競奏のリアニメイト~異世界の果てに何を得るのか~

柴田

授業開始

諦めなければ道は必ずある。
必ず。

日本の実業家・TOYOTAグループ創業者 豊田佐吉
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この学園に来て二日が経ち、今日初めて授業を受けることになった。

 黒板の前に厳ついオッサン……もといレクスが不機嫌そうに教壇に立っている。
 俺は席につきながら、レクスの授業がどのくらいのレベルか評価する。自慢ではないが、前の世界では成績は良かった。だから授業レベルがどのくらいか比較することが出来る。
 人の力量を見るというのはあまり褒められたものでは無いが、レクスの御手並みを拝見させてもらうことにしよう。

 「それじゃあおめーら、今日は座学から始める。ソルもここに来たばかりだ。だから、今日は基礎の確認を改めてするぞ」

 一応俺の事を気遣ってくれているらしい。一番最初にレベルの低い者に授業内容を合わせてくれるのは嬉しい。ここは人によって意見は違うだろう。だが、この場所が人材育成である以上、競争率を激化させる授業はナンセンスだ。
 
 「まずは、この世界の成り立ちと魔術について確認する。時を遡ること二千年前、この世界に十四人の特別な力を持つ者がいた。所謂、魔術師の始祖だな……。彼らはその力を畏れられ、崇拝されていた。だが、ある時十四人の半分……つまり、七人が結託し世界を牛耳ろうとした。キース!!」

 「はい!!」

 レクスは急にキースの名を呼び、彼を立たせる。

 「何故、そのような事をしたと思う?」
 「伝記には件の七人は魔術を特定の種族……自分の血筋のみに受け継がせようと目論んでいたからです!」
 「それはあくまでも伝記の中での話だな。俺はお前の個人的な考えを聞いているんだ」
 「………分かりません」

 キースは小さく呟いて席に座る。この問はあくまでも個人的な考えを聞いてると言うわけか……。だが、それは今まで正解を聞かされてきたであろう人間に答えるのは難しい。一種の難問だ。
 でも俺は答えられる。何故なら見てきたから……。この辺は元の世界でも同じような奴がいた。否、もっと言えば生きていれば必ず出会うであろう人間の考え。

 「単純にそれを成し遂げる力を持っていたから……」
 「ほう……?ソル今なんといた?」

 俺の呟きにレクスが反応する。全く耳がいい事だ。
 ゆっくりと席から立ち上がり、レクスに目線を向けながらはっきりとした口調で答える。

 「私が思うにただ単純にそれを成すだけの力を持っていたから……だと思います」

 一斉に皆の視線がこちらに向く。全員『こいつは何を言っているだ』という顔だ。だが、レクスは不機嫌そうな顔から一転、不敵な笑みを浮かべる。
 
 「そう思う根拠はなんだ?」
 「基本的に何かを成そうとする心に大きな考えがあるのなんて稀です。どんな理由を並べても結局は自己欲求に完結してしまいますから…。その七人もそれと同じ理由で「持っているから使う」、「使えるから使う」。その程度の考えしか持ってなかったでしょう。人という存在はその持っている物に慣れてしまいば奮いたくて仕方なくなる生き物だということはこの話を含め、様々な歴史からも読み取れます」
 「なるほど……お前は考えの根拠もしっかりしている。もしかしたらその考えが正しいかもしれない」

 そこまで言いながらレクスは「だが」と話を繋げる。

 「その考えは何も今の話だけに限らず、今の俺たちにも言える話になってくるな。いいかお前ら!!?今のソルの話をよく胸に刻め!!お前達は将来、力のある魔術師なる可能性がある。その時、ソルが言ったようにその力を自己の欲求に使うか、皆の為に使うか。それによってお前らの価値が決まる!!」

 レクスの叫びに皆が一斉に返事をする。
 俺は適当に答えただけだが、レクスによって何だかいい話に変えられてしまった。
 釈然としないがまぁ、いいだろう。

 「それでは話を戻す。その始祖十四人の半分、七名が結託し世界を牛耳ろうした。そこで残りの七名も結託し、彼らを止めようとする。だが、前者七名の始祖達が実質的な総合力では遥かに上だった。あわや、屈服せざる負えない状態で三名の英雄が現れた。熾烈きわまる始祖達の戦いに文字通り命懸けで前者七名の始祖達……罪源の始祖に立ち向かい、計十名でこれを退いた。後に彼らは十界(じゅっかい)と呼ばれ、世界を救った英雄と人々に讃えられ世界に十の国を作り、始祖七名は世界に魔術を広めた。これ全部を含めて魔術の始まり、【始祖の大戦】と言われた。キース、十界の個別名をそれぞれ答えろ」

 再び、レクスに指名されキースはしぶしぶ立ち上がり答える。

 「はい、まず七名の始祖達はそれぞれ【忠義】レヴィアン【忍耐】ラリマー【慈悲】グレイシャ【勤勉】ハイン【博愛】リスチャー【節制】ウェルナー【純潔】ロイア。そして三大英雄の【勇敢】シャリマー【堅実】ナハーレン【協調】ハーモックの三つを加えた計十人になります」

 迷いなく一言一句間違いなく言い切る。流石は主席という所だろうか?全部苦労して覚えたに違いない。
 それにしても一部聞き覚えのある名前がある。レヴィアンとグレイシャはここの有名貴族の苗字になっている。恐らく、始祖との血縁関係にある家柄に貰える苗字であるのだろう。始祖達の血が流れているからこそ貴族は強力な魔術を代々と使えると考えれば納得がつく。血脈主義になるのも頷ける。

 「よし、よく言えたな。それでは残りの七名……罪源の始祖達は?」

 「下から順に七位【色慾】六位【暴食】五位【強欲】四位【怠惰】三位【憤怒】二位【嫉妬】一位【傲慢】です」

 あれ?これって七つの大罪と同じ名称だ。
 キースの話を聞いてふと、そのような事を思い出した。どこの世界でも罪の大まかな物というのは決まっているみたいだ。

 「及第点だ、キース。座れ」
 「はい」

 今度は話を途中で遮られるという事がなく終わり、キースも小さく安堵しているように席に座る。

 「そして今日(こんにち)に至るまで魔術は研究され、その用途を増やしていった。今や魔術は俺達の生活の基盤であり、全てだ。だが、罪源の始祖達が滅ぶ時に一つ予言みたいな物を遺したそれが所謂、【罪源の復活】と言われるものだ」

 (やっと滅ぼしたのに復活の呪文とか遺すとか、どんだけ罪源の始祖達は悪趣味なんだ)

 俺は心の中で絶叫した。幾ら何でもその七名はしつこいにも程がある。

 「曰く、『この世に罪溢れし時、七名が輪廻と時の理を超え現れる』曰く、『七名はどれほどの有象無象が立ち塞がっても止められん』曰く、『七名によって世界は再び浄化されん』という予言だな」

 何だかそこら辺によくありそうな、ちゃちで曖昧な予言だ。その七名が具体的に何をするかすらよく言われてない。実に曖昧すぎる。

 「この予言が何を意味をするかは未だ分かってない。以上の話を含めて魔術の始まりと、この世界の始まりになる」

 伝記に良くありがちだが、何とも曖昧なものだろうか。レクス自身もそれ程多くを知っている訳ではないはずだからここまでの説明が限界だろう。

 「それではまず魔術の基本から確認するぞ。魔術は大気中の魔力(マナ)__体外魔力や、己の体内にある魔力__体内魔力を精神何らかの方法で変換、放出するものだ。魔力を変換し放出しなければそれはただの魔力のままだ。簡単に言えば、魔力にある特定の行動を命令するというのが変換というものだな。そしてその特定の行動をさせた魔力を打ち出すことによって魔術という事象を起こせる。これはどんな大魔術師でも破れない魔術の絶対的規則だ。また変換の方法は個人によって感覚が違うため追求はできない。魔術が苦手な人間がいるとしたらこの変換方法の感覚が分からないからだろうな。よってそいつは突然変換の感覚が分かるということがない限り魔法は使えない」
 
 魔術にも元の世界の科学と同じく、絶対的に外せない基礎というものが存在するらしい。当たり前の話だろうが。
 あれ?つまり、魔術は魔力があっても変換が出来なければ使いと言うならば、俺が魔術を使えないのはこの世界の人間ではないため、変換の仕方が分からないからという事だからか?
 つまり、俺自体ではどれだけ努力しても魔法は使えない……。
 なんだそれ……。

 「それでは次に魔術の系統について改めて確認するぞ。キース、魔術の四大種族とその特性を答えてみろ」

 再びキースが指名される。レクスはキースが大好きなのだろうか?それとも出来る奴と思って指名しているのか、昨日の罰として指名しているのだろうか?
 恐らく全部だろう。

 キースは勢い良く席を立ち、再び躊躇なく正解を述べ始める。

 「はい、まず一般的に多く普及しているのが自然系(ネイチャー)です。火・風・水・地の基本四種に光・闇を加えた計六種です。それを使用する魔術師は呼吸した空気から体外魔力(マナ)を取り込み、体内魔力を消費して自分の得意属性の魔力だけを抽出、変換後にそれを放出し事象として発動させます。古い統計ですが、全世界の九割が自然系(ネイチャー)に該当すると考えられています。特に欠点らしい欠点はなく。非常に調節、応用が効く魔術です」

 キースの説明を聞きながら俺は頭の中で整理する。
 要するにレクスの風魔法や、キースの鉄球魔法(地魔法)などは全部自然系(ネイチャー)に分類されるという事だろう。
 呼吸し、肺に取り込んだ空気から自分の得意属性……レクスなら風属性の魔力を、キースなら地属性の魔力を抽出して、体内で更に自分の得意な形状、又は事象として変換してレクスは相手を吹き飛ばす程の局所的な突風。キースは土から金属成分だけを抽出し、鉄球の形に変え射出するという芸当が出来るのだろう。
 元の世界で魔術と言えば、詠唱があると当たり前に思っていたが、体内で魔力の抽出と変換という手間だけ除いたら、呼吸するだけで発動出来るという手軽さはかなりいいだろう。

 「次は召喚術(サモン)。始祖魔術に一番近い魔術であり、術式や詠唱。魔法陣などを媒介に用いて自身の魔力を注ぎ込み。古の生物や魔術を構成し発動、使役出来る魔術です。魔術師の力量と魔力注入量により変わりますが、使役生物は比較的強力な力を持っていることが多く、使役生物に実質的な制限数はありませんので相応の魔術師が使える場合、かなりの手数を有することが出来ます。欠点としては、発動に時間がかかることと、発動中には魔力を使役生物具現のために常時使用してしまうため、魔術師本体が弱体化してしまいます」

 これは元の世界で想像する魔術に限りなく近いかもしれない。但し、発動中魔術師自体が弱体化するのは少し向こうでの魔術と設定が変わってくるが……。それでも予め準備をしておけば、魔力を注ぐだけで発動出来る利点は大きい。

 「三番目は強化系(エンハンス)。体内魔力で自身の体を文字通り強化(エンハンス)する魔術です。これにより肉体の制限(リミッター)を大幅に解除することにより常人を超える身体能力を発揮することができます。また、この方法は体外魔力をほとんど消費しないため、長時間発揮できます。ただし、近距離型になってしまうため、遠隔の大規模魔術などには無力になります」 

 俺がレクスやキースと戦って感じた圧倒的な差。
それは経験とか、魔術などではなく凄まじく簡単なものだ。それは間合いの差……どちらが相手をより遠隔で攻撃出来るか。それがとても重要になる。
 当然だ。今までも述べてきた通りの事に更に付け加えるとしたら、魔術は当たった方が基本的に勝ちになる。 それならばより遠距離に、最短で、広範囲に魔術を展開出来る魔術師が有利になる。
 そのため、近距離魔法はどうしても接近するというプロセスを踏まなければならないため、不利になる。
 その経緯を考えると、強化魔術はこの世界において取り扱いがしづらい魔術になってしまうはずだ。

 「最後は概念系(コンセプ)……。この四つの中で間違いなくダントツの総合力を持っています」

 概念系(コンセプ)?言い切る事を考えると周知の事実として最強魔術の分類(カテゴリー)に入るのだろうか?それにしても一体どんな魔術だろうか?

 いや、失念していた。俺は別に魔法の専門家ではないが人類が夢に見ていたものと、この世界に大差があるとは思えない。
 つまり、元の世界で人が血眼になって研究していた議題……それは。

 「例を挙げれば空間魔法や時間魔法など、我々が概念として捉えてる物、それ自体の操作が出来る魔法です」

 
 
 この分類(カテゴリー)は俺でも疑う余地がない最強魔術だろう。

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