「神に選ばれ、神になる」そんな俺のものがたり

竹華 彗美

第十五話 長谷川 裕翔の決意


【長谷川SIDE】

 本当にあの二人には感謝の言葉しかない。もちろん、その二人とは清水 隆志と永本 淳である。
 この世界に来てからというもの、あの二人には世話になりっぱなしだ。
 特に清水には色々怒ってしまったが、ありがとうとしか言えない。
 
 

 俺は一回死のうとした。
 生徒達に俺を含めた教員がけなされた時に、楽になろうと思って表面上では謝り、裏面では死ぬことを考えてしまったのだ。
 生徒達が教師俺らに不満を感じていることはすぐに分かる。それに時間が経てば経つほどそれは増大していく。
 最初は洞窟からの脱出を目標としたが、全く出口が見つからない。洞窟内は迷路のようで息詰まる。
 そんな時、救世主となったのは俺の学級の男子。清水 隆志である。
 彼は自分自身がチート能力であること。洞窟からの脱出経路、ここにいる獣の情報を教えてくれた。

 そして彼のおかげで洞窟を脱出できたものの、また問題に直面した。
 洞窟ダンジョンの周りは安全だが少し離れるとモンスターが徘徊しているという問題だ。これも彼が教えてくれた。
 その問題は先生たちで話し合い、彼の話も聞きながら俺は生徒達になるべく負担をかけないように行動するように心がけた。
 しかしそれも一時的な気休めにしか過ぎず、すぐにまた違う問題が起きる。それは俺にとって最悪の事態だった。
 それは生徒達の仲間割れ。理由は食料争奪戦である。俺はそれを見てここまで生徒達を苦しめていたのだと思うと自分が嫌になった。
 心が苦しくて締め付けられる。ここまで生徒達に我慢させていたと思うと、立っていることさえ恥ずかしい。
 そして生徒達に罵られても軽蔑されて、俺は必死に謝った。謝罪した、その行為とは裏腹に土下座をすると頭から血が出てきて、俺は情けないが、死のうと思ったのだ。
 一番辛いのは生徒達。そんなわかりきっていたこともあの時は無視してしまった。ただ俺はもう限界で逃げることしか考えられなかった。
 
 しかし清水の言葉は冗談だろうがとても助かった。心が苦しくて罪悪感の塊だった俺をあいつは救ってくれたのだ。
 あいつの言葉に助けられていざ今までの行為を振り返ると本当に情けない。
 生徒達を放って先に立とうとしていた自分が恥ずかしかった。
 しかしそれを見透かされたようにまた清水に慰められる。どっちが先生なのか生徒なのかもう分からない。

 そして清水から先の提案は彼の悩み抜いたものだと感じた。
 俺は彼に言った。『永元を連れてお前は好きなところに行ってもいいぞ。』と。そういえば本音がポロッと出て『お前といると疲れる』なんてことも言ったか。
 でも清水は全く違う答えを選択したのだ。自分ではなく、みんなのことを。
 こういうことは誰もができることではない。俺はそんな清水の提案に断れるわけがない。
 いや、元から一人で死のうとした俺にはそんな仲間思いの素晴らしい提案を拒否する権利などない。
 だからその提案を受け入れるしかなかった。というよりもむしろ受けさせてくれという立場だ。
 最終的に提案した清水本人が進めることになるわけではなく、俺が指導することになった。
 まんまとあの二人の策略に嵌められて。
 しかし悪い気分ではない。償いをするいい機会だと思う。むしろ『やってやろう』という気分だ。

 


 そして俺の前には子供ウルフが牙を向け、爪を尖らせている。清水と永本は気を遣って少し離れたところで俺よりも強い相手と戦っている。
 本当にこれじゃ、どっちが子供か大人かなんてわからない。
 でも俺は清水からもらった木刀を構える。



「そんなことどうでもいいのか!じゃあ行くぞ!!チビ野郎!!」



ーーーーー

【たかしSIDE】

 俺は上下が離れ、切られたウルフの辺りが血の池となっている現場を平然と立つ。
 もうモンスターの血などには驚かない。
 俺はウルフに無属性魔法の「血抜き」の魔法をやり、血抜きが終わったら剣と一緒にアイテムボックスにウルフを入れる。
 肉はみんなの食料と創造魔法の実験、皮は創造魔法で物を作るための材料として保管しておく。
 そして収納が終わると同時に永本も戦闘が終わり、あとは長谷川先生のみとなった。
 近くまで行き様子を見るにウルフの方が少し優勢である。これがほとんどのみんなの現状である。
 あ、そういえば長谷川先生のステータスを上げてなかったな。


[名前] 長谷川 裕翔 はせがわゆうと
[性別] 男
[年齢] 三十八歳
[種族] 人間族
[職業] 
[称号] 転生者 異世界の学校教員
    生徒思い

[レベル] 2
[体力] 400
[魔力] 120

[魔法]


[体術] lv2
[武術] lv1

[特性・耐性]
受けるダメージ稀に一割軽減


 ステータスを見ればわかる通り、体力型。つまりは前衛型である。
 俺と永本は魔力が体力よりも上回っているので、魔力型。つまり後衛型となる。
 前衛型は体力が多い分、耐えられる時間も長い。だから後衛よりも粘って粘って一瞬の隙を狙って攻撃するしかないのだ。
 俺と永本も今回は前衛よりの戦いだったんじゃないか?という質問が出そうだが、俺はともかく永本にも体術枠がある。
 魔法はレベルが低いと魔力消費が激しいくせして、威力があまり出ない。(俺は魔法魔力消費半分などという特性があるので同じ魔力を使おうとすると本当の場合の二倍の威力を発してしまうので論外。というよりも最初からlv15設定だから威力が高いのは普通。)
 
 ということで、魔法だけで戦うよりは拳や剣を使った方がいいのだ。そこに俺たちは魔力移動をさせて、剣や体に魔法を纏わせ強化しただけである。魔力移動はサポタのアドバイスの通りにやったらなんとなく使えるようになった。

 
 未だウルフの方が優勢な戦いとなっている。その理由として自分でやろうとしていることが行動として現れてないことだろう。
 剣をどこに当てたいのかという理想は分かるのだが剣の振り方がなっていない。回避も遅い。
 
「先生!ちゃんと剣を握って!自分が思ってるよりも常に素早く、強く行動してください。今先生に回復をかけます。あとウルフにかかる重力を重くするので、今言ったことを意識してください!」

 俺は八十メートルくらい離れた場所からそう声をかけ、その後に先生に体力回復と一時的に武術能力を高くする魔法をかける。ウルフには重力を重くかけた。
 魔力が多すぎて減った感じがしないが、重力操作魔法は魔力をかなり使うのでこの世界で使えるのは各国の最上魔導師ぐらいみたいだ。(サポタ先生の基礎知識講習による)
 
 ウルフの動きはさっきよりも重くなり、長谷川先生は限界突破状態なのでやっと長谷川先生が有利になる。
 少しずつ傷を与えられるようになってきたがまだ決定打をつかめずにいた。

「先生!そこから右に躱して、剣を振り下ろして!!」

 今度は永本がアドバイスする。

 見事に脇腹をきることができ、ウルフは痛みをじっと堪える。

「次!早くしないとそれこそずっと痛がっていて可愛そうです!早く楽にしてあげないと!」

 おお。永本もえらい残酷なことを言うやつになったな。まぁしょうがないか。あれだけ死体積んできたらな……。

「次も右に躱して後ろに回る!そこから切りつけて!!」

 これはギリギリ、ウルフが避ける。
 しかし永本はすぐに指示を出す。先生は瞬時にウルフの前に回り込み、両手で剣を持ち頭を突き刺す。
 頭蓋骨を見事に貫通して、下顎の部分まで剣が刺さっている。勿論ウルフは即死だ。
 下顎からは血が滴り落ち、剣を抜くと脳みそが飛び散る。残酷ではあるが、これが生き残る道だと先生も納得したようだった。

「これを生徒たちにやらせるのか……」
「そうですね。でもこれが生き残る道なんですよ。しょうがないじゃないですか?」
「まぁそうだな。」
「でもここを出るときには俺が安全な道を選んで進むのでなるべく戦わなくてもいいようにしますが。」
「まぁそれでも戦うことにはなるでしょうね。」
「ああ、分かっている。」
「じゃあ少し休憩したら次行きますか!俺が見た感じ後一人頭百匹づつは残ってるので張り切っていきましょ!!」
「あと百体だと!?……そんなにい……「はい!つべこべ言わず行きましょう!えい、えい「「「オーーー!!!」」」









 それから俺たち三人はモンスターを狩りまくった。ウルフだけではなくゴブリンやオークがいた。
 それを約二百八十体ほど倒したところで、日の出となりモンスター狩りはここでストップした。
 まだあと五十ぐらいはいるが、これらは後に僕の提案が通った際の戦闘練習用モンスターにすることにした。
 そして日の出、だいたい朝の五時には二段ベットのある場所に到着した。

「やっと着いた〜!」
「永本、お疲れ様!長谷川先生もお疲れ様です!永本と長谷川先生は二段ベッドで寝てていいですよ?」
「ああ、気遣いどうも。俺は大役があるからお言葉に甘えて少しでも寝させてもらいたいが。」
「そうですね!長谷川先生にはこんなのよりも大変な大役・・がありますもんね!体力温存して頂かなければ!!」

 大役とは皆さん御察しの通りである。

「じゃあ俺も一回寝させてもらおっかな?でもその前に……この服汗まみれでこのまま寝る気起きないなぁ。」

 そう永本はボソッという。小さな声ではあるが、俺に向けてまるで"服を作れ"と言っているように聞こえた。いや確実に言っている。
 
 俺はそれに一度小さくため息をしたあと、創造魔法でウルフの皮を使って服を上下とも作る。

「はい。」
 永本の前に出来たばかりの服を突き出す。

「ん?これは……お!俺の心の声にも気づいてくれるなんて!!なんて心の優しい方なんだろう!さすが!!たかし様!」

 わざと抑揚をつけているのが露骨すぎて俺には棒読みにしか聞こえない。
 しかし俺はその調子に同乗する。

「ああ、親友の寝苦しい姿は見たくなかったからなぁ。しかし、俺の創造魔法はまだ一部の人しか使えることを知らないからみんなの前でそれを着るのとかはやめろよ?一応先生にもどうぞ。」

 俺は先生にも作った服をあげる。先生は頭を下げて感謝の言葉を言った。

 そこから二人は二段ベットに入るとすぐに寝てしまった。
 俺はその姿を見たあと実験に入ったのだった。



「「神に選ばれ、神になる」そんな俺のものがたり」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く