マーブルピッチ

大葺道生

第4話【春の大会】

花緑学院ベンチ入りメンバー
1番 赤沢陣 2年生 投手
2番 石田祐一郎 3年生 捕手
3番 青木優斗 3年生 一塁手
4番 高田慎吾 2年生 二塁手
5番 大津俊介 3年生 三塁手
6番 中森隆 3年生 遊撃手
7番 野上拓 2年生 左翼手
8番 清野浩之 2年生 中堅手
9番 寒河江豪 3年生 右翼手
10番 谷口涼真 3年生 投手
11番 水野康平 2年生 右翼手兼左翼手
12番 井ノ口俊 2年生 捕手
13番 堀大輔 2年生 一塁手兼三塁手
14番 黒部遼太郎 2年生 二塁手兼遊撃手
15番 山本銀二 1年生 三塁手
16番 宮道大理 1年生 投手
17番 高坂剛 1年生 遊撃手
18番 水戸蓮 1年生 捕手
19番 徳山達也 1年生 投手兼一塁手
20番 梶尾健 1年生 中堅手


++
4月6日。始業式の翌日の今日はまだ本格的に学期は始まっておらず授業は午前中で終了した。だから練習も軽めにとはいかず、明後日からの試合に向けて野球部では本格的な練習が行われていた。部長の石田と監督の常木は抽選会に行っているため、副部長の青木が仕切っている。
練習開始から2時間ほど経過し、休憩を取っているところだった。隣に座った山本が宮道に話しかけてくる
「宮道は春大、どことやりたいとかあるのか」
「俺神奈川の人間じゃねーし、どこがどうとかわかんねーんだよ」
「そんなお前に俺が神奈川の高校野球事情を教えてやろう」
「「清野さん」」なぜか普段かけていない伊達眼鏡をかけた清野が眼鏡の留め金の部分を指で押し上げながら言う。
「まずは第1シードからだな。これはつまり去年の秋大のベスト4だけど。まずは優勝校横浜学舎。結局ここは春の選抜まで行ってベスト8まで残ったな。まあ前から神奈川では一番コンスタントに優勝をさらってく学校だったんだが、神奈川は強豪が多いからな。正直団子状態だった。でも今のエース御柳が台頭し始めた昨年の夏からは頭一つ抜けたって印象だな」
御柳の名前は宮道も知っていた。おそらく去年の甲子園か何かで見たのだろう。Max145キロの速球、4種類のスライダー、正確無比なコントロールと隙のないピッチングで今年のドラフトの注目株の1人であるという。
「俺中学時代に御柳さんの球を打席で見たことあるよ。デッドボールかと思うような球がピンポン玉みたいに曲がってアウトコース一杯に決まるんだ。えぐかったぜ」
山本が青ざめた顔で言う。
「同じく第1シード、勁草義塾。強いのはもちろんだが、ここは毎年いいピッチャーを何人も揃えてくる投手王国っぷりが特徴だな。あと第一シードは西山大相模。この4校のなかでは安定感があまりないけど、逆にここ10年での県大会優勝回数は横学に次いで2位だ。爆発力のある高校ってことだな。最後の一つは柊光学園、ここは端的に言うなら足のチームだ。1番から9番まで塁に出たらとにかく走る、成功率も当然高い。あと足だけじゃなく今年はドラフト候補のスラッガー有馬もいる。さらに厄介なことに今年は宮道、お前の元チームメイトの柘榴塚祐がいる」
「ええ、そうですね」と宮道はうなずく。
「噂によると早くもスタメンの座を獲得しているって話だぜ」
東北沢シニア不動の1番セカンド柘榴塚祐が同じ地区にいるということは3年間ついて回る問題だろう。
「あとは横浜尚学館、道大藤沢、平和学園、実績はないが去年の夏スタメンに5人も1年がいたのにベスト4まで行った日笠高校なんかも注目だな」
「つか清野さん、ここ10年での県大優勝回数なんてよく知ってますね」という山本に対して、「こいつ高校野球マニアなんだよ」と近くにいた高田が言う。
「違う。俺は戦力分析に余念がないだけだ」
「おい、お前ら楽しそうな話してるじゃねーの」
副部長の青木がスマホ片手に隣に座ってくる。
「1回戦の相手が決まった。小田原北条高校だ。うちが言えた話じゃねーがそこまで強い相手じゃないな。そして2回戦はAシード、柊光学園だ」
皆空いた口が塞がらなかった。まさかたった8枠の二回戦からAシードと当たるところに自分たちが入るとは。
――てかなんでこの人少しうれしそうなんだよ――


++
教室に野球部一同が集まっていた。春大についての作戦会議をするために部室ではとても部員全員と監督が楽に座って話せるようなスペースは取れないため常木が教室を取ったのだ。
「まずは小田原北条からですね」と石田。
石田の説明によれば小田原北条は公立高校。去年の秋大会は予選で敗退。エースの柏崎は左投げ、球速は110から120程度で、スライダーとチェンジアップを投げるという。
「小田原北条は正直あんまりデータがないな。2日後だからノーデータでいかなければいけない場合も覚悟する必要があるだろう」という石田に対して、青木は「大丈夫だろ。俺達なら何とかなると思うけどね」と言う。
「油断するな秋の大会で予選敗退だったのはうちも同じだ」と石田が窘める。宮道はふと疑問に思う。
――そういえば聞いたことなかったけど、先輩方はなんでこんなにレベル高いんだ。俺たちの代は推薦4人に特待生1人だけど、上の学年は推薦2名ずつって話だし。こんな数年前まで女子校で、ほとんど実績のない野球部によくこれだけのメンバーが集まってるな。それにそれだけのメンバーが集まっている割にいは公式戦であまり結果が残せていないようなも疑問だ――
「じゃあ次は柊光だな。とりあえず俺が録画しておいた秋大会の準決勝と決勝がテレビ中継されたものがある」
「さすが石田。用意周到」と青木。
「決勝は7回まで投げた御柳に散発2安打で柊光の良さはほとんど封じられてるからな。時間もないしここでは準決勝だけを見ることにする」
そういって石田がDVDをパソコンに入れるとプロジェクターがそれをスクリーンに映し出す。
映像は柊光と同じく今年の第一シードの一つ西山大相模との対戦だった。結論から言えば見ないほうがよかったかもしれない。それほどまでに自分たちとの力の差を自覚せざるを得なかった。映像はすでに7回の表まで進んでいる。ツーアウトから柊光の6番打者が出塁すると、あっさりと2塁を陥落させる。点差はすでに11-6で柊光が5点リードしていた。
「うへえ、これで盗塁8個目だな」と山本が呟く。
「相模の捕手の葛原ってやつは県内でも屈指の強肩キャッチャーなんだけどな」と青木が言った。
続く7番がセンター前にヒットを打つと、2塁ランナーが快足を飛ばし悠々生還。これで12-6。
「ツーアウトまで追い込んだのに」と中森が言うと、「下位打線でこの攻撃力かよ」と清野が苦笑いする。続けて高田が言う。
「やっぱり初回に4番の有馬が3ラン打ったのは大きいですよね」
「そうだな。この手のチーム相手に追いかけるゲームになると厄介だ。これ以上1点もやらないと思って盗塁を嫌がり直球やクイックの割合を増やしたり、無茶な守備をすればそれこそ相手の思うつぼだ」と石田が言う。
――厄介なのはそれが思うつぼだとしても、必ずしも悪手とは言い切れないことだ。相手の点数を少なくすればするほど勝つ可能性が高くなるのは事実なのだから――
その後の試合展開は両者ともに追加点を入れるものの、結局は14-8で柊光が勝利した。重苦しい空気が流れる中、皆さん、と常木がよく通る声で呼びかける。
「私から1つ提案があります。柊光との試合、と言ってもまずは1回戦に勝たなくてはいけませんが。小田原北条に勝ち、柊光と戦うことになった際、その試合では相手の2塁盗塁を完全に無視してみるのはどうでしょうか」

コメント

コメントを書く

「現代ドラマ」の人気作品

書籍化作品