紫陽花の咲く庭で

ラテリ

カレカノ初日

星祭りが終わった。
1日休んで、いつもの学校が始まる。
まだ一昨日だ。
俺が咲の秘密を告白してから。
咲が俺の秘密を告白してから。

一昨日は星祭りという
イベント中だったことや、
両想いになれたことが嬉しくて、
あまり意識してなかったが、
時間が過ぎる程、ドキドキが止まらない。
いや、だって、彼女できたんだぞ。
しかも、ずっと好きだった咲が。

朝、家を出る前も、
服とか髪とか変じゃないか
何度も確認した。
今まで、全然気にしてなかったのに。
だって、嫌われたくない。
ただただ、それだけだった。

とういうか、
どんな顔で会えばいいんだろう。
いや、いつも通りいいじゃんと
言われればそれまでだけど、
そのいつも通りすらどうだったっけと
思い出せなくなる。

電車に乗る前。
駅に止まる時。
電車から降りた後。
学校に向かう道。
いつもと変わらない風景なのに、
なんか違って見える。
学校に近づくほど、
心臓の鼓動が速くなる。

学校に着いた。
いつものドアをガラガラ開ける。
当たり前だが、いつもの校舎だ。
目の前に教職員の机があって、
書類とか積まれてる。
特に橋渡先生のとこはカオス。

右手の階段を登って、
2階の教室に向かう。
咲はもう来てるだろうか。
来てたらどうしよう。
いや、来てなくてもどうしよう。
何か話題は・・・。
あ、そういえば、やっと借りてた本、
読み終わったんだった。
あの後の展開は、

地方大会決勝戦の相手は
幼い頃からのライバル。
勝てば甲子園出場が決まる。
ライバルと主人公のエース2人が
お互い好投するが、
僅差で試合に負けそう。
でも、9回、ついに逆転のチャンスが!
そこで相見える2人・・・。
勝負の行方は!?

・・・ってとこで次巻につづく。
なんか俺もやったこと
あるようなないような展開だった。
正直、つづきが気になる。
うん、この話題にしよう。
そして、次の巻貸して貰おう。

そう思いながら教室に入ると、
咲はすでに来ていた。
いつも通り読書してる。
他にも何人か教室にいた。
俺はこっそり後ろから近づいて、
目を隠してやろうかとか一瞬考えたが、
そんな勇気はやっぱりどこにもなくて、

「お、おはよう」

と、普通に挨拶をした。
咲は俺の声に気付くと、
片手を小さく振りながら、

「おはよう〜」

と、返してくれた。
とりあえず、勢いだ。勢いで行こう。
ここで会話が途切れた方が絶対辛い。
カバンを咲の前の席に置き、
後ろを向いて、咲と顔を合わせる。
や、やばい。可愛さが増してる。
直視できない・・・!
ほ、本!本の話題!

「あ、あのさ」
「な、なに?」

咲も咲で緊張してるようだった。
表情とか声がなんとなくいつもと違う。
そのおかげか、俺は少し楽になった。
置いたカバンを漁って、
借りてた本を取り出す。

「これ。やっと読み終わったんだ」
「あ〜。私も聞こうと思ってた」

借りたのがたしか6月だから・・・
いやいや、借りすぎだろ俺。
というか、読むの遅すぎ。

「やっぱり、文字だけの本は苦手?」
「苦手・・・というか、
読み始めるまでが長くて。
読み始めると結構、夢中になるんだけど」

いや、やっぱり苦手かな・・・。
今まで読んだこともなかったし。

「そっかぁ。面白かった?」

そんな可愛い顔で聞かれたら、
ノーとは言えないわけで。
いや、純粋に面白かったけどさ。

「うん。なんか、
最後ら辺は俺と仁みたいだった。」
「あ!たしかに」

幼なじみではないけれど。
ライバルではあると思う。

「つづき、気になる?」

首を傾けながら聞いてくる咲。
もう可愛すぎてイエス!としか言えない。
まぁもともと、
次巻を借りるつもりだったけど。

「うん。
また長くてなるかもしれないけど
・・・借りてもいい?」
「もちろん!」

そう言うと咲はカバンから次巻を
取り出して俺に渡してくれた。
・・・なんで持ってるんだろう。

「ありがとう。
それ、常に持ち歩いてるのか?」
「ううん。
私も今日、どうだった?
って聞こうと思ってたの」

あ、なるほど。

「ひょっとしたら読み終わってて、
次巻読みたいって、
言ってくれるかな〜って。
私たち、息合ってるね!」

可愛さストレートが
ど真ん中にズバッと決まり、
見逃し三振。朝から幸せすぎる。
ああ、いいなぁ。
こんな日がずっと続けばいいのに。
・・・いや、続けるんだ。必ず。

次巻を受け取る際、
咲の手の柔らかさと温かさを感じながら
強くそう思った。

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