クリームソーダ的恋愛事情。
2章。
朝は来た。部屋の隅にある小窓から陽がわずかに差し込んでいる。
その光の筋が、部屋の空気中に漂っているホコリを映し出していた。
「ああ、掃除もあまり行き届いていない部屋だったのだな」と認識した。
気がつけば、ボクは寝ていた。確か、彼女の過去の恋愛話を少し聞いていた気がする。だが、あまりそれの記憶が無い。興味が全く無かったので聞いていなかったという訳ではなく、あまり彼女のことを深く知ってしまうことを避けたかった。
ボクは付き合う予定が無いのに、身体を重ねてしまった女性について素性を知ることが苦手だ。いや、付き合う相手ですら、全てを知ることをあまり望んでいない。何もかも知ってしまえば、魅力を感じなくなる。
どこかミステリアスであって欲しいなどと、一昔前の海外の恋愛ドラマのようなことは考えていないが...。
彼女はまだ隣で寝ていた。
もしかするとボクが寝ている間に、そっと部屋から出て居なくなってしまっているのではないかと少し思っていたため、そこにまだ存在していることが意外であった。
隠しているつもりではあったが、あまり彼女に関心がないことをどこか匂わせてしまったため、これ以上、一緒にいることは無駄であると思わせたのではないかと考えていた。
彼女は、身体を丸く、膝を抱えたように縮こまって掛け布団にくるまっていた。
まるでサナギかなにかのように見えた。昨晩、ボクと彼女には"あのようなこと"があったのに、まるで何もなく、ただ、同じベッドで横になっただけであるかのような距離を感じた。
だが、その距離は彼女から作り出したものでなくボクから作り出したものである。なのに、すっかりとそのことを忘れ、薄情な人なんだななどと、一瞬とんでもないことを考えてしまった。しかし、その考えは誤りであることにすぐに気がつく。
このまま彼女を置いて、この宿から出て行ってしまおうか。
会計代金だけ、テーブルの上に置きガラス製の灰皿を重しにし、出て行ってしまおうか。
彼女はどう思うだろうか。
怒るだろうか。泣くだろうか。
いまだ、連絡先すら交換してないボクらは、このままもう永遠のお別れの形を作ることができる。ただ、ボクがこの部屋から出ていきさえすれば、それは現実となる。
彼女には、何の非も無い。
あるとすれば、不用心過ぎたということであろうか。
だが、ボクは彼女を無理やりこの室内に連れ込んだという事実があるわけでもなく、これから彼女の口が開けっ放しのバッグから財布を抜き取ることをする訳でもない。なので、彼女に何の実害も無い。残るのは、俗に言う"やり捨てられた"という感覚。
目が覚めボクの姿がないことを見て、その事実を知った時の彼女の姿を想像してみた。なんだか少しばかり身体の奥が熱くなった気がした。
ボクは頭がおかしいのだろう。
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