魔法の世界で、砲が轟く

spring snow

第二十三話 漢の成長と開戦

「どういうことだ!王国軍は撤退に成功したはずじゃぁ……」


「いずれにせよ、新庄の情報が正しければコットン王国はもうお終いですね。となると次の目標は我々になると」


 司馬懿は落ち着いて言った。


「生産体制がまだ完全に構築されていないというのに……」


「しかし魔王軍は今回の被害を立て直すのに時間が掛かるはず。となればその間に少しでも弾薬を補給するしかありませんね」


「とりあえず、ハットラー総統にこれを伝えに行くぞ」


「お供いたします」


 そう真一は司馬懿に告げ、部屋を出て行った。




「総統閣下、総統閣下!起きてください!」


「何だ、まだ朝ではないであろう」


「一大事にございます!コットン軍が消滅しました!」


「何!」


 その言葉に眠気を吹き飛ばされたハットラーは飛び起きた。


「真一様方が探らせていた情報網から王国軍消滅の報が入ったそうでありま
す!」


「うちのスパイはなんと言っている?」


「同じ報告を寄せてきておりますので間違いないかと」


「何故だ、何故あれほどの兵力が消滅など……」


 城からの脱出の時点では王国軍は総数5万の兵力であった。(内1万が城を脱出した兵力で残りが各地に散らばっている王国軍の総数)その兵力が一瞬で消滅するとは考えずらい。
 しかし、情報が嘘でないとすると魔王軍は何か想像もつかない手でこれを起こしたことになる。ハットラーは冷や汗が伝うのを感じた。もしそれが自分の国に向けられでもしたら、大変なことになる。
 ハットラーは直ちにその原因を調査するよう命令した。


 真一達はハットラーに謁見した。


「報告、ご苦労!」


「いえ、当然のことをしたまでですので。それから、一つ案を提示しに来ました」


「案とは何だ?」


「私が召喚した軍団に偵察隊を編制し、情報を集めさせていただけないでしょうか?」


「しかし、魔王軍はどこにいるのか分からんぞ。そんな危険な賭に出るのであればスパイ達に頼んだ方が確実であろう」


「しかし、私の部下が人手不足で情報を集め切れておりません。それを打開するためにもどうかご許可を」


「いや、今の段階では分からないことが多すぎて危険だ。そこに虎の子の君の部隊を送り込むわけには行かない」


「ですが、行方不明な者達の中には私の友人達もい……」


「そうやってまた部下を殺す気かい?」


「……っ!」


「話は聞いたよ。最初に召喚した部隊は情報不足のまま動いたせいでやられたのだろう!君もいい加減学ばないか!我々はゲームをやっているんじゃない、人の命を使った戦争を行っているんだ!指揮官ならば、私情などを抜きにして部下の犠牲をいかに少なくするかを考えろ!」


「……」


「一旦頭を冷やしてこい」


「…分かりました」


 そう呟くと真一は部屋を出ていった。


(私は何と愚かな人間だろう、一度ならず二度も同じことを繰り返すとは)


 自己嫌悪に陥る真一を見ながら、司馬懿は声を掛けることができなかった。
 司馬懿は、こんな時に励ましの言葉を掛けられない自分を呪った。


「何やってんだい?」


 そう聞いてきた中年の男の名はハインツ・グデーリアン。
 機甲部隊の指揮官として召喚した軍人である。


「そんな冷めた顔をして隣に美少女がいるのに何故うれしそうな顔をしない?」


 ただそれに首を振るばかりの真一を見て、これは何かあると睨んだグデーリアンは理由を司馬懿から聞いた。


「なあ、真一よ。指揮官ってのは何をする人物だと思う?」


 グデーリアンは、真一の横に立ってそう問いかける。


「…それは軍の指揮を執る者でしょう」


「もちろんそれはそうだが、指揮官が一番やることは敵と味方を殺す人物だ」


「えっ!」


「指揮官は祖国のためにありとあらゆる手を使ってでも勝たなくてはならな。そ
れは軍人皆の職務だ。ただ、一般の兵と違うのは味方を殺してでもその職務を全うする必要があることだ。だから、いかに味方の兵を殺さないで、敵を多く殺すかが指揮官にとって大事なことだ。今まで、たくさんの戦をして気付いた」


「……」


「だからな真一よ。今までの失敗は考えるな。もし、あの場では犠牲が少なかったとしても後に多かれ少なかれ殺すことになっていただろう。早いか遅いかの違いだけだ。それに、彼らはもう死んだんだ。今は死んだ人間よりも今を生きる者達のことを考えろ」


「……分かった。ありがとう。少し元気が出たよ」


 何かを決意した漢の顔がそこにはあった。


「良い顔してんじゃねぇか、我らが指揮官殿よ!」


 そう言って真一の背中を叩いたグデーリアンは、ぱたぱたと手を振りつつ離れていった。
 それを見ていた司馬懿は嬉しかったのだが、どこか自分がいらないような気がして不安な気持ちになり、複雑な心境だった。






 二十日後、魔国とジーマンとの国境で爆発音が鳴り響いた。それぞれで高まっていた戦争の機運がついにピークに達し、戦いの火ぶたは切られた。
 科学の力と魔法の力が衝突し合う大きな戦の序章はこうして始まったのだ。 



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