【完結】女装男子のインビジブルな恋愛事情。

瀬野 或

■【八章 Stay With Me,】■


 朝の六時半にアラームが鳴るようにセットしてある携帯端末が、ガタガタと勉強卓で小刻みに振動しながら朝を告げる。この時間に起きないと完全に遅刻するギリギリの時間に目覚ましをセットしているので、否が応でもベッドから抜け出さなければならない。だから、比較的起きやすい春と夏を除いた季節には、携帯端末をベッドの上ではなく、勉強卓の上に置いて『止めなければならない口実』を作っているのだけれど、よくよく考えたら今日は振替休日であり、無理に起きる必要も無かった。──嗚呼、習慣とは恐ろしきかな。このままけたたましく鳴り響く携帯端末を放置したい気持ちに駆られるが、いつまでもピーピーガタガタ躍られては適わないので、よっこらしょういちっと、父親の口癖を真似しながら掛け布団を剥いだ。

 朝の冷たい空気が僕の肌を撫でるように冷やして、寒い寒いと有り体に文句を垂れつつベッドから這い出る。両腕を摩った所で寒さが軽減するわけでもないけど、これは気の持ちようだろう。寝惚け眼を無理矢理こじ開け、全く力が入らない足取りで勉強卓へ。机の上にあるのは昨日の夜に読み終わったハロルド・アンダーソンの本と、ドラゲナイしている携帯端末と照明とエアコンのリモコン。

 先ずは携帯端末に手を伸ばして『解除』を押す。して、ようやく静かな静寂が訪れるも、無理矢理起きたせいで頭痛が痛い。手に取った携帯端末にメッセージが来ていない事を確認していから照明のスイッチを押すと、白黄色はくおういろの明かりが部屋を照らした。

「まぶし……」

 白黄色が蛍光灯に選ばれる理由は、白色だけだと刺激が強過ぎるから黄色を混ぜて眼の負担を軽減する仕様なんだろうけれど、一瞬で点く光は寝起きだと厳しい。五分くらいかけてフェードインする機能でもあればいいのに。……そんな機能が有っても、どうせ一度使ったら二度と使わなくなるだろうな。『新機能搭載』の『新機能』を使いこなした試しが無い。

 今日の待ち合わせは昼過ぎの一十四時で、この時間に起きてもする事が無い。二度寝を決め込むか悩んだ末に、折角起きたのなら時間を有意義に使う方を選んで、いつものルーティンに倣った──。





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