死神さんは隣にいる。

歯車

67.最後の手段・神頼み

 落ち着こう。まずは、そう、把握だ。何が不味いのか、それの把握が必要不可欠だ。


 僕はしかし落ち込みを隠せず、顔から手をどけないままに、考えを巡らせる。


 まず、この二つの魔法においてどうしようもないのは、両方ともダメージを与える魔法を使う様になり、状態異常を植え付ける魔法ではなくなってしまうことである。いや、多少はあるのかもしれないが、しかし少なくはなるだろう。そのせいで、この異常なほど高いDEX値を利用しにくくなるのだ。


 さらに、上昇するのはINT値で、物理主体な僕にとってはあまり意味のないものでもある。もちろん、このゲームはそのどっちつかずになってしまったキャラのダメージ量もバランスよく調整されるが、少なくとも前ほどサクサク行ける可能性は低い。


 そして、魔法が強くなったところで、何でもかんでもぶち込めるようなMPが僕にはないこと。シオンは極端すぎるが、その他の魔法使いも、ちゃんとMPにステータスポイントを割り振る。僕は通常攻撃主体の、MP回復を怠らず戦う近接職なので、必要ないと切り捨ててきたのだ。しかし、魔法を使うのならば、相応にMPを底上げしなくてはならない。


 止めに、常に近距離で戦う以上、遠距離戦をしないために、魔法を使わない可能性・・・・・・・・・・があること。そもそも物理特化、魔法はサポート程度に、と考えていたのだ。魔法の威力より殴る方が早いし強いし、メリットが薄い。


 これらの理由から、そもそも魔法なんぞ……なんて考えていたのに、なぜ……。


「はぁ……しゃぁないよなぁ……」


 過ぎたるは猶及ばざるが如し、とはいうけれど、流石にこれはなぁ……。やり過ぎたって後悔するのも、後の祭りとは知っているんだけど、でもなぁ……。


 今まで筋力一辺倒で他はどうでもいいやって感じで来たからなぁ……。そっちの方が楽しかったからなぁ……。


 魔法かぁ……。


「まぁ、今考えてもしょうがないか」


 まずはすべてのスキルを見てから判断することにしよう。どっちの方向にするかとか、カバーの方法はまたあとだ。今はとにもかくにも全スキルの詳細を見ることにしよう。そうしよう。


 僕は残りのスキル欄から、詳細を開いた。


――――――――――――――――――――――――――――――
魔筋傾鎧
  自身のSTR値とINT値が大幅に上昇する代わりに、VIT値、AGI値、MND値のステータスが大きく減少する。


  また、DEX値の一部がSTR値とINT値に共有される。


  レベルによって、増加量と減少量が増える。


  ステータスは1未満にならない。


  それは、力を頼ったものが、全知をも求めた証。


  レベル1  上昇値+200
           減少量-100
――――――――――――――――――――――――――――――
一生筋命
  自身のSTR値が大幅に上昇する代わりに、それ以外の四つのステータスが大幅に減少する。


  減少する四つは選べる。


  レベルによって増加量と減少量が増える。


  ステータスは1未満にならない。


  それは、力こそ全てと断じ、全能を求めた証。


  レベル1  STR+500
         減少量-200
――――――――――――――――――――――――――――――


「……ふぅ」


 まあ、そんな気はしていたけども。だってあの・・天外膂力の進化スキルだもの、ぶっ壊れ且つ狂いまくっていてこそだ。すなわちこの結果は必然だったといえる。


 しかし、まあ、その、なんだ。どっちもどっちでアレだな、キッツいな。


 まず、魔筋傾鎧。これは、まぁ、今までの魔法スキル群を考えれば、今のステータスポイントの割り振りを補える唯一の手段だろう。これを選べば、十分に魔法を使用できるだろうし、それこそ一線級とまではいかなくとも、サポートとしては活躍できるだろう。もともと近接だし、手段が増えるのはいいことだ。


 さらに言えば、これからのステータスポイントを費やせば、それこそ一線級だって目じゃない。あの殲滅に長けた魔法職としての本領を発揮できるのである。それはきっと悪い気分じゃないだろう。戦略の幅も広がるし、我らが『極限の三帝』の殲滅戦エキスパートである『理外帝』の真似をできるなら、それはきっと面白いだろう。


 思えば、幾度となく魔法について面白そうなワードを耳にし、その度に「それは何?」と聞きまわったものだ。それでも馬鹿な僕には微妙によくわからない物ばかりだったが、しかし毎度のように「使ってみればわかる」と言われたものである。非常に気になる。


 しかし、しかしだ。今の僕は、筋力一辺倒である。いくら魅力的な物だろうが、しかしそれで筋力を削ってしまっていいものだろうか。


 というわけで、次の一生筋命、これはそのまま。今までとあまり変わらない。違いは火力と、あとステータス減少が四つになったことだろうか。


 アホみたいに筋力が上がり、アホみたいな火力を撒き散らして、アホみたいに簡単に、アホみたいなことを繰り返す。なるほど、いつも通りである。マイナスがもともとステータスが1なことを考えれば別にあまり変わらない。


 ただ、それだけでこれは魅力的だ。STR値が馬鹿みたいに上がる。これほどわかりやすく、強いものもないだろう。ただ一つだけ、上がる。その一つが一番重要で、一番必要なだけだ。


 こっちも、ゲームを楽しむうえで、十分に働いてくれそうである。


 ここまで、この二つだけでは、微妙に筋力特化の方がよさそうである。まず、今までがそうであったために、それで慣れているところ。それに瞬間火力が継続火力を圧倒的に上回っている点に、魔素看破によって、サーチアンドデストロイが更に簡単になったこと。


 これらの理由から、どちらかといえば魔法よりも筋力を取った方がまあまあ有利だ。魔眼『黒死鉄線』のINT値UPや魔法群のINT値UPが微妙に勿体ない気がしなくもないが、しかしそれも次の進化までの辛抱なのだから、地道にレベルを上げていくべきだろう。


 しかし、先ほども言ったように、まだ決めるには早い。最後の、スキル。これを見て、漸くすべての情報が集まる。これで全てが決まる。決められるのだ。


――――――――――――――――――――――――――――――
黒纏衣『影覇』
  最大MPの半分を消費して使用可能。


  発動時、自身の全ての防具を飲み込み、その能力と防御値を参照し、黒纏衣『影覇』を装備する。


        黒纏衣『影覇』装備時、自身のINT値とSTR値が上がり、MPが自動回復するようになる。また、魔力の流れを察知し、放たれた魔法の魔力を吸収し、MPを回復する。


        黒纏衣『影覇』装備時の暗闇での行動中、INT値とSTR値とMPの最大値が上昇し、夜目が利くようになる。また、魔法またはアーツ発動時に威力や効果、チャージ時間に補正がかかる。


        黒纏衣『影覇』装備時での漆幻舞踏発動時、魔力が漏れ出なくなり、素の身体能力が向上する。また、MP自動回復速度が上昇する。


        黒纏衣『影覇』装備時での魔眼『黒死鉄線』発動時、魔眼と連動し、MP吸収効率やMP自動回復率が増加する。また、黒死鉄線の影を斬れるようになる。


        これは暗闇の結晶。暗黒を欲し、暗黒に求められた、残酷なる支配者の黒衣。恐怖と怨嗟をその身に浴びて、しかしそれをものともせず、当然のように堂々と、歩く者の覇装。


       与えるのは、絶望か、それとも……


レベル1  参照値の20%を模倣
      上昇値+20%
――――――――――――――――――――――――――――――


「……………………」


 ……………………はっ。
 な、なにこれ? おかしくない? おかしいよね?
 だ、だだだって、ねえ? これは、ええ? えええ?
 あ、あえ、ええあえ? おえあええうい? ああえ?


 ………………………………ふぅ。


 お、落ち着いたぞ。なんとか、どうにかこうにか落ち着いた。周りの荒れ地度に拍車がかかったが、今の僕の精神状態を元に戻せたんだ。こらてらるだめーじというものだろう。
姉さんがそのたびにドン引きの眼でこちらを見ていて、それに気づいた僕が心に負った傷も、また。


 それはさておき、なんなん、これ? まず、防御値や能力を参照して防具を作成し、それを装備するってこと? てことは、脚の防具の能力が、全部分の装備にも有効化されるってこと? しかもその効果に対する対価がMP半分だけ?


 装備中はINT値とSTR値の上昇。これはいい。でもMP自動回復って何? 相手の魔法に込められたMPを吸収って何? 最初に消費したMPの半分を、すぐに回復できるじゃん。しかも魔法のMPを吸収するってことは、その分魔法の威力弱まるってことだよね?


 夜目? アーツや魔法の威力や効果が上がる? ってことは真っ暗闇が素晴らしく有能ってことだよね? いつも通りじゃん。チャージ時間の補正? ってことは魔法の詠唱とか、『ドレッド・デストロイヤー』の溜とか短くなるの? 強すぎじゃん。おかしい気がするんだけど。これマジで強すぎない?


 極めつけは、なにこれ。素の身体能力の上昇? ってことは、ステータスの大本の、僕の現実での身体能力だよね? これが上昇するって、つまり、ステータス化してそれに合った身体能力になる前の、ステータスが参照する・・・・・・・・・・値が上昇するってこと?


 じゃあ、つまり、AGI値とかVIT値なんかの、今マイナスされている部分の影響を受けずに、身体能力が上がるってこと!?


「え、えええええええ!?」


 おかしい、このスキルおかしい。絶対今手に入るようなスキルじゃない。いや、狂ってる。断言できる。これはバランスが崩壊する。


 なんていったって、今まで僕が考えていた、MPが足りないとか、ダメージ量や継続火力、瞬間火力が減るとか、継続火力が瞬間火力に敵わないとか、それ以前のAGI値が低いせいで追い打ちできないし逃げられないとかってことも全部解決だ。一瞬で、問題部分が丸ッと消える。


 唯一、装備時間が気になるところだが、それは恐らく防具の耐久値とか、MPとか、戦闘中とか、外的要因だろう。少なくとも、これが例え一分も使えないとしても、十分強すぎるといっていい。何しろ一分も無双できる。


 これだけで、僕が筋力特化を目指し続けるメリットは、魔法、近接混合職に切り替えるメリットに追いつかれてしまった。このスキル一つだけで、全てひっくり返ってしまったのだ。


 どういうことだ。こんなバランスブレイカー、普通は出ないはずだ。少なくとも、こんな早く出ない。おかしい。何故出た?


「なんでだと思う?」
「んー、シキメが極端なプレイしてるからじゃない? 私も似た様なの出たし」


 マジかよ姉さんもかよちょっと後で見せて……じゃない。


 そうか、極端なプレイが引き金……。他の低すぎるステータスを補った結果、そうか……。


 僕はシオンが似たようなスキルを手に入れていたことを思い出す。ああ、なるほど……。シオンはこんな感じで……。こんな早くからあのスキルを……。


 しかし、これで、本当に悩むことになってしまった。


 なにより、もしかしたら魔法・近接混合職で、魔法を主体に大鎌を振り回したほうが、効率がいいかもしれない。黒纏衣『影覇』と魔筋傾鎧にはそれを可能とするほどの強さがある。圧倒的と言ってもいい。


 しかし、近接職にはやはり、捨てきれぬロマンがあるし、何よりβ時代、魔法は全く手を付けてこなかった。何となく対処してたし、その仕方も大分ふわっとしたものだった。故に、怖いのだ。


 ああ、くそ。僕はどうすればいいんだ……。
 ………………………。


「……最終手段を、使うか」


 僕は、メニューを開き、メッセージボタンをタップ。そこから、弥栄 ヤヒメ……ノヒメの項目をタップ。さらにそこから、通話ボタンを押した。


 しばしのコール音の後、声が聞こえてきた。


「はいはい、ヤヒメですけどー?」


――――最終手段。すなわちヤヒメ大明神様である。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品