紫陽花の咲く庭で

ラテリ

星祭り-1-

もうすぐ星祭りだ。
筋肉祭と違って、陸上部的には何もない。
2年生の出し物があるけど。
今年は焼きそばを作ることになってる。
あと、ちょっとした飲み物とか。

「切、暇でしょ?ちょっと手伝って」
「へーい」

彩もそれがわかってるからか、
運動部のやつをコキ使ってる。
あー、咲がいない。やる気でない。

「咲は?」
「文芸部。部誌出すから」

去年も出してた。
たまたま見つけて、
家で咲のとこだけ読んで。
幸せな気分になった。
・・・今考えると小さいな、俺。

「彩は大丈夫なのか?ここにいて」
「そう思うなら、働く!動く!」

大丈夫ではないらしい。

「で、何すればいい?」
「屋台の看板作り。まず、材料集めから」

看板作る。材料集める。・・・材料?

「集めるって何を?」
「ダンボール。
スーパーに行けば貰えるでしょ」
「つまり、走って行ってこいと」

彩は笑顔で頷いた。
めんどくさっ。

「どれくらい必要なんだよ」
「2、3箱分くらいあれば十分」

それ持って帰ってくるのか・・・。
しかも、帰って来たあと看板作るのか。

「だるー」
「やってくれたら、
切が咲の分までやってるって
伝えてあげる」
「行ってきます!やっときます!」

嘘でもいい!
単純と言われてもいい!
咲のためなら何でもできる!
俺はダッシュでスーパーに向かった。


「あーこれかな」

スーパーの裏側。
世界新じゃないかと思うぐらいの
ダッシュでやってきた。疲れた。

置いてあるゲージには
キャベツとかレタスとか書かれた
ダンボールが積まれてる。
どれも中身は入ってない。
さすがに黙って持ってくのはマズイか。
近くに店員がいた。あの人に聞くか。

「すいません。
ダンボール貰っていいですか?
もうすぐ星祭り・・・あ、文化祭で」
「好きなだけ持っていきなー」
「ありがとうございます」

あっさり許可が取れた。
俺は積まれたダンボールから
彩に言われたとおり3箱分取る。
店員に軽くお辞儀してから、
来た道を歩いて戻る。

(もう、11月か・・・)

寒くなってきて人肌が恋しい。
咲を「死なせない」って決意したけど、
進展はしてない。

(させるにはまず・・・)

咲に告白することだ。
「好き」はもちろんだけど、
それよりも「余命」のことを。
一緒に乗り越えようって。
俺にできるのは結局、
「病は気から」を信じるくらいだ。

言ったら嫌われるだろうか。
盗み聞きしてたこと。
知らないと思ってたことを知ってたこと。
それでも、死んで、いなくなって。
それから後悔する方が嫌だ。
よく言う「やって後悔」したい。
後悔するとは決まってないけど。

でもいつ言う?
スマホを通じて言うことではない。
それにこればっかりは彩に頼れない。
協力してもらって2人きりになれても、
きっどこかで聞いてる。
彩たちにばれないように。
いい感じのタイミングで。

そういえば、屋台の店番。
彩や仁が店番中、
俺と咲は休憩時間だ。
いつも通り気を使ってもらったおかげだ。
彩たちが店番中なら
咲と2人きりになれる。

そうだ。このタイミングしかない。
咲には事前に2人で
店回ろうとか言っておいて。

余命のことをちゃんと伝えられたなら。
今度こそ、「好き」って伝えよう。


「ただいま・・・って、彩はいないか」
「彩なら部室にいる」

教室に戻ると、仁が1人作業してた。

「そうか。お前何してんの?」
「彩に言われてノボリ作ってんの」

「焼き☆そば」って書かれてる。
・・・星いる?

「お前も何か頼まれてる?」
「ああ、看板。
ダンボールで作るんだって」

持って帰ってきた
ダンボールを床に置いて、
適当に落ちてた油性ペンを拾う。

「あのさ、星いる?これ」
「え?ああ、これは俺の気分。
星祭りだしさ。星いれようかなって」

じゃあこっちも「焼き☆そば」って
書いておけばいいか。

・・・当日、ちゃんと言えるだろうか。
不安を胸に星祭りの準備は進んでいった。


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