神様と異世界旅行

ダグドガ星 人の痕跡発見

「ミリス、左側から二匹っ。タテさん、右側から1匹来るよっ」
「狼型です」

デミルさんの声の後に、冷静なセレンさんの声が森の中に響く。

「了解です、デミルっ」

デミルさんが言った通りミリスさんの左側、藪の中から狼が二匹飛び出して来た。
ミリスさんは一匹を突く様に長剣で突き刺す。

「ミリス、そのまま横に力づく払うんじゃ」

俺の後ろに居る、茜さんが冷静にミリスさんに言う。
ミリスさんは頷き、横に払うとその横にいた二匹目の狼を切った。

「盾、来たでのう?」

俺は茜さんの声で、右側の藪を見る。
すると、狼が一匹飛び出して来た。
それを俺は木刀で狼の頭を上段から、殴りつける。
キャンッと鳴き、地面に臥せった所を俺は首に片足を置き体重を掛けてゴキッと折る。
狼が動かなくなったのを確認し、警戒しながらデミルさんを視線だけで見る。
デミルさんは少し目を瞑り、目を開け安堵の溜め息を一つして頷く。

「今の所、周囲には居ません」

デミルさんの言葉に茜さんとセレンさんは頷く。
ミリスさんは剣をしまいながら、安堵の溜め息をすると言う。

「デミル、セレンさんのお陰でどんどん気配察知が上手になってますね」

デミルさんは疲れた様に微笑み、ミリスさんに言う。

「ミリスだって、茜さんのお陰で戦い方が上手くなってきてるじゃない」
「いえ、それよりも・・・」
「・・・ん?」

俺は足元の狼を見ていたが、ミリスさんとデミルさんの視線に顔を上げ首を傾げながら訊ねる。

「二人共、どうかしたのか?」

ミリスさんとデミルさんは顔を見合わせて、困惑した様に俺に言う。

「タテさん・・・戦った事は無いんですよね?」
「ないな」
「生きてる物を殺した事、ないんだよね?」
「生きてきた中で、今回が初めてだ」

二人は俺の隣に居る茜さんに、視線を向ける。
茜さんは苦笑しながら、頷き言う。

「盾が言うてるのは本当じゃぞ?正直、ワシも驚いとるよ」

茜さんは首を傾げてる俺を見て、困った様に微笑み言う。

「もう少し戸惑うかと思ったでのう?」
「あぁ、そういう事か」

俺は足元の狼をチラ見してから、ミリスさんとデミルさんに言う。

「言葉が通じるなら、まだしも。コイツ等はこっちの命を取りに来てるんだ、殺られても文句は言えないだろう?」

二人は再び顔を見合わせて、俺を見て言う。

「聞きたい事は、まだありますが。とにかく何とかなって良かったです」
「・・・夜、じっくり聞くから」

・・・俺、何かしたっけ?

かれこれ、3回目になる戦闘。
戦い慣れしてない、という事で少ない数を二人は俺に回してくれていた。
最初は俺は戦闘無しになりそうになった所を、邪魔しないという事で二人にお願いしたのだ。
正直これ以上は情けない所を見せたくないという、男の見栄でもあるが。

『門』があった森と違い、木々の大きさは日本で良く見る大きさだ。
神聖な感じは無く、草も伸びっぱなし、木々の枝は太陽の光を閉じていた。
俺は正面側に目を凝らすと、奥の方が明るいのに気付く。

「なぁ皆、あれって平場じゃないか?」

隣に居る茜さんも続いて見る。
セレンさんは魔力の使い方を教えているのだろう、デミルさんと話していたがミリスさんは近付いてきた。

「確かに、開いた場所の様だのう。光で確認はできぬがのう」
「本当ですね、何があるんでしょう?」
「・・・いや二人共、楽しみなのは分かる。だけどな、毎回何でそんなに近いんだ」

そう、近付いて来るのは構わない。
構わないのだが、毎回毎回近い。
茜さんは俺の右側で肩が当たりそうな程近いし、ミリスさんに至っては俺の左肩に手を置いて覗き込んでいる。
遠慮しないのは旅の仲間として嬉しいが、別の遠慮はして欲しい。
二人は首を傾げて、不思議そうにする。

「・・・?どうか、しましたか?」
「どうかしたかのう?」

俺はセレンさんに、助けの眼差しを送る。
話し合いが終わり、こちらを見ていたセレンさんと目が合う。
セレンさんは俺の表情から、気付いたのか頷き片手を上げ言う。

「手でも繋ぎますか?」
「・・・何で、そうなるんだ」

俺は片手で頭を抑える。
分かっててやってるのが理解出来るから、余計にたちが悪い。

「フッ」
「ん?」

セレンさんの声で、笑いの様な声が聞こえ俺は慌ててセレンさんを見る。
茜さんも、同様だ。
ミリスさんは吊られという感じだが。
だけど、そこには無表情なセレンさんが振り向いた俺達を不思議そうに首を傾げて見ていた。

「どうしました?」
「セレンさん、今、笑いました?」
「私が?」

セレンさんは片手を口元に持っていく。
セレンさんは、唇を触り何かを確認しているが、次第に眉が寄っていく。

「分かりません。笑ったんでしょうか?」
「良い事だのうっ」

それに加え、茜さんはセレンさんの変化に嬉しそうだ。

「笑い方も思い出すといいのう、セレン?」
「・・・思い出す?」

俺が呟く様に言うと、茜さんは俺を見て苦笑しながら言う。

「まぁ、隠す事でもないしのう」

セレンさんはこちらに歩いてくる。
その後ろをデミルさんが、付いて来ている。
セレンさんは奥を指差しながら、言う。

「そうですね、歩きながら話しましょう」




セレンさんは長い事、管理をしていた。
そう、俺が見たあの真っ白い空間でだ。
定期的に使用する者が居るならまだしも、間隔は1年から10年と不定期。
そんな中で、少しずつ自分の表情が消えていく事にセレンさんは気付いた。
そして、月日は流れ完全にセレンさんの表情から感情は消えていた。
そこに現れたのが、古い友である茜さんと眷属である俺。
自分の役割に飽きが来ていたセレンさんは、俺達に付いてきた。
表情が戻るのを、少し期待しながら。

「そうだったのか・・・」

俺はセレンさんの話しを聞いた後、呟く。
俺の横を歩いている茜さんは、微笑みながら言う。

「セレンの笑顔は綺麗だったでのう」

そうだろうなぁ。
この、異世界でも目立つ白い髪に、キリッとした顔立ち。
茜さんと違い大人の女性という雰囲気を出しながら、茶目っ気まである。
・・・少し、細かい所はあるが。
ミリスさんと違う綺麗が当てはまるのだろう。
俺は頷き顔だけ振り返り、微笑み言う。

「自然に出る様になると良いですね。そしたら、俺に見せてくださいよ」

俺の言葉にセレンさんは無表情ながらも頷き、隣に居る茜さんは苦笑した。
俺は首を傾げて、茜さんを見る。
あれ、おかしな事言ったか?
茜さんは片手をパタパタさせると、苦笑したまま言う。

「盾は、さらりとそういう事を言うのう?」
「私も思いました」
「しかも、自覚無し」

俺の前を歩いているミリスさんとデミルさんも、茜さんの言葉に同意する。
俺はそんな3人に、自分の発言を思い返してみる。
・・・あ、これじゃ俺に見せてくれって言ってるみたいだな。

「あ~、違うぞ?違わないけど、俺だけにって意味じゃないからな?」
「盾は、あれだのう?考えてる事が直ぐに言葉に出るのう?」
「表情にも出ますよね」
「うん、分かりやすい」

茜さん、ミリスさんとデミルさんまで頷き合って言ってくる。
俺は苦笑しながら片手で頭の後ろ側を掻く。

知ってる。
それも、周りに良く言われた。
隠し事は苦手なんだ。

気付くとセレンさんは俺の後ろに結構近付いており、然り気無く言う。

「その時は、一番にお見せしますね」
「・・・あんまり、からかわないでくださいよ」

そんなこんな言ってる内に、明るい所の目の前まで俺達は進んでいた。
ミリスさんとデミルさんは、後ろに居る俺達に小声で言う。

「魔物が居るかもしれないので、慎重に行きましょう」
「一応、気配察知には引っ掛からなかったけど・・・念の為」

俺は無言で頷く。
俺の後ろに居るセレンさんと茜さんを見ると、何かを話し込んでいるが二人共に片手を上げ合図をしてきた。

・・・神様達、もう少し緊張感が欲しいのですが。
ほら、ミリスさんとデミルさんもそんな顔してるぞ。

「ま・・・まぁ、お二人なら大丈夫でしょう」
「問題は私達」
「確かに、俺達はマズイな」

俺達は頷き合うと、あまり音を出さない様に草をかき分ける。
そこにあったのは道だった。
日本みたいにアスファルトで舗装されている訳じゃない。
土だが、そこには草の一つも生えていない。

「道・・・だよな、どう見ても」
「え、えぇ」
「人が居る可能性が、高くなったっ」

俺達は周囲を警戒しながら道に出る。
幅は車一台は余裕で通れるんじゃないか?
2台はキツイかもしれないが。
やはり良く見ると人の手が加えられた道だ。
土は押し固めてあるが、土なので所々に多少の段差がある。
俺は足元に片膝を付き、地面を見ながら二人に言う。

「ミリスさん、デミルさんこれを見てくれ。これって馬車の跡じゃないか?」

俺の後ろの左右から、二人はおれが見ている所を覗き込む。
・・・二人共、俺の肩に手を置いてるが今は何も言わないでおこうか。
二人共、嬉しさと驚きで声を弾ませながら言う。

「こ・・・れは、馬車ですね」
「見て見て、これって新しくないっ?ほら、抉られた土がまだ乾ききってないっ」

良く見てるなぁ。
確かに、乾ききってない。
手で触ると、良く分かる。

「盾よ、近くに沢山の生きてる者が居る所があるでのう?」
「え?」

俺は驚く。
そりゃそうだ、この森を見渡した時そんな物見当たらなかったのだから。
そもそも、村なら・・・人が住める所があれば見渡せば見付けれる。

「強い魔力を感じます。空間阻害されているんじゃないでしょうか?」
「とんでもないな・・・」

流石、魔法が存在する星だ。
俺は立ち上がりミリスさんとデミルさんを見ると、尋ねる。

「二人共、どうしたい?俺としてみれば覗いてみたいんだが?」
「行きたいに決まってますっ」
「選択肢は決まってるよっ」

俺の言葉に二人は目を爛々に輝かして言う。
まぁ、そうだろうなぁ。
俺は微笑み、皆を見渡すと言う。

「なら、行こうか」
「「「「お~」」」」

4人は片手を上げて返事をする。
うん、良いねぇワクワクがいまだに止まらない。
ただ一つだけ。

フラグは勘弁してくれよ?

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