魔法の世界で、砲が轟く

spring snow

第二十二話 脱出と…

 コットン国の作戦はこうだ。
 主力の李典隊本隊を敵陣の中心で暴れ回らせ、敵の目をそちらに向けさせてその隙に本命である城内の味方を一気に脱出させ、李典隊本隊と合流しその勢いを殺さずに脱出すると言う作戦であった。
 この任務は練度が高く、かつ機動力のある李典隊にしかできないものであった。
 しかし、脱出のタイミングが早すぎても遅すぎても成功しない上、敵に気付かれればそこで失敗するという大きな賭であった。


「城内の兵を至急城門前に集めさせろ。極力持ち物は軽くするように厳命せよ」


 そうカーゼルは指示をした。


 魔王軍陣地では、さらに乱戦の様相を呈していた。
魔法兵は魔法を放つと味方に当たってしまうため、魔法をなかなか撃てない。だからといって、李典隊を兵から引き離そうとしても魔王軍の兵力が多いため、別の兵士がいる場所に移動されてしまうというスパイラルに陥っていた。
その結果、魔王軍に明らかな陣形の崩れが出始めていた。


「ええい、敵はまだ倒せないのか!」


 苛立たしげにグレーは叫んだ。当初は敵の無謀な突撃だと思っていたが、これがなかなかやっかいなことになっている。下手に兵力を集中させ、敵の撃破を目指したことが完全に裏目に出ていた。


「こうなれば、致し方ない!全軍を一旦、奴らから引き離すように後退させつつ散開させろ!」


「そうなれば、陣形が薄くなり、敵に突破されやすくなります!」


「それをしなければ、被害が拡大するだけだ!やれ!」


 副官の静止も聞かず、グレーは兵を横に広がらせた。この時、グレーは完全に冷静さを失っていた。


「これを待っていたぞ、魔王軍!」


 カーゼルはそう叫ぶと手を大きく振り下ろし言った。


「全軍突撃!」


 次の瞬間、城門が開かれ、最初に李典隊の騎兵、次に歩兵と言った具合に陣の薄くなった魔王軍めがけてコットン軍は突撃を開始した。


うおおおおおおおおお!!!!!


 叫びながら突撃してくるコットン兵に初めて気付いた魔王軍はどうにか体勢を立て直そうとするが、そう簡単に陣形は変えられる物ではない。体勢を立て直す前にコットン軍の突撃を許してしまう。
 あちらこちらで、馬と兵士が衝突し、激しい戦闘音が聞こえる。しかし馬と人では勝負は目に見えている。あっさりと第一防衛ラインを突破されてしまう。
 第二防衛ラインでどうにか体勢を立て直した魔王軍が反撃を開始する。
 コットン軍の真ん中で魔法が炸裂し、数人の兵士が悲鳴を上げて吹き飛ぶ。しかし、コットン軍はここで負ければ後はない。半ば死兵と化した彼らは全く怯まず吶喊を続ける。
 その士気の高さに圧倒されたのか一部の魔王軍は後退を始めた。そこを狙って魔王軍のど真ん中にいた李典隊は攻勢に出た。ゆえにその箇所だけ急激に兵士が少なくなり、ついにコットン軍と李典隊は合流を果たすことができた。
 しかし、未だ戦場のど真ん中にいることには変わりない。そこで、陣の薄くなった魔王運を食い破るべく、先鋒の李典隊、後続のコットン軍は突撃をした。


「まずい!突破される!至急騎馬隊を奴らの前面に配置し、敵の逃げ道を塞げ。歩兵隊は奴らの後方に陣取り退路を断て」


 素早く命令を下したグレイだが如何せん状況が悪すぎた。各隊とも情報が錯誤し、大きな混乱が起きていたせいで陣を敷く頃にはコットン軍はとっくに包囲網を脱出した後であった。
 こうして、コットン軍は窮地を脱出することに成功した。これには無論、コットン国王や佐藤(兄)ら勇者達が含まれていたことは言うまでもない。


「良かったなぁ!無事に逃げ出せて!」


 そんな声が聞こえる中、コットン軍は別の砦へ向け進軍していた。大きな犠牲は出しながらも無事逃げられたことに喜んでいた。
 誰もが無事に逃げ出せたと安心していると前方に何かの軍勢がいる。


「あれはどこの部隊だ?」


「祝勝にでも来たんじゃねぇ?」


 そんなことを言い合いながら、その軍勢を見ているとコットン軍のようなのだが、何かが違う。
 徐々にその全容が見えてくると誰もが唖然とした。
 それはここにいるはずのないどころか、存在すらしていないはずの軍勢なのだから。


「「何故だ!何故ここにいるリーフィア隊よ!」」


 国王とカーゼルが同時に叫んだ。




「そうか、コットン軍は大損害を負いつつも撤退には成功したか」


 新庄から伝えられた情報により、真一達は改めてコットン軍にいるクラスメイトを考えた。


((((佐藤なんか消えれば良かったのに…。残念だ))))


 なんて恐ろしいことを考えながら。


「ただ今回の戦でコットン国はかなりの戦力を失った模様です。おそらくコットン国は継戦能力をほぼ亡くしたとみて間違いないでしょう。ゆえに魔王軍の目標はこちらに向きつつあると思います」 


 そう司馬懿は真一達に伝えた。


「ジーマンの弾薬の製造状況はどうなんだ?」


「ようやく生産ラインに乗かったばかりです。完全な量産にこぎ着けるまではあと一ヶ月はかかるでしょう」


「となると微妙だな。魔王軍の攻撃に間に合うと思うか?」


「コットン国の粘り具合にもよります。継戦能力を失ったとはいえ、兵力自体は残されていますから魔王軍は我が国まで相手にしますと一気に相手取る敵が増えます。そのような危ない橋は、いくら魔王とは言えど渡りたくはないはずです」


「確かに。とりあえず我々は量産を整えなければ戦にすらならんから、今はそちらに専念しよう」


 そう締めくくり、その話題を切り上げた。


「それでどうだ例の件は?」


 幸一が聞いてきた。


「ああ、順調だ。後は燃料さえどうにかなればできる」


 真一がそう答えると幸一は目を優しく細めながら言った。


「これさえできればこの国が魔王軍に勝てる可能性はより高くなる」


 その夜、新庄から緊急入電が来る。真一達は就寝していたが、司馬懿によってたたき起こされた。
 それは真一達の眠気を吹き飛ばすには十分な内容であった。




 コットン軍 消滅 コットン国王及び、カーゼルは戦死。
 勇者達の消息は不明



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