ちいさな神様の間違いで異世界に転生してしまいました

きくりうむ

第15話ー不穏な空気

 今日も今日とて依頼を受けにギルドに来た。ついに折り返しまできたんだ。ササッと、受けてササッと終わらせて、Dランクに上がろう。


 「ユウさん。おはようございます。昨日はちゃんとお休みにしたみたいですね」


 依頼書を持って、いつもどおりミルフィリアさんのところへ行くと、微笑みながらそんなことを言われ、頭を優しく撫でられる。


 「はい。それとこれ今日受ける依頼です」


 「はい。鍛冶屋の店番ですね。頑張ってください」


 最近ミルフィリアさんに対して1つ思うことがある。会うたび会うたび頭を撫でられることだ。別にミルフィリアさんに撫でられるのは嫌じゃない…というか嬉しいんだけど。


 一度撫でると中々離してくれないのだ。僕から離れればいいとは思うんだけど、なんか拒絶したみたいで嫌だし、結局はミルフィリアさんが満足するまでさせている。それに、こんな幸せそうな顔されたら何にも言えないよ。


 「…あ、ごめんなさい。また私ったら……」


 ハッと、思い出したかのように謝ってくる。


 「大丈夫です。…その、嫌じゃないので……。そ、それじゃ行ってきます!」


 言ったのはいいが、ちょっと恥ずかしくなってしまったので、逃げ出すようにその場を離れた。


 地図を見ながらお目当ての鍛冶屋に向かう。場所はギルドから遠く、変わりに街の入り口からは近い場所にある。いつもどおり大通りを歩く。最近は朝早くじゃなくて、10時くらいを目安にギルドに向かっている。なぜかというと、前に朝早すぎて待つことになったことがあった。さすがにまた待つことになるのは嫌なので、ミルフィリアさんに相談したところ、基本的この街のほとんどは10時には開いている、と聞いたのでそうすることにした。


 10時はギルドに人がいっぱいいるけど、なぜか絡まれることはない。牙突のパーティーには絡まれたけど、あれは結局魔道具貰っただけだったしカウントはしないでおく。


 なんというか、この街の人で、今まで僕と会ったことがある人、みんながみんな優しいのだ。


 イラジさんにミルフィリアさん、1件目の依頼主のお姉さんに2件目の依頼主のおばあちゃん、牙突のパーティーの人達に、アリシエルさんとリュミナさん。特にミルフィリアさんと、アリシエルさんリュミナさんが優しい。


 うーん。やっぱ神様が創った体で可愛いからなのか、それともただたんにこの街の人達が優しいだけなのか…。でも、いきなり見ず知らずの僕をギルドに泊めてくれたり、Aランクだからといっても、合計金貨数十枚以上使うとか、やりすぎではないだろうか。お金たまったら返すつもりではあるんだけど。


 やっぱり神様作の体だからかな。こう、なんというか神聖なオーラが出てるみたいな? …ないか。


 「うぅーん……はぁ、考えても仕方ないし、運が良いということにしとこう」


 軽く伸びをする。そもそも僕自信自分の体のことわかってないんだから、考えても仕方ない。…未だに魔法使えないし。せっかくの異世界で魔法もあるのに使えないし。


 「……よし。とりあえずお仕事がんばろう」


 もう目的地にはついたし今日も無事に終わらせよう。


 鍛冶屋、ラングルドルフ。ここが今日の依頼場所だ。この世界で今まで行った中で一番店名が長い。これは店名が長い店として僕の脳内リストに入れておこう。うん。…たぶん忘れないよ。


 扉を開けるとカランカランといつもの鈴がなる。中は、誰もいなく色々な武器が置いてある。短剣、片手剣、両手剣、斧、槍、弓、杖、…メイス? …なにこれ。杖まではわかるけど、このメイスというのはいったい。長い棒の先に丸いトゲトゲの変なのがついた武器。…鈍器かな? こんなのもあるんだね。


 「誰が来たと思ったら、ちっさい嬢ちゃんがここに何のようだ」


 色々な武器を見ていたら、カウンターの裏から妙にちいさい髭を生やしているおじさんが現れた。…これはいわゆるドワーフという種族なのでは。


 「あの、冒険者のユウと言います。今回は依頼を受けて来ました」


 「お前がか?」


 「は、はい」


 ギロッと、すごい怖い目で睨まれる。うぅ…怖い。こわいよぉ。


 「…まぁいい。こっちだ。ついてこい」


 「はい…!」


 てっきり、追い出されるかもと思ったけど、意外にも受け入れられてしまった。もしかして、見た目よりも怖くはない?


 「ここだ」


 おじさんについていきついた場所は、結構広い場所だった。今の宿の部屋の3つ分はありそうだ。そして、そこになにやら鉄っぽい物体がおいてある。


 「俺は今からこれの解体作業に入る。お前には俺が終わるまで店番をしてもらう。わからないことがあったら聞きにこい」


 そう言っておじさんは物体の方に向かっていった。…えっと、それじゃあ店番してようかな。うん。


 というわけカウンターに戻ってきたんだけど、鍛冶屋ってどのくらいお客さんくるんだろう。冒険者の人達がいっぱい来るんだろうか。怖い人が来なかったらいいんだけど。


 「ふぁぁ…それにしてもひまだなぁ」


 暇すぎてあくびが出てしまうほどだ。武器とか見ててもいいかな。ものすごく気になるんだよね武器。


 …見るだけなら大丈夫だよね。怒られたら…謝ろう全力で。


 カウンターから出て武器を見る。まずは短剣。長さはだいたい30cmくらいかな。僕でも扱いやすそうだ。いずれ武器持つようになるだろうし、短剣にしようかな。


 片手剣。長さはよくわからない。でも、僕よりは長くない。当たり前か。片手剣は背中か腰だっけ。おいとくところ。…背中は大丈夫だけど、腰は引きずっちゃう。却下。


 両手剣。長いし大きい。だけど持てる。それはもう軽々と。でも、却下。次。


 斧。持ち手の先に独特な形状の刃がある武器。でも、長いからちょっと僕には邪魔かな。かっこいいとはおもうんだけど。


 槍。これはもう見てわかる。僕には無理だ。長すぎる。槍だから長いのは当たり前だけど、この身長だと持ち運ぶがちょっと…。こう、短くなればワンチャンあるんだけど。


 弓。これは結構好き。扱えるかは置いておいて。一度は使ってみたいかな。たぶんこれなら僕でも罪悪感とかあまり感じずに魔物とか倒せると思うし。近距離で剣で切るとか絶対に無理。元日本人で学生の僕をなめちゃいけない。短剣買うとしても、あくまで護身用で使うだけだし。


 杖。魔法使いが使う武器。もしや、僕が魔法使えないのは杖を持っていないからじゃない? ……お金たまったらあとで買おう。


 メイス。これが一番よくわからない。鈍器なんだろうけど…。誰がこんなのを買うのだろうか。言っておくけど絶対に買わないよ。


 「一通りみたけど誰も来ないなぁ」


 カウンターに戻り椅子に座る。あのおじさんも戻ってこないし、退屈です。










 結局あれから誰も来なかった。いったいなんのためにいたのか。店番のためだけど。それと、あのおじさんはやっぱりドワーフっていう種族だった。名前は、ラングルドルフ。そう店の名前に自分の名前をつけたみたい。ある意味忘れられなさそう。


 報酬は銅貨5枚。まぁ、店番だったからね。そんなもんだよね。ギルドに戻ってきた僕は扉を開け中に入る。


 「……?」


 中はいつもどおり人がいっぱいいるけど、なんだか様子がおかしかった。いつもは誰かしらの笑い声とか聞こえてきたりするのに、今はまったく聞こえない。それに、なんだかみんな不安そうな顔をしている。


 「あ、ユウさん。お疲れ様です」


 「ありがとうございます。…あの、何かあったんですか?」


 ミルフィリアさんに依頼書とカードを渡すついでに聞いてみる。ミルフィリアさんもちょっと元気がなさそうだ。朝は普通だったんだけどな…


 「えっと…そう…ですね。隠していても仕方ないですし。ユウさん。落ちついて聞いてください。どうやら近くの森で大規模なゴブリンの集落が発見されたようです」


 ……ゴブリン?


 「ですが、ユウさんはEランクなので気にしなくて大丈夫ですよ」


 「そう…です……か」





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