競奏のリアニメイト~異世界の果てに何を得るのか~

柴田

第2章17話 それは幸福か波乱か


樹木にとって最も大切なものは何かと問うたら、
それは果実だと誰もが答えるだろう。
しかし実際には種なのだ。

ドイツの哲学者 ニーチェ

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キースとの揉め事が終わり一息つく暇もなくレクスの後ろへ付いてくこと早五分。俺は戦闘での疲れからか足取りが凄まじく重い。

「それにしてもソル、お前には驚いたぞ。キース相手に魔術無しで勝ちに行くとはな。俺はてっきり爆炎魔法一発で終わらせるかと思ったぜ」

少々興奮したような感じで歩きながら話しかけてくる。ここは使えない事を言うべきだろうか?

否、辞めておこう。入所取り消しなどされたらたまったものではない。

「殺すレベルの魔術を駄目と言われた以上、危ないのはやめた方がいいかなと思いました」

あの火力の強さを考えたら何とかこじつけて解釈出来なくはない。イマイチ、あの魔術の発動条件がよく分からん。レクスの時は変な声に励まされたと思ったら無意識に使えるようになったのだ。

まさか……あの声はこの体自身?

疑問が深まるばかりである。

「死にそうな時は俺が邪魔するつもりだったから正直気にしなくても良かったんだが。まぁ、あの魔術を公にするのはもう少し後の方がいいだろうな。一応、教官達が見ているとは言えここでは闇討ちされて医務室送りなんて珍しい事じゃない」

軽々と物騒な事言わないでもらいたい。キースのあの目線を思い出したら、闇討ちを考えている感じがしなくもない。

…。

……。

………。

夜はあまり出歩かないことにしよう。

「なるべく夜は出歩かないようにします」

「キースはそんなつまらんことはしないとは思うが、まあ気いつけろ」

労い(?)の言葉を言うとレクスはそれ以上言うことは無いと言う風に話を止めた。

ずっと歩きぱなしだがいい加減、何処に連れていくつもりなのだろうか?

最初来た時には気が付かなかったがこの場所は想像以上に広い。元の世界の大御所大学レベルの広さを持っているのではないだろうか?

だが、考えてみればここはこの国の重要機関へ排出する人材を育てる場所だ。それなりの敷地は必要であるはずだ。

そうなると今から行く場所は恐らく……。

俺が推測を立ててからおよそ数分後、煉瓦で凸型の設計で出来た小城のような建物が見えてきた。その数は三つ、一定間隔で建っており出入口から人が出入りしている。

寮だろう。

「あそこが今日からお前が入ることになる寮だ。一室に二人という決まりがあるから同室のやつとは仲良くしろよ。お前のルームメイトは確か十三歳の男で、名前は……まぁ本人に聞け」

寮か……。赤の他人の誰かと共同で生活するなんて初めてだ。問題を起こさずに上手く出来るだろうか?いや、もう既に問題起こしたけど。

というか、男女共同なのか。この世界にはもしかしたら男女区別という意識が少ないのかもしれない。まぁ、俺としてはそっちの方が嬉しいが。

「ほら!!行くぞソル!!」

俺の考察を他所よそにレクスは生徒達を押しのけて寮の中に入っていく。

少しは待ってほしいものだ。

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外は煉瓦で出来ているが中は木造だった。木造建築の正面に煉瓦を積み重ねたという感じだろう。

強度面ではかなり強いだろうが、何故校舎もこの建築方式にしないのだろうか?寮だけこの造りにする理由がよく分からない。

今は階段を登っている。一階はほとんどフロントみたいな感じで食堂的なものがあった。

階段の量的に恐らく五階まであるだろう。だが、城のような造りになっているので最上階が凄まじく狭いだろう。恐らくだが、身分の差で階層が異なってくるのだろう。多分、俺は一番身分が低い所になるだろう。孤児に近い存在であるはずだし。

「もうすぐ着くぞ」

驚いた事に最上階である五階まで来てしまった。もしかして最上階が最も身分の低い者達の場所なのだろうか?

だが、その考えは五階の廊下に入った瞬間、払拭された。

凄まじく豪華で煌びやかな装飾と展示物がある廊下。明らかに一階との雰囲気が違い少々驚きを隠せない。ここだけやたらと別空間だ。

そう言えば四階までは人と通り過ぎたが五階からは全く出会わなくなった。ここだけ人数が少ないのだろうか?

「あの……この寮ってこんなに豪華なんですか?」

「いや、この階だけだ。ここは王国きっての家柄の者達の階だ」

「つまり、私はその人達の下僕となりながらここで学ぶと?」

「あ?お前は何を言ってるんだ?いくら養女扱いとはいえアーコブのじーさんの紹介な以上、お前はこの階に割り当てられるんだよ」

「いや、なんでおじいさんの紹介で私が貴族の階に割り当てられるんですか?」

「そりゃアーコブのじーさんが王国で最大勢力を持つ貴族、『レヴィアン』の血筋だからだろうが!!」

「……なっ………!!」

王国最大勢力?!!

そんな話一度も聞いたことがない。息子の話を聞いた限りではそれなりに偉い血筋だとは思ったがまさか最大勢力だとは夢にも思わなかった。

俺の様子を見たレクスは手を額に当てながらため息をついた。

「はぁ……その様子だとアルベルのじーさんは何も言わなかったみたいだな。あの隠居じじいが、面倒な説明は全部俺に押し付ける気だな」

「あの……それはどういう事ですか?」

「ソル。聞きたいことは山ほどあるだろうが今日は勘弁してくれ。またおいおいちょっとずつ話していく。今日はさっさとお前を部屋に連れていく」

「わ、分かりました。」

レクスは心底疲れたような顔をして再び歩み始めた。

なんか凄まじく申し訳無い気分になってきた……。

五階の部屋は全部で六つ。

俺を含めて計十二人いることになる。他の階は平均三十部屋ぐらいらしい。つまり一寮だけで二五〇人が住める計算だ。

それが三つとなるとそれなりのマンモス校レベルだろうか?

まぁ、全員どのような試験を受けさせられるのか知らないが底辺が入るのは相当キツイだろう。

現に俺だってレクスのせいで死にかけた。

貴族レベルだと魔法がどうとかという以前にコネで入れそうだ。そういう点は前の世界と変わらないが、やはり血筋が物を言う世界は少し気に入らない気はする。

「ここだ」

一番奥の右側の部屋、そこでレクスが足を止めた。

綺麗な装飾が施された黒い洋風の扉をゆっくりと開ける。まだ心の準備が出来ていないのにやめて欲しい。

せめて深呼吸を!!

という願いをしていた俺をレクスはあっさりと裏切りドアを開けてしまった。

そしてその巨体を無理矢理押しのけて中に入っていく。これで俺も後に続かなくてはいけなくなってしまった。レクスはやっぱり空気を読んでくれない。

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僕は自室の机に座り、魔術教本を読みながら魔力マナの調節をしていた。

方法は別に難しくなく、自分の中で魔力の流れを感じ取ればいい。そうすれば自然と調節が上手くいく。

「……」

無言で本と自分の掌を交互に見続ける時間。その時間は果てしなく長く、そして退屈だ。だが、この工程を疎かにすれば僕は今後、授業に付いて行くことは出来ないだろう。

しかし、人という者は退屈になればなるほど別の事に趣向を変え、退屈を無くそうとする。

僕が今考えているのは魔法の事ではなく別の事。【剣】についてだ。

何故、そのような魔術に劣る武器の事を考えてしまうのだろう?今や剣など魔力に恵まれない者か、又は変わり者が習う兵器だ。

そして極めたとしてもそれは魔術に到底及ぶものでは無い。

だが、今日とある噂を耳にした。

レクス教官が受け持つクラスの主席魔術、キース・グラティトル・レヴィアンが本日付けで入所してきた魔術師に敗北したらしい。

それだけだったらまだ僕の考えを阻害するレベルではない、別に主席魔術師が新たに来た魔術師に敗北するなどここではよくある話だ。

問題はその件の新入りが今入所している者達の中で最少年であり尚且つ……剣一本の力と己の技能でキースを打ち倒したというのだ。

到底信じられる話ではない。

だが、実際に起こった。でなければ僕の耳まで噂が流れてくるばすがない。全部が本当だとは思わない、恐らくそれに準じた事はしたのだろう。

でも、剣で倒すというのが問題だ。果たしてそれはどんな人物なのか?噂で聞いた話では美しい長髪の白髪を束ねた藍色の瞳をした美少女だと言うのだ。

そんな目立つ人なら是非会って意見を聞いてみたいと思う。彼女は一体どんな魔法を持ち、どんな訓練を受け、何故に剣などを振るうのか……。

集中力を欠けた事がいけなかったのだろう。僕の掌で魔力が軽く暴発して小さな爆発を起こす。

「わわ!!」

少々驚き体勢を後ろに逸らしたせいだろう。椅子が傾きそのまま後ろに椅子ごと転んでしまう。

幸い頭をぶつけなかったが背中に椅子の背もたれ越しから鈍い衝撃が伝わる。

「いっ痛……」

ゆっくりと起き上がり、椅子を元に戻す。焦ったがどこにも怪我はない。集中を欠けた自分が悪い。

暫く部屋を元通りにすることを専念していると扉から強い魔力を感じた。

恐らくだが、教官の誰かだろう。

別に教官が部屋に来るほどの悪事を働いた覚えはないのでなんだろうと疑問に思ってしまう。

ゆっくりと扉が音を立て開き、扉の前から屈強な筋肉とその特徴的なスキンヘッドの厳しそうな中年の男性____レクス教官が立っていた。そしてずしずしと中に入ってくる。

「失礼するぞ。タリア教官所属主席魔術師イアラ・グレイシャ」

「あ、はい。どうぞ」

僕が呆気に取られて適当な返事をしてしまったが、レクス教官は気にも止めずにそのまま入ってくる。

そして背後にいた人物を無理矢理横に立たせる。

その瞬間、時間が止まった気がした。

美しくなびく銀色似た、腰まで延びる長髪の白髪。

藍色の瞳は若干緊張したような色を載せていたがそれすらも愛らしい。

そして純白のワンピースを優雅に着こなし。腰には美しい装飾が施された鞘に収められた長剣。その顔は非常に整っており、使役魔法で動いてる人形とすら思える造形の良さだった。

噂では美少女と聞いていたがそれは間違いだ。

女神すら彼女を見れば嫉妬するだろう。

僕よりも二、三歳は下であるはずだが僕は完全に心を奪われた。

(なんて美しい子だろう……)

レクス教官が何か言っていた気もするが今の僕には届かなかった。夢見心地な気分の中一人、彼女を見つめていた。

この日は僕にとって最良の日だった。

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