友人である勇者を殺そうと思う

びゅるびゅるビーム

友人である勇者を殺そうと思う

「シュレ、みて! この国は私達が守ったのよ!」

 満面の笑みで僕を引っ張る勇者。
王城から眺める城下の風景は綺麗だった。戦時下にあった国だとは到底思えない。

「ああ、そうだな。お前が、この国を守ったんだ」

「違うさ、賢者である君が隣にいてくれたからこそだと私は思うようん」

「そりゃどーも、勇者様にいわれると照れますねぇ」

「嘘をつくのはいくないよー、いくない


 果てしない魔王軍との戦闘。魔法という超次元的な武力をもつ奴等との戦闘で、俺達が住むズーラム王国は瀕死といっても過言ではなかった。
 しかし、そこに一人の勇者が突如現れる。
 勇者は魔王軍にも匹敵する、いや、上回る高位魔法を扱って敵を滅ぼしていった。時には万対二という数の暴力ですら、勇者が誇る魔法の一つでボードはひっくり返る。
 魔王軍は優位を奪われ、勇者にごっそりと戦力を削られると同時に内乱が起き、魔王の首をもって戦争は終わった。 
 
「これで平和に暮らせるわね。あの、それでね、話したいことがあって」

頬を赤らめながら、うつむく勇者。

「ああ、俺も言いたいことがある」

「あ、そうなの? え、ならお先にどうぞ」

「いやいや、お先にどうぞ」

「なんのなんの、お先に」

「何回もやってたらこのコント飽きないか?」

「飽きるね」

「ほならば、同時に言おう」

「あいよぱっつぁん」

「せーの」




「「死んでください」」



 言うが早いか、それとも剣を引き抜きのが速かったのか。
 

「勇者に勝てると思ってるの? 甘いよ、レデットのチョコケーキ並みに甘い」

「お前こそ誰が魔法と武術を叩き込んだやったのか忘れてるだろボケ。ちょっと魔力量が多いからって調子に乗るな」

「師を越えるのは弟子の役目だからね。大人しく殺されてくれていいよ」

「それこそソルトのフルーツケーキ並みに甘い。俺を越えるなんて百年はやい」

 鍔迫り合いからお互い小言を投げ合っている間に魔法を準備する。詠唱なぞタイマンでは使える隙があるわけがない。無詠唱且つ高威力の魔法を叩き出す方法はいくつかあるがもっとも効率がいいのは武器にあらかじめローテ文字を刻んだものに魔力を流し込む方法だ。

「「バクテラ」」

お互いの剣に刻まれた文字が輝き、焔を灯す。燃え盛る訳ではない、揺らめく、青色の静な焔。それは高密度の魔力を灯した焔であり、数十秒重なりあっていれば火力が低い方が吹っ飛ばされるだろう。

「ちぇ!」

 勇者は自身が飛ばされることを察して剣を返す。

「相変わらず火力お化け」

「チミは修練が足りんのだよ」

「それでも君を殺すよ」

「そのままお返しする」



 何故俺と勇者が殺しあわなければならないのか。それは全て、魔王の首をみた瞬間から定められていた事など今なら思える。

 俺は賢者で魔王――魔法帝国 エレモンドの王子で。

勇者、エイン・カーゼット――改、齊藤 明音は東の国の王女で。

この繁栄している国を狙うもの同士だと気づいてしまったからだ。




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