魔法の世界で、砲が轟く

spring snow

第二十六話 初戦

 その後、ベラリン郊外の森から機甲部隊は坑道に入り、トーチカ陣地の扉の前に来た。
 敵が扉の目の前にいる可能性が高いため、戦車 M3ハーフトラックの順に突入していく。
 しばらくの沈黙の後にグデーリアンから号令が無線越しに掛かる。


「Panzer Vor!」


 次の瞬間、全ての4号戦車のエンジンが猛り、扉を吹っ飛ばしながら、突撃しいく。
 この時、扉の前にいた哀れな魔王軍の兵士は突然現れた戦車に何が起きたのかも分からないまま押しつぶされた。
 トーチカ内に運良く、生き残った兵士も何が起きたのかを理解するまもなく、車載機関銃になぎ払われて朱に染まり、倒れていった。


「敵影無し!」


 各隊から2分たたずに報告が届く。


「無事、トーチカは確保しましたね」


 司馬懿がグデーリアンに向けて言う。


「だが、ここからが正念場だ。奴らが気付く前に敵の先遣隊を撃破し、その勢いで敵の撃滅を計るか、敵の撃破で敵の指揮を打ち砕き、撤退を狙うかどちらにする?」


「味方の撤退の支援も行うのですから、できるなら敵の撃滅でしょう。ただ、この部隊はジーマンにとって虎の子。被害が出ないためにも撃破でとどめるのも必要かと。現場の退却などの指示はグデーリアン様の判断でお願いします」


「分かった。ただ、俺が指示を出せないときなどもあるから、あんたがこの被害は大きいと判断したらすぐに撤退の指示を出してくれ」


「分かりました。では、さっそく行動を開始しましょう」


 そう頷きあって、二人はそれぞれ違う車両に乗り込んだ。


 司馬懿と守は後方のトーチカに近い地点で、全体の戦況の把握及び、後方からの敵の攻撃に備える。また、いざというときの退避の経路のためのトーチカの死守も担っている。


 グデーリアンは、本隊と共に前線に向かい先遣隊の撃破を目指す。なお、歩兵部隊は近くまではハーフトラックで行くが、敵陣の1キロ手前でトラックから降りて徒歩での行軍となる。


 こうして、部隊を危険ながらも二部して攻撃するのであった。これが吉と出るか凶と出るか、それは誰にも分からない。




「前方に敵の先遣隊の陣を確認しました」


 時刻は既に午前2時を回っている。敵は完全に油断しているのか灯火を焚いて、寝ている。


「完全に我々に気付いていませんね」


 副官がグデーリアンに言う。
 グデーリアンは、それに黙ってうなずき、無線機を手に取った。
 そして車外に体を出し、大きく手を振りかぶって怒鳴った。


「Panzer Vor!」


 15両の戦車とそれに率いられる1500の兵士は敵陣めがけて突っ込んだ。


 まず、攻撃したのは戦車隊だ。4号戦車が一旦停止して主砲を一斉に撃つ。当然敵は1万近くいるので、どの砲撃も敵の兵士を数多く吹き飛ばす。
 すると、今度は上空から大口径弾特有の飛翔音が聞こえ始め、敵陣にいくつもの土煙を吹き上げた。これは後方に陣取っていた榴弾砲による攻撃だ。しばらく、敵陣は混乱しているらしく戦闘態勢に入っていない。第2、第3斉射を放ちつつ前進をしていく。
 その間にも何人もの敵兵を吹き飛ばしていく。


 そして、ついに戦車隊が敵の先鋒に突っ込んだ。
 敵は混乱の極に達し、全く戦闘を行おうとしない。そこで、後方から付いてきていた歩兵が敵陣に殴り込む。
 あちらこちらで悲鳴が上がる。
 味方の機関銃や小銃が唸り、敵の兵士を朱に染めていく。敵もここに来て散発的に反撃を開始する。
 ある魔法兵が影から電撃魔法を放ち、数人のドイツ兵を丸焦げにしていくが、それに気付いた別のドイツ兵がM1ガーランドを撃ち、魔法兵が朱に染まって倒れる。
 そこかしこで戦闘が起きていたが、完全に態勢が立て直せていない魔王軍を徐々に押していった。


 戦車隊や砲兵隊は下手に撃つと味方を巻き込んでしまうため、攻めている反対側にいる敵を砲撃の目標にしている。
 魔王軍は負けじと魔法を4号戦車に放つが、射程が足りなかったり、当たってもその装甲で跳ね返されてしまう。ごくまれに、運良く爆発魔法がエンジン部に被弾したのか、エンジンが燃えて動かなくなる戦車もある。
 ここに来て、敵の切り札とも言える戦車を繰り出してきた。
 しかし、元々それを知っていたグデーリアンの部隊は歩兵がM160㎜バズーカを撃ち、あっという間に全車両を火だるまに変えた。
 残念ながら、味方の被害も無傷と言えず、20人ほどが魔法の攻撃に巻き込まれ、動かなくなった。




 やがて、魔王軍は体勢を整えるためか後退を始めた。
 しかし、そんなことはグデーリアンが許さない。持ち前の機動力で魔王軍との距離を離れさせず、攻めていく。
 もしかしたら、撃滅も夢ではないかもしれない。そう思ったとき、無線機で司馬懿から命令が来た。


「全軍撤退せよ。トーチカ陣地まで下がり、坑道へ逃げる」


 どう見ても、味方の被害が大きいようには見えない。
 疑問に思ったグデーリアンは司馬懿に問い合わせた。


「何故、今撤退する!たいした被害は出ていないぞ!」


 すると司馬懿は答えた。


「偵察隊より報告です。後方から敵が押し寄せてきます。魔王軍に救援です。どこかに伏兵が隠れていた物と思われます。その数、約2万。敵到達予測時刻まで後、2時間!」



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