溢れるお風呂。

アビコさん。

溢れるお風呂。



何がいけなかったのだろうか。原因は明確だ。風呂のお湯を溢れさせたことが悪い。溢れたせいで喧嘩になった。お風呂のお湯を貯めながら寝てしまったのだ。もうじき貯まる頃だなと思いつつベッドに横になった。
はっと気がつけば随分と時が経過しているではないか。これはいかんっと急いで風呂場へ行けば、溢れているではないか。タプタプとお湯が湯船よりこぼれ出て洗い場を浸水させているではないか。やばい。やばい。
急いでキュキュっと蛇口を締めるが、もう遅い。縁までいっぱいになった湯船からはまだざぶざぶとお湯が揺れながらこぼれ落ちている。あちゃーやってしまった。これで何度目だろうか。
またやったの!?と怖い声が部屋より聞こえてくる。はーっと深い溜息が心臓をぎゅっとえぐってくる。
寝ている彼女を起こさずに風呂の準備をしたのはよかったのだが、自分まで寝てしまえばもうどうしようもない。水道代金もガス代金ももったいない。翌日は風呂にもう入りたくない。この無駄を取り戻す意味で。
ごめんよと謝りながら風呂へ入る。いやまあ好きで溢れさせたわけではないのですけれどもね。これは事故なのですよ。出来ることならば、しゅっと貯まったところでお湯を止めに行きたかったわけなのですよ。で、ほら風呂沸いたよと言いながら一緒に入る予定だったんですよね。それが一瞬にしてこのイヤーな空気感になってしまったんですよね。困りましたね。こういった些細なことで男女仲はこじれていくのでしょうね。大きなキッカケなんてものより、こういう小さなことの方がチクチク、チクチクと痛みが効いてくる。浮気とかのほうが潔いというか、いかにもそれが原因です、悪いですという感じがして好感がもてる。風呂が溢れましたってのは間抜けな上になんかムショーに腹が立つ。なんでそんなことになるんだみたいな。例えば、冷蔵庫が少し開きっぱなしで外出したとかも凄く腹にくる。なんかイヤーな気分になる。トレイの電気つけっぱなしとかもそうだ。そういう地味なことの方がむかっ腹にくるってもんだ。ちなみにこのむかっ腹にくるってのは自分に対してだ。相手がそんな失敗をしようとも、自分もたまにするししょうがないよねとなるけれども、自分がした時のダメージがでかい。くそ、またこんなことをした。俺は阿呆なのだろうか、くそ。とね。











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