【完結】女装男子のインビジブルな恋愛事情。
三百一十九時限目 八戸望は食堂で語る[後]
「先ずは、どうして瑠璃と犬飼が険悪な状態になっているかを話そう」
犬飼……ああ、ジブリの人かと思い出した。
名前は、たしか『羽宇琉』だった。
「犬飼先輩は、どういう人なんですか?」
「一言で言い表すなら、意識高い系だね」
好物は塩おにぎりだよと、かなりどうでもいい情報まで追加された。苦手なのはきのこ類全般だとか。……この情報、要る?
「そして、瑠璃に片想いしている」
「え?」
好き嫌いの話よりも、そっちの話のほうが重要度が高い気がするが、話の腰を折ってしまってはいけないと呑み込んだ。
「瑠璃は一度、生徒会を辞めたって話をしたよね」
「詳しい理由は知りませんが」
「瑠璃は中性的な容姿だから、女子からも好意を寄せられることが多々あるんだ」
そう言うと、ちょいちょいと手招きをする。
あまり大声で言えないような内容なんだろうと察して、僕は八戸先輩の手招きに応えて身を乗り出した。
「告白されたんだ。生徒会に入った一年生からね」
耳元で内緒話するかのように声を潜めた。
そして、八戸先輩は僕の耳から離れる。秘密の話はここだけのようだと、僕も椅子に座り直した。
「その場で振ったらしいんだが、お互いに気まずくなったらしい。告白した一年生は翌日に生徒会を辞めて、瑠璃はその三日後に生徒会から身を引いた」
「責任を感じたんですかね……」
そうだろう、と八戸先輩は顎を引く程度に頷く。
「でも、島津先輩は戻ってきたんですよね」
「傷が癒えたか、は本人にしかわからないけどね。瑠璃も真面目な性格だから、自分が抜けて大変だと、風の噂で訊いたんだろう」
生徒会を辞めた一週間後の月曜日に、血相変えて生徒会室のドアを叩いて、地面に着くかと思わんばかりに頭を下げて謝罪していたよ……と、当時を思い出しながら微苦笑を浮かべた。
「そのとき、はう……犬飼先輩はどうでしたか?」
「副会長、でいいんじゃないかい?」
──犬飼に訊かれたら怒られるよ?
──はい、そうします……。
「犬飼は一年生の頃から瑠璃が好きだったんだ。本音は喜んでいたと思うけど、それを素直に表現できるほど、犬飼は器用なヤツじゃなくてね」
あの表情は傑作だったなあ……と、まるで青春の一ページを捲るかのように、食堂の天井を見つめた。
「でも、島津先輩が会長になるのは嫌だったんですか?」
副会長は『意識高い人』と言っていた。真面目であるがゆえに、一度辞めた島津先輩を会長にするべきではないとも言っていて、それが火種となりいまに至る……ってのが当初の筋書きだったけれど、話を訊いているうちに、別の理由があるのではないかと疑問を感じた。
「プライベートな話だから、口外しないようにしていたんだ」
──誤解を招いてしまったね。
──いえ……、続けて下さい。
「自分も犬飼から直接話を訊いたわけじゃないから、ここからは憶測でしかない」
それでもいいかな? と僕に投げかける。
憶測だけで決めつけるのは間違いではあるけれど、これは『一つの可能性の話』としたほうがいい。
僕は、承諾の意味を込めて首肯した。
「支えたかったんだろう……と、思う」
「支えたかった、とは?」
例え、会長が島津先輩で、副会長が犬飼先輩だったとしても、互いに支えながら生徒会を運営していけばいい。それで、互いの距離が縮まったりなんだりして、恋人同士になるチャンスにもなり得るだろう。
それなのに、どうして副会長は拒絶したんだ?
「いま、鶴賀君は〝チャンスじゃないか〟って思ったよね?」
見事に思考を読まれてきまりが悪くなり、咄嗟に「だって、そうじゃないですか」と口調を荒げてしまった。
八戸先輩の思考を読み解く癖、なんとかならない? 癇に障って我慢ならないのだが? それともやっぱり、僕ってサトラレなのかしら? サトラレは保護対象なのだから、だれか僕を保護してくれてもいいんですよ? あ、存在感が無さ過ぎて、見つけようにも見つからないのかー! あちゃー……って、下らない妄想をぶつけて怒りを相殺しないとやってられない。
「犬飼は、上の立場から瑠璃を支えたいと思ってたんだろう」
「それじゃあまるで、瑠璃先輩がインコみたいじゃないですか」
「インコ……?」
どうして瑠璃がインコなんだい? と八戸先輩は首を傾げる。
「つまり、副会長は島津先輩を篭の中に入れて可愛がりたいってことですよね?」
「そうだとしても、あまり褒められた比喩じゃないね……」
八戸先輩の頬を引攣らせてしまった。
ということは、だ。
八戸先輩に『監禁する』という危険な趣味は無いらしい。よかった。さすがにそこまでくると、心療内科を受診させなきゃならなくなる。
「そういうのは、二次元だけの話にしておいたほうがいい」
やはり、あとで心療内科のリストを作成して八戸先輩に送り付けよう、と心に決めた。
「……で、それと八戸先輩が嫌われる理由がどう繋がるんですか」
このままではいけない。
僕も同種だって思われそうだ、と咳払いして話題を戻す。
「自分が嫌われている理由を自分の口から言わせるとは、鶴賀君は見かけによらずドSだね」
嫌われている自覚はあるんですね……。
とはいえ、誤魔化されてやる必要は無い。
「はぐらかすのはやめて下さい」
「手厳しいなあ……」
ふうと息を吐いて、両肘をテーブルについた。組んだ手の親指辺りに顎を乗せると、殊更に真剣な目で僕を見る。
「あまり語りたくはないけれど、言わないと帰してくれなそうな雰囲気だね」
「ええ。むしろ、メインはこっちなんで」
生徒会をどうにかしたい、というのが最初の依頼だ。
その発端に『八戸先輩が嫌われている理由』も絡まっているならば、否が応でも紐解く必要がある。
八戸先輩は躊躇いながらも、言葉を濁さずに告げた。
「自分は、犬飼を殺したんだ」
* * *
食堂からの帰り道、『犬飼を殺した』という八戸先輩の言葉が耳から離れなかった。
殺人を犯した、という意味ではないのは察するけれど、『殺した』という言い回しは穏やかではない。流星がいつも言っている定番ネタの『殺すぞ』とは、わけが違う。犬飼を殺した、と断言したのだ。
そこまで話してタイムアップだなんて、途轍もなく後味が悪い。
食堂に辿り着く前に佐竹と七ヶ扇さんに足止めされなければ、『殺害理由』についても言及できたというのに……。
帰り際、八戸先輩が『放課後は生徒会に来なくていい』と言っていた。状況が状況だけに、そう判断したんだろう。それに関しては、特にこれといった違和感もなく、「わかりました」と別れたけれど、八戸先輩はどうするんだろうか? 演劇部に顔を出すのか、バイトに向かうのかくらい訊いておけばよかったな。
まあ、それならそれでいい。
早急に解決しなければならない問題ではあるけれど──鍵の紛失問題は特に──、解決しなければならない期限がはっきりしているわけでもないなら、やるべきことをやっておくだけだ。
教室に戻って直ぐに、関根さんの席を目指す。
当初、僕は関根さんから生徒会の情報を訊き出す算段を立てていた。
「どったの? 眉間に皺なんて寄せて」
「あ、ごめん。ちょっと考えごとしてて……、そんなことより、訊きたいことがあるんだけど」
ふむふむこれは事件ですな? と鼻を膨らませて、迷探偵の顔を見せた。
そう、これは事件だ。
「殺人事件が発生した。協力して欲しい。ミス・ホームズ」
僕が『ホームズ』の名前を出したのがよっぽど嬉しかったのか、興奮気味に目を見開き、天真爛漫な笑顔を頬いっぱいに湛える。
「では、放課後に話を訊こう……。あの店で!」
「了解。頼りにしてるよ、迷探偵」
僕が踵を返して席に戻ったあとも、関根さんは興奮冷め止まぬという具合で、授業が始まってもそわそわしながら、たまに僕のほうを見て、「授業中によそ見するな」と、先生に注意を受けていた。
ちょっと、焚き付け過ぎたかも知れない。
まあ……、本人が喜んでるからいいか。
【感謝】
この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』にお目通し頂きまして、誠にありがとうございます。皆様がいつも読んで下さるおかげで最新話をお届けできています。まだまだ未熟な私ですが、これからもご贔屓にして頂けたら幸いです。
【お願い】
作品を読んで、少しでも『面白い!』と思って頂けましたら、お手数では御座いますが『♡』を押して頂けますと嬉しい限りです。また、『続きが読みたい!』と思って頂けたましたら、『☆』を押して下さいますとモチベーションにも繋がりますので、重ねてお願い申し上げます。感想は一言でも構いません。『面白かったよ!』だけでもお聞かせ下さい! お願いします!(=人=)ヘコヘコ
【話数について】
当作品は『小説家になろう』と同時進行で投稿しておりますが、『小説家になろう』と『ノベルバ』では、話数が異なっています。その理由は、ノベルバに『章』という概念が無く、無理矢理作品に反映させているため、その分、余計に話数が増えているのです。なので、『小説家になろう』でも、『ノベルバ』でも、進行状況は変わりません。読みやすい方、使いやすい方をお選び下さい♪
【作品の投稿について】
当作品は『毎日投稿』では御座いません。毎日投稿を心掛けてはいますが、作業が煮詰まってしまったり、リアルが現実的に、本当に多忙な場合、投稿を見送らせて頂くことも御座います。その際は、次の投稿までお待ち下さると嬉しい限りです。予め、ご了承ください。
これからも──
女装男子のインビジブルな恋愛事情。
を、よろしくお願い申し上げます。(=ω=)ノ
by 瀬野 或
「恋愛」の人気作品
書籍化作品
-
-
314
-
-
4405
-
-
1359
-
-
127
-
-
1512
-
-
34
-
-
37
-
-
0
-
-
381
コメント