魔法の世界で、砲が轟く
第十七話 李典逝く
 司馬懿達が天幕を出ると一人の兵士が駆け寄ってきた。
「報告いたします!敵は大規模な攻勢にでている模様。敵の規模、および勢力などは視界不良のため不明」
「分かった。全軍に収集を掛け、戦闘地域に向かわせろ。それから、些細なことでも何か分かり次第報告せよ」
「了解です」
そう言うと、兵士は前線の方に向かった。
「先ほどからあちらこちらで狼煙が上がっておる。これは相当な規模の夜襲だぞ」
真一は厳しい声で呟く。
「どちらにせよ、前線に出てみましょう。前線の様子が気になります。李典はもう現地に向かっているはずです」
司馬懿はそう言い、歩を進めた。
前線に出るとそこには奥の将兵が戦闘を行っているところだった。
あちらこちらで剣がぶつかり合う音や敵の物とも味方の物ともつかない悲鳴が上がる。
ときたま、爆発音が聞こえそこら一帯を火の海に変える。まさしく地獄絵図そのものであった。
予想外なことに敵は思ったより奮戦しているらしく、最初に陣を敷いていた場所より50mほど下がっている。
司馬懿は近くにいた兵を呼び、指示を出した。
「至急全軍をさらに20mほど下がらせなさい。下がり次第、盾隊は前に移動し歩兵と騎馬兵は下がらせて。弓隊はさらに後方に配置し敵に攻撃を浴びせなさい。それから李典に私たちのところに来るように伝えて」
「了解しました」
(しかし、おかしいな。なぜ敵がこんなに接近するまで気づかなかったんだ?)
そんな疑問を司馬懿が抱いた直後、後方がにわかに騒がしくなった。気になって振り返るとそこには、自分たちに向け剣を振るってくる王国軍の将兵がいる。
完全に不意を突かれた形となった李典隊は大混乱に陥った。ただでさえ、謎の敵の襲撃を受けて態勢を立て直す途中だったにも関わらず、そこに後方の味方からの攻撃。いくら歴戦の李典隊といえど軍として体を為さなくなるのは目に見えていた。
「もはや、我が軍は持ちこたえられません!どうか真一様方はお逃げください!」
鎧を血に染めた李典が真一達に駆け寄り、悲鳴のような声を上げた。
「しかし、貴様らを見捨てるわけにはいかん!それに輸送隊を護衛するという任務もある。」
「その輸送隊から攻撃を受けているのです!もはや護衛どころの話ではありません!我が軍に関しては心配などご無用!我が軍は真一様から二度目の生を与えられた身。むしろ、我が軍のために真一様方が命を落とされてはそれこそ面子をつぶす物。どうかお逃げください。軍としての機能は果たせませんが、お逃げになるための時間くらいは稼げるでしょう」
「…分かった。ただ、お前らも時間があれば逃げろよ!」
「分かっております。では、またお会いしましょう!」
真一達、5人は馬に乗り、すぐに逃げ出した。
(必ず、生きて帰れよ!)
そう心の中で、李典に呼びかけて。
真一達が逃げ出すことを確認した李典は近くの兵士をかき集め、臨時の突撃隊を編成した。その内訳は騎馬兵50 歩兵200 弩兵50 盾兵10という大変少ない編成であった。
「突貫!」
李典はそう叫び、敵に向かって突撃した。
(敵の大将はどこにいる?)
そのことのみを考えながら李典は敵を切り伏せ、なぎ払い、馬で引き倒していった。李典の率いる兵はまるで鬼神の如き迫力で敵をねじふせていった。しかし、いくら士気が高いとは言えど多勢に無勢。一人、また一人と倒れていく。しかし誰も足を止めたり怖じ気づいたりはしない。まるで狼の群れのごとく敵を食い破っていった。
「いた!」
ようやく李典は敵の旗印を見つけた。その下には敵の大将らしき人物が馬に乗っている。ここまで敵が来ることはないと見くびっているのか護衛の姿は少ない。
「敵将、覚悟!」
そう言いながら李典は一瞬で距離を詰め、斬りかかる。敵は間一髪、李典に気付いたのか、ぎりぎりで剣をいなした。李典は振り下ろした剣を切り上げた。しかし、体勢を立て直した敵将はその剣を柄で押さえ込みつつ、拳で殴りかかる。李典はその拳を躱して蹴り上げた。一瞬、敵がひるんだ。李典はその瞬間を見逃さない。
(貰った!)
心の中で確信し、その無防備な首に剣を振り下ろした。
(うん?)
しかし、まるで時間の止まったかのように、いつまでたっても首は飛ばない。
不思議に思った李典は改めて自分の体を見ると腹から槍がいくつも生えているのが見えた。
「ごっほ!」
 血の塊がのど元を駆け抜け、吹き出した。
やられたのか。
 痛みも苦しみも感じず、その無念さだけが胸を駆け巡った。
 さっきまで背を守ってくれていた副官は、少し離れたところで朱に染まって事切れていた。最後まで戦ったのであろう。まるでこの先には行かせんとばかりに立ったままの姿であった。
敵将との斬り合いに夢中になっていた李典は味方が全滅したことに気付かず、 敵に背後を取られてあと一歩のところで敵将を逃したのだ。
しかし、不思議なことに後悔はなかった。
無事、主は逃げ切れた。
そう確信めいたことを思いながら李典は瞳を閉じた。
そして、意識は永久の闇に吸い込まれていった。
「報告いたします!敵は大規模な攻勢にでている模様。敵の規模、および勢力などは視界不良のため不明」
「分かった。全軍に収集を掛け、戦闘地域に向かわせろ。それから、些細なことでも何か分かり次第報告せよ」
「了解です」
そう言うと、兵士は前線の方に向かった。
「先ほどからあちらこちらで狼煙が上がっておる。これは相当な規模の夜襲だぞ」
真一は厳しい声で呟く。
「どちらにせよ、前線に出てみましょう。前線の様子が気になります。李典はもう現地に向かっているはずです」
司馬懿はそう言い、歩を進めた。
前線に出るとそこには奥の将兵が戦闘を行っているところだった。
あちらこちらで剣がぶつかり合う音や敵の物とも味方の物ともつかない悲鳴が上がる。
ときたま、爆発音が聞こえそこら一帯を火の海に変える。まさしく地獄絵図そのものであった。
予想外なことに敵は思ったより奮戦しているらしく、最初に陣を敷いていた場所より50mほど下がっている。
司馬懿は近くにいた兵を呼び、指示を出した。
「至急全軍をさらに20mほど下がらせなさい。下がり次第、盾隊は前に移動し歩兵と騎馬兵は下がらせて。弓隊はさらに後方に配置し敵に攻撃を浴びせなさい。それから李典に私たちのところに来るように伝えて」
「了解しました」
(しかし、おかしいな。なぜ敵がこんなに接近するまで気づかなかったんだ?)
そんな疑問を司馬懿が抱いた直後、後方がにわかに騒がしくなった。気になって振り返るとそこには、自分たちに向け剣を振るってくる王国軍の将兵がいる。
完全に不意を突かれた形となった李典隊は大混乱に陥った。ただでさえ、謎の敵の襲撃を受けて態勢を立て直す途中だったにも関わらず、そこに後方の味方からの攻撃。いくら歴戦の李典隊といえど軍として体を為さなくなるのは目に見えていた。
「もはや、我が軍は持ちこたえられません!どうか真一様方はお逃げください!」
鎧を血に染めた李典が真一達に駆け寄り、悲鳴のような声を上げた。
「しかし、貴様らを見捨てるわけにはいかん!それに輸送隊を護衛するという任務もある。」
「その輸送隊から攻撃を受けているのです!もはや護衛どころの話ではありません!我が軍に関しては心配などご無用!我が軍は真一様から二度目の生を与えられた身。むしろ、我が軍のために真一様方が命を落とされてはそれこそ面子をつぶす物。どうかお逃げください。軍としての機能は果たせませんが、お逃げになるための時間くらいは稼げるでしょう」
「…分かった。ただ、お前らも時間があれば逃げろよ!」
「分かっております。では、またお会いしましょう!」
真一達、5人は馬に乗り、すぐに逃げ出した。
(必ず、生きて帰れよ!)
そう心の中で、李典に呼びかけて。
真一達が逃げ出すことを確認した李典は近くの兵士をかき集め、臨時の突撃隊を編成した。その内訳は騎馬兵50 歩兵200 弩兵50 盾兵10という大変少ない編成であった。
「突貫!」
李典はそう叫び、敵に向かって突撃した。
(敵の大将はどこにいる?)
そのことのみを考えながら李典は敵を切り伏せ、なぎ払い、馬で引き倒していった。李典の率いる兵はまるで鬼神の如き迫力で敵をねじふせていった。しかし、いくら士気が高いとは言えど多勢に無勢。一人、また一人と倒れていく。しかし誰も足を止めたり怖じ気づいたりはしない。まるで狼の群れのごとく敵を食い破っていった。
「いた!」
ようやく李典は敵の旗印を見つけた。その下には敵の大将らしき人物が馬に乗っている。ここまで敵が来ることはないと見くびっているのか護衛の姿は少ない。
「敵将、覚悟!」
そう言いながら李典は一瞬で距離を詰め、斬りかかる。敵は間一髪、李典に気付いたのか、ぎりぎりで剣をいなした。李典は振り下ろした剣を切り上げた。しかし、体勢を立て直した敵将はその剣を柄で押さえ込みつつ、拳で殴りかかる。李典はその拳を躱して蹴り上げた。一瞬、敵がひるんだ。李典はその瞬間を見逃さない。
(貰った!)
心の中で確信し、その無防備な首に剣を振り下ろした。
(うん?)
しかし、まるで時間の止まったかのように、いつまでたっても首は飛ばない。
不思議に思った李典は改めて自分の体を見ると腹から槍がいくつも生えているのが見えた。
「ごっほ!」
 血の塊がのど元を駆け抜け、吹き出した。
やられたのか。
 痛みも苦しみも感じず、その無念さだけが胸を駆け巡った。
 さっきまで背を守ってくれていた副官は、少し離れたところで朱に染まって事切れていた。最後まで戦ったのであろう。まるでこの先には行かせんとばかりに立ったままの姿であった。
敵将との斬り合いに夢中になっていた李典は味方が全滅したことに気付かず、 敵に背後を取られてあと一歩のところで敵将を逃したのだ。
しかし、不思議なことに後悔はなかった。
無事、主は逃げ切れた。
そう確信めいたことを思いながら李典は瞳を閉じた。
そして、意識は永久の闇に吸い込まれていった。
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