【完結】女装男子のインビジブルな恋愛事情。
■□■【二章 It'e a lie,〜OLD MAN】■□■
空気のように徹するのは、案外難しいものだ。おそらく、順風満帆に小学校、中学校を卒業した人には不可能である。なぜなら、彼、彼女たちには多かれ少なかれ〈友だち〉がいるからだ。いや、『いたから』と訂正するべきだろう。
中学時代に友だち作りのノウハウを会得した彼らが高校生になってどうなるかと言うと、自身の経験を生かした言動で友人関係を築いていくのである。つまり、友だちを作ったことでクラス全体に認知されて、同じ趣味を持った者たちが集まってくるのだ。そんな者たちに『明日から空気のように生活をしろ』と言ってもできるはずがない。
空気のような存在とは、ある意味、現代の忍者とも言えるのだ。
隠密活動を基礎として、だれに悟られることなく帰宅する。他人に迷惑をかけず、いざこざに介入もしない。重要なことだ。その禁忌を破れば文字通り浮いてしまからな! 水の中に油を一滴たらしてみれば理解できると思うが、そうい具合の浮き具合である。偶に、ごく稀なケースではあるが、空気のような存在というのを『自分は他のヤツらとは違う』と勘違いする輩がいる。あれはいただけない。たしかに、空気のような存在に徹するということは、烏合の衆に属さない孤高の生き方だ。然し、その生き様を誇ってはいけない。一匹狼なんて呼び方もあるけれど、一矢報いるなんてできるはずがないのだから。だって、狼のように立派な牙が生えている訳でもなし、血迷えば単なる厨二病。違いのわかる自分かっけーでしかない。それは痛い、痛過ぎて目も当てられないから本当にやめたほうが賢明だ。
本物の『空気のような存在』とは誇ることにあらず、自分が他者よりも劣っていると自覚して、充実した生活を送っている者たちの邪魔にならないように慎ましく生活することと知れ──。
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