魔法の世界で、砲が轟く
第七十七話 尋問
通された部屋は何十もの扉を超えた先にあり、その一つ一つの扉には完全武装の兵士二人が付いておりかくも厳重な警護が必要なのかと思わせるほど厳重なものであった。
「こちらです」
案内のジーマン軍の兵士が司馬懿達を通す。
中は以外と広く自決や自傷行為が出来ないよう殆どの道具は角や持ち出しが出来ないようになっているが目をこらさねばそういった細かい部分の判定は出来ず、予想以上に快適そうだ。
地面に固定されたベッドの上には若い女性が座っており、脱出が出来ないように一方の足に鎖がベッドと繋がっている。
女性は特に苦しんでいる表情でもなく、かといって精神が壊れてしまったような表情でもなく普通の様子だ。見た限り体にも大きな痣などはなく、元気そうだ。
「こんにちわ」
真一と司馬懿は一言目に挨拶をした。
彼女はこちらに気付くと静かに頭だけ下げる。
「私の名は真一。彼女は司馬懿だ。宜しく」
「……」
真一の言葉に眉一つ動かさず、フィーリアはじっと二人の様子を見ている。
「まず、貴殿に伝えたいことがある。私は貴殿等とおそらくは三回交戦した人間だ。一回目はコットン国で率いていた部隊で、二回目は少し前のジーマン本土のベラリン郊外にて行われた戦闘。そして三回目は貴殿との最後の戦闘になった先の戦闘。これらの戦いいずれにおいても我々は貴殿等に何度も追い詰められてきた。一回目は部隊を殲滅され、二回目は我が親友を一人殺され、いずれの戦いでも数多くの優秀な部下を失った。だが逆に言えば、貴殿はそれだけ優れた軍人と言うことだ。最高の敬意を表したい」
そう言って一礼をする。
これにはフィーリアは意外だったのか目を見開いて驚きを露わにする。
「だが、今は貴殿は我々が敵同士。故に色々心外ながらもやらねばならんことがある」
そう言って司馬懿が持ってきた小冊子の一冊を見ながら言った。
「私が聞きたいことはいくつかある。もし答えたくないのであれば、言わなくても構わない。別にそれでどうにかするというわけではないからな」
そう言って真一は質問を始めた。
「まずは一問目。一回目の戦闘において我々は戦ったと言ったが、これは輸送隊の護衛を行っていたときの戦闘だ。貴殿等はどうやってあそこまで忍び込んだ?」
おおかた予想は付いてはいるが真一は敢えて質問をした。
「無論、瞬間移動の能力を使ってよ」
フィーリアが初めて口を開いた。その声は鈴を転がしたような綺麗な声であった。
「ふむ、だが我々はコットン国の軍隊に攻撃をされた。あれはどういうことだ? 貴殿等はどうやってコットン軍の兵士に仲間同士殺させた」
「私たちは元々はコットン軍の兵士。鎧ぐらいは持っていてもおかしくはないでしょう?それを着て攻撃をしたら見事に混乱してくれたわ」
「分かった。ありがとう」
真一はお礼を言って司馬懿を横目で見た。彼女は真一に向かって小さく頷く。嘘は言っていないと言うことだ。彼女はそういったことを見抜くことは得意なのでその判断を任せているのだ。
「では続く質問だ。貴殿は我が同胞、近藤譲を殺害したと考えられている。これも貴殿の瞬間移動を使ったのか?」
「ええ。そうよ。でも一つ間違いがあるわ」
「なんだと?」
「間違いよ。その手を下したのは私でも私の配下の人間でもないわ」
「では、誰がやったと言うんだ?」
「ある組織よ。我がコットン国のね」
「どういうことだ? 何故、魔王軍にコットン軍がいる? 第一、コットン国は魔国が犬猿の仲ではないのか?」
「さあね。詳しいことは知らないわね」
そう言って口を閉ざした。
真一は怒鳴りつけたい気持ちを抑えつけ、司馬懿を見るが彼女は首を静かに振る。嘘は言っていないようだ。
「仕方があるまい。では、それは誰の指示だ?」
「それは答えられないわ」
「何故だ?」
「理由を言ったら答えみたいなもんでしょう?」
「う~む」
完全に手詰まりの状態だ。無理して吐かせようと思えば出来ないことはないが、それをしてしまえば自分たちは取り返しの付かないところまで行ってしまう。それだけは真一の信条が許さない。
「分かった。では次が最後の質問だ」
「意外に少ないのね」
「貴殿は何故そこまで簡単に情報を流す? まるで捕まるのを予期していたかのようにね」
「……」
これが真一達が一番気になっていたことであった。フィーリアは数多くの秘密を握っている人間だ。捕まえる際に余りにも無防備であったため簡単であったし、あっけないほど簡単に秘密をバラしているのだ。どこか腑に落ちない点があった。
「私は捕まった身。少しでも色々な情報を話しておいた方が待遇も良くなるでしょう?」
「いや、そうは普通は思わないはずだ。なぜなら、ジーマン軍は祖国を貴殿等魔王軍に踏みにじられ怒り狂っている。当然、その尋問も生半可なもんではない。そもそも捕まらないように魔王軍も必死で貴殿を守ろうとする。それが我が一個師団ほどの戦力に簡単に捕まり、挙げ句の果てには国家機密のようなことも簡単にバラす。これは余りにも腑に落ちない」
そう言って真一は一歩近づいていった。
「何を隠している?」
「何も」
「昔私が戦った人間で知略の長けた人間がいました」
今まで黙っていた司馬懿が語り出した。
「彼の知略は凄まじく、何万もの軍勢から一個人の人間の動きまで全てが彼の手のひらで踊るように動かすことが出来ました。何故か」
司馬懿がそこで一息入れる。
「彼が嘘と真実の情報を流しながら、本当に流したくない情報を流さず自分の思い通り動くよう仕向けたからですよ」
そう言ってフィーリアの方を見た。
フィーリアは初めて司馬懿の目を見た。その瞬間、ある人物とよく似た目をしていることに気付いたのだ。
「彼に言われたのではないですか。全て真実を言って構わない。だが、これだけは言うな」
「その配下にいる真一や司馬懿と名乗る者達に関する情報で今後、彼らに関わるような内容だけは……とね」
それを聞いた瞬間、フィーリアの目が見開かれる。
「彼の二つの誤算の一つ目は我々があなた方を捕まえる時間が思ったよりも早かったこと」
そして、と続けた。
「ハットラー総統暗殺が予想以上に早く起こったこと」
「なぜ、それを!」
「真一殿、行きますぞ! このままでは貴殿等、第一独立師団の命運が危ない」
司馬懿はすぐに踵を返し、その場を去って行く。
「分かった」
その尋常ではない焦り方に真一は何も言えず付いていく。
「あなたは何者なの?」
「彼の宿敵ですよ」
司馬懿は振り返らずに言った。
「こちらです」
案内のジーマン軍の兵士が司馬懿達を通す。
中は以外と広く自決や自傷行為が出来ないよう殆どの道具は角や持ち出しが出来ないようになっているが目をこらさねばそういった細かい部分の判定は出来ず、予想以上に快適そうだ。
地面に固定されたベッドの上には若い女性が座っており、脱出が出来ないように一方の足に鎖がベッドと繋がっている。
女性は特に苦しんでいる表情でもなく、かといって精神が壊れてしまったような表情でもなく普通の様子だ。見た限り体にも大きな痣などはなく、元気そうだ。
「こんにちわ」
真一と司馬懿は一言目に挨拶をした。
彼女はこちらに気付くと静かに頭だけ下げる。
「私の名は真一。彼女は司馬懿だ。宜しく」
「……」
真一の言葉に眉一つ動かさず、フィーリアはじっと二人の様子を見ている。
「まず、貴殿に伝えたいことがある。私は貴殿等とおそらくは三回交戦した人間だ。一回目はコットン国で率いていた部隊で、二回目は少し前のジーマン本土のベラリン郊外にて行われた戦闘。そして三回目は貴殿との最後の戦闘になった先の戦闘。これらの戦いいずれにおいても我々は貴殿等に何度も追い詰められてきた。一回目は部隊を殲滅され、二回目は我が親友を一人殺され、いずれの戦いでも数多くの優秀な部下を失った。だが逆に言えば、貴殿はそれだけ優れた軍人と言うことだ。最高の敬意を表したい」
そう言って一礼をする。
これにはフィーリアは意外だったのか目を見開いて驚きを露わにする。
「だが、今は貴殿は我々が敵同士。故に色々心外ながらもやらねばならんことがある」
そう言って司馬懿が持ってきた小冊子の一冊を見ながら言った。
「私が聞きたいことはいくつかある。もし答えたくないのであれば、言わなくても構わない。別にそれでどうにかするというわけではないからな」
そう言って真一は質問を始めた。
「まずは一問目。一回目の戦闘において我々は戦ったと言ったが、これは輸送隊の護衛を行っていたときの戦闘だ。貴殿等はどうやってあそこまで忍び込んだ?」
おおかた予想は付いてはいるが真一は敢えて質問をした。
「無論、瞬間移動の能力を使ってよ」
フィーリアが初めて口を開いた。その声は鈴を転がしたような綺麗な声であった。
「ふむ、だが我々はコットン国の軍隊に攻撃をされた。あれはどういうことだ? 貴殿等はどうやってコットン軍の兵士に仲間同士殺させた」
「私たちは元々はコットン軍の兵士。鎧ぐらいは持っていてもおかしくはないでしょう?それを着て攻撃をしたら見事に混乱してくれたわ」
「分かった。ありがとう」
真一はお礼を言って司馬懿を横目で見た。彼女は真一に向かって小さく頷く。嘘は言っていないと言うことだ。彼女はそういったことを見抜くことは得意なのでその判断を任せているのだ。
「では続く質問だ。貴殿は我が同胞、近藤譲を殺害したと考えられている。これも貴殿の瞬間移動を使ったのか?」
「ええ。そうよ。でも一つ間違いがあるわ」
「なんだと?」
「間違いよ。その手を下したのは私でも私の配下の人間でもないわ」
「では、誰がやったと言うんだ?」
「ある組織よ。我がコットン国のね」
「どういうことだ? 何故、魔王軍にコットン軍がいる? 第一、コットン国は魔国が犬猿の仲ではないのか?」
「さあね。詳しいことは知らないわね」
そう言って口を閉ざした。
真一は怒鳴りつけたい気持ちを抑えつけ、司馬懿を見るが彼女は首を静かに振る。嘘は言っていないようだ。
「仕方があるまい。では、それは誰の指示だ?」
「それは答えられないわ」
「何故だ?」
「理由を言ったら答えみたいなもんでしょう?」
「う~む」
完全に手詰まりの状態だ。無理して吐かせようと思えば出来ないことはないが、それをしてしまえば自分たちは取り返しの付かないところまで行ってしまう。それだけは真一の信条が許さない。
「分かった。では次が最後の質問だ」
「意外に少ないのね」
「貴殿は何故そこまで簡単に情報を流す? まるで捕まるのを予期していたかのようにね」
「……」
これが真一達が一番気になっていたことであった。フィーリアは数多くの秘密を握っている人間だ。捕まえる際に余りにも無防備であったため簡単であったし、あっけないほど簡単に秘密をバラしているのだ。どこか腑に落ちない点があった。
「私は捕まった身。少しでも色々な情報を話しておいた方が待遇も良くなるでしょう?」
「いや、そうは普通は思わないはずだ。なぜなら、ジーマン軍は祖国を貴殿等魔王軍に踏みにじられ怒り狂っている。当然、その尋問も生半可なもんではない。そもそも捕まらないように魔王軍も必死で貴殿を守ろうとする。それが我が一個師団ほどの戦力に簡単に捕まり、挙げ句の果てには国家機密のようなことも簡単にバラす。これは余りにも腑に落ちない」
そう言って真一は一歩近づいていった。
「何を隠している?」
「何も」
「昔私が戦った人間で知略の長けた人間がいました」
今まで黙っていた司馬懿が語り出した。
「彼の知略は凄まじく、何万もの軍勢から一個人の人間の動きまで全てが彼の手のひらで踊るように動かすことが出来ました。何故か」
司馬懿がそこで一息入れる。
「彼が嘘と真実の情報を流しながら、本当に流したくない情報を流さず自分の思い通り動くよう仕向けたからですよ」
そう言ってフィーリアの方を見た。
フィーリアは初めて司馬懿の目を見た。その瞬間、ある人物とよく似た目をしていることに気付いたのだ。
「彼に言われたのではないですか。全て真実を言って構わない。だが、これだけは言うな」
「その配下にいる真一や司馬懿と名乗る者達に関する情報で今後、彼らに関わるような内容だけは……とね」
それを聞いた瞬間、フィーリアの目が見開かれる。
「彼の二つの誤算の一つ目は我々があなた方を捕まえる時間が思ったよりも早かったこと」
そして、と続けた。
「ハットラー総統暗殺が予想以上に早く起こったこと」
「なぜ、それを!」
「真一殿、行きますぞ! このままでは貴殿等、第一独立師団の命運が危ない」
司馬懿はすぐに踵を返し、その場を去って行く。
「分かった」
その尋常ではない焦り方に真一は何も言えず付いていく。
「あなたは何者なの?」
「彼の宿敵ですよ」
司馬懿は振り返らずに言った。
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