クリームソーダ的恋愛事情。

アビコさん。

宿の中。

部屋は思ったよりも広く、こざっぱりとしたところであった。


ただ、タバコの臭いが少々こびりついており、あまり換気が行き届いていない環境ではあった。


コンビニを出た後は、何も言わずにずっと僕の手を引いてきた彼女であったが、ここに来て、突如喋り始めた。


「よかった、君と来れて」


そう言うと、年上とは思えないような無邪気な顔を浮かべると僕に抱きついてきた。


その良かったの意味があまり分からなかったが、何となく選ばれたような気がして、嬉しくあった。


「そうですか、良かったです。僕もあなたと来ることが出来て嬉しいです」


そう答え、腰のあたりに手を回してみた。


何となく部屋の何処かでテレビカメラが実は回っていて、これはドラマのワンシーンか何かではないのだろうかみたいな気持ちになった。


別にホテルに来れたことが嬉しい訳でも、彼女と今夜過ごすことになれたことが嬉しいわけでもないし、今ボクが発した言葉は完全なる作りものであるし。
そして、今夜ここで行われる二人の行為もボクにしてみれはそれもまた、完全な作り物である。演技でしかない。何を頭に思い浮かべながら、コトに及んだらいいのであろうか。
彼女の頭の位置はちょうど、ボクの鼻の辺りにくる。
ツヤツヤした綺麗な髪の毛からは何だかシャンプーの良い匂いがした。







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