紫陽花の咲く庭で

ラテリ

咲の誕生日-1-

咲とお近づきになれてから、
はやくもひと月ちょっと。

今年ももうすぐ七夕。咲の誕生日だ。
去年は当日に知ったこともあり、
何も用意出来なかったけど今年は違う。
誕生日も知ってる!
咲と話す機会も多くなった!

(どうしようかな)

学校の昼休み、教室で考える。
余命のこともいろいろ考えたが、
結局、俺にできることなんて限られる。
病気か何かは知らないけど、
俺がそれを治すことなんてできない。
だったらせめて、咲にその時が
訪れるまでの間、笑っていて欲しい。
近くにいてあげたい。
まぁ、咲が俺のことを
拒絶したらそれまでだけど・・・。

(プレゼントかなぁ)

座ってる椅子を揺らしながら。
女性に物を贈るなんて当然初めて。
何を贈ればいいか見当もつかない。
かわいいもの?小物?本とかもありか?
それとも、おもちゃにされるの
覚悟で彩に相談するか?

(まぁ、やっぱり彩に聞くのが妥当か)

おもちゃにされるだろうけど、
彩に相談することにした。
問題はタイミングか・・・と思ったが、
丁度、彩と咲は一緒じゃなかった。
今がチャンス!

「さーやー、頼みがー」
「ああ、七夕のこと?」

待ってました!とばかりに返事をされた。
相談されることは
読まれてたらしい・・・。

「なんでわかった!?」
「そりゃ、咲の誕生日だし。
何贈ろうとか、どこ行こうとか、
考えるけど答えが出なくて
あたしのとこへ・・・って
考えるのは自然じゃない?」
「うぐっ」

正しくその通りで何も反論できない。
が、予想されてたのなら
それに甘えればいいと思った。うん。

「で、何かいい策はありますか、
彩せんせー」
「うん、もう予定は立ててあってね。
もちろん、切も頭数に入ってる」

驚きの手際のよさ。
流石は2年生のまとめ役!文芸部部長!

「そ、それでどんな予定を?」

ドキドキしながら尋ねる。

「ほら、平塚で七夕祭りあるでしょ。
それにいこうかなって。
咲たちはもう誘ってあるんだ」
「あー、毎年やってるね。
行ったことないけど」

この辺では、かなり大きな祭。
この時期になると、
いつもはガラガラの電車も
混んでることが多い。
浴衣姿のカップルなんかで。
・・・羨ましい。

「で、来れるよね?」
「もち」

即答した。
そもそも、今年は休日の七夕に
予定なんてない。
あったとして、こっちを優先する!

「そういうと思ってた。暇そうだし」
「・・・まぁ、反論はしない」
「で、咲への誕生日プレゼント!
これ、あたしが用意してあげる。
当日、少し早めに来て。
どうせ、何あげるかも悩んでたでしょ」
「・・・それはどうも」

何もかも見透かされてた。
変なもの贈っちゃうよりはいいけどさ。
俺は彩から当日の集合場所などが
書かれたメモを受け取って、
さっきまで揺らしてた椅子に戻った。

咲の誕生日まであと数日。
・・・最後になるかも
しれないと思うと、胸が痛む。
せめて、そういったことを少しでも
忘れられる日にしてあげようと思った。




七夕当日。
彩に言われた通り、
少し早めに家を出る。
時間はもうすぐ夕方。
暑さも少し和らいでる。
思えば、休日に咲と
会うのは初めてだった。
私服が許されてる学校だから、
その辺は見慣れてるけど。
休日に会うって響きでドキドキする。

いつも通学で使ってる電車は
やっぱり混んでた。
カップルが多くて羨ましい。
手を繋いでたりして。
咲とあんな風にとか妄想してしまう。
いいなぁという言葉しか思いつかない。

「まもなく平塚、平塚」

ドアが開くと同時に一斉に降りる。
人混みに流されながら、
集合場所に向かう。
祭に来るのは初めてだけど、
平塚には何回か来たことがあるから
特に迷わない。

改札を出ると彩がもう来てた。
隣には1年生の・・・真紀さんがいた。
2人ともいつもの服だ。
まぁ、俺もだけど。

「ごめん、遅かった?」
「別に。とりあえず、はいこれ。
誕生日プレゼント」

受け取ったのは薄いペラペラした
何かだった。

「何これ?」
「・・・しおりです」

本を読んでた真紀さんが答えた。
彼女は一旦読むのをやめて

「彩先輩の家の紫陽花で
作ったしおりです。
先輩、頑張ってください・・・!」

といって、また本を読み始めた。

「頑張るって?」
「七夕、誕生日、お祭り・・・
ときたらそれを渡しながら
告白するしかないでしょ!」
「楽しみです・・・!」

・・・2人の目がキラキラしてる。
彩はともかく、
意外に、真紀さんも
この手の話が好きらしい。

「こ、告白っすか」
「今日しないでいつするの」

・・・まぁたしかに
彩の言うとおり、
絶好の機会ではある。
だけど、俺にそんな
勇気があるのかどうか・・・。

「作戦としては、まずは4人で
お祭りを楽しむ。で、途中であたしと
真紀がこっそりいなくなるから」
「はぁ」
「で、事前にはぐれた時の
集合場所を決めておく。
平塚に住んでる真紀によると、
裏道通ったとこに
公園があるらしいからそこにしておく」

あとはその公園に行って、
2人きりになったとこで告白すればいい
・・・らしい。

「真紀さん、その公園って
人混みになってないの?」
「・・・さん付けは慣れてないので
呼び捨てでどうぞ。
小さい公園なのであまり人は
いないと思います・・・!」
「分かった。えー、真紀。
俺も適当に呼んでいいから」
「はい、切先輩」

・・・たぶん2人ぐらい
覗いてるんだろうなと思いつつ、
その作戦に乗っかることにした。
余命のことがあるとはいえ、咲のことが
大好きな気持ちに変わりはない。
例え残された時間が少なくても、
その時間を幸せなものにしてあげたい。
・・・お前にできるのかって
言われたら微妙なとこではあるが。

「あ!ごめーん、待った?」
「いやー、全然」

丁度、作戦会議が
終わったとこで咲が来た。
彩のことだからたぶん、
咲だけ集合時間をずらして
教えてんだろうな。
咲は浴衣・・・ではなく、
いつも見る私服だった。ちょっと残念。
俺は受け取ったしおりを
咲に見られないように
そっとカバンにしまった。

はぐれた時の集合場所などを
確認してから、俺たちは
祭の会場に向かった。

知ってはいたけど、初めて来る七夕祭り。
思ってた以上に人が多く、
俺の知ってる平塚ではなかった。
作戦関係なく、普通にはぐれそう。

「誕生日おめでとう、咲」
「おめでとうございます・・・!」
「ありがとう、真紀ちゃん、彩」

2人が咲にプレゼントを渡してる。
小物と本らしい。
咲はどこか暗い表情にも見える。
俺が余命のことを知ってるせいで、
勝手にそう見えてるだけかもしれないが。

「ちなみに切からは後で
すごいものが贈られるよー」
「楽しみです・・・!」

と、言ってハードルを上げてくる2人。
咲も期待の眼差しで俺を見てる。
・・・逃げ道絶たれたな。

「さ、せっかくだからなんかやろ。
くじとか射的とか」
「じゃあ、くじ!みんなで運試ししよ!」

咲の提案でくじ引きをすることになった。
そこら中に似たような店がある中、
近くにあったくじ引き屋に立ち寄る。

「おじさーん、1回やりまーす!」
「あいよ、300円」

特賞はゲーム機らしいけど、
まぁ、当たらないだろう。
案の定、咲の引いたくじには
ハズレと書かれていた。
彩もハズレ、真紀は
ドッキリグッズを当てた。
刺すと柄の部分にプラスチックの刃が
入って、刺してるように見えるやつ。

「はい、おっさん」

俺は引いたくじの結果は見ずに
店のおっさんに渡した。
・・・別に期待しない方が
当たるなんて思ってない。

「お?兄ちゃんいいじゃん。
これ持ってきな」
「おお?切なに当たったの?」

渡された袋には
ブーブークッションって書かれてた。

「ぶ!いいじゃん!
今度、仁にでも仕掛けてみれば?」
「あいつだと気づいてても
ノリで座ってくれそうだな」
「たしかに!仕掛けるときは教えてね!」

当たりはしなかったけど
面白いものは手に入った。
週明けにやってみるか。
忘れてそうだけど。

他にも咲が綿菓子を
食べる姿が可愛かったり、
ヨーヨー釣りに挑戦するも
惨敗する咲が可愛かったり、
射的で熱くなる咲に見惚れていたり。
気づけば、彩たちとはぐれていた。

まぁ、計画通りではあるのだが、
俺としては何か合図があるのかと
思ってたから、素ではぐれたと
言ってもおかしくない。

「はぐれちゃったね」
「ああ。例の公園に行こうか」
「そうだね、たぶんそこで
合流できるはず」

・・・正直、
心臓が破裂しそうだった。
咲と2人きりのこの状況。
周囲からみたらカップルに
見えてるのかな。
この後は、告白する予定になってる。

・・・不安しかなかった。
ついこの間まで、基本的に
見てるだけだった咲に
想いを告げるなんて。
だけど、咲には時間がない。
言うならやっぱ、今日しかない!

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