天才の天災

春夜

『嘘』の真価

俺達は今、ドラゴニアの傍のダンジョンの5階層まで潜っている。
「なぁ、ボス?なんでさっきあのちっこい奴に宿代を渡したんだい?」
「ますたーの知り合い?」
ミネアとシズクがカサカサと駆け寄る小さい蜘蛛の魔物をあしらいながらレンに質問をなげかける。
「ミネア、シズク。マスターに見とれるのもわかりますが、よそ見していては危険ですよ。」
レンのすぐ後をフワフワと浮きながらリズが注意を促す。
が、2人はそのまま聞き流す。
「まったくもぅ……」
「あいつ、宿に泊まりそうだっただろ?
不満か?」
「いやいや、別にボスのやることに不満なんかないさ。ただ、ボスが人に施しを与えるなんて、どんな見返りがあるのか気になっただけさ。」
「何か、裏がある…?」
「2人とも人聞き悪いな。あれは貸しただけだ。あれ以上の対価はきっちり払ってもらう。」
「対価?宝払いみたいな感じかい?」
「宝払い?なんだ?それ。」
「例えばダンジョンとかで一攫千金狙って、
ドカンと儲かった時に気前よく払うみたいな事だったと思うよ?」
「いや、宝なんか別に欲しくないからな。強いて言うなら俺が作れないものだ。」
「ますたーが作れない?なぞなぞ?」
「そんなモンあるのかい?」
「こればかりは私も分かりません。
一体なんなのですか?マスター。」
「物じゃない。答えは『俺を殺せるかもしれない力』だ。」
答えを言っても3人はまるで信じられないといった表情を浮かべている。
「さっきの子供にその力があるのですか?」
「まさか。ボスどころかあたしでも負けることは無いんじゃないかい?」
「ステータスじゃなくて、スキル?」
「シズク、正解。」
正解したシズクの頭を軽く撫でる。
「ん。」
「まだ分かりかねます。マスター。
さっきの子供のスキルは私も覗かせて頂きましたが、『嘘』なんて、ハズレスキルのように思えますが…」
「「嘘?」」
「そ、嘘。それはあいつが持ってた本来のスキルだ。だからここに来る前、少しいじらせてもらった。」
「ますたー、悪い顔。」
「どんなふうにいじったんだい?」
「あれは進化が出来るスキルだ。
特定のスキルを使わないと使い物にならないハズレスキルだが、もし何らかの形で進化すれば、そうだな、神には届くんじゃないか?」
「「「…神?!」」」
ま、会ったことがないから断言できないが…
「それで、どんなスキルに進化したんだい?」
「さぁな。」
ガクッと音が聞こえそうな勢いで3人とも気が抜けた。
「さぁって、ボス…」
「リズなら分かるだろ?スキルを書き換えるんだ。直ぐなわけないってこと。」
「そ、そうですね…人によって個人差がありますが、大体半日位で体に馴染んでるんじゃないでしょうか。」
「まぁ、そのぐらいが妥当だろう。
俺を殺せるかはあいつ次第だな。
あいつはいかにも正義の味方って感じがしたし、悪っぽくなれば敵対はしてくれるだろうし。いいスキルがあっても、使い手によって良くも悪くもなるからな。」
「それじゃあ、あたしらにボスが何かスキル与えてくれたらいい線いくんじゃ…」
「俺が与えれるスキルに負ける訳無いだろ?本来持ってたスキルを強化するのとじゃ格が違う。」
「そりゃあ、そうだけど…」
そのまま真っ直ぐ進んでいくと下に降りる階段があった。
「お、降りれそうだな。降りるぞ。」
レン達はそのあとも着々と階層を下って行った。

〜レン 現在6階層〜

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