魔法の世界で、砲が轟く
第六十二話 策の読みあい
「敵への攻撃は成功したわね……」
スーザンは遠方から立ち上る煙を見て呟いた。
「ええ~。これで敵はかなりの間、攻撃を自粛するでしょう~」
横に控えるニックが答える。
「いや、むしろ敵の攻撃は激化するわ。敵がこちらの狙いに気付いたからね」
「どういうことです?」
意味深な言葉を放つスーザンにグレイが問いかける。
「敵の指揮官の副官は司馬懿という名の少女よ。彼女は実に優秀な人物。彼女は先ほどの攻撃でこちらの目的が攻撃ではなく、撤退の支援にあることに気付いた。だからこそ、撤退中の我が軍を死にものぐるいで攻撃を仕掛けてくるはず。この時に必要となるのがフィーリア。あなたたちよ」
「はい。どの地点で防衛戦を張られるおつもりで?」
「ここから少し進んだ地点に大きな谷があるわ。そこでジーマン軍を叩く」
「しかし、敵もそのようなことを重々周知のはず。そう簡単に敵は引っかかるでしょうか?」
「だからそこに行くしかないと思わせるの」
「どうやって……まさか!」
「私が直接彼らを引きつけるわ」
「お待ちください! そのようなことをなされてあなたが万が一にも戦死なされたどうなさるおつもりですか!」
「大丈夫。彼女の性格なら私は殺せないはず。何せ、十年近く互いに死闘を繰り返し思考を読み切ってきた相手だから。私の考えたとおりであれば、彼女は殺せるような状況にまで追い込めないわ」
「十年、どういうことです? 司馬懿という名を聞いたのはこの戦争が始まってからです。彼女とはどういう関係なのですか?」
「ふふっ。 乙女には人には言えない秘密があるのよ!」
そう言ってスーザンはわずかな手勢を引き連れ、出撃の準備を始める。
「そうそう。それから後でこれを呼んで書いてあるとおりに動いてね♡ あなたたちの働き次第で己戦況は大きく変わるわ」
書簡をグレイに投げ、スーザンは風のように消えていった。
「大丈夫なのか?」
思わずグレイは呟くと横にいたニックがなだめた。
「グレイ、君は心配症だね~。あそこまであの人が言うのだから~、大丈夫だよ~」
グレイは一抹の不安を抱えながらも書簡を読み始めた。
「敵は間違いなく、この先におります」
司馬懿は既に第一独立師団を率いて出陣を行っていた。
他の部隊は先ほど被害を受けた第2近衛戦車大隊の援護無しには戦闘は厳しいと判断され、その再編と配備が忙しく追撃などは不可能であった。故にすぐに動ける部隊が第一独立師団しかなかったのだ。
「しかし、敵は間違いなくこちらが攻撃を仕掛けてくることは分かっているでしょう。ですから何らかの伏兵を配備しているはずです。ですから注意をしてください」
司馬懿はグデーリアンに指示を出しながら、地図を見て敵の現状を把握していく。
「偵察隊より報告です! 敵と会敵した模様!」
「敵の指揮官は?」
「それがスーザンだそうです」
「何!」
思わず通信兵からの報告を聞き直す。スーザン、もとい諸葛亮は慎重な性格だ。自ら危険な事をするような性格ではない。
「ということはこれは罠だな」
「しかし、今の通信は真一殿自ら確認して送ってこられた通信です」
「いや、敵の指揮官は本物だ。しかし、敵は確実に罠を仕掛けてくる。その部隊はどこへ向かっている?」
「少し先の谷に向かっているようです!」
「おそらくはそこに我々を誘い込むことが目的であろう。しかし、そうはいかないわ。偵察隊に打電。周囲の警戒を厳となせ」
「了解。偵察隊に打電、周囲の警戒厳となせ! 送ります!」
(しかし、諸葛亮にしては単純すぎる策だわ。おそらくは敵の攻撃は伏兵による攻撃ではなく、落とし穴などの地形を利用した攻撃でしょうね)
司馬懿は考えながら続報を待った。
「偵察隊より報告! 前方の谷の両側に多数の人影を確認! 敵の伏兵と思われます!」
「やはりな。しかし、敵は魔法を使っている可能性もある! それが人かどうかをしっかり確認せよと伝えよ!」
「了解!」
「司馬懿殿、今回の戦闘に置いてそれほどまでに慎重にされる必要があるのか?」
グデーリアンは困惑気味に尋ねた。司馬懿がここまで慎重になって軍を進めるところは見たことがない。その異様さに不自然な感覚を抱いたのだ。
「グデーリアン殿、敵はあの諸葛亮です。何を仕組んでくるか分かりません。決して油断はならんのです。一瞬でも油断をすれば、その瞬間がこちらの最後となるでしょう」
司馬懿は真剣なまなざしで答えた。このことは十年近く対峙し、一度は命を落としかけたからこそ分かる諸葛亮の恐ろしさである。
「分かりました。司馬懿殿がそこまで言うのであればそう致しましょう」
グデーリアンは納得してはいないが、司馬懿の勢いにおされ指示に従った。
しかし、彼らは気付かなかったこの時点で敵の罠に掛かっていることを。
「スーザン殿! 敵の戦車隊がこちらに接近してきております!」
物見の兵士からスーザンの元へ連絡が来た。
「分かったわ! ならば、うまく食いついたわね! 誰か!」
スーザンは手空きの兵士を呼んだ。
「すぐにこの谷の上にいる部隊に伝えて。爆発魔法を派手に撃て、と伝えて。効かなくても構わないわ。できる限り派手にとね」
スーザンは遠方から立ち上る煙を見て呟いた。
「ええ~。これで敵はかなりの間、攻撃を自粛するでしょう~」
横に控えるニックが答える。
「いや、むしろ敵の攻撃は激化するわ。敵がこちらの狙いに気付いたからね」
「どういうことです?」
意味深な言葉を放つスーザンにグレイが問いかける。
「敵の指揮官の副官は司馬懿という名の少女よ。彼女は実に優秀な人物。彼女は先ほどの攻撃でこちらの目的が攻撃ではなく、撤退の支援にあることに気付いた。だからこそ、撤退中の我が軍を死にものぐるいで攻撃を仕掛けてくるはず。この時に必要となるのがフィーリア。あなたたちよ」
「はい。どの地点で防衛戦を張られるおつもりで?」
「ここから少し進んだ地点に大きな谷があるわ。そこでジーマン軍を叩く」
「しかし、敵もそのようなことを重々周知のはず。そう簡単に敵は引っかかるでしょうか?」
「だからそこに行くしかないと思わせるの」
「どうやって……まさか!」
「私が直接彼らを引きつけるわ」
「お待ちください! そのようなことをなされてあなたが万が一にも戦死なされたどうなさるおつもりですか!」
「大丈夫。彼女の性格なら私は殺せないはず。何せ、十年近く互いに死闘を繰り返し思考を読み切ってきた相手だから。私の考えたとおりであれば、彼女は殺せるような状況にまで追い込めないわ」
「十年、どういうことです? 司馬懿という名を聞いたのはこの戦争が始まってからです。彼女とはどういう関係なのですか?」
「ふふっ。 乙女には人には言えない秘密があるのよ!」
そう言ってスーザンはわずかな手勢を引き連れ、出撃の準備を始める。
「そうそう。それから後でこれを呼んで書いてあるとおりに動いてね♡ あなたたちの働き次第で己戦況は大きく変わるわ」
書簡をグレイに投げ、スーザンは風のように消えていった。
「大丈夫なのか?」
思わずグレイは呟くと横にいたニックがなだめた。
「グレイ、君は心配症だね~。あそこまであの人が言うのだから~、大丈夫だよ~」
グレイは一抹の不安を抱えながらも書簡を読み始めた。
「敵は間違いなく、この先におります」
司馬懿は既に第一独立師団を率いて出陣を行っていた。
他の部隊は先ほど被害を受けた第2近衛戦車大隊の援護無しには戦闘は厳しいと判断され、その再編と配備が忙しく追撃などは不可能であった。故にすぐに動ける部隊が第一独立師団しかなかったのだ。
「しかし、敵は間違いなくこちらが攻撃を仕掛けてくることは分かっているでしょう。ですから何らかの伏兵を配備しているはずです。ですから注意をしてください」
司馬懿はグデーリアンに指示を出しながら、地図を見て敵の現状を把握していく。
「偵察隊より報告です! 敵と会敵した模様!」
「敵の指揮官は?」
「それがスーザンだそうです」
「何!」
思わず通信兵からの報告を聞き直す。スーザン、もとい諸葛亮は慎重な性格だ。自ら危険な事をするような性格ではない。
「ということはこれは罠だな」
「しかし、今の通信は真一殿自ら確認して送ってこられた通信です」
「いや、敵の指揮官は本物だ。しかし、敵は確実に罠を仕掛けてくる。その部隊はどこへ向かっている?」
「少し先の谷に向かっているようです!」
「おそらくはそこに我々を誘い込むことが目的であろう。しかし、そうはいかないわ。偵察隊に打電。周囲の警戒を厳となせ」
「了解。偵察隊に打電、周囲の警戒厳となせ! 送ります!」
(しかし、諸葛亮にしては単純すぎる策だわ。おそらくは敵の攻撃は伏兵による攻撃ではなく、落とし穴などの地形を利用した攻撃でしょうね)
司馬懿は考えながら続報を待った。
「偵察隊より報告! 前方の谷の両側に多数の人影を確認! 敵の伏兵と思われます!」
「やはりな。しかし、敵は魔法を使っている可能性もある! それが人かどうかをしっかり確認せよと伝えよ!」
「了解!」
「司馬懿殿、今回の戦闘に置いてそれほどまでに慎重にされる必要があるのか?」
グデーリアンは困惑気味に尋ねた。司馬懿がここまで慎重になって軍を進めるところは見たことがない。その異様さに不自然な感覚を抱いたのだ。
「グデーリアン殿、敵はあの諸葛亮です。何を仕組んでくるか分かりません。決して油断はならんのです。一瞬でも油断をすれば、その瞬間がこちらの最後となるでしょう」
司馬懿は真剣なまなざしで答えた。このことは十年近く対峙し、一度は命を落としかけたからこそ分かる諸葛亮の恐ろしさである。
「分かりました。司馬懿殿がそこまで言うのであればそう致しましょう」
グデーリアンは納得してはいないが、司馬懿の勢いにおされ指示に従った。
しかし、彼らは気付かなかったこの時点で敵の罠に掛かっていることを。
「スーザン殿! 敵の戦車隊がこちらに接近してきております!」
物見の兵士からスーザンの元へ連絡が来た。
「分かったわ! ならば、うまく食いついたわね! 誰か!」
スーザンは手空きの兵士を呼んだ。
「すぐにこの谷の上にいる部隊に伝えて。爆発魔法を派手に撃て、と伝えて。効かなくても構わないわ。できる限り派手にとね」
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