とある恋する令嬢と、本人的には禁断の恋をしている執事

ソリィ

とある恋する令嬢と、本人的には禁断の恋をしている執事

「ねえ、アル。私、教師を辞めようかと思ってるの。」
「お嬢様……」
「もう、2人きりの時はパピィと呼んで、って言ってるじゃない。私は、アルダが人として扱われない場所なんて嫌い。アルダがこんな目に遭うなら、魔法の教師なんて辞めてやるわよ」
「っ、お嬢――いえ、パピィ様。オレはパピィ様の夢を叶えて差し上げられないのは嫌だ。どうか考え直してください。」
「ふふ…。私の夢は教師じゃない。教師は夢に辿り着くための踏み台よ。賭けに近いけどね。アルダ、飽きっぽいし。」
「…? 確かにオレは飽きっぽいと思いますが、それが今の話と関係あるのですか?」
「ええ。さ、アルダ。もう辞表は出したし、しばらくはノンビリ暮らしましょう」
「……。それでしたら、近々、セトワが長閑な田舎の牧場に嫁ぎ、そこで結婚式を挙げるそうなんです。静養も兼ねて彼女を祝いに行きませんか?」
「まあ、そうなの?是非そうしましょう。」
****
「アルダにパピィじゃないか!まさか来てくれるとは。」
「セトワ、招待状を何度も送ってきてそれは無いんじゃないか? まあ、お嬢様がノンビリとした場所で静養する事を御所望したからな。…結婚、おめでとう。」
「うふふ、ご結婚されると聞いて、祝いに参りましたの。おめでとうございます、セトワ」
「それはありがたいねえ。…ねえ、進展は?」
小さな、パピィには聞こえない程の小声だったが、アルダにはしっかりと届いた。
「…ある訳無いだろう。執事が仕える主に恋慕するなど、有り得ない、在ってはいけない事なのだ。」
同じく小さな声で答えを返し、自分に言い聞かせるように呟く。
「はぁ。変わってないねえ」
セトワは呆れたように溜め息を吐き、肩を竦める。


「セトワ、あのね。アルダがね、名前を呼んで、って1回言うだけで呼んでくれるようになったのよ!大進歩でしょう!?」
「おお、それは凄い。パピィの粘り勝ちだね。あの頑固なアルダを諦めさせるとは、たいした偉業を達成したじゃないか。」
「もう、それはおおげさよ。」
セトワとパピィが楽しげに会話している。アルダはなんだかムカついて来た。
(お嬢様を一番知っているのはオレなのに…!)
「…。お嬢様、行きましょう。」
アルダはパピィの手を取り、強引に歩き出す。
「え、アルダ?どうしたの?」
パピィは戸惑いの声を上げながらも素直に着いて行く。




「あっはははは!あの子ったら、アタシにも嫉妬したのかい!」
しばらくセトワはきょとんとしていたが、大きな声で笑い声をあげる。
「おーい。セトワ、もうそろそろ準備を始めないと。」
しばらくケラケラと笑い続けていたセトワの元へ、男が近づき、声を掛けて来た。
「おや、もうこんな時間か。分かったよ。」
****
数時間後。
セトワの結婚式は順調に進んだ。
「あら、次はブーケトスみたいね」
次は、花束を投げ、受け取れた人物は次に結婚式を挙げられるというジンクスのある慣習のようだ。
「ああ、そうみたいですね。ん?」
ウエディングドレスに身を包んだセトワが、ウインクして口を動かす。
(じれったいから介入するからね、絶対に受け取るんだよ。か?)
ブーケが投げられ、真っ直ぐアルのほうへ飛んでくる。
「うわっ!?」
咄嗟にキャッチ。
「アルダー!パピィー!告白しちゃいなー!絶対成功する事は保証するから、ヘタレて無いで言っちゃえー!」
「「!?」」


「アル! ずっと、ずっと、貴方が好きなんです!結婚してください!」
「お、いえ、パピー!ずっと、ずっと、貴女が好きなんだ!結婚してください!」
告白は、ほぼ同時だった。
奇しくも、文面もほとんど同じ。
アルダはキャッチしたブーケを。
パピィは家紋にある白薔薇の花束を。
互いに差し出した。
「っ、アルダも、私を想っていてくれたんだ…」
「お嬢、いや、パピィも、オレを想っていてくれていたのか…」
うっとりと互いを見詰め合う2人。


「ほらほら、返事は?」
いつのまにか近寄って来ていたセトワが2人を促す。
「アルダ。」
「はい。」
「私を、貴方のお嫁さんにしてくれますか?」
「ええ、喜んで。…パピィ、オレなんかに貰われて、むぐっ!?」
ネガティブな発言をしようとしたアルダの口を、パピィは口で塞いだ。キスである。
わっ、と観衆が湧く。
「私は、貴方、良いんです。貴方以外と結婚する気なんてありませんよ。…あ、そうそう。ファーストキス、なんですよ?」
「~~~~っ」
耳まで熟れたトマトのように赤く染まるアルダに、彼に負けないぐらい赤くなっているパピィ。
「うんうん、わざわざ偽の結婚式をセッティングしてドッキリを仕掛けた甲斐があったよ」
初々しいカップルに、セトワは満足そうに頷いていた。




END



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