競奏のリアニメイト~異世界の果てに何を得るのか~

柴田

第22話 お前の為を思って

真理はたいまつである。

しかも巨大なたいまつである。

だから私たちはみんな目を細めて

そのそばを通り過ぎようとするのだ。

やけどする事を恐れて。

ドイツの文豪 ゲーテ

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教室全体に重苦しい空気が流れた。
何故、このようなに重苦しい空気が流れるのかはよく分からない。

「概念系(コンセプ)は魔術変換効率こそ悪いですが、魔術による事象上書き能力が非常に強力であり。更に、その改変事象の効果も強力。また、概念系(コンセプ)は自然系(ネイチャー)に対して強い耐性を持っているため、自然系(ネイチャー)にとって天敵になります。幸いな事にこの魔術師の絶対数は限りなく少なく。一国に十もいません」

概念は自然現象すら打ち勝つ……という訳ではないだろうが何故、概念系が自然系に勝つのかは分からない。
しかしこれだけは言える。この世界では自然系が大半を占めている。つまり、存在するだけでその大半に有利になれるという訳だろう。

「更にいえば、この魔術は全世界で禁忌の魔術とされており、無断に使用した者は厳重に処罰されます」

概念に干渉する程の力……それを禁忌にしたがる理由もわからなく無い。だが、それより政治的な思惑も介入しているのはまず、間違いない。
名家の人間達の殆どが自然系だとしたら、それらの人間に優位に立てる人間。つまりは最大権力の人間達に対抗しうる力を持つ人間の存在を簡単には容認することは出来ないという事。

なるほど、素晴らしい考えだ。
強大な力を持っているのに自分より高位な立場が現れたら、それを迫害する。素晴らしいほどに独善的なものだ。

「以上、四種類が魔術になります」

キースは最後にそう締めくくり、ゆっくりと席に座る。
クラス全員が押し黙る。嫌な感じだ。何故、皆この魔術の話になった瞬間、このように空気が悪くなるのだろうか?
ここでレクスに聞くのもおかしい話なため、俺も黙ることにしよう。

「あーー……」

レクスがそんな空気を誤魔化すように咳払いをすると、再び黒板に向き合うと、指先を黒板に擦り付ける。
すると、レクスが指を擦りつけた部分の色が白に変わる。恐らくだが、魔力を流すことによって反応する板だろう。
便利なものである。

「それでは、四大魔術を確認した所で自然系(ネイチャー)にだけ焦点を絞って特徴を確認するぞ。これを覚えれば大半の魔術師には抵抗できる」

まずは基本からと言うより、遭遇率が一番多い自然系(ネイチャー)の解説からするのは当然な判断だろう。
これからのためにもよく聞かなければならない。

「まず、自然系には更に細かく分類すると二つの特性がある。要するに実態がある物理魔法か、実態がない特殊魔法だな。例えば、俺は皆知っての通り、風魔法を使う。簡単に言えば実態がない変換した魔力をぶつけてるって言った方が近い。対して……そうだな……、キースは実態がある変換した魔力を鉄球に構成し、ぶつけてる。物理魔法は盾や、武器などで防げる、逆もまた然りだな。対物戦においては比類なき力を発揮できるが、裏を返せば物理攻撃や干渉によって迎撃される可能性があるな。特殊魔法はその逆だ。特殊魔法は実態がないため、対物戦では力を真価を発揮できないが、盾や武器などで防げない。特殊な術式やらが働いてる武器は別だがな?」

レクスはそう言いながらこちらをチラッと見て口元を緩ませる。
要するに、おじいさんが打ってくれた剣みたいなものか。

「物理魔法は基本的に自然系の中で地と水、そして闇魔法が多い。対して特殊魔法は火と風、そして光魔法が多いな。まぁ、最終的には魔力を固形で変換するか、気体として打ち出すかの違いだがな……、稀に両方の特性を持ち合わせた珍しい奴がいるが、それはまた例外だから後で説明する」

レクスはそう言いながら黒板にそれぞれ右から順に火から水、風、力と書き、そして離れた所に光と闇という字を書いた。
そう言えば、今気がついたがこの世界の文字は韓国語と漢字の中間の様に思う。
何故か、この体はこの世界の文字を読めるので別に困らないが、意外と文字という概念も前の世界と原理は同じなのかもしれない。

「自然系には相性というものが存在し、単一なら必ずこの相性というものに作用される。水は火を消すため火は水に弱く、風は水を吹き飛ばすため水は風に弱く、地はどんな風が吹こうとも揺るがないため風は地に弱く、火は地を燃やしつくせるため地は火に弱い。光と闇はお互いが弱点になる」

本当に今更だが、ファンタジー要素が強すぎる世界だ。もはや、ゲームの世界に入り込んだと言われた方が納得できそうだ。

「相性が悪ければ普段より多く出力を用いて威力を上げなければならない。つまり、光と闇が対峙した場合は単なる魔力勝負になる」

そこまで説明するとレクスは口から溜息を吐き、面倒くさそうに黒板に何かを書き始めた。
派生魔法という部分まで読めた
すると、レクスが黒板に書きながら話を続ける。

「自然系には個人一人に得意魔法というものがある。属性というものは単なる大まかな種類分けでしかない。俺の風魔法も明確に区別すれば衝撃魔法というカテゴリーに分類される」

レクスは説明をしながらも黒板に書いた手を止めない。そのまま黒板に文字を書き終えるとこちらを振り向き、黒板を叩く。

「いいか、次は自然系の派生魔法の大原則を確認するぞ。派生は基本的に六属性から始まるが、稀に基本属性を二つ使える奴がいる。その場合、二つの属性を混ぜ込んで更に複雑な派生ができる。例えば、水と風を組み合わせて氷、風と地を組み合わせ雷。こうした奴のことを混合魔術師(ミキサー)と呼ぶ。また、その魔術を混合魔術(ミックス)と言うぞ。混合魔術の場合、物理魔法と特殊魔法の種族を組み合わせる事によって先ほど言った物理魔法と特殊魔法、両方の優れた性質を有する魔術になる可能性が高い。別にさっきも言ったが、変換によって全ては決まる。要は変換次第だ。そのため、自然系は変換が最も重要になるぞ」

つまり、物理魔法特化の水、地、闇と特殊魔法特化の火、風、光の内どれか一つずつを組み合わせるとそういった魔術になりやすいってことか。
どちらにせよ変換が自然系のミソみたいだ。俺はその感覚を覚える事ができないため魔術は使えないが、この知識は覚えて損は無い。
俺はムムムと口走りながら、レクスの授業をインプットする。暗記するだけならそこまで苦労はないはずだ。
レクスはそんな俺を見てか、悪巧みを思いついたような顔をして声を発する。

「とりあえず、今日の座学はこれまでだ。いっぺんに覚えさせすとソルがパンクしちまうからな」

その言葉に反応してクラスの皆がクスクスと笑う。
自分がサボる理由を俺のせいにしてほしくないものだ。俺はジト目をして目線だけでレクスに抗議する。だが、俺の抗議は何処吹く風、レクスはそのまま話を続ける。
やっぱりあのハゲは一度話をしなければならない。

ちなみに武力ではなく知での話し合いだ。拳での話合いなんて挑んだら文字通り空高く打ち上げられて、お星様にされてしまう。

「では、魔術変換の事も話したし、次は第二実技場で魔力変換の実技をやるからお前らは今すぐそこへ集まれ」
「げっ!!」

自分が魔力変換が出来ないと思った矢先に魔力変換の実技という鬼畜の提案にも程がある。元の世界で学生の時、嫌な授業というのは勿論あったが出来ない授業となれば嫌を通り越して逃げ出したくなるレベルだ。
運動が苦手な生徒が体育の授業を逃げだしたくなる気持ちが今なら冗談抜きで分かる。だが、ここに来た以上逃げる事は許されない。レクスの指示がクラス全体に響き渡ると同時に皆外へ出るために席を立ち、教室から出ていく。
ほんの数分で教室には俺とレクスだけが取り残される。

「ほら、ソルも早く行くぞ」
「は、はい……」

レクスに促され渋々返事をし、席を立つ。そして、教室から出ようとすると……。

「あーソル……促してなんだが、少し待ってくれ」
「はい?」

レクスから急に呼び止めが入り、俺はその場で静止して未だ教壇に立つレクスの方へ体を向ける。

「指示しておいてなんだが。お前、今日……というよりかは暫く見学してろ」
「え?いいんですか!」
「やけに嬉しそうだな……」

願ったり叶ったりのレクスからの提案だ。
しかし、いづれやらなければならない事の為、逃避行動に近いが。でも、何故レクスからそのような提案が出てくるのだろうか?

俺の疑問が顔に出たのか、レクスは毛髪のない頭を擦りながら口を開く。

「お前の魔術……自覚はあるか知らんがかなりレアなものだ。それと同時にいわく付きの魔術でもある」
「いわく付き?」

もしかして、何かしらの法に触れるとかそういうものの類だろうか?もし、そうなら俺は完全に魔術面で詰んでしまうのだが……。

「あまり知られてはないが、さっきキースが言ってただろう?罪源の始祖達の話だ」
「あー、アレですか」
「実はな。その罪源の始祖の一人。第三位【憤怒】の始祖が使ってた魔術が爆炎魔法なんだ」
「え……?」

俺があの時、無意思に起こった魔術が昔、世界を手に入れようとした者達の一角が使っていた魔法?
どういう事なんだ……そんな偶然起こり得るのか?もしかして……この体の持ち主は罪源の始祖の血を受け継いだ……。

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