紫陽花の咲く庭で

ラテリ

その先-2-

私は切くんの手を握りながら、
南口の方へ歩いて行った。
クリスマスの時とは反対側。
歩いて・・・15分ぐらい?
大きな病院で、いつも混んでる。

不安を振り払いながら、
切くんと歩いて病院に到着。

「・・・大きいな」
「でしょ」

入口の自動ドアを過ぎると
病院の匂いがする。
長年来てるのに、こんなに
緊張するのは初めてかも。

「混んでるな」
「まぁ、いつもこんな感じ」

会計待ちの人たちが
テレビとかを見ながら待ってる。
私は受付をすますと、
慣れた足取りで待合室まで移動した。
・・・切くんはキョロキョロしてる。

「病院、珍しい?」
「え?うん・・・そうかな」

あまりお世話になってなさそうだもんね。
なったとしても・・・ケガぐらい?

「ほとんど来ないし・・・。
これからもあまり来たくはないかな」

まぁ、好きで病院に来たい人なんて
あんまりいないよね。

「でも!咲となら来たい!
・・・あ。やっぱ来たいけど来たくない」

何が言いたいかなんとなくわかる。
でも、別にそれは病院じゃなくても
いい気がする。

「匂いとか大丈夫?独特でしょ」
「うん。別に。消毒!って感じ」

なぜかガッツあふれるポーズで
言う切くん。

「で、しばらく待ちそう?」

待合室にはそれなりに人がいた。

「予約してあるからそんなには
待たないと思うけど・・・」

前の人の時間とかで変わったりする。
・・・というか、当然見知った顔も
いるわけで。特にお年寄りの。

・・・ああ、やっぱり
「あの咲ちゃんがねぇ」
みたいな目で見られてる。
しばらくそんな話題で
盛り上がるんだろうなぁ・・・。

「なんか周囲に見られてるような・・・」
「女子はいくつになっても、
恋バナが好きなんだよ・・・」

諦めの境地でそう言った。
でもでも。
切くんとはそういう仲だし!
彼氏だし!
・・・これからも絶対。

「天織さん、7番にどうぞ」

呼ばれた。
ついに呼ばれた。
足が震えてる。
切くんは私の手を握りながら
肩をポンっと叩いてくれた。
ちょっと安心した。
7番の扉に向かう。
怖い。怖い。怖い。
ドアノブを回す。
死への扉かもしれない。
開くとそこにはいつもの先生がいた。
切くんをみて少し驚いてる。
サッと椅子に座る。
先生をじっとみる。
心なしか残念そうな顔をしてる気がする。
ダメなのかな。
ダメだったのかな。
切くんは軽くお辞儀した。
それを見て先生もお辞儀した。
聞きたくない。
聞きたいけど聞きたくない。
逃げたい。
何から?
「死」から?
どこへ?
わからない。
私は自然と切くんの手を離した。
手で耳を塞いだ。
先生は驚いてる気がした。
切くんは後ろからそっと私を抱いた。
先生が何か言ってる。
聞きたくない。
切くんはそれを聞いて驚いてる。
笑ってる。
わら・・・。

え?
どうして?

「咲ちゃーん!聞いてる?」
「聞いてなかったか?」

全く。
耳を塞いでいたのもあるけど、
言葉なんて全く頭に入ってこなかった。
・・・学校の授業みたいに。

「こほん。じゃあ、もう1度言うよ」

あ。嫌だ。だって、ダメなんでしょ。

「検査結果。異常なし。
余命宣言は撤回します。
・・・よかったね」

・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・

しばらく言葉の意味がわからなかった。
涙が出てきた。
何で泣いてるのかわからないけど。
でも、すごくほっとした。
ずっと私を縛ってた鎖が
壊れたかのように。

「本当に・・・?」
「うん。この1年怖かったと思うけど。
もう、大丈夫だから、ね?」

私、まだ生きられるんだ。
切くんといろんな時間過ごせるんだ。
嬉しい。
ただただ嬉しい。
未来があることがこんなに
嬉しいなんて思わなかった。

「切くん・・・!」

私は人目を気にせず、
切くんに抱きついた。
切くんも私をギュッて抱きしめてくれた。

「よかった。
本当に・・・よかった」

「死」はまたいつか、
私の近くに来るんだろう。
それがいつかはわからないけど。
でも、今回、近づいてわかったこと。

「生きたい」に理由なんていらないんだ。

ただ、それだけ。
でも、それはきっと、
「死」に近づかなきゃ得られなかった。

だから私、明日も「生きたい」

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