Not Change Days
〜変化〜
 世の中には意味がわかっていても理解できないことがある。
 例えば「一目惚れ」はどうだろうか。意味は文字通り、一目見て好きになってしまうことだ。少女漫画やラノベ作品などでよく見かけるワンシーンだが、見知らぬ他人を見て、その瞬間に好きになってしまうなんて有り得るのだろうか?
そんなことは無いと信じたい。時折街で可愛くてタイプの女性を見かけるが、「おっ?」と思うだけで「好きだ!付き合いたい!」とまではならない。それは男女共通だ(少なくとも俺理論)。一目惚れがあるのならば、その人間は節操のないやつだ。これはただの偏見でしかないが、俺はそう思っている。
だから俺には理解が出来ない。お互いがお互いの何も知らない状態で好きになるわけないじゃないか。みんな漫画やドラマの見すぎだ。ひとつ下の次元の出来事が、この次元で発生するわけがないだろう。
そう、思っていたのに
 
「す、すみません!大丈夫ですか…?」
 新年度を迎えた本日。
「え…あ、ああ…なんとか…」
 俺、能登朔夜は、廊下の曲がり角でぶつかってしまった女の子に、
「ああ、良かったです!!」
 一目惚れした。
***
高校生になって2年目になるが、1年目とは特に変化もなく淡々と毎日を過ごしている。刺激がないと言われれば確かにそうかもしれないが、俺自身、環境が変わるのは苦手であるためこれはこれでいいのかもしれない。
実際俺は、今の生活に満足している。このまま変わらず生きていきたい。
「おっすー!相変わらず眠そうだな、朔夜!」
「おはよう、相変わらず楽しそうだな、大輝」
「ん、そうか?別にいつも通りだろ?」
たまたま最寄駅が同じで毎朝一緒に登校している有原大輝は、まさに陽キャという言葉を具現化したようなやつだ。俺とは正反対の性格をしているが、気が合うらしく、いつの間にかクラスメイトの中では1番仲良くなっていた。
「なあ朔夜。俺たち今日から2年生だぜ。後輩が入ってくるんだぜ?ヤバいよなぁ。」
「確かにヤバい。俺たちが後輩に教えてあげることなんてあるのか。」
「俺はバカだから教えることなんて出来ねぇな!いや〜マジ卍!」
大輝はバカである。自覚があることが救いだ。
バカ特有の「覚えたての言葉をやたらと使いたがる」ことについては天下一品。今までこいつの口から「マジ卍」なんて言葉は出たことがないから恐らくTwitterで覚えてきたのだろう。
しかも、言葉の意味を理解する前に使うもんだから事故が起こることもある。
前にクラスの女子がブサイクが売りのお笑い芸人の写真を見てきもーい!と笑っていたことがある。あろうことか大輝はその子に向かって、あはは!それブーメラン!と言ってしまった。もちろん覚えたてだから本人には悪気はない。しかし、大輝は血祭りにあげられた。今生きてることが奇跡的だ。
「大輝、後輩にはあまりバカ晒すなよ。」
「あはは、わかってるよ。俺もそろそろモテて彼女欲しいからな!バカな男は嫌われるだろ?」
「そうだな、俺も嫌いだよ。」
「おっ、おま…おまっ…俺のメンタルは豆腐だぞ…!」
「半分冗談だ。ほら早く行くぞ。」
ガチで悲しそうな顔をする大輝に思わず笑ってしまう。いつも通りの朝だ。今日も変わらずいつも通りで過ごそう。
***
春はいい季節だ。暑すぎず寒すぎず過ごしやすい。俺の席は窓際の列にあるため、そっと頬を撫でるように吹く風が心地いい。
1時間目の集会で校長と生徒指導の教師による、全く身にならない話を長々と聞かされ静かな殺意を滾らせたこの心をも癒してくれる。
年度始めだからだろうか、今日は先生も生徒も真面目に授業をする気は無いようだ。先生の昔話に熱心に耳を傾ける生徒もいれば、堂々と爆睡をかますやつもいる。無論、大輝は後者だ。
それにしても長話教師共は許せない。俺は根に持つタイプだ。水責め、首吊り、火炙り、選ばせてやろう。
ここでチャイムが響き3度目の10分休みに入る。同時に隣の席から元気な声が飛んできた。
「ねぇねぇさっくん!今の増岡先生の話聞いてた!?」
俺をさっくんと呼ぶこの女子生徒は蜷川梓。こいつとは保育園から一緒で親同士仲が良いためよく遊んでいた。いわゆる幼馴染だ。
「わりぃ、校長たちを殺してたから聞いてねぇや。どんな話?」
「ちょっ、最低じゃない…。えっとね、増岡先生、プロレスラー並の図体のくせに学生時代美術部で、全国大会にも出典してたらしいよ!ウケない?ほんと笑うんだけど。」
いや、お前もなかなかに最低だぞ。
梓は男勝りな性格で気が強く、クラスを引っ張れるリーダーシップのあるやつだ。その上成績も良く、テストは毎回トップを争っている。男よりもイケメンだ。でもクズ。
「お前、昔は泣き虫で可愛かったのにな…」
「なっ、ななな、何よいきなり!昔のことなんか今更持ってこないでよ!それに、今も十分可愛いでしょ?」
「はいはい、かわいいかわいい。トイレ行ってくるわ。」
正直めんどくさくなって席を立つ。後ろで、ちょっとー!!と梓が声を荒らげるが、いつも通り無視して教室を出る。
無駄話をしていたら休み時間も残り5分だ。幸い俺らの教室はトイレに近いためなんとか時間内には戻れそうだ。
次の授業は英語だ。担当の水沼先生も自分語りが好きだから、まるまる1時間潰れるだろう。
ああ、今日は楽で最高だ…
「ひゃっ!」
「うわっ」
ーー突然、右側から何かがぶつかってきた。
完全に油断していたためバランスが崩れ、尻もちをついてしまう。シンプルに痛い。
ぶつかってきた女子生徒も転倒していた。髪が胸あたりまであるから顔がよく見えないが、その胸には赤い花飾りが付けられていた。
どうやら新入生、つまりは後輩だ。
落ち着け、落ち着くんだ俺。ここはしっかり先輩らしい振る舞いをせねばならぬ。
「悪い。俺の不注意で」
「いえ!私が廊下を走ってたからです!!」
俺の言葉を遮るように彼女は声を出して顔を上げた。
ーーその瞬間、俺は固まってしまった。
何故、体が動かないんだ?
どうして、頭が真っ白になる?
いきなり、鼓動が激しくなる。
呼吸すらもままならない。
体調不良ではない。むしろ元気だ。
謎だらけだ。訳が分からない。そして今現在、1番の謎は
いったい、どうして
彼女から目が離せないんだ?
「あ、あのっ!!」
「!!」
彼女の声に反応して我に戻った。
体も動かせるし、呼吸も出来る。
「す、すみません!大丈夫ですか…?」
「え…あ、ああ…なんとか…」
「ああ、良かったです!!」
安心したのか彼女はふわっと微笑んだ。
その笑みを見て、俺の体温は急激に上昇する。
まずい、この子といるとおかしくなってしまう!!
「ご、ごめん!そろそろ授業始まるから行かないと!」
「そうですね、すみませんでした!えっと、トイレってどこにありますか?」
「あそこ!この廊下の真っ直ぐ先にあるから!」
俺は逃げるように教室の方へ走った。
なんだこの気持ちは?今までに体験したことがない、言葉に表せないモヤモヤした感覚。今も鼓動が激しく、苦しい。
そして、彼女の笑顔が頭から離れない。
「…トイレに行きそびれたじゃんか」
4時間目終了後、クラスメイトが売店へ走り出す中、俺は悲鳴をあげる膀胱を救うべくトイレへ走った。
 例えば「一目惚れ」はどうだろうか。意味は文字通り、一目見て好きになってしまうことだ。少女漫画やラノベ作品などでよく見かけるワンシーンだが、見知らぬ他人を見て、その瞬間に好きになってしまうなんて有り得るのだろうか?
そんなことは無いと信じたい。時折街で可愛くてタイプの女性を見かけるが、「おっ?」と思うだけで「好きだ!付き合いたい!」とまではならない。それは男女共通だ(少なくとも俺理論)。一目惚れがあるのならば、その人間は節操のないやつだ。これはただの偏見でしかないが、俺はそう思っている。
だから俺には理解が出来ない。お互いがお互いの何も知らない状態で好きになるわけないじゃないか。みんな漫画やドラマの見すぎだ。ひとつ下の次元の出来事が、この次元で発生するわけがないだろう。
そう、思っていたのに
 
「す、すみません!大丈夫ですか…?」
 新年度を迎えた本日。
「え…あ、ああ…なんとか…」
 俺、能登朔夜は、廊下の曲がり角でぶつかってしまった女の子に、
「ああ、良かったです!!」
 一目惚れした。
***
高校生になって2年目になるが、1年目とは特に変化もなく淡々と毎日を過ごしている。刺激がないと言われれば確かにそうかもしれないが、俺自身、環境が変わるのは苦手であるためこれはこれでいいのかもしれない。
実際俺は、今の生活に満足している。このまま変わらず生きていきたい。
「おっすー!相変わらず眠そうだな、朔夜!」
「おはよう、相変わらず楽しそうだな、大輝」
「ん、そうか?別にいつも通りだろ?」
たまたま最寄駅が同じで毎朝一緒に登校している有原大輝は、まさに陽キャという言葉を具現化したようなやつだ。俺とは正反対の性格をしているが、気が合うらしく、いつの間にかクラスメイトの中では1番仲良くなっていた。
「なあ朔夜。俺たち今日から2年生だぜ。後輩が入ってくるんだぜ?ヤバいよなぁ。」
「確かにヤバい。俺たちが後輩に教えてあげることなんてあるのか。」
「俺はバカだから教えることなんて出来ねぇな!いや〜マジ卍!」
大輝はバカである。自覚があることが救いだ。
バカ特有の「覚えたての言葉をやたらと使いたがる」ことについては天下一品。今までこいつの口から「マジ卍」なんて言葉は出たことがないから恐らくTwitterで覚えてきたのだろう。
しかも、言葉の意味を理解する前に使うもんだから事故が起こることもある。
前にクラスの女子がブサイクが売りのお笑い芸人の写真を見てきもーい!と笑っていたことがある。あろうことか大輝はその子に向かって、あはは!それブーメラン!と言ってしまった。もちろん覚えたてだから本人には悪気はない。しかし、大輝は血祭りにあげられた。今生きてることが奇跡的だ。
「大輝、後輩にはあまりバカ晒すなよ。」
「あはは、わかってるよ。俺もそろそろモテて彼女欲しいからな!バカな男は嫌われるだろ?」
「そうだな、俺も嫌いだよ。」
「おっ、おま…おまっ…俺のメンタルは豆腐だぞ…!」
「半分冗談だ。ほら早く行くぞ。」
ガチで悲しそうな顔をする大輝に思わず笑ってしまう。いつも通りの朝だ。今日も変わらずいつも通りで過ごそう。
***
春はいい季節だ。暑すぎず寒すぎず過ごしやすい。俺の席は窓際の列にあるため、そっと頬を撫でるように吹く風が心地いい。
1時間目の集会で校長と生徒指導の教師による、全く身にならない話を長々と聞かされ静かな殺意を滾らせたこの心をも癒してくれる。
年度始めだからだろうか、今日は先生も生徒も真面目に授業をする気は無いようだ。先生の昔話に熱心に耳を傾ける生徒もいれば、堂々と爆睡をかますやつもいる。無論、大輝は後者だ。
それにしても長話教師共は許せない。俺は根に持つタイプだ。水責め、首吊り、火炙り、選ばせてやろう。
ここでチャイムが響き3度目の10分休みに入る。同時に隣の席から元気な声が飛んできた。
「ねぇねぇさっくん!今の増岡先生の話聞いてた!?」
俺をさっくんと呼ぶこの女子生徒は蜷川梓。こいつとは保育園から一緒で親同士仲が良いためよく遊んでいた。いわゆる幼馴染だ。
「わりぃ、校長たちを殺してたから聞いてねぇや。どんな話?」
「ちょっ、最低じゃない…。えっとね、増岡先生、プロレスラー並の図体のくせに学生時代美術部で、全国大会にも出典してたらしいよ!ウケない?ほんと笑うんだけど。」
いや、お前もなかなかに最低だぞ。
梓は男勝りな性格で気が強く、クラスを引っ張れるリーダーシップのあるやつだ。その上成績も良く、テストは毎回トップを争っている。男よりもイケメンだ。でもクズ。
「お前、昔は泣き虫で可愛かったのにな…」
「なっ、ななな、何よいきなり!昔のことなんか今更持ってこないでよ!それに、今も十分可愛いでしょ?」
「はいはい、かわいいかわいい。トイレ行ってくるわ。」
正直めんどくさくなって席を立つ。後ろで、ちょっとー!!と梓が声を荒らげるが、いつも通り無視して教室を出る。
無駄話をしていたら休み時間も残り5分だ。幸い俺らの教室はトイレに近いためなんとか時間内には戻れそうだ。
次の授業は英語だ。担当の水沼先生も自分語りが好きだから、まるまる1時間潰れるだろう。
ああ、今日は楽で最高だ…
「ひゃっ!」
「うわっ」
ーー突然、右側から何かがぶつかってきた。
完全に油断していたためバランスが崩れ、尻もちをついてしまう。シンプルに痛い。
ぶつかってきた女子生徒も転倒していた。髪が胸あたりまであるから顔がよく見えないが、その胸には赤い花飾りが付けられていた。
どうやら新入生、つまりは後輩だ。
落ち着け、落ち着くんだ俺。ここはしっかり先輩らしい振る舞いをせねばならぬ。
「悪い。俺の不注意で」
「いえ!私が廊下を走ってたからです!!」
俺の言葉を遮るように彼女は声を出して顔を上げた。
ーーその瞬間、俺は固まってしまった。
何故、体が動かないんだ?
どうして、頭が真っ白になる?
いきなり、鼓動が激しくなる。
呼吸すらもままならない。
体調不良ではない。むしろ元気だ。
謎だらけだ。訳が分からない。そして今現在、1番の謎は
いったい、どうして
彼女から目が離せないんだ?
「あ、あのっ!!」
「!!」
彼女の声に反応して我に戻った。
体も動かせるし、呼吸も出来る。
「す、すみません!大丈夫ですか…?」
「え…あ、ああ…なんとか…」
「ああ、良かったです!!」
安心したのか彼女はふわっと微笑んだ。
その笑みを見て、俺の体温は急激に上昇する。
まずい、この子といるとおかしくなってしまう!!
「ご、ごめん!そろそろ授業始まるから行かないと!」
「そうですね、すみませんでした!えっと、トイレってどこにありますか?」
「あそこ!この廊下の真っ直ぐ先にあるから!」
俺は逃げるように教室の方へ走った。
なんだこの気持ちは?今までに体験したことがない、言葉に表せないモヤモヤした感覚。今も鼓動が激しく、苦しい。
そして、彼女の笑顔が頭から離れない。
「…トイレに行きそびれたじゃんか」
4時間目終了後、クラスメイトが売店へ走り出す中、俺は悲鳴をあげる膀胱を救うべくトイレへ走った。
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