魔法の世界で、砲が轟く
第六十九話 ミハエルの会敵
「停止」
ミハエルは操縦手に停止を命じる。前方の森からやってきた行方不明の戦車から降りてきた兵がミハエル車両に近づいてきたからだ。
「すまんな」
その兵士が謝りながら、ミハエルに問いかけてくる。
「ここに来るまでに俺たち以外の戦車を見なかったか?」
「手前に終え盛る戦車を一両確認したが……」
「我が隊には全部で三両の戦車があった。一両は言ったとおり破壊されていたが、まだもう一両は残っていたはずなんだが」
「ここでは電波が届かないから確認のしようが無い。おそらくはここから少し行けば無線が使えるはずだ。そこで大隊長に確認を取ってみてくれ」
「分かった。ありがとう。それから偵察の結果を報告だ。ここから真っ直ぐ5㎞ほど行った地点でジーマン軍本隊と魔王軍が激突している。ジーマン軍はかなり苦戦しているようだ。すぐに救援に言った方が良い」
「貴重な情報ありがとう。あんたも仲間が生きていると良いな」
「ありがとう」
そう言って、その戦車兵はその場を離れていった。
「あいつがリットン……」
ミハエルがぼそりと呟いた。
「御存知なのですか?」
砲手がミハエルに尋ねた。
「こちらの世界に来てからかなりの戦功を立てている人間のようだ。うちの舞台でも専ら噂だな」
「へえ、そうなんですか!」
意外そうな目でその戦車兵のことを目で追う。
「見た目はただの優男ですが……」
「何でも奴の戦闘指揮は天賦の才に近いものがあるらしいな」
ミハエルはその男が戦車に乗り込むまで見送った後、操縦手に前進を続けるよう命じた。
ミハエル達は少し遅れながらも先行部隊に追いつき、足並みをそろえつつ進んでいく。進むにつれ、徐々に戦闘音らしき爆発音や怒号が聞こえ始める。その音共に硝煙と血の臭いが強くなり始めた。
「急いだ方が良いかもしれんな。これは相当な激戦になっているぞ」
ミハエルは誰に言うわけでもなく独り言を呟いた。
その直後、周囲に激しい土柱が上がった。
「敵襲だ! 敵はどこにいる!」
ミハエル達が周囲を見渡すと真っ直ぐ前方に敵兵が何人も横隊で並び、こちらに向け幾つもの魔法を放ってくる。
「これだけの数を相手にするのは面倒だな! 砲手、何秒で奴らを狙い撃つことが出来る?」
「3秒もあれば十分です!」
「よし! 操縦手、前進! 敵の300メートル手前で停止せよ!」
「待ってください! 300メートル手前ではこちらが狙い撃ちされますよ!」
「構わん! 奴等はこちらの正面装甲は抜けん!」
「了解! 出ます!」
そう言って操縦手はクラッチを前進に切り替えた。
エンジンが、力強い咆吼をあげ戦車の車体を力強く前に押し出す。
敵の魔法は何発もこちらに飛んできて、うち数発が正面装甲にぶち当たり爆発する。その度に車体には嫌な衝撃が走り、体を車内のどこかに打ち付ける。しかし、どの魔法も装甲を抜けはせず、目標の敵の手前300メートルで車体を急停車させる。
砲手は待ってましたとばかりに主砲を細かい調整を一瞬で行い、狙いをつける。直後、装填手が砲弾を押し込み、装填を終わらせ砲手は引き金を引いた。
雷管を通じて装薬に電気が流れ、爆発。砲弾を音速の二倍の速さでたたき出す。
車体に大きな振動が走り、車内の人員は大きく揺れるも、それを気にする暇も無く、操縦手はすぐに車体を前進させる。
敵兵は一瞬止まったミハエル車の動きに対処しきれず、一時は魔法をミハエル車の未来位置に向けて撃ち、魔法のほとんどが前方に着弾したが、すぐに速力低下に気付き、再び砲撃が集中し始める。それも停止しているために今までより格段に命中率が良い。
ミハエル車には多くの魔法が命中し、装甲を貫通するものはないが車体に取り付けられた牽引用のワイヤーや予備の履帯と言った備品が吹き飛ばされていく。
「操縦手! 敵兵をなぎ倒すぞ! そのまま前進を続けろ!」
ミハエルは一瞬、反転し本隊の到着を待つことも考えたが、突撃を始めた以上敵に背中を晒すのは危険だ。後部にはエンジンが搭載されており、爆発魔法一発で容易に燃え上がる。敵の命中率はそれなりに良いため、もし着弾すれば終わりだ。それ故、より隙の少ない敵を乗り越えて後方へ逃れる方法を考え出したのだ。
しかし、敵もそう簡単にはそうさせてくれはしない。
「小隊長! 敵の手前に戦車壕が掘られています! どうしますか!」
砲手が壕の存在に気付き、ミハエルの指示を仰ぐ。
「くっ! ならば、一旦後退せよ!」
操縦手はすぐに後進に切り替え、車体を後方へ行かせようとする。
しかし、後進は前進に比べ圧倒的に速力が落ちる。
ここぞとばかりにミハエル車に敵の爆発魔法が集中し始める。
「ぐお!」
ミハエルは一際激しい衝撃を受け、車内の部品にしこたま頭をぶつける。
一瞬目の前が真っ暗になり、しばらく何も考えられなくなる。
「小隊長! しっかりしてください!」
横にいた砲手がすぐにミハエルのことを支える。
そんなミハエルの状態にお構いなく車体には多くの魔法が命中し、車体を右へ左へ激しく揺らし、周囲の装甲は異音を立て始める。
「まずい! 履帯をやられました! 走行不能!」
ついに敵の魔法の一弾が履帯を捕らえ、履帯を破壊したのだ。修理をするにしても一旦車外に出て行わねばならず、この状況ではそれは不可能。
つまりは動くことが出来ず、ミハエル車は立ち往生となってしまったのだ。
さらに悪いことに繰り返される魔法の衝撃に所々のねじなどが緩み始めていた。
本来戦車は強い衝撃を多少なりともうけることは想定されているが、このような何十発と喰らうことは想定されていない。想定外の攻撃が車体に加わったとき、車体は耐えきれず破壊されることもある。
今、ミハエル車はそのような状況にあった。
他の戦車も敵に被害を与えてはいるものの、敵は完全にこちらの攻撃を予期していたのか立派な塹壕を準備しており、完全に攻撃態勢の整っていないこの戦車隊の攻撃ではいささか力不足と言えた。
ゆえに他の車両もミハエル車を救いたくてもそれが出来ぬ状況になっていた。
まさしく万策は尽き、最早後は死を待つだけである。
そしてついに決定的な一撃が来た。
ミハエルは朦朧とする意識の中で横にいる砲手が照準器に目を当て、引き金を引くのが見えた。車体が大きく揺れ、周囲に白い煙が立ちこめた直後、一際真っ赤何かが前から後ろへ駆け抜けるのを感じた。直後視界が真っ赤に染まり、意識は急速に永久の闇に包まれた。
敵の魔法が一気にミハエル車に命中。耐えきれなくなった装甲を貫通した爆発魔法がミハエル車を爆砕した瞬間であった。
ミハエルは操縦手に停止を命じる。前方の森からやってきた行方不明の戦車から降りてきた兵がミハエル車両に近づいてきたからだ。
「すまんな」
その兵士が謝りながら、ミハエルに問いかけてくる。
「ここに来るまでに俺たち以外の戦車を見なかったか?」
「手前に終え盛る戦車を一両確認したが……」
「我が隊には全部で三両の戦車があった。一両は言ったとおり破壊されていたが、まだもう一両は残っていたはずなんだが」
「ここでは電波が届かないから確認のしようが無い。おそらくはここから少し行けば無線が使えるはずだ。そこで大隊長に確認を取ってみてくれ」
「分かった。ありがとう。それから偵察の結果を報告だ。ここから真っ直ぐ5㎞ほど行った地点でジーマン軍本隊と魔王軍が激突している。ジーマン軍はかなり苦戦しているようだ。すぐに救援に言った方が良い」
「貴重な情報ありがとう。あんたも仲間が生きていると良いな」
「ありがとう」
そう言って、その戦車兵はその場を離れていった。
「あいつがリットン……」
ミハエルがぼそりと呟いた。
「御存知なのですか?」
砲手がミハエルに尋ねた。
「こちらの世界に来てからかなりの戦功を立てている人間のようだ。うちの舞台でも専ら噂だな」
「へえ、そうなんですか!」
意外そうな目でその戦車兵のことを目で追う。
「見た目はただの優男ですが……」
「何でも奴の戦闘指揮は天賦の才に近いものがあるらしいな」
ミハエルはその男が戦車に乗り込むまで見送った後、操縦手に前進を続けるよう命じた。
ミハエル達は少し遅れながらも先行部隊に追いつき、足並みをそろえつつ進んでいく。進むにつれ、徐々に戦闘音らしき爆発音や怒号が聞こえ始める。その音共に硝煙と血の臭いが強くなり始めた。
「急いだ方が良いかもしれんな。これは相当な激戦になっているぞ」
ミハエルは誰に言うわけでもなく独り言を呟いた。
その直後、周囲に激しい土柱が上がった。
「敵襲だ! 敵はどこにいる!」
ミハエル達が周囲を見渡すと真っ直ぐ前方に敵兵が何人も横隊で並び、こちらに向け幾つもの魔法を放ってくる。
「これだけの数を相手にするのは面倒だな! 砲手、何秒で奴らを狙い撃つことが出来る?」
「3秒もあれば十分です!」
「よし! 操縦手、前進! 敵の300メートル手前で停止せよ!」
「待ってください! 300メートル手前ではこちらが狙い撃ちされますよ!」
「構わん! 奴等はこちらの正面装甲は抜けん!」
「了解! 出ます!」
そう言って操縦手はクラッチを前進に切り替えた。
エンジンが、力強い咆吼をあげ戦車の車体を力強く前に押し出す。
敵の魔法は何発もこちらに飛んできて、うち数発が正面装甲にぶち当たり爆発する。その度に車体には嫌な衝撃が走り、体を車内のどこかに打ち付ける。しかし、どの魔法も装甲を抜けはせず、目標の敵の手前300メートルで車体を急停車させる。
砲手は待ってましたとばかりに主砲を細かい調整を一瞬で行い、狙いをつける。直後、装填手が砲弾を押し込み、装填を終わらせ砲手は引き金を引いた。
雷管を通じて装薬に電気が流れ、爆発。砲弾を音速の二倍の速さでたたき出す。
車体に大きな振動が走り、車内の人員は大きく揺れるも、それを気にする暇も無く、操縦手はすぐに車体を前進させる。
敵兵は一瞬止まったミハエル車の動きに対処しきれず、一時は魔法をミハエル車の未来位置に向けて撃ち、魔法のほとんどが前方に着弾したが、すぐに速力低下に気付き、再び砲撃が集中し始める。それも停止しているために今までより格段に命中率が良い。
ミハエル車には多くの魔法が命中し、装甲を貫通するものはないが車体に取り付けられた牽引用のワイヤーや予備の履帯と言った備品が吹き飛ばされていく。
「操縦手! 敵兵をなぎ倒すぞ! そのまま前進を続けろ!」
ミハエルは一瞬、反転し本隊の到着を待つことも考えたが、突撃を始めた以上敵に背中を晒すのは危険だ。後部にはエンジンが搭載されており、爆発魔法一発で容易に燃え上がる。敵の命中率はそれなりに良いため、もし着弾すれば終わりだ。それ故、より隙の少ない敵を乗り越えて後方へ逃れる方法を考え出したのだ。
しかし、敵もそう簡単にはそうさせてくれはしない。
「小隊長! 敵の手前に戦車壕が掘られています! どうしますか!」
砲手が壕の存在に気付き、ミハエルの指示を仰ぐ。
「くっ! ならば、一旦後退せよ!」
操縦手はすぐに後進に切り替え、車体を後方へ行かせようとする。
しかし、後進は前進に比べ圧倒的に速力が落ちる。
ここぞとばかりにミハエル車に敵の爆発魔法が集中し始める。
「ぐお!」
ミハエルは一際激しい衝撃を受け、車内の部品にしこたま頭をぶつける。
一瞬目の前が真っ暗になり、しばらく何も考えられなくなる。
「小隊長! しっかりしてください!」
横にいた砲手がすぐにミハエルのことを支える。
そんなミハエルの状態にお構いなく車体には多くの魔法が命中し、車体を右へ左へ激しく揺らし、周囲の装甲は異音を立て始める。
「まずい! 履帯をやられました! 走行不能!」
ついに敵の魔法の一弾が履帯を捕らえ、履帯を破壊したのだ。修理をするにしても一旦車外に出て行わねばならず、この状況ではそれは不可能。
つまりは動くことが出来ず、ミハエル車は立ち往生となってしまったのだ。
さらに悪いことに繰り返される魔法の衝撃に所々のねじなどが緩み始めていた。
本来戦車は強い衝撃を多少なりともうけることは想定されているが、このような何十発と喰らうことは想定されていない。想定外の攻撃が車体に加わったとき、車体は耐えきれず破壊されることもある。
今、ミハエル車はそのような状況にあった。
他の戦車も敵に被害を与えてはいるものの、敵は完全にこちらの攻撃を予期していたのか立派な塹壕を準備しており、完全に攻撃態勢の整っていないこの戦車隊の攻撃ではいささか力不足と言えた。
ゆえに他の車両もミハエル車を救いたくてもそれが出来ぬ状況になっていた。
まさしく万策は尽き、最早後は死を待つだけである。
そしてついに決定的な一撃が来た。
ミハエルは朦朧とする意識の中で横にいる砲手が照準器に目を当て、引き金を引くのが見えた。車体が大きく揺れ、周囲に白い煙が立ちこめた直後、一際真っ赤何かが前から後ろへ駆け抜けるのを感じた。直後視界が真っ赤に染まり、意識は急速に永久の闇に包まれた。
敵の魔法が一気にミハエル車に命中。耐えきれなくなった装甲を貫通した爆発魔法がミハエル車を爆砕した瞬間であった。
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