魔法の世界で、砲が轟く

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第七十八話 王都制圧戦への道

「そこまで言うほどのことなのか?」


 司馬懿が基地へ戻る途中で真一が聞いた。


「ええ。敵はあの孔明です。こちらの軍の主力で一番やりづらいのは我が第一独立師団だと言うことは重々承知のはず。であれば、奴は何かしらの計略を使って我々を陥れて戦力を削ごうとするでしょう。現状として、何をするかは分かりませんが恐らくそうとう追い詰められるような手を打ってくると思われます。何せ、今はこちらは後ろ盾を失い、隙を突き放題。今のタイミングを逃す孔明ではありません」


「なるほど。だが、手立てはあるのか?」


「はい、一つだけ」


「どうするのだ?」


「万が一の逃げ場を用意するのですよ」










 ハットラー総統暗殺から早二ヶ月が経とうとしていた。
 ようやく国内の情勢が落ち着き、総力戦体勢も整いつつある。戦力は次から次へと前線へと送り届けられ、ジーマン軍はついに魔国の王都攻略作戦を立てていた。
 これは現在、魔王軍が最終防衛ラインとしている要塞を全軍の半数を用いて包囲。
 その間に別働隊は王都に襲撃を掛け、ここを陥落させるという大胆な作戦であった。


 しかし、これには大きな問題点があった。それは魔王軍の主力が撃破できていないことであった。
 バラーの戦闘で大きな被害は与えられたが、その主力は未だに健在でありジーマン軍の主力とほぼ互角の戦力だ。ただ、互角とは言えど、それは兵器の優越の差も含めた上での話で兵士の数的には魔王軍がジーマン軍の数倍を上をいく。
 野戦ともなれば、魔王軍は戦車を持つジーマン軍の敵ではなく、数がいくらいても蹴散らされるだけの存在だ。しかし、要塞に籠もられれば話は違う。魔王軍は守りに関しては実に固く、先日のバラー戦でも見せたような奇策でもなければ魔王軍を打ち倒すことは厳しい。
 故に魔王軍主力の要塞を下手な戦力で包囲すれば返り討ちにされるという問題もある。


 ただ、一つだけ魔王軍には多きな問題点があった。
 それは頼りの要塞が完成していないことだ。


 内部に侵入している新庄からの報告によれば、要塞は土魔法を使える兵士が昼夜問わず突貫工事を行っているそうだが、できあがっているのは全体の約六割程度らしい。
 元々、魔王軍の防衛大綱はバラーの町を中心に考えられていたため、作り始めたのは最近のようだ。


 こうしたことからジーマン軍は要塞が完成する前に敵を攻撃する必要があると判断。
 戦力の回復はまだ完全ではないが、攻撃を再開することを決定した。


 この総指揮を執るのはミンシュタインだ。
 彼は以前、ハットラーに直訴をする予定であったが、総戦力体勢に入ったことから戦力の回復が約束され、彼は直訴をする必要がなくなった。そのことにより、特に降格と行ったことはなく、このような位置づけになったのだ。


「閣下が入られます!」


 今、行われているのは王都攻略戦に際しての訓示だ。
 ここには各師団長他、参謀などの幕僚などジーマン軍の頭脳と言うべき人間がそろい踏みしていた。


「ご苦労! 楽にしてくれ」


 ミンシュタインは敬礼を行っていた将校に向かって言う。


「ついに時は来た! 我が軍勢が魔国の王都へと刃を突き立てるときが! しかし、敵は未だに戦力を多く残しており、率いるのは魔王軍の至宝と謳われる参謀総長ケルンだ。正しくこの一戦が互いの国の興亡を決めるときであろう。だが、我が軍は必ず勝利をする。以上だ」


 そう言って訓示を終わらせる。


「総員、掛かれ!」


 そのかけ声と共に各将校は自分の持ち場に走る。
 第一独立師団と第一、第三師団の六万近い兵力は要塞に攻撃を仕掛け、ここに籠もる魔王軍本隊を釘付けにする役目を担っている。
 他の師団の総数二十四万(これらは総力戦体勢に伴い、かなりの兵力が増えているが練度は今までよりも落ちている)は王都方面に進軍。ここにいる魔王を直接攻撃し、魔国の戦争継続能力を完全に破壊するつもりだ。


 これに対し、王都防衛隊を指揮するのはケルン率いる四個近衛師団の総数八万の兵力。要塞に立てこもるのはスーザン率いる七個師団の二十一万の兵力。


 いささか要塞方面の攻略部隊に関しては荷が重いように感じるが、彼らはあくまで要塞の兵力を釘付けにするのが最大の目的であるために出てきた兵力を殲滅することが目的だ。そのため、それほどの兵力が必要とは考えられていなかった。


 ジーマン軍の総数三十万の兵力はこの時、一斉に進撃を開始した。






「ジーマン軍が進撃を開始した模様!」


 ジーマン軍の動きは当然魔王軍の方でも捉えられていた。
 この報告が来たスーザンは直ちに防衛の準備に移るよう言った。彼女が今回の戦闘で切り札と考えているのは無論、勇者達だ。彼らの使い方を間違えなければ今回の戦闘の防衛には成功すると踏んでいる。しかし、それはあくまで正規のジーマン軍に対する兵力。これが第一独立師団ともなってくると話は別だ。彼らはただでさえ強い上、司馬懿という強力な参謀がいる。これを倒すのは正攻法では難しいと考えられている。
 そこで、スーザンが用意した第一独立師団用の特別な兵器は別のものであった。


「仲達、今回は私の勝ちよ! 北伐時の仇を返してあげる!」 

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