【完結】女装男子のインビジブルな恋愛事情。

瀬野 或

二十八時限目 彼と彼女では修羅場にもならない[前]


 例えば、やたら騒いでるのにも関わらず女子受けのよい生徒がこのクラスにいたとする。

「あ? 俺のことか?」

 彼が所属するグループは、クラスカースト最上位と言っても過言ではなく、そのリーダー格の彼はずば抜けて人気を博する。

 安い言葉で片付けるなら〈イケメン〉と呼んでいい。

「お、おう。……サンキュ」

 だが、一重にイケメンといってもタイプは様々だ。かわいい系、ワイルド系、爽やか系、お兄さん系なんかが代表的なイケメンのカテゴリだろう。

「なんかファッションの話みたいだな。マジで」

 彼の顔のパーツは申し分なく、眉毛もちゃんと整えている。強いて欠点を論うならば、鼻がちょっとだけ大きいのと、微量に馬面成分が入ってること。

「ほっとけよ!?」

 だが然し、彼にはそれが欠点にならない。

 そこはかとなくワイルドであり、鼻のデカさは男性シンボルの大きさに比例するとかしないとかって風の噂で訊いたことがある。でかければいいという物でもないけれど、大は小を兼ねるとも言えるし、大きくて困る物でもない。むしろ、男性シンボルの大きさは自信にも繋がるから、メンタル的な部分にも作用する。

 つまり、彼のメンタルが強いのはそういうことになるんだけど、いま、そんなことは頗るどうでもいい話だ。

「アソコとメンタルが繋がってたまるか!?」

 彼は〈ワイルド系〉と呼んで差し支えない容姿であり、車の免許を取得したらライジングサンを爆音で流しそうな感じだ。

「どっちかといえば、のほうが好きだけどな」

 曲名を間違えている辺りがもう、残念なイケメンとしか言えない。あれは『ティアモ』って読むのだが、一々訂正するのも面倒だった。

「訂正してるじゃねえか!?」

 そんな彼が大学に入ったら、週末にBBQを開催して、近寄る女の子を侍らせては放課後ニャンニャンに繰り出すまである。

「しねえよ! 割と最低じゃねえか、ガチで!」

 それは、無事に大学へ進学できればの話だ。

「いきなりセンシティブな内容をブッこむんじゃねえよ……」

 現状、我がクラスでは、彼の率いる『ウェーイ軍団』がトップに君臨して、周囲から羨望の眼差しを受けていたりする。

「そんなことねえだろ。普通に」

 でも、僕にはそれが理解できない。

「理解もなにも最初から違うからな? わかれ?」

 彼らの使う言語は独特であり、日本語と言っていいのかわからない。一番近くてアイヌ語か、それともうちなあぐちか、もしかすると東北寄りの方言から派生している可能性も微レ存だ。

「どれも該当しねえよ!?」

 その名状し難い言語を器用に使ってコミュニケーションを図っているが、僕には奇声としか認識できないのだ。

 僕が知り得る挨拶は、『おはよう』『こんにちは』『こんばんは』『ありがとう』『さようなら』だけれど、彼らは、おはようからおやすみまでが『ウェーイ』で通り、『ウェーイ』の亜種として『タシェーイ』や『ヨシェーイ』もある。

 こうして並べると、バラエティに富んでいると言えなくもないが、その意味は『まじまんじ』くらい意味不明過ぎてまじ卍だ。

「久々に訊いたわ……。まじ卍」

 大学生のノリに憧れてたりするのかはわからないけど、どう見たって縄張りを主張している部族の威圧と変わらない。いや、部族は誇りとプライドがあるけど、彼らにはそれが無いから比べるのも失礼か。

「ボロクソじゃねえか……」

 なにをそんなムキになって縄張りを主張しているのか僕には理解できないけど、彼らも彼らで僕の理解なんて必要としないだろう。だから、これは単なる独り言に過ぎない。




「遠回しに俺をディスってんのはよくわかった」

「盗み訊きとはいい趣味してるね」

 怒りを通り越して呆れているのか、佐竹は不承不承にも必死に笑顔を作るけど、頬が引き攣っていて眉がピクピク動いていた。

「独り言のレベル超えてるだろ。ガチで」

 ──俺のこと嫌い過ぎじゃね?

 ──そんなことないよすきすきあいしてるー。

「棒読みにも程があんだろ!?」

 いやいやまさか、と首を振った。

「愛情表現の一種だよ」

「棘があり過ぎるんだよなあ……」

 朝のホームルーム前に、こんなに長ったらしく毒丸出しの独り言を佐竹に向かって吐いたのは、退屈凌ぎのみならず、僕自身が佐竹という生き物に耐性が付いた証拠でもあった。

 親しき仲にも礼儀ありとはいうけど、僕と佐竹はこれくらいの距離が丁度いい気がする。

「つか、お前どうすんだよ。……あの件」

 ──あの件って?

 ──恋莉の件だよ。

「ああ。全部バレて契約無効になった話?」

「お前って鋭利なナイフかなにかなのか? いちいち心臓を抉るんじゃねえよ」

 でも、事実だ。

 佐竹との関係については、女装が天野さんにバレた時点で無効になっている。僕はそれで納得してるけど、佐竹はどうも煮え切らないようだ。

 だけど、佐竹の心配をする余裕なんてない。

 天野さんに女装がバレた時点で絶対に嫌われると思ったし、罵声を浴びせられても文句は言えないって覚悟もしたが、まさかまさかの展開で、天野さんはまだ優梨を諦めず、むしろ、僕が咄嗟に吐いた嘘を鵜呑みにして、『手助けをしたい』とまで言い出した。

 僕も僕で、根底にあるモノ──つまり、佐竹と月ノ宮さんとの関係──があって、「女装趣味は嘘でした」と言えない状況だった。

 これからどうしたものか、と考えなければならないのに、昨夜は本を読んで現実逃避に耽っていて、碌に考えは纏まっていない。

「あのさ、優志」

 この期に及んでまだなにかあるのか? と、殊更に顰めっ面をしたら、「やっぱいい」って続く言葉を呑み込んだ。

「僕の状況も少しは考慮してよ」

「お前はアレだろ。恋莉と付き合えるチャンスでもあるじゃねえか」

「それ、皮肉を言ってるつもり?」

 優梨の姿でって悪条件付きの話を肯定的に捉えるとか、学校に来る前にハッピーターンでもキメてきたの?

「佐竹に少しでも期待した僕の愚かさを呪うよ」

 佐竹に文句を言っても今更だ。

 それに、これは僕の問題である。

 同情や心配なんて要らないし、あってはならない。少しでもそれを期待したのは、僕が彼らを親しい間柄だと勘違いしたからに他ならず、自分でなんとかすべき問題だ、と佐竹とのやり取りから改めて気づかされた。








【感謝】

 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』にお目通し頂きまして、誠にありがとうございます。皆様がいつも読んで下さるおかげで最新話をお届けできています。まだまだ未熟な私ですが、これからもご贔屓にして頂けたら幸いです。

【お願い】

 作品を読んで、少しでも『面白い!』と思って頂けましたら、お手数では御座いますが『♡』を押して頂けますと嬉しい限りです。また、『続きが読みたい!』と思って頂けたましたら、『☆』を押して下さいますとモチベーションにも繋がりますので、重ねてお願い申し上げます。感想は一言でも構いません。『面白かったよ!』だけでもお聞かせ下さい! お願いします!(=人=)ヘコヘコ

【話数について】

 当作品は『小説家になろう』と同時進行で投稿しておりますが、『小説家になろう』と『ノベルバ』では、話数が異なっています。その理由は、ノベルバに『章』という概念が無く、無理矢理作品に反映させているため、その分、余計に話数が増えているのです。なので、『小説家になろう』でも、『ノベルバ』でも、進行状況は変わりません。読みやすい方、使いやすい方をお選び下さい♪

【作品の投稿について】

 当作品は『毎日投稿』では御座いません。毎日投稿を心掛けてはいますが、作業が煮詰まってしまったり、リアルが現実的に、本当に多忙な場合、投稿を見送らせて頂くことも御座います。その際は、次の投稿までお待ち下さると嬉しい限りです。予め、ご了承ください。

 これからも──

 女装男子のインビジブルな恋愛事情。

 を、よろしくお願い申し上げます。(=ω=)ノ

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