「一緒にいて安心する人」という回答がランクインしている。
なるほどなーっと漠然と思考を巡らせる。
「まあ、恋愛も勉強のひとつだろう。過去の経験がこの先役に立つかもしれないしな」
考え方も人それぞれだ。先生の意見もひとつの参考にしよう。
ここで俺は気がつく。
俺は一体なんの参考にするつもりだったんだ。
俺には好きな人なんてーー
その時、目線の先には長谷川がいた。
なんでいつもいつも、俺は長谷川を意識してしまうんだ。
…いや、今のは完全に無意識だった。
また、鼓動が早くなる。ドクンドクンと脈打つ心臓が耳障りだ。
そして、長谷川から目が離せない。
早く目を逸らせよ俺!また大輝と梓に茶化されるだろう!今度は絶対に誤魔化せない。
もし見ていることがバレたらどう誤魔化せば…!
…誤魔化す?
どうして、誤魔化す必要がある?
素直に見ていたと言えばいいじゃないか。何も恥ずかしくないだろう。
ああ、そうか。
俺が必死に誤魔化しているのは、
いつだって、俺自身だ。
そして素直になれ。
ほら、答えが見えてきた。
鼓動がうるさくなったのも
急激に体温が上がってしまうのも
目が離せなくなったのも
全部、あの日からだ。
やっとわかった。
いや、わかろうとしなかった。
言ってしまえば、最初からわかってたんだ。
あの日、トイレ前の廊下の角で長谷川とぶつかり、彼女の顔を見たその瞬間
ーー俺は恋に落ちていたんだ。
それは紛れもない一目惚れだ。
「もぉぉぉぉぉぉ!!!!」
梓が牛のように叫び出す。
「どうして樹里ちゃんはこんなに可愛くて素直で物覚えが良いのぉぉぉぉぉぉ!!!どっかの馬鹿で学習能力皆無な有原さんとは大違い!!」
「う、うるせぇよ!!」
長谷川の頭を乱暴に撫で回しながら大輝をどストレートに貶していく。梓の力はゴリラ並みだ。一刻も早く撫でるのをやめさせないと長谷川が禿げてしまう。
「あ、梓。それ以上撫でると長谷川の毛根が悲しい結末を迎えるぞ」
「そ、それはいけない!」
自分の力がゴリラ並みだということを自覚しているのか、素直に長谷川から手を離した。
長谷川は「あはは…」と笑っているが、その目には輝きがない。待て逝くな、戻ってこい。
「ちくしょー、梓のやつ。頭良いからって散々言いやがって…いくら仲良くても言っていいことと悪いことはあるんだぞ!なあ、葵ちゃん!」
「そうですね!でも事実だし、許してあげましょう!!」
「ちょっとおおお!?」
大輝に「葵ちゃん」と呼ばれた少女の名前は時野葵。長谷川の中学の頃からの親友らしい。
彼女は大輝と同じくテニス部に所属しており、まだ夏を迎えていないのに肌がほんのり焼けていて、運動好きで健康的なイメージを与える。まあ確かに最近は天気が良すぎるから仕方ないのか。
「おまっ、お前ぇぇぇ…俺のメンタルは豆腐だぞ…同じ部活の後輩として気の利いたこと言えないのかぁぁぁ…」
「すみません、私は気の利いた事を言えるほど、言葉のボキャブラリーは多くないんです。あと、お前じゃなくて葵です」
時野は「お前」と呼ばれるのが嫌いなようだ。俺も誰かと喋る時、「お前」と呼んでしまうことがあるので気をつけなければ。
「それに、私は能登先輩のような落ち着いた男性の方が好きなんです」
いいこと言うじゃないか。後輩として可愛がってあげよう。
少しだけ気分を良くする俺を、大輝が血の涙を流しながら睨みつけてくる。大変愉快だ。
現在の時刻は16時半。帰りのSHRが終わりクラスメイトが帰っていく中、俺達は教室に残り勉強会を開いている。昨年からのテスト期間恒例行事だ。
その事をレインで長谷川に言うと、「私も参加したい!」と言ってきたので一緒になって勉強している。親友を引き連れて。
しかし、当たり前のことだが1年生と2年生の勉強内容は違う。1年前に習ったことなんて正直覚えてないため、俺と大輝は彼女達に教えられない。まあ大輝には不可能か。
ここで活躍するのが毎回学年トップを争っている梓だ。1年前の勉強を当たり前のようにスラスラと2人に教えている。流石だ。
「すごいです…!蜷川先輩の教え方がわかりやすくて、授業中ちんぷんかんぷんだった単元も今なら完璧に出来ます!」
「でしょでしょー?これからも私の事頼っていいからねー??」
長谷川がべた褒めすると梓はこれでもかとドヤ顔を披露する。とても憎たらしい。
でも、本当にすごいことだと思う。ここは素直に梓を褒め讃えよう。
心の中でスタンディング・オベーションをしているとガララッと教室のドアが開け放たれた。
「おっ?なんだ、勉強しているのか。ふむ、感心感心!!」
入ってきたのは保健体育を担当している楢山梨香先生だ。
サバサバした性格で凛々しい顔立ちの彼女は、多くの生徒から支持されている。体育を指導している姿は男女関係なく惚れてしまうほどにカッコイイ。独身の26歳。そして何よりこのおっぱい。すっごいおっぱい。
「18時には完全下校だからな。1時間後には帰る準備しとけよ」
その場にいる全員が「はーい」と声を揃える。
「先生!先生は結婚しないの?」
突然大輝がデリカシーの欠片もない質問を投げかける。殺されても文句は言えんぞ、親友。
しかし、楢山先生は気にせずに答える。
「そうだな…そろそろ結婚を考えるべき歳になってきたなとは思うが、なんせ良い男性が現れなくてな。過去に何人か交際をした人はいたが、何かが違ったんだ。その『何か』ってのは未だにわかりきってないが、フィーリングなんじゃないかとは思っている」
フィーリング。確か何となく受ける感覚、雰囲気って意味だったはず。
確かに男女の関係の中には、見えない「何か」も必要なのかもしれない。
よくテレビや雑誌で見かける、「どんな異性が好き?」みたいなアンケートには必ずと言っていいほど「一緒にいて安心する人」という回答がランクインしている。
なるほどなーっと漠然と思考を巡らせる。
「まあ、恋愛も勉強のひとつだろう。過去の経験がこの先役に立つかもしれないしな」
考え方も人それぞれだ。先生の意見もひとつの参考にしよう。
ここで俺は気がつく。
俺は一体なんの参考にするつもりだったんだ。
俺には好きな人なんてーー
その時、目線の先には長谷川がいた。
なんでいつもいつも、俺は長谷川を意識してしまうんだ。
…いや、今のは完全に無意識だった。
また、鼓動が早くなる。ドクンドクンと脈打つ心臓が耳障りだ。
そして、長谷川から目が離せない。
早く目を逸らせよ俺!また大輝と梓に茶化されるだろう!今度は絶対に誤魔化せない。
もし見ていることがバレたらどう誤魔化せば…!
…誤魔化す?
どうして、誤魔化す必要がある?
素直に見ていたと言えばいいじゃないか。何も恥ずかしくないだろう。
ああ、そうか。
俺が必死に誤魔化しているのは、
いつだって、俺自身だ。
そして素直になれ。
ほら、答えが見えてきた。
鼓動がうるさくなったのも
急激に体温が上がってしまうのも
目が離せなくなったのも
全部、あの日からだ。
やっとわかった。
いや、わかろうとしなかった。
言ってしまえば、最初からわかってたんだ。
あの日、トイレ前の廊下の角で長谷川とぶつかり、彼女の顔を見たその瞬間
ーー俺は恋に落ちていたんだ。
それは紛れもない一目惚れだ。
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