陽光の黒鉄
第21話 日米戦艦の激戦④
「撃ってきましたか」
大和は小さく呟いた。
そして遠方にいる敵戦艦を静かに見つめる。
「全艦、面舵一〇度!」
大和がそう言い放つと大和以下の日本海軍全戦艦が面舵を切り、敵艦からみてイの字を描くような態勢に入る。
もちろん、ここで丁字を描くこともなくはないのだが、大和以外の戦艦はようやく射程内に入ったばかりで直撃弾が望めなくなる。
そこでイの字を描き、後方の主砲も撃てるようにしながらも敵には近づくようにする方針にしたのだ。
「こちらもやられてばかりいてはいい気はしませんね」
そう言ってビンと強く弦を弾くと同時に敵艦に向けて三発の砲弾を送り込む。
互いの巨弾が飛翔音を上げて、戦場に禍々しい木枯らしにも似た飛翔音が鳴り響く。
「さて、どうなるか?」
大和は琴を奏でる手を止めず、砲弾の行く末を見守る。
砲弾の装填を待つ間に不意に大和の周囲に飛翔音が鳴り響く。
そして何本かの水柱が挙がる。水柱は全て右舷側に集中しており左舷側には一本の水柱もない。
その砲弾を呼び水としたかのように次から次へと大和の周囲に水柱が挙がる。
「くっ! 敵は全艦が私に砲撃を集中させてきたのね!」
おそらくは米艦隊の指揮官がこの大和を相当な脅威と感じ取ったのであろう。
全艦の砲門を用いて大和を射止めんと砲撃を集中させたのだ。
「良いでしょう! むしろこちらの方が他の艦に被害が出ないだけ好都合だわ!」
大和は不屈の闘志を出し、敵艦を睨み付ける。
その大和の思いを代弁するかのように大和の主砲が火を噴く。
後方からも幾つもの砲声が聞こえており、扶桑以下の艦艇が砲撃を行っているのであろう。
この時、日本海軍の戦艦は大和を先頭として、扶桑、山城、伊勢、日向と続いている。米戦艦は六隻の戦艦を二列縦隊に並べ並行陣で日本海軍に砲撃を行っている。
日本側は各艦が一隻ずつに狙いを定め砲撃を行っているのに対し、米艦隊は大和一隻に砲撃を集中させるなどそれぞれが違う戦法をとっている。
大和の主砲が装填し終わり、続く交互撃ちを始める。
最初の砲撃よりも着実に距離は詰まってきており、挟叉弾が出るのも時間の問題と思われていた。
第6射目。互いに空振りを繰り返しつつ放たれたその砲弾はついに有効打となって現れた。
砲弾の到達時刻になると敵艦の周囲に水柱が吹き上がる。水柱は敵艦の右舷側に二本、左舷側に一本観測された。
「お、ようやく挟叉したわね」
その時、大和の全砲門が一旦下がり、定位置へと戻る。
挟叉したことから斉射に移るべく、砲門に砲弾を装填しているのだ。この間に主砲の冷却も行う。
四〇秒後。一通り作業が終わり各砲門に砲弾が装填される。
「砲身上げ」
その声と同時に各砲門が鎌首をもたげ、天を睨む。
「旋回角、仰角良し。各主砲発射準備良し」
「発射準備用意!」
その直後、艦内に発射を告げるブザーが鳴り響く。
そして大和が発射を告げようとした瞬間。周囲に何本もの水柱が吹き上がる。
「くっ!」
幸いなことに直撃弾は一発もなかったが、挟叉されたことを大和は自分の目で確認していた。
最早一刻の猶予もない。
「発射!」
その瞬間、大和の周囲は世界が変わった。主砲から多量の黒煙と火柱が上がり周囲にこの世の終わりなのではと感じさせるほどの轟音が鳴り響く。
海面からはその熱量のために蒸気が上がり、衝撃波と音波のせいで波が起こる。これらは分け隔て無く艦橋などにも襲い、艦橋内職員は全身を何かに強く叩付けられるような感覚を覚えた。
まるで大和を中心に地獄が形成されたかのような瞬間だ。
世界最大の艦載砲の斉射はこれほどまでに凄まじいものなのかと大和乗組員全てが感じたことであった。
当の大和は何事もなかったかのように琴を弾き続けつつ、敵艦の様子を中止し続ける。
敵艦も斉射に入る準備をしているのかしばらく砲撃が止む。
その間に大和の砲弾が敵艦に到達。敵艦の周囲に水柱が幾つも上がる。
やがて水柱が収まり敵艦の艦上の様子があらわとなった。
艦の前部から煙が上がっている。
前部ではあまり被害は期待できない。運が良ければ弾薬庫の誘爆であろうが、誘爆が起きるとすれば既に起こっているであろうし、ここまで来て起きないということは起きないであろう。
その直後敵艦の甲板上で前部と後部に閃光が走った。命中段ではない。斉射だ。
敵艦はその健在ぶりを見せつけるかのように悠々と航行を行っている。
「流石に一度の斉射ではへばらないという訳ね」
大和は呟く。
直後、大和の周囲に別の米艦の砲弾が着弾。幾つもの水柱を上げる。
これは幸いなことに有効打はない。さしもの大和も六隻の米艦に攻撃を食らえば、危ない。できる限り早く目標を仕留めることが大事だ。
「他の艦艇はどうなっているのかしら?」
大和は他の米艦に目を移すが、特に大きな変化はない。
互いに巨弾を空しく海中に投じるだけだ。
しかし、互いに着弾は近づいており一刻の猶予もならない。
「早めに仕留めないと……」
大和は少し焦り始めていた。
大和の主砲が一斉に火を噴き、敵艦目掛けて九発の四六センチ砲弾を発射した。
大和は小さく呟いた。
そして遠方にいる敵戦艦を静かに見つめる。
「全艦、面舵一〇度!」
大和がそう言い放つと大和以下の日本海軍全戦艦が面舵を切り、敵艦からみてイの字を描くような態勢に入る。
もちろん、ここで丁字を描くこともなくはないのだが、大和以外の戦艦はようやく射程内に入ったばかりで直撃弾が望めなくなる。
そこでイの字を描き、後方の主砲も撃てるようにしながらも敵には近づくようにする方針にしたのだ。
「こちらもやられてばかりいてはいい気はしませんね」
そう言ってビンと強く弦を弾くと同時に敵艦に向けて三発の砲弾を送り込む。
互いの巨弾が飛翔音を上げて、戦場に禍々しい木枯らしにも似た飛翔音が鳴り響く。
「さて、どうなるか?」
大和は琴を奏でる手を止めず、砲弾の行く末を見守る。
砲弾の装填を待つ間に不意に大和の周囲に飛翔音が鳴り響く。
そして何本かの水柱が挙がる。水柱は全て右舷側に集中しており左舷側には一本の水柱もない。
その砲弾を呼び水としたかのように次から次へと大和の周囲に水柱が挙がる。
「くっ! 敵は全艦が私に砲撃を集中させてきたのね!」
おそらくは米艦隊の指揮官がこの大和を相当な脅威と感じ取ったのであろう。
全艦の砲門を用いて大和を射止めんと砲撃を集中させたのだ。
「良いでしょう! むしろこちらの方が他の艦に被害が出ないだけ好都合だわ!」
大和は不屈の闘志を出し、敵艦を睨み付ける。
その大和の思いを代弁するかのように大和の主砲が火を噴く。
後方からも幾つもの砲声が聞こえており、扶桑以下の艦艇が砲撃を行っているのであろう。
この時、日本海軍の戦艦は大和を先頭として、扶桑、山城、伊勢、日向と続いている。米戦艦は六隻の戦艦を二列縦隊に並べ並行陣で日本海軍に砲撃を行っている。
日本側は各艦が一隻ずつに狙いを定め砲撃を行っているのに対し、米艦隊は大和一隻に砲撃を集中させるなどそれぞれが違う戦法をとっている。
大和の主砲が装填し終わり、続く交互撃ちを始める。
最初の砲撃よりも着実に距離は詰まってきており、挟叉弾が出るのも時間の問題と思われていた。
第6射目。互いに空振りを繰り返しつつ放たれたその砲弾はついに有効打となって現れた。
砲弾の到達時刻になると敵艦の周囲に水柱が吹き上がる。水柱は敵艦の右舷側に二本、左舷側に一本観測された。
「お、ようやく挟叉したわね」
その時、大和の全砲門が一旦下がり、定位置へと戻る。
挟叉したことから斉射に移るべく、砲門に砲弾を装填しているのだ。この間に主砲の冷却も行う。
四〇秒後。一通り作業が終わり各砲門に砲弾が装填される。
「砲身上げ」
その声と同時に各砲門が鎌首をもたげ、天を睨む。
「旋回角、仰角良し。各主砲発射準備良し」
「発射準備用意!」
その直後、艦内に発射を告げるブザーが鳴り響く。
そして大和が発射を告げようとした瞬間。周囲に何本もの水柱が吹き上がる。
「くっ!」
幸いなことに直撃弾は一発もなかったが、挟叉されたことを大和は自分の目で確認していた。
最早一刻の猶予もない。
「発射!」
その瞬間、大和の周囲は世界が変わった。主砲から多量の黒煙と火柱が上がり周囲にこの世の終わりなのではと感じさせるほどの轟音が鳴り響く。
海面からはその熱量のために蒸気が上がり、衝撃波と音波のせいで波が起こる。これらは分け隔て無く艦橋などにも襲い、艦橋内職員は全身を何かに強く叩付けられるような感覚を覚えた。
まるで大和を中心に地獄が形成されたかのような瞬間だ。
世界最大の艦載砲の斉射はこれほどまでに凄まじいものなのかと大和乗組員全てが感じたことであった。
当の大和は何事もなかったかのように琴を弾き続けつつ、敵艦の様子を中止し続ける。
敵艦も斉射に入る準備をしているのかしばらく砲撃が止む。
その間に大和の砲弾が敵艦に到達。敵艦の周囲に水柱が幾つも上がる。
やがて水柱が収まり敵艦の艦上の様子があらわとなった。
艦の前部から煙が上がっている。
前部ではあまり被害は期待できない。運が良ければ弾薬庫の誘爆であろうが、誘爆が起きるとすれば既に起こっているであろうし、ここまで来て起きないということは起きないであろう。
その直後敵艦の甲板上で前部と後部に閃光が走った。命中段ではない。斉射だ。
敵艦はその健在ぶりを見せつけるかのように悠々と航行を行っている。
「流石に一度の斉射ではへばらないという訳ね」
大和は呟く。
直後、大和の周囲に別の米艦の砲弾が着弾。幾つもの水柱を上げる。
これは幸いなことに有効打はない。さしもの大和も六隻の米艦に攻撃を食らえば、危ない。できる限り早く目標を仕留めることが大事だ。
「他の艦艇はどうなっているのかしら?」
大和は他の米艦に目を移すが、特に大きな変化はない。
互いに巨弾を空しく海中に投じるだけだ。
しかし、互いに着弾は近づいており一刻の猶予もならない。
「早めに仕留めないと……」
大和は少し焦り始めていた。
大和の主砲が一斉に火を噴き、敵艦目掛けて九発の四六センチ砲弾を発射した。
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