陽光の黒鉄
第39話 真珠湾
「ここがハワイ……」
駆逐艦の綾波は呟いた。
連合艦隊はハワイを米太平洋艦隊撃滅の前線基地として動かすべく、その基地の状況がどうなっているかを確認するため、先遣隊として日本陸軍一個師団を乗せた輸送船団を派遣したのだ。この師団は工兵隊の中でも特にこれを護衛してきた第三水雷戦隊は敵潜水艦や航空機の攻撃を警戒しながらハワイオアフ島の真珠湾内に入っていく。
機雷などが仕掛けられていないことは既に確認済みだ。
おそらくは民間人を連れての急な撤退であったために航路の安全と時間の問題から設置が難しかったのであろう。
中は小型艦船一隻もおらず、かつてここに太平洋艦隊の主力がいたとは考えられないほど閑散としていた。
その周りを囲むように整備された太平洋艦隊のハワイ基地はその機能をほぼ失っている。
石油タンクは建築途中の状況で破壊されたせいか中途半端な形の残骸が残っている。ドックやクレーンと言った湾港設備はほぼ倒壊しており、軍事基地としての体を成していない。しかし、その破壊された跡でもこの基地がどれほど大規模な整備を受けていたかが見て取れる。
上陸を行う前に三水戦の各艦は上陸地点に向け、主砲を発射し始めた。
これは当然米兵を狙ったものではない。アメリカ軍がこの地から撤退したと言うことは何かしらの置き土産、つまりは地雷のようなものを埋めていった可能性は捨てきれない。そうしたものが上陸直後に埋まっていては危険だ。そういった危険を防ぐためにあらかじめ上陸地点に念入りに砲撃を開始したのだ。
最初こそはそれほど大きな爆発が上がるわけでもなく、土煙ばかりが空しく上がるばかりであったが、綾波が放った一発が明らかにおかしな爆炎をあげた。とても駆逐艦の砲撃だけとは思えない爆発を起こしたのだ。
「やっぱり置いていっていたのね……」
面倒なことになったと言わんばかりに綾波は砲撃を続ける。
そういった爆発が十発に一発程度の頻度で上がりながら海岸線一帯を一掃していく。
一時間ほどしたであろうか。目標の海岸線一帯を一掃し終えた三水戦の軍艦は離れていき、代わりに輸送船の周囲で待機していた大発が一斉に稼働を始める。
ついに上陸が開始されたのだ。
念のため三水戦の各艦は反撃に備え主砲をオアフ島へ向けている。
太陽がさんさんと降り注ぐ中で美しいマリンブルーの海に白い軌跡を描きながら、大発進んでいく。
戦時でなければ、ほれぼれとする美しさだ。
ついに戦闘の大発が着岸し、前の扉がどっと倒れて兵士が走り出していく。
三水戦の各艦が砲撃した砲撃痕に身を潜め、万が一の事態に備えるがハワイ本島は静まりかえっている。上空でカモメが鳴き、とても誰かがいるようには見えない。
陸軍将兵は次から次へと上陸していき、とりあえず橋頭堡を築く。
三百人ほど兵士が上陸してから、兵士達はゆっくりと内陸に向け歩き始めた。
周りを伺いながら敵がいないかを確認しつつ進むと言うよりは足下に地雷がないかを慎重に確かめながらすんでいくような形だ。
計画としては海岸からほど近い湾港設備までを占領し、基地としての機能を復旧させることが目的のため、それほど占領地は広くはない。
故に、上陸部隊は地雷などのトラップを解除することが主な任務となる。
日本陸軍の見立てとしては戦闘が起こらなければ、おおよそ10日ほどで同地の一掃が可能と判断されており、既に湾港設備を復旧するための工兵隊を乗せた輸送船はハワイに向かっている。
この作戦が日本に大きな影響を及ぼすと言うこともあり、一国も早いハワイの復旧が望まれていた。
無論、この事態をアメリカ海軍は承知であったため、航路上に潜水艦を配備して日本海軍の輸送船を撃沈しようという意見もあったが、アメリカ海軍は日本のシーレーンへの攻撃で潜水艦戦力に大きな被害が出ており、そのような余裕はなかった。
予定よりも2日早い8日後の1943年1月21日。ついにトラップの除去作業を終え、工兵隊に仕事は引き継がれた。
工兵隊は上陸してすぐに取りかかったのはガントリークレーンの復旧である。これを回復させ、輸送船に積まれた物資の陸揚げを効率よく行うことが目的であった。
日本陸軍の工兵隊は多少の機械化はされているとはいえ、未だその大半の作業は手作業で行われていた。
しかし、この部隊に関してだけは違っている。先ほどから何度も述べているようにハワイの復旧は一刻も早いことが望まれる。それ故、手作業だけでは遅いと陸軍は急遽、イギリスから工兵用のブルドーザー、トラック、油圧ショベルなどを緊急で輸入(フィリピン方面やシンガポールにいたイギリス軍の工兵隊の機械をもらうことで時間を短縮)し、それらをこの部隊に当てたのだ。
短い訓練期間ながらも兵士達はその使い方をよく覚え、マスターしきっている。
これらを駆使して工兵隊は手早く設備を整えていく。
しかし、この期間に大西洋ではアメリカとイギリスとの決戦がついに火ぶたを切ったのである。
駆逐艦の綾波は呟いた。
連合艦隊はハワイを米太平洋艦隊撃滅の前線基地として動かすべく、その基地の状況がどうなっているかを確認するため、先遣隊として日本陸軍一個師団を乗せた輸送船団を派遣したのだ。この師団は工兵隊の中でも特にこれを護衛してきた第三水雷戦隊は敵潜水艦や航空機の攻撃を警戒しながらハワイオアフ島の真珠湾内に入っていく。
機雷などが仕掛けられていないことは既に確認済みだ。
おそらくは民間人を連れての急な撤退であったために航路の安全と時間の問題から設置が難しかったのであろう。
中は小型艦船一隻もおらず、かつてここに太平洋艦隊の主力がいたとは考えられないほど閑散としていた。
その周りを囲むように整備された太平洋艦隊のハワイ基地はその機能をほぼ失っている。
石油タンクは建築途中の状況で破壊されたせいか中途半端な形の残骸が残っている。ドックやクレーンと言った湾港設備はほぼ倒壊しており、軍事基地としての体を成していない。しかし、その破壊された跡でもこの基地がどれほど大規模な整備を受けていたかが見て取れる。
上陸を行う前に三水戦の各艦は上陸地点に向け、主砲を発射し始めた。
これは当然米兵を狙ったものではない。アメリカ軍がこの地から撤退したと言うことは何かしらの置き土産、つまりは地雷のようなものを埋めていった可能性は捨てきれない。そうしたものが上陸直後に埋まっていては危険だ。そういった危険を防ぐためにあらかじめ上陸地点に念入りに砲撃を開始したのだ。
最初こそはそれほど大きな爆発が上がるわけでもなく、土煙ばかりが空しく上がるばかりであったが、綾波が放った一発が明らかにおかしな爆炎をあげた。とても駆逐艦の砲撃だけとは思えない爆発を起こしたのだ。
「やっぱり置いていっていたのね……」
面倒なことになったと言わんばかりに綾波は砲撃を続ける。
そういった爆発が十発に一発程度の頻度で上がりながら海岸線一帯を一掃していく。
一時間ほどしたであろうか。目標の海岸線一帯を一掃し終えた三水戦の軍艦は離れていき、代わりに輸送船の周囲で待機していた大発が一斉に稼働を始める。
ついに上陸が開始されたのだ。
念のため三水戦の各艦は反撃に備え主砲をオアフ島へ向けている。
太陽がさんさんと降り注ぐ中で美しいマリンブルーの海に白い軌跡を描きながら、大発進んでいく。
戦時でなければ、ほれぼれとする美しさだ。
ついに戦闘の大発が着岸し、前の扉がどっと倒れて兵士が走り出していく。
三水戦の各艦が砲撃した砲撃痕に身を潜め、万が一の事態に備えるがハワイ本島は静まりかえっている。上空でカモメが鳴き、とても誰かがいるようには見えない。
陸軍将兵は次から次へと上陸していき、とりあえず橋頭堡を築く。
三百人ほど兵士が上陸してから、兵士達はゆっくりと内陸に向け歩き始めた。
周りを伺いながら敵がいないかを確認しつつ進むと言うよりは足下に地雷がないかを慎重に確かめながらすんでいくような形だ。
計画としては海岸からほど近い湾港設備までを占領し、基地としての機能を復旧させることが目的のため、それほど占領地は広くはない。
故に、上陸部隊は地雷などのトラップを解除することが主な任務となる。
日本陸軍の見立てとしては戦闘が起こらなければ、おおよそ10日ほどで同地の一掃が可能と判断されており、既に湾港設備を復旧するための工兵隊を乗せた輸送船はハワイに向かっている。
この作戦が日本に大きな影響を及ぼすと言うこともあり、一国も早いハワイの復旧が望まれていた。
無論、この事態をアメリカ海軍は承知であったため、航路上に潜水艦を配備して日本海軍の輸送船を撃沈しようという意見もあったが、アメリカ海軍は日本のシーレーンへの攻撃で潜水艦戦力に大きな被害が出ており、そのような余裕はなかった。
予定よりも2日早い8日後の1943年1月21日。ついにトラップの除去作業を終え、工兵隊に仕事は引き継がれた。
工兵隊は上陸してすぐに取りかかったのはガントリークレーンの復旧である。これを回復させ、輸送船に積まれた物資の陸揚げを効率よく行うことが目的であった。
日本陸軍の工兵隊は多少の機械化はされているとはいえ、未だその大半の作業は手作業で行われていた。
しかし、この部隊に関してだけは違っている。先ほどから何度も述べているようにハワイの復旧は一刻も早いことが望まれる。それ故、手作業だけでは遅いと陸軍は急遽、イギリスから工兵用のブルドーザー、トラック、油圧ショベルなどを緊急で輸入(フィリピン方面やシンガポールにいたイギリス軍の工兵隊の機械をもらうことで時間を短縮)し、それらをこの部隊に当てたのだ。
短い訓練期間ながらも兵士達はその使い方をよく覚え、マスターしきっている。
これらを駆使して工兵隊は手早く設備を整えていく。
しかし、この期間に大西洋ではアメリカとイギリスとの決戦がついに火ぶたを切ったのである。
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