競奏のリアニメイト~異世界の果てに何を得るのか~

柴田

第6話 硝子の心と剣

生きることへの絶望無しに、生きることへの愛はない。

フランスの小説家 アルベール・カミュ

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嗚呼。その剣、神託を受けし聖剣

聖水にも劣らぬ透明度を持つ刀身、淀んだ魔力マナを打ち消す

純白の刃、不殺を誓う

神託の聖剣。その記憶は今は亡き神龍の粉骨

世界を守れなかった哀しき龍の欠片

神託の聖剣歌 ~第1章1項抜粋~

作者 ロベルト・Jジャック・ブレーク

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灼熱の中で打たれた一本の長剣。

硝子細工の様な粘土と透明度を持つその剣は製錬前だというのにとても美しく見えた。

おじいさんはその剣を打ち終えると金槌を地面に放り投げ急いでトングのようなもので掴み剣を水の中に入れる。水が蒸発する音ともに心地よい金属音が辺りに鳴り響く。

蒸発音が消え去ると水の中から再びトングのようなもので掴み朝日にかざす。

それはとても透明度の高い刀身、硝子でも無く氷でもないその存在は朝日に呼応して輝きを増し、金色へと輝いている。
研ぎ前なのか刀身に刃は無いがハッキリと剣という事が分かる。

なんて美しいのだろうか。まるで神話に登場しそうな剣。恐らくあの剣を元の世界の硝子職人に見せたら裸足で逃げ出し、職を辞す事すらも決断させるほどの作品。

あれは……一体?

「おや?起こしてしまったかい?」

俺が魅入っているとその視線に気がついたのかふと俺の方を見た。

その額には大量の汗。更に目の下には深いクマが浮かんでいた。

まさかとは思うが一晩中あの剣を打っていたのだろうか?

「いえ、そんなことはないです。もしかして一晩中その剣を打っていたのですか?」

「あぁ、美しいだろう?」

「はい、とても!!」

元の世界にいた頃、剣術をやっていたからだろうか?とてもあの美しい刀身に興味が湧いてくる。

欲しい人は喉から手が出るほど欲しがるであろう長剣。

そんな芸術作品を打てたはずなのにおじいさんの顔は晴れない。

「だが、このご時世剣を使う者などおらんだろうな」

「それはどういう……?」

「あぁ、それはね」

俺の問いにおじいさんは記憶喪失と思い込んでいるため丁寧に説明してくれた。

単刀直入に言うとこの世界は異世界ではお約束と言うべき要素。所謂いわゆる【魔法】が存在している。

この世に生を授かった者は基本的に何らかの得意魔法を有しており、誰でも魔法が使えると言っても過言ではない世界らしい。

そのため、武力の方向性は自然と魔法に偏り、武装は基本的に不要とされている。

魔法攻撃に対して鎧が役に立つか?と聞かれたら答えはどうしても【いいえ】になってしまう。

一応、鎧に魔法耐性などを付与エンチャントする事も出来るらしいが手間と費用の割に成果が少ないのが現状らしい。

武器に関しても殆ど同じ。

わざわざ近寄って剣で切りつける時間があったら遠距離で回避不可能な大規模魔法を放つ方が余程簡単であり、効率的だ。

一応魔力を消費しない遠距離武器として弓などを使う者がいるがそれはごく少数。

この世界では魔法が全て。

元の世界も学歴が優先される世界だった事を考えると案外どっちの世界も変わらないのかもしれない。

どこの世界もつまらない上に捻りがなくて退屈だ。

否、才能に大きく左右される面を考えたら磨けばある程度は上達する勉学とは違い、不公平な世界だ。

更に優秀な魔法は先祖代から伝わることが多く、両親どちらかの魔法が受け継がれることが多いという話だ。

ますます不公平な世界だ。

「あれ?ということはおじいさんも使えるんですか?」

俺の魂は別のものだが、この体はほぼ間違えなくこの世界の住人だろう。ということはこの体の主も何かしらの魔法が使えてもおかしくはない。

それと同じでおじいさんもこの世界の住人なら使えるだろう。

「あぁ、私は鉱石魔法を使えるよ」

おじいさんはそう言うと俺に向かって掌を見せてきた。

俺は手相なんて分からないぞと思いつつ見ていると、掌に塵みたいな物が渦巻き始めた。

そしてその塵の濃度はどんどん高くなり、そして最後には小さな岩石となって固まってしまった。

「私はある一定の距離なら地中や空気中にある僅かな鉱石を集めて固めることが出来る。それを溶かして鍛えれば剣の完成だ」

「便利な魔法ですね」

「まぁ、用途は鍜治しか使えないのだがね。この世では不要な魔法さ」

俺的には色々と使い道が多そうで強そうな魔術だと思うのだが……。
何やら色々と世知辛い世の中みたいだ。

だが、魔法か……。

なかなか面白そうなので使ってみたい気もする。

「どうやったら出来ますか?」

「んー……。人によって感覚が違うから的確なアドバイスは出来ないね。そのうちできるようになるよ」

「そうですか……」

少し残念だが今すぐ使えるようになるのは出来ないみたいだ。

まぁ、暇があったらちょっとずつ練習してみてもいいかもしれない。

「さてと、それじゃあお嬢さんも起きたことだし、朝ごはんにしようか」

おじいさんはそう言って鉱石を放り投げ、美しい刀身をその場に置くと家に向かっていく。

俺はそんなおじいさんの後に付いていくためにその場を駆け出した。
刀身はそんな俺達を見送るように瞬いていた。

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光も届かない鬱蒼とした森の中。そこに苔だらけの巨大な石の上に黒ローブを着た男が座っていた。

まるで魂が抜け落ちたかのように、その男にはありとあらゆる気が抜けていた。

森に住む凶暴な猛獣達から見ればただの餌だろう。

だが、猛獣達は息を潜めるだけで襲ってはこない。

まるでその男の何かを恐れるかのように。

彼らの野生の勘は人間など比では無いくらいに上だ。自分達が何もしなければ男も何もしないということを理解しているのだろう。
そして、男が自分達の手に余る程の猛者という事も……。

触れぬ神に祟りなしという事を一番よく理解している。

だが、一匹の虎に似た獣が物陰からゆっくりと男に向かって歩み寄る。

まだ成獣となったばかりのその獣はまだ野生の勘を信じきれてなかったのである。

男との距離は僅か五メートル。飛びつくには充分な距離だ。

そして、その強靭な四肢を活かして飛びかかる。狙うは男の首ただ一つ。

だが、そこで信じられない現象が起こる。男が乗っている岩ごと何の前触れも無く凄まじい勢いで空中へ浮かび上がったのだ。

獣は標的を失い、地面へ着地する。岩があったであろう地面の凹みへと。

獣が着地すると同時に今度は岩が重力に従い再び元あった凹みへ落ちる。

獣を押しつぶして。

骨が砕け、肉が破裂する乾いた音が岩の下で鳴り響いた。

獣が断末魔の叫びをあげる。が、すぐにその叫びは赤色の液体に溺れながら沈んでいく。

獲物にすら触れることなく若き獣はその生涯を閉じたのだ。

その光景をみた獣達は我先へにと一斉に逃げ出す。

あの男は異常だ。勝てる見込みなど無いことが明らかになった。

「さてと、面倒だけどそろそろ行こうかな」

男はその事態を気に求めずに大きな欠伸をすると立ち上がり歩き始めた。

だが、数歩歩いて不意にその場に座り込む。

「アハハ、やっぱり面倒臭いからもうちょっと休みますか」

その乾いた笑い声は森の中で暫く響き続けた。

その男は何とも不気味なめんどくさがり屋だった。

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「ふぅ……これでよし」

長くて鬱陶しい毛を一本に纏めて縄で括る。現代で言うところのポニーテールだろうか?だが、一本にまとめるだけでも相当の労力を要した。

元の世界でたまに見かけた三つ編みや三つ編みを横に結ぶやつ……編み込みヘア?などどうやればいいのか検討もつかない。女性はよく毎朝こんな労力を注げるものだと感心してしまう。

まぁ、この体の髪はスーパーロングとも言うべき程の長さなので仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないが……。

それでも毎日はやりたくない。

髪の鬱陶しさは消えたが、一本に纏めたためスーパーロングともなるとかなりの質量感をだす。首が常に後ろに引っ張られるような感覚があり、首が痛くなりそうだ。

「あ!!いい事を思いついた。」

そう呟く俺は纏めた髪を首に巻くようする。

すると、あれほどあった質量感が凄まじい程に緩和された。

まぁ、見た目は某育成ゲームに登場するゲッ○ウガに近いが良しとしよう。

あんなのが続いてたら絶対首を悪くする。

だからと言って借り物の体の髪(特に女性の髪)を切るのも好ましくない。これが一番いい解決方法だ。

「お嬢さん?準備は出来たかい?」

一階からおじいさんの声が響いてくる。

「はい!!今行きます!!」

俺はその声に相槌をうち、急いで下に降りる。

食料を調達するために俺の手を借りたいそうだ。

一宿一飯の恩義があるためその程度の事なら断る理由もない。俺は快く引き受けた。

下に降りるとおじいさんは背負い籠を背負って待っていた。

「おやおや、変わった髪型をしているね」

「あはは、ちょっと重たかったので……」

「ハハハ、それは確かに困るね。いい解決方法だと思うよ。昨日より遥かに美人さんだよ」

おじいさんは優しい笑顔で褒めてくれた。

男だった身としては何とも複雑な気持ちだが、お世辞を言われて悪い気はしない。

「ありがとうございます」

俺は照れ隠しをしながらお礼を言った。

すると、おじいさんは小さな背負カゴを俺に渡してくる。

少々古ぼけているが、俺の体にピッタリなサイズだ。

「探したら丁度いいのがあったからこれを使いなさい」

「分かりました。所で何を今から取りに行くんですか?」

「まぁ、それは着いてからのお楽しみだよ。さぁ、行こう」

そう言うとおじいさんは水筒やら何やらを自分の籠に入れると扉を開けた。

正直に言うと俺は感情が高ぶっていた。

これから未知の世界へと行く楽しみと不安。だが、その感情が俺を更に感情を高ぶらせる。

この世界は俺の知らないことばかりだ。俺はこれからそんな世界を探検できることに感動すら覚えた。

(否、何を考えているんだ俺は……人を見捨てた癖に……、他人の人生を奪い取ったのに)

ふと、暗い感情が俺の心を黒く濁した。

俺はまたこの自問繰り返すことになったのだ。

この感情がある限り、俺は生きていくことは出来ない。これが俺の罰なのだから。

絶対に消えない罪。これがある限り俺は笑えない、楽しめない。人を信じられない。

俺は木偶の坊なのだから。

俺は薄汚れているのだ。

自傷的な笑みを浮かべておじいさんの後を付いていく。

これからも続けていくであろう表情を浮かべて……。

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生い茂った草木の中素早く動き回る生物が数匹。俺は真横を通ったその生物を覆いかぶさるようにして捕まえる

「チュウウウウウウウゥゥゥウ!!」

「そのまま捕まえてるんだよ!!」

腕の中で必死に抵抗するちょっとした兎ぐらいにでかい鼠。

俺はそれを必死に抑えてる。おじいさんはそのまま籠の中に入れようとしている。

まさか食料って……。

「鼠のことですかァァァ!!」

この世界で生きるのは色々と克服しないといけないことが山積みのようだった。

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