「神に選ばれ、神になる」そんな俺のものがたり

竹華 彗美

第十七話 悩みと不安を力に変えて


「檻空間封鎖」


 その場に残った俺以外の全員はこの状況に絶句と何が起きたのか理解していなかった。
 土の壁を取り払い、観客席はそのまま地面に降ろす。
 最初に声を出したのは中川だった。

「なに、今の?」

 その声の後、長谷川先生と永本も我に返り、俺の元に駆け出す。

「そ、そうだぞ?なんだ今のは!!」
「し、清水。説明してもらえるかな?宮下くん達はどこに?」
「今の説明聞いてた?宮下達は僕が創り出した空間に閉じ込めたって。」
「だから!そこだよ!"俺が作った空間"ってなんだよ!?」
「それはそのままの意……「「そこまでいくと神だな。」」

 二人でシンクロした。たしかに実験の時にもサポタはこの世界で空間を作ることができるのは俺だけだと言っていたが。
 よく考えてみたら、たしかにやばいかも。ゴーレムに興奮しすぎてあんまり気にしてなかった。
 空間魔法の実験でやったんだけど、まずかったかな〜。


 その後またしばらく沈黙が流れる。次に沈黙を破ったのは大体一分後、又しても中川である。

「あ、あの……し、しみ……清水くんでいいのかな?」
「あ、俺?そうだけど。」
「あの……宮下くん達から解放してくれて、その、えっと……ありがとね。」
「あ、ああ。別にそのことは気にしなくてもいい。」
「最初からわ、分かってたんだよね。僕が、宮下くんから弱みを握られてること。」
「ま、まあな。」
「ほ、ほんとにありがとうね。」
「あ、ああ。」

「それと僕は、清水くんからの修行はいいから。」
「本当にいいのか?俺的には君は"強くなってもらいたい側の人間"なんだけど。」
「そう言ってもらえると嬉しいけど、僕はやっぱりあの彼女と一緒にいたい。だからごめんなさい。こんなことに巻き込んでしまって。」
「いいや、別に迷惑だなんて思ってないさ。それに嫌だったらいいんだ。自分の人生だ。好きにすればいい。」
「うん!ありがとう!……あと、み、宮下くん達は本当に大丈夫なの?」
「ああ。こっちでしっかり管理しとく。あと、さっきのことは他言厳禁。宮下のことについて聞かれたら、"朝早くにここから出ていった"とか言っといてくれ。」
「う、うん。分かった……ありがとう!」

 そうして中川はこの場を後にし、彼女の元へと走り去った。
 その後は長谷川先生と永本から三十分程、さっきのことで質問責めを食らうが、
最終的な結論は「清水のことは諦めよう。もう少し自重をしてもらいたいものだ」となった。
 この二人の結論を聞き、"なるべく新しい魔法は人目につくところでは使わないように"と心の中で決めたのだった。


 そのあとはお昼ごろまで特になにもなく、俺は最近あまり眠れていなかったので二段ベッドの上段の方で寝た。
 二人はというと、檻空間とは別のもう一つの小さな空間の方でゴーレムと修行している。
 二人の実力では武器なしゴーレム一体でも苦戦していた。
 なので『十分プレイ、三分休憩』を一セットとして、それを繰り返すようにゴーレムには伝えてある。
 これで二人で力を合わせてでもゴーレムを倒せるようになれば、確実に今の五倍は強くなれるだろう。
 とそんなことを考えながら木漏れ日が降り注ぐ中、一人眠ってしまった。


ーーーーー
【永本SIDE】

 やっぱりたかしはすごい。俺ではどう足掻こうと行けない位置にいる。
 今戦っているこのクソ強いゴーレムはたかしが作ったもの。それに今ここにいる空間自体もあいつが作ったもの……。
 
 そんなこと信じられるものか!もうあいつは人の領域にはいない。『神』の領域にいるのだ。

 そんな奴に俺ができることってなんだ?なんなんだ?あいつはもうなんでもできる。
 
 今は辛うじて自分を守ることは出来てるつもりだ。だけどそれ以外は全部たかしに頼りっきり。
 もっと強くならなければ、強くならなければ!!!………でもその強さを手に入れても俺に何ができるだろうか。
 俺はこれからどうすればいいのだろうか。

ーーーーー
【長谷川SIDE】

 清水には、もう驚かされることはないと思っていたが、すぐに今までの人生で一番驚かされる。
 ゴーレムはいいとして、空間創造など『神』としか言いようがない。金輪際、もう少し自重してもらいたいな。
 
 
 しかし今回の件、教師として何も出来なかった。
 また清水にやってもらってしまった。本当は教師が一目散にやらなければいけない仕事を。
 宮下達と中川の間には、なんらかの原因でいじめが起こっていることは、昨日の時点でわかっていたことだ。
 それをいつどうするか。タイミングを探っていたら、全て清水に持っていかれたのだ。
 あの時すぐにでも宮下を注意していれば……あの時中川を保護していれば……あの時……。
 後悔が残る。
 これから俺は本当に教育者としてここで生きていけるのだろうか。いや、それよりも大人としていられるのだろうか。
 
 いや、過保護になりすぎなのかもしれない。学校内教員講習の人もこう言っていた。

"生徒が自分の考えで行動し、それに対する責任を持てるように生徒を「見守る」ということが、教師の最重要課題ではないでしょうか"と。
 
 確かにそうなのかもしれない。
 だけどなんだろう。このモヤモヤする気持ちは。
 教えてくれ、俺はどうすればいいのかを!



ーーーーー
【山寺SIDE】

〜十二時間程前。ダンジョン出入り口付近。全体集合地点・本部


「なんなのよ!あれは!」

 速水さんは本部に帰ってきてからというもの、それしか言っていない。
 僕は速水さんを宥める。清水君のことがよっぽどムカついているのだろう。
 僕も流石に驚いた。最初の洞窟脱出の時から思っていたが、清水くんは何かが決定的に違う。
 異世界ここに来てからだろうか。田村さんを退けた時から思っていた。

"明らかに他の人と比べて身体能力が違い過ぎる"ことを。
 僕も一応は柔道部の顧問だからわかるけど、あれは相当凄い。多分本気を出されたら教員全員でかかっても勝てない。
 それになぜか情報量も多い。ここに来てから日はそこまで経っていないはずなのにだ。
 もしかして前からこの世界にいたのではないか。というくらいに僕の中では不自然に思えて仕方がない。
 そんなわけはないのだろうが、な。

 それにしても、この肉の量。転移使う前にも思ったが、凄い。これなら全員に配給したとしても、一週間はもちそうだ。

「速水先生。あなたも清水あいつにやられたのですか?私と組んであいつをボコボコにしませんか?私と速水先生の力を合わせればなんでもできますよ。あ、折角ですから山寺先生もどうですか?まずはこの手枷を外して頂きた……「いや、残念ながら田村先生。あなたの拘束を解くことは出来ません。どんなことがあろうとも。私は生徒を力でねじ込ませようなどという発想はないので。それにその手枷。外れないと思いますよ。なんせ、あなたの嫌いな清水君の魔法で作られたものですから」

 田村さんの誘いは既に職員からも断られ続けていた。どんなに嫌なことがあってもそれに漬け込み、暴力で解決して来ようとする田村先生を誰もが諦めているからであった。
 そしてもしこの人の拘束が解けて仕舞えば、まず最初に攻撃されるのは間違いなく職員ぼくたちである。
 こんなに近くにいながらもいまだに助けず、自分を無視し続けている人達をこういう人間が攻撃しないはずがないのだ。
 田村さんは間違いなく、清水くんの次に強い。ここにいる職員全員でかかっても甚大な被害になることは目に見えている。
 だからこそ絶対に拘束を解いてはいけない人物なのだ。
 田村さんは僕の返答を聞くと、こちらを睨みつけて小さく舌打ちをして目を瞑った。

 
 その後、冷静を取り戻した速水さんは清水くんが提案してきたことについて、皆さんに話した後、それについて話し合う。
 賛否両論。いろんな意見がある。

 賛成側としては清水くんに授業を教える方がほとんどではあるが、"とにかくいい子だから安心できる"とか"嘘をつくような子ではない"ということだ。

  反対側は速水先生を筆頭に"表面上ではいい風に見えるだけで本心はわからない"という意見であった。
 
 僕はというと、賛成寄りではある。僕も彼が一年の時、教科担当をやらせてもらったけどそこまで悪い印象はない。
 それにさっきも言った通りあの力だ。情報量も多い。そこから考えるに彼に任せるのが一番良い方法なのではないかと思っている。
 
 しかし僕も一年ばかりの出会い。そこまで彼のことを知らない。実は裏で弱い者をいじめている可能性もなきにしもあらず。
 しかしそんなことを考えていれば、一向に問題は前に進まない。少しは信じてみることも大切だ。

 
 そこからじっくり九時間(途中で寝たりもした)、正午過ぎに結論が出た。


ーーーーー

【たかしSIDE】

「……い……かしく……」
 ん?何?

「おーい……き……!」
 呼んでいるのか?

 
 誰かが俺を呼ぶ声が聞こえたため目を覚ます。
 未だ冴えない目をこすりながら上体をゆっくりと起こす。

「おーい!たかしく……あ!やっと起きたか!」
「あ、山寺先生。」
「良かった良かった!おはよう!たかし君。いや〜何度呼びかけても起きなかったから心配したよ〜。それに永本くんと長谷川先生も姿ないし、どうしたのかと思って。」
「ご心配おかけしました。永本とはせ……忘れてた!!!そういえば!未だやってるのか!?」

第二空間鏡ミラーオブ・セカンドスペース

 そうして目の前に鏡を永本たちが修行中の空間の様子を見る。
 
 この鏡は空間創造主のみ発現・見ることが出来る、作った空間のリアルタイムを映し出す鏡である。
 神は自分が作った世界を鏡を通して見るのが娯楽となっているらしい。その中で繰り広げられる出来事を年表などにして楽しむみたいだ。
 
 そんなことはいいとして、永本たちが未だゴーレムと戦っているかということであるが….…。
 現在三分間の休憩時間中。ということはまだ戦っているということだ。

「サポタ。俺が寝てからどのくらい時間経つ!?」
『はい。現在午後2時30過ぎ。たかし様が寝られたのが大体四時間。彼らは現在二十周回目を迎えようとしています。回復魔法を組んだ空間となっておりますので、まだ危険段階に入ってはいませんが、そろそろやめさせたほうが良いと考えます。』
「ああ!そうだな!……山寺先生!少しお待ちください!!例の件の決定報告でしょうが、先にやって来なければいけないことがありますので!」
「はい!分かりました!」

第二空間転移セカンドワープ!!』

 俺はその場で空間出入り口を開き、永本たちの元にいく。

「大丈夫か!?」

 二人はボロボロの体をこちらに向ける。

「やっと来たぞ。永本。」
「そうですね、長谷川先生。」

 二人は俺の姿を確認するとニコッと笑う。そして再び開始の合図が鳴る。

「ピ!!!」

 俺はその合図を聞き、ゴーレムを消そうとする。しかしその瞬間、二人はゴーレムに向かって走り出した。

「「そこで黙って見てろよ!!神に選ばれし俺の親友生徒よ!!」

 
 俺はその戦いに感激することとなる。

 まず長谷川先生。
 
 ゴーレムに真っ先に飛びかかり、木の剣で右肩を一閃。
 
 あの土でできた体を一発で切ることができるということ。木の剣先までを意識し、自分の体の一部のように扱っている。
 無駄な力は一切入っておらず肩の力を抜き、腰にその分力を入れ剣を振る時も遠心力のみで攻撃をする。
 
 集中力は決して途切れることはない。剣を構えた瞬間からゴーレムが倒れる瞬間までのそれらは、半日前の彼とはかけ離れて良くなっている。
 
 そして永本。
 主に後衛射撃。火属性魔法で相手の注意を引きながら長谷川先生の援護をする。そして時々前衛として攻撃与える。……それは前からできていたこと。

 しかし今のあいつは半日前とは比べ物にならないほど、後衛としての役割を達成していた。
 まず、長谷川先生が腕を一閃する直前、ゴーレムが避けようと左手で長谷川先生に殴りかかろうとしている時、彼は後ろから火属性魔法を顔に当て、ゴーレムの視界を遮る。
 そして長谷川先生が右手を切り落とし、少し後退した後、永本は猛スピードで前衛として切り替え背中に蹴りを入れる。
 そしてゴーレムが長谷川先生の方へ吹き飛ばされると、すぐさま後衛として魔法を放っていく。
 その切り替えの早さ・判断力・集中力は確実に今までの彼とは全く違う。別人にでもなったかのような戦い方。
 
 俺も素直に凄いとしか言えなかった。

  そして魔法の威力も上がっている永本は強くなっていた。

 

 そしてその凄まじい戦いは五分ほど続く。ゴーレムに一切の隙を与えない。ゴーレムの攻撃も全て避け切っている。
 再度言っておくが、決してゴーレムだからといって攻撃が遅いわけでもなんでもない。普通道を走る小型自動車をイメージしてもらえればいい。
 それを完全に避け切っているのだ。驚かない訳があるまい。つい四時間前までは初撃で手こずっていたのに。
 
 そしてゴーレムは自身の体力が四分の一となると同時に、左肩を剣とする。左肩をなんで切り落としてあるのに剣を作ることが出来るかって?
 それは魔法だ。魔法で作られたものなのだ。そんな原理を気にしていては埒が開かない。
 そんなことより俺が疑問に思ったのは、何故命令もしていないのに剣を出すことが出来るのかという点だ。

『それはたかし様が命令していないからです。基本ゴーレムは防衛魔法に使うことが多いので魔法書にもある通り、命令しない限りはある程度の体力過ぎると武器を自動で作り出します。』
「あ、そうなの。」

 サポタさん、それはもう少し早くに言ってもらいたかったかな〜。
 
 でも、それにしても、まだ優勢だったのは二人だという点に、さらに驚きを隠せない自分がいた。
 
 主に長谷川先生は剣を防ぎ、永本が魔法で応戦。『感激』の二文字である。
 
 
 しかしゴーレムも負けていない。俺的には今はそこまで頑張ってもらわなくともいいのだが……。そんなことは命令しなければ通じない。
 しかし今ゴーレムに命令すれば、言うまでもなく二人に申し訳ないというもの。

 ゴーレムは腰に力を入れ、左手剣に集中を込める。そして右足を軸にしておもっいっきり一回転。
 あれは斬撃が360度に飛ぶ攻撃。当たれば今の彼らでは即死である。まぁこの空間は修行用に、どんな攻撃が当たっても体力は1残るようには作ってあるんだけど。
 
 

 しかしそんな心配は無用であった。あの攻撃がされる前、永本は後ろから長谷川先生に合図を出し、長谷川先生を後退。
 加えてあの攻撃をしたあとゴーレムがしばらくスピードダウンするのを分かり切っており、自分も前衛として、長谷川先生と共に攻撃を仕掛ける。

「「オリャーーーーーッッッッッッ!!!!!!!」」




 その長谷川先生の攻撃はゴーレムの体を真っ二つに。
 その永本の攻撃はゴーレムの体を全身砕き散る。


 

 20セット目。9分25秒。戦いは終わった。
 二人は息を切らし、剣と拳を下げ二人で顔を見合わせる。そして



「「ヤッターーーッッッ!!!」」



 二人で拳を合わせ大声で涙を流しながら喜ぶ。これには俺も胸を打った。

 俺は二人の姿を見て、頑張ろうとまた思ったのであった。
 

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