魔法の世界で、砲が轟く

spring snow

第二十五話 作戦始動

 この襲撃は予測のついている方も多いと思うが、真一達が召喚した部隊によるものだ。
 では、時を遡って彼らがどのようにして魔王軍を襲撃するに至ったか描いていこう。






「ハットラー総統、前線から緊急電です!魔王軍が攻めて参りました!」


 副官が扉を蹴飛ばすようにして、と言うかマジで蹴飛ばしながら入ってきた。
 ドアはそのまま美しい慣性の法則に従って飛び、ハットラーの頭に直撃した。


「ぎゃ~~~!」


 そのまま、ハットラーの魂まで慣性の法則に従い飛んでいきそうになったが、彼の精神力が摩擦となり、辛うじて体の背中付近で停止した。


「申し訳ありません!大丈夫でしょうか!」


 慌てて副官がハットラーを助け起こす。
 齢60が近づいてきた老体にこの攻撃は堪えたが、報告が報告なだけにもたもたはしていられない。


「て、敵の規模は?」


 まるで、前線で将軍が敵弾に倒れ、それを介抱する副官の様相を呈している。しかし、ここは戦場ではなく、総統執務室である。


「敵は8万ほどの軍勢の模様!既に前線の第5師団は非常呼集を掛け、撤退の準備をしております!」


 半泣きになりながら副官は答える。
 その涙は自分のしでかした罪に対してではなく、蹴っ飛ばしたときの足の痛みから来ている。


「そうか。ならば第1独立師団に出撃命令を出せ。作戦目標は第5師団の撤退の支援、並びに魔王軍先遣隊の撃破だ」


 そこまで言い終えると力尽きたようにハットラーは気を失った。


「分かりました。真一達にしかと伝えます!」


 そうハットラーの顔を流れ出る涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながら副官は部屋を駆け足で出て行った、色々、大惨事のハットラーを残して。




「とうとう出撃命令が下ったな」


 真一はため息をつくように呟いた。


「ええ」


 司馬懿は主の姿を心配しながらも覚悟を決めたようにいった。


 近代兵器についての知識がない司馬懿は、ジーマンに来てからしばらくは近代兵器に関する情報を頭に詰め込んでいた。しかし、さすがそこは司馬懿である。あっという間にほとんどの戦法をマスターし、師匠であるグデーリアンには及ばない物のそこら辺の将軍などとは比べものにならないくらいの戦車戦のエキスパートになっていた。
 故に、万が一グデーリアンが指揮を執れなくなったときは司馬懿が執ることになっている。
 しかし、公に対しての最高指揮官は真一達である。つまり、何かしらの責任問題が起きると真一達の責任になるのだ。その点において、前回のようなことが起こらないか司馬懿は心配であった。


(今回はグデーリアンなどもいるし、情報などできることは全部やった。ただ、失敗の確率が0にはならない。もし、失敗したら……)


 そんなことを考ええていた司馬懿は後ろから忍び寄る影に気付かない。
 わしゃ、わしゃ!
 影は、そんな効果音が出そうなほど司馬懿の頭を撫でてきた。


「きゃ!な、何!」


 珍しく悲鳴を上げた司馬懿は後ろを振り返った
 そこにはニヤニヤしながら頭を撫でる真一の姿があった。
 司馬懿はしばし呆然とした後、顔を下げて震えだした。
 真一は、これは殴られると覚悟し、目を閉じて体内の総員に向け、総員衝撃に備えよ!と怒鳴った。
 しかし、いつまでたってもその衝撃は来ない。
 不思議に思ってそうっと目を開けるとそこには笑顔の司馬懿がいた。


「真一さん」


 そう甘えたような声で近づいてくる。
 真一は、これは惚れた!と確信し手を思いっきり広げ、司馬懿に抱きつくよう構えた。


「真一さん!」


 そう言いながら司馬懿は真一の懐に飛び込んできた。




 右手でチョキを作り、真一の目に突っ込ませながら。




 この時、ベラリン全体に不思議な声が響いたという。この声はその異常性から歴史書に描かれるほどで、その憶測が歴史家の間でも議論されている。空襲警報の誤作動だとか、神のお告げだとか様々な説が囁かれており、歴史上最大のミステリーの一つとも言われている。




 一様、真一達が召喚した部隊は第1独立師団として総統直属の部隊で軍とは別格の指揮系統を持つ。これは、軍の中に組み入れてもその先進性に誰も指揮を執れない上、他の部隊との連携も第1独立師団の足を引っ張るだけだと判断されたために、このような措置となった。
 故に、第1独立師団に出動の命が下せるのはハットラーだけとなる。このことから、先ほどハットラーが出撃を直接…と言うか直接に限りなく近い間接的に命令を出したのだ。


 さて、こうして出撃の命を受けた第1独立師団は、すぐに非常呼集を掛け30分後には出撃体勢を整えていた。


 そこへ守と司馬懿が入ってくる。他の3人は今回は出ても意味がないことと物理的に出撃できない者が約1名存在することから、待機となる。


「皆、今回は初の実戦だ。日頃の訓練の成果を存分に発揮してくれ!君たちの活躍ぶりに全世界は息をのむだろう!」


 訓示を守が述べた。


 今回出撃するのは補給の関係もあり、戦車20両 歩兵が2千(内榴弾砲10門、トラック300両)である。
 今回の作戦は敵に破棄させたと思わせたトーチカを使い奇襲を仕掛ける。
 と言うのも、このトーチカは敵の攻撃ではなく、敵を背後からつくための拠点として存在している。これには隠し扉が存在し、そこから坑道が伸びていて、ベラリン郊外の森に直結している。万が一敵に見つかった場合は、坑道全てを一気に吹き飛ばせるだけの爆薬を蓄えてあった。今回はこの坑道を使い、敵に奇襲を仕掛けるのだ。もちろんこの坑道は戦車が通れるだけの大規模な物である。
 こうして、敵を背後から襲い、痛打を浴びせる作戦が開始されるのであった。
 この作戦は守の訓示通り、全世界を驚かせることになる。そして、後の歴史の転換点として語られるジーマン軍戦車隊の最初の作戦となるのであった。



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