死神さんは隣にいる。

歯車

55.淡色野菜の末路

……とまあ、そんな感じで。
あとは劣化コピーシステムの全力投球により、多分数百メートル(高度)飛ばされてやってきたのですが。


「弁明があるなら聞こうか」
「カッとなってやりました。後悔も反省もすべきはこいつです」
「うん、君もね?」


 何トラウマ植え付けたうえでゲームから追い出そうとしているんですか。過疎るよ? このゲーム始まったばかりなのに、すぐ過疎っちゃうよ?


 というかそもそも、今回僕らはあまり出張らず、ある程度新規勢に出番を譲ってかつ上位陣がはしゃがないよう監視するのが仕事だったよね? なんで最前線でノリノリで指揮を執ってるの?


 貴方の鬼畜指令を、よく理解できない新規勢にぶち込んで、何がしたかったの? それも込みで計算済みだったの? 混乱させるだけさせて、新規勢がおびえちゃってるよ? 恐怖のあまりガクガクしてたよ? 味方に怖がられてどうするの?


 最終的に、黄金林檎のリーダーさんとか幹部連中とか死んだような目をしてたよ? あーこれ後始末どうすんだろとか、そんな次元じゃないレベルでふらふらしてたよ? 中には泣いちゃった人とか、神に祈りだした人とかいたからね?


 PKの人たち、最後の方になると謝罪しかしなくなってたんだよ? 助けてとか懇願しないで、皆土下座して許して許してって、上から見てたし聞いてたけど地獄絵図だったよ? ねえ、教えて? あれが計算通りなら、もうちょっとマシな計算はできなかったんですかね?


「いや、ちょっと待ってください陛下。確かに私も少しはしゃいでしまったのは認めます」
「少し?」
「多少、それなり、いえかなりはしゃいでしまいました! し、しかしですね、この目の前の男の物言いが偉そうで、少し身の程をですね……」
「それ、完全に盗賊の子分が調子乗った言い訳だから。君は僕を親分にでもさせたいのかな?」
「いえ、決してそのようなつもりはっ」


 ……まあ、言いたいことは山ほどあるし、割と現状サレッジあたりがマジで嘆いていそうだが、それらもいったんさて置いておこう。そもそも今回僕らは気まぐれで助けに入り、気まぐれで動いたのだし、それでとやかく問い詰められるようなこともないだろう。多分、きっと、恐らく。


 今はそれよりも大事なことがあるし。


「おい、えっと、ナスビ? で合ってる?」
「ひっ、は、はい!」
「覚えていただいて光栄です、は?」
「シオン、黙ろう?」
「はい」


 全くこの子は、油断も隙もない。


「これで多分、PK側は一人残らず潰しきったと思うんだけど、一応聞いておくよ。黒幕は誰?」


 今回、ナスビもそれに含まれているが、恐らく犯人は複数、それも極めて面倒な戦闘狂、もしくはそれに類似する者たちの犯行だ。そして、今回のような大掛かりなことは、まず提案した、あるいは犯行を激化させた人物、団体がいる可能性が高い。


 前々から練った計画ではあるのだろうが、それの大本と、それの激化を命じたあるいは促した者は、いったい誰なのか。


「…………」
「だ、れ?」
「……えっと、とても、その、言いにくいのですが」
「前置きも定型文も必要ない。質問だけ答えて」
「……はい。首謀者は……かもしかさん、です」
「……は?」
「あら」


 かもしか、ってあれ? あの馬鹿? ばかもしか? マジで? あんな序盤のやられ役みたいな残念臭漂う圧倒的雑魚モブに、リーダー任せたの? 本当に? うそでしょ?


 その超意外過ぎる返答に僕は口の端を引き攣らせた。


「……本当に?」
「ひぃぃ! ほ、本当です! 嘘じゃありません! 他ゲーやってるときに誘われて、俺は止めとけと言ったんですけど! マジです! 信じてください!」
「……シオン、マジで何やったの?」
「飢えた犬がヒツジにするように、追い詰めただけですよ」


 うっそだぁだって目の前のこいつ処刑目前になって、自分の言うことを本気で信じてって顔する無罪人みたいな顔してるよ? 明らかになんかやったとしか思えないんだけど。


 それにしても、ここまで大掛かりな計画を、あんな小物臭のする雑魚が発案だけならまだしも、実行に移す? それができるような器には見えないし、事実普通に弱かったし、確証が持てないな。


「なあ、ナスビ。他に話すようなことは、本当に何もないのか?」
「ひっ、え、ええと……あっ、す、すいません、すいませんでした! 本当に申し訳ありません! すいません! ごめんなさい!」
「なんだ? なにかあったのか? 話せ」
「は、はいぃ……え、ええと、確かかもしかのやつ、計画の初期段階で、構想を練ってくれた協力者がいるとか、話してたような……」
「……んー、なるほど。わかった、ありがとね。シオン?」
「はい、心当たりはすでにもういくつか挙げてあります。後は絞るだけです」
「さっすが。あ、でも一応後でリストを頂戴。一番可能性が高い奴とか低いやつとかも全員」
「承知いたしました」


 流石シオンだ。恐らく大体の目星はこのアホみたいなPK騒動が起こった時からある程度付けていたのだろう。前と全く変わっていない。常に何かが起こる前に、全てを察したうえで自分たちに多くの利が入るように動く。それも綿密な計算と全ての可能性を考慮したうえで動くからいつも本当に助けられる。


 僕なんていつも勘だけで動く・・・・・・から、皆には迷惑ばかりかけてしまうからなぁ。結果的に同じだったとしても、その過程がまるで違うし。


「陛下、そちらの者はいかが致しましょう?」
「ああ、これ?」


 僕がシオンに感心していると、当の本人が、まるで処刑間近にして、今か今かと怯える囚人のような、蒼褪めきった顔のナスビに視線を向けて言った。確かにそういえばこいつのことは何も処断していなかった。


 ええと、確かシオンに向けて侮辱したんだっけ? いや違う? あれ?


「……そういえば、詳しい状況何も聞いてないんだけど」
「ではご説明させていただきます」
「おお、よろしく」
「まず、私が最前線で目立たずコッソリ暗躍していると」
「うん、ナスビ君、説明しろ?」
「えっ、は、はい」


 ……あれのどこが、こっそり暗躍だったんでしょうか。説明どころか疑問ばかりが増していったのだが。しかも今の一言で。流石にこれは任せられない。


 ナスビ君説明中――――


「うん、シオン、とりあえず正座」
「な、なぜですか!」
「なぜも何もあるか!」


 なんつー下らない言葉遊びでトラウマ量産しとるんじゃお主は!


 流石に、ただ一言「狙え」って言っただけで侮辱ととるとか、問答無用すぎるでしょ。それ言ったら言葉全般アウトだよ。どんな思考したらそんな結論になるのさ。ありえないわぁ。さっきの感心を返せ!


 頬を引き攣らせながら、僕はそれは置いといてと、まずこの緑黄色野菜を処刑するという謎極まりない恨みと共に動いた哀れな淡色野菜ナスビに向き直った。


「ま、まあ、とりあえずシオンの処罰は後回しにして、ナスビ」
「っ! は、はい!」
「まず、今回の出来事はお前らの自分勝手な望みのせいで、多くのプレイヤーに迷惑をかけたこと、自覚してるな?」
「……はい」


 今回の出来事は、PKを大量に増やして、このゲームを世紀末にでもしてやろうという望みが見えた。そして、その望みのために、それを望まない平和主義者たちに迷惑をかけた。そもそもこのゲームはプレイヤー同士の戦争はコンセプトではない。


 その結果、普通のプレイヤーがモンスターを狩るのに適さないステータスとなり、強制的にPKへの道を選択せざるを得なくなった。


「次に、今回のやり口が、勧誘ではなく欺瞞であったことも、きちんと理解しているな?」
「……はい」


 今回は、PKの性質を伝えられず、騙されてPK側に行ってしまったものも多い。当然、そういうガセネタで釣るのはとてもよろしくないことであるし、ちゃんとした勧誘ではなかった時点で後々破綻するのは目に見えていた。


 にも拘らず、無理に押し通し、結果こうして大勢のプレイヤーのレベルが上がっていない。プレイヤーを倒すよりモンスターを倒したほうが、デスペナルティも付かず効率よく進められたのに。


「最後に……人様に迷惑をかけた時、罰を受けるのが当然であることも、理解しているよな?」
「っ……はい」
「ならばよし。次こういうことがあれば、余は貴様を許さない。死んでも逃げても追いかけ続け、殺し尽くすと確約しよう。しかし、迷惑をかけず、騙してもおらず、公言できるやり口なら、構わない」
「……はい?」


 目の前のナスビがきょとんとした顔をこちらに向けた。それもそうだろう。シオンが怖かったから、信賞必罰は絶対で、罰がとても恐ろしいモノだと信じ込んでいたのだろうし。


 だけど、別に僕自身、今回のことは誰が悪いということもないと思う。むしろさっきの戦闘で対人戦でも満足のいく結果であったんことが判明したのだから、プラスだとさえ思える。


 確かに、彼は多数のプレイヤーに迷惑をかけたのだろう。だが、それでも多くのプレイヤーを纏め上げ、活かし、こうして一大イベントを巻き起こした。その手腕は評価されるべきものだと思うし、きっと多くのプレイヤーもお祭り気分で許してくれるだろう。


 それに何より、僕は人を裁けるほど偉くはないし、こうして楽しませてもらった側だ。ならば言えることは何もない。強いて言うなら……そう、強いて言うなら。


 感想を言うくらい、かな。


「今回、多くのプレイヤーが、綺麗に嘘を信じ込み、尚且つこうして大騒動まで発展した。それはきっと悪いことだろう、しかしそれはナスビ君、君の能力があってこそできた状況だ」
「っ!?」
「……なかなか楽しかった。次は、上手くやるといい」
「っ、あ、ありがとうございます! 光栄です!」


 僕はナスビ君に背を向け、肩越しにシオンに帰る旨を伝えた。


 さて、ひとまず戦闘終了!



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