「神に選ばれ、神になる」そんな俺のものがたり

竹華 彗美

第十二話 全ては生徒の為に


「……やって!しまったーーーーー!!!!!!!」

 
 俺が醜態を晒して十分間。俺は人に言われなくても自分で顔が真っ赤になっていることがわかるほど恥ずかしかった。
 今日は本当に自分でやったことではあるが災難である。
 まず最初に"デスフラワー"を叩きつけ、あのような惨状になってしまったこと。
 色々モンスターを倒し過ぎて、ステータスが化け物になってしまったこと。
 そして一回目、サポタに驚か……いやいや、思いもしない魔法があることが判明して叫んでしまったこと。
 サポタに怒られたこと。
 そして最後にサポタに対して精一杯謝っていたことが、端から見たら"危ない奴"の行動をしていてそれに気づき、またしても叫んでしまったこと。

 はぁ……小学生の卒業式に二段しかない階段から滑り落ちて転んだ時よりも、百倍恥ずかしい思いしたよ。今日は。

 十分後。落ち着いたところで、サポタのやり方説明が始まった。
 まず体の奥底にある"能力"を感じ取る。感じ取るためには、よく集中、リラックスする。目を瞑りながらならやりやすい。五分ほどで感じ取ることが出来た。
 次にそれを取り出すわけだが、全て取り出してしまうと寝たきり生活になることは間違いないというので、少しずつ取り出していく。
 "能力"が集まってる部分を右手で触る。これは個人個人で違うみたいで、俺は右胸である。
 そして左手の平からその"能力"を出していく。これで大切なことは右手でなるべく"能力"を左手に集中させるように押し出していくこと。
 すると俺の"能力"と思われるものが左手の平から出てくる。朱色で球体に形成されていく。
 この間かなり集中しなければならないので大変である。俺の場合、"能力"が多すぎる為、時間もそれなりにかかった。

 そして"能力"を出し終わった時には、既に一時間は経っていた。微調整もして、サポタの指示に従いながらやっていた。
"能力"の球体は半径四メートルはある。

『はい。これで終わりです。このぐらいであれば、この世界の人達の中でもまぁまぁ腕の立つレベルぐらいになれます。レベルは30。体力・魔力・魔法などのレベルも通常です。ただし特性・耐性・スキルに関しましては吸収することはできません。』
「ああ。ありがとう。で?これステータス書き換えられるの?」
『はい。この力でのステータスは既に作られています。また能力吸収魔法がかけられている間は、レベルが上がってもこの力のままで、増える能力は全て自動的に球体、正式名で言うと能力の塊アビリティーボールの方へ向かいます。』
「なるほどね。じゃあ能力を増やしたい時はこのアビリティーボールの方から取ればいいんだ。』
『はい。増やしたい場合にはアビリティーボールから手ですくって、自分の能力集合が高いところへ戻します。もし一つの能力を増やしたい場合はアビリティーボールの中から取りたい能力を感じ、それをすくいます。』
「おっけー。……で困ったことが……。このアビリティーボールどうしよう。」
『普通はアイテムボックスに収納します。』
「あ、そっか。その手があったわ!」

 サポタから助言をもらい、俺はアイテムボックスにアビリティーボールを収納した。

『最後に注意点ですが、その能力を人に与えることも出来ます。』
「え!?まじ?そんなことできるの!?」
『はい。ただ、"神々から選ばれし者"の称号を与えられている者の"能力"は強力な為、もし人に与える場合には小指の爪の面積より少なくても、充分力が発揮されます。もし手のひらですくったものを生物に分け与えると、その生物の体がその"能力"に耐えられなくなり、結果……体の内部から破裂します。その点のみ気をつけて行ってください。』
「は、破裂!?そんなことが!?」
『はい。即死です。』
「……気をつけます。」
「またこの魔法は"能力"を生物の体の外に出すことに関しては永久に出来ますが、別の生物に与えた場合には一定時間を過ぎると、体内から出て行きます。その後、体力値が低いと反動で立てなくなる場合もありますのでご注意下さい。』
「了解致しました!」

 そうサポタから説明を受けた俺は、もしもの時以外これは封印すると心の中で誓った。


 その頃既に日は落ちており、俺は永本達を連れて長谷川先生の元へ点呼のために向かう。
 点呼が終わった後はまた俺が大声で叫んだことによってまたしても長谷川先生に注意され謝った。
 その際、能力を自分で吸収して別の場所にやる魔法を手に入れたので今日のようなデスフラワー事件のようにはならないと報告すると、ただ頷かれただけであった。
 長谷川先生の話が終わった後は夜ということもあり、全員で先生が目のつく範囲内で行動する。
 ほとんどの人間は自分達で取った木の実やら、ヨモギなどの食草を火属性魔法が使えるやつが調理し、それを食べている。
 しかし全員がこう思っていることは一人一人の顔を見ていればわかった。
 "こんなものじゃ腹一杯にはならない。もっと美味しいものが食べたい。こんな生活はもう嫌だ"
 既にみんなの顔には我慢の限界の顔が映し出されていた。そんな時にいいことなど起こるはずもなく、女子生徒の悲鳴が聞こえてくる。

「やだ!!これは私たちが取ってきた木の実よ!なんであんた達に分けなきゃいけないのよ!!」
「はぁ?俺たちはここから早く離れて、大きな街をみんなのために見つけようとして魔法の修行してるんだよ!何にもしてないのはそっちだし、みんなのためにってやってやってんだから、お前らは俺たちに木の実ぐらい分け与えろよ!?」
「は!?私たち別にそんなこと一度も頼んだ覚えもないし!?協力するなんて一言も言ってないわ!!!自分の株ばっかあげようとしないでよ!」

 口論している人の元に長谷川先生と俺たちが駆けつける。

「ほら喧嘩するな!!そう喧嘩してると明日からは自由行動はなしにするぞ!」

 そう長谷川先生が言うと男子生徒は長谷川先生にガチギレする。

「は?お前たちが速くしねぇからこういうことになってるんだろ!みんな不満持ってんだよ!速く街でもなんでも見つけてくれよ!この役立たずがっ!!!」
「「「そうだそうだ!対応が遅いんだよ!速くしろ!!!」」」

 周りの奴らもその言葉に便乗してくる。こいつら言いたい放題だなぁ!まぁ気持ちはわからんでもないけど、俺は少なくとも長谷川先生は生徒のことを第一に思って行動している先生だと思っていた。

 根拠は洞窟の外の空気をみんなにすぐに吸わせてやりたいと言い、先生魂を見せてくれたあの時のことだけではない。
 俺や永本ばかり負担をかけさせまいと言って今日俺が永本たちと壁外に出たと同時刻、俺たちとは反対の森に行き、魔物たちと戦っていたことも知っている。
 実は一番疲れているのに、壁外で取ってきた木の実などを自分は食べず密かに腹が減っている生徒に分け与えていることも。   
 ゴブリンたちから話を聞き、みんなを安全なところにいち早く避難させようとしていることも、デスフラワー事件の時の衝撃で怪我をした生徒に自分の服をちぎって包帯がわりにし、止血していたことも。
 俺は知っていた。傷だらけの体を隠しながら笑顔を作っていた。点呼の時、みんなに対応の遅さを謝る姿は俺の中では最高にカッコイイ!
 
 俺は異世界に来てこの先生が増々好きになった。他の先生とは違う、最高な先生だと思うからこそ、この場面にはかなり苛ついていた。
 しかし先生は生徒の罵声を浴びながら、ゆっくりと膝をつき、手を地面につき頭を地面に擦り付け始めた。
 俺はその姿に何も言えなくなってしまった。それは罵声を今まで浴びせていた人達も同様である。
 長谷川先生は涙を流しながら、全員に聞こえるようにこう言い始めた。

「ごめんな……ごめんなさい。俺がもっと強ければ、みんなの関係をこんな風に悪くはさせなかったのに。ごめんなさい!何もできなくて!食料もまともに確保できなくて!!もう我慢の限界だって分かってるのに!苦労させてしまってごめんな!本当にすみません!!!」

 
 駆けつけた先生たちもその姿には絶句だった。頭からは軽く血が出ており、謝罪の言葉を何度も叫び続けている。しばらくすると一人の男子生徒が謝る。

「は、せがわせんせい!お、おれたちもごめんなさい!!」

 今まで罵声を浴びせていた生徒たちは、その姿を見て一斉に謝り始める。
 そして俺は長谷川先生の元に駆け寄り、もう辞めるように説得を試みるが、泣きながらまだ謝り続けていた。

「すみまぜーん!すびばぜーん!……俺のせいで!すびばぜーん!!!!」

 そして次の瞬間、咳とともに血の塊が長谷川先生の口から出る。
 
「長谷川先生!もうやめましょう!このままだと!生徒を置いて死ぬ気ですか!?」

 その俺の言葉に辺りがざわつく。まだみんなは長谷川先生の血反吐が見えていないのだ。

「長谷川先生!本当にこのままだと!!」

「サポタ!!!」
『はい』
「精神を落ち着かせる魔法とかないか!?」
『はい。あります。』
「じゃあそれ教えてくれ!早く!!!」

 俺のその独り言はみんな(永本以外)には不審なものにしか見えなかっただろう。しかし今は長谷川先生に目がいっているのであまり気はされていない。

「リラックス!」

 その魔法をかけると長谷川先生の呼吸は通常に戻る。しかし倒れてしまう。その時みんなは見たのだった。長谷川先生の口から血反吐が吐かれていることを。おでこの全面から血が出てることを。魔物たちとの戦いの傷が開いていることを。
 その姿を見た者は皆、長谷川先生を見て涙をこぼした。


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