死神さんは隣にいる。
50.憤怒の女王
「サァ、見事に踊ってくださいな♪」
MPの回復速度が霊の使役、召喚の消耗速度を上回っているため、未だに増え続けている霊たちに、それでも尚足りぬと忙しなく指示を出し、相手の一挙手一投足まで完璧にコントロールする。一歩目から続いて二歩と足を踏み出す瞬間、その時には勝負が終わっているのです。そして相手はそれを知らない。ふふっ、なんと愚かしい。
道化のごとく戦場を戦術も恥も捨て去った残念な連中であふれかえる様は見ていて滑稽の一言……いえ、一周回って圧倒的と評すべきですね。最早何が起こっているのか自分でもわかっていないのでしょう。
私は、そんな全パーティがくるくると真円を描くように回っている様を見ながら、思わず微笑が零れます。余りにも脳がお粗末なもので、まさかこんな遊びが本当にできるなんて、自分自身驚いているのです。
人間は愚かで、知恵ありきと称する癖にその知恵を本能で扱う。故にどれだけ思慮深くとも結果は愚物の一言に終わる、そんなことは世界の歴史が証明しています。
しかしまさか、ここまで馬鹿であったとは思いもしませんでした。こんなにも人間で遊んだことは一度もありませんでしたね。いやはや、やってみるものです。犬へのおまわりの指令は、人間にも使えるのですね、ふふふっ。
隊列を乱そうとするものは霊たちを使って抑え込み、時折発狂して暴走する謎の連中は新規勢に処理を任せ、新規勢がPK達を、上位陣が新規勢の手助けを、PK達は一人でも多く、後続のために上位陣をと仕掛けた結果、まさか自分を中心にぐるぐる回りだすなんて。
「Hの六番、動きが遅くありません? 怠惰は許しませんよ。Kの八番、F隊の援護へ向かいなさい。I隊はCの五、十、十二番が後退するのでそれのカバーを、ああ、別に倒してしまっても構いません」
とはいえ、笑ってばかりいるとせっかく楽しい遊びを誰かが崩してしまいかねません。作った粘土細工はそこからさらに工夫を凝らすのが楽しいのです。決して誰かに踏みつぶされるのが望みではありません。
霊たちは、私が思う通りに動きます。声に出す必要は特にありませんし、というかいちいち声に出していたら追いつきません。思考し、脳で命ずるのが一番早い。だからこそ命令を迅速にこなし、それを含めて演算できるのですから。
まあ、時折フェイクを混ぜて相手をだますのが楽しい、ので。
「Jの八番、右斜め上に上昇し、狙撃を落としなさい」
「……なっ、このルートならば霊たちは別の戦場へと……」
「戦力の逐次投入が愚策なのは、各個撃破されて無駄死にさせるのが忍びないからであって、無駄でなければ問題はないんですよ?」
生まれ続ける霊たちは、当然私から出現する。故に私は霊たちの拠点であり、その拠点に霊が一度でもいないということはありえない。
ああ、なぜこんなこともわからないのでしょうか。愚か、実に愚か。しかし、偶にはいいでしょう。とても自分が上の存在に思えて、優越感が堪らない!
「クソっ、なんだあの女、こんな戦場で気味悪い満足気な笑み浮かべやがって……!」
「よせっ、相手はあの女王だぞ!?」
「うるせぇっ、どうせもう俺らは終わりだ!」
おやおや、仲間割れも始まっているみたいですね。まあ、予想の範囲内ですが。
しかし、陛下からは、「皆殺し」の命を賜っているのであるが故、ただ一人も逃すわけにはいきません。
「嗚呼、とても素晴らしい。今日は何ていい日なんでしょう」
陛下とこのゲームで再会し、さらにはこんな見世物を、自由に扱えるだなんて。
私はいまだ衰えぬ勢いで増え続ける霊たちに愉悦の表情を向け、さらに広範囲に侵食を発動。そして、指示を。
「殲滅です。欠けなく包囲し、潰しなさい」
大量の霊たちが咆哮を上げながら、一気呵成に、勇猛果敢にPK達に食らいつき、そのデータ上の肉を、骨を、装備を鎧を武器を全てを、崩壊の牙で噛み砕いていきます。
弱い者はそれで容易くHPを0にされてしまいますが、、まだマシな者は数ドット程度HPを残らせ、後の新規勢に見せ場を残します。。物量攻撃はあまり楽しくはありませんが、これも一興と思うことにしましょう。
いつの間にか数千を超えた霊たちが殺すギリギリでPKのHPを削り取り、そのすべてを新規勢が破壊させていきます。勇猛果敢に(あるいは臆病ながらそこまでして漸く)新規勢が追い立てるのを見ている上位陣が私に怯えた小動物のような表情を向けてきましたが、そういうのは陛下にしてもら……っと、口が滑りました。
まあ、ソレはさて置いておくとして。
そろそろ増えすぎて万の域に達しそうな霊たちをさらに班で分け、隊列を組ませて、さらに『黒金冥府』で強化し、広く広く、戦場を超えてさらに遠く、遠くへ。
そろそろ来るであろう敵の本陣の方向へ霊たちを向かわせます。拠点は確かに大勢いるのでしょうが、宣戦布告なんて上等な手段をとる愚行は犯しません。有力な連中は今狩りに出ているはずです。故に、この状況を知ればすぐに帰ってくることでしょう。
しかし、怒りに任せてまっすぐ帰る馬鹿ならここまで面倒な会議等をする必要がありません。恐らく奇策を衒って南東の歩きにくい岩場を集団で通り抜けてから来るので、その岩場に仕掛けておきましょうか。
「『霊操共感』」
霊たちと感覚の共有を行うスキルを発動。こちらはMP消費もないので楽ですね。ただまあ、まさか今の今まで一度も使う必要がなかったなんて、思いもしませんでしたが。
……あら? 少し遅かったですね。交戦が発生していますが、少し消耗率が低めです。交戦の音が小さいので、私たちにバレない様にするための余裕があるご様子。
もう少し増やしましょうか。
U隊とV隊に命令。まあ、軽く100匹ほど向かわせます。
こちらは『黒金冥府』で強化せず、ただビックリさせるための仕掛けみたいなものですので、あまり強くはないのですが……ふむ、これくらいですかね。撤退しないが捨て置けもしないほどの消耗率は多分これくらいでしょう。予想通りの布陣になりましたね。
先頭を機動力重視の魔法使い、要するに手数命のPKで固め、左右翼は槍兵等、リーチの長い武器を持った者たち、後部は純正の魔法使い、すなわち本来の殲滅要員ですか。大方先頭部の連中は捨て駒ですね。引っ掻き回したところを後部の連中で諸共終わらせる感じですか。
先の霊たちがちょっかいをかけたところもあって、後部が少し慎重ですね。MPを大分消費したみたいです。数にものを言わせての特攻は消耗させるにはうってつけですから。
そんなところですかね。悪としては随分と普通な戦法です。奇抜な方法を下手な失敗はできないと思ったのですかね。シンプルでまあまあといったところでしょうか。
しかし、この状況で、私がいるというのに管理が面倒だからとシンプルな陣形で、しかも先ほどのトラブルから陣形の変更もしなかったのですかね。随分と相手側の参謀は無能ですね。
これでは最初の段階に穴ができるでしょうに。
「うおっ?」
「あ、クソっ、待ちやがれ!」
「な、なんでそんな簡単に抜けて……」
「クソっ、先頭の連中は何をやってんだ!」
「突撃陣形が、壊れて……!?」
先程の霊たちにより、機動性重視の攪乱用魔法使い自体のMPが損傷し、多少ですが絶対数すら減っているはずです。にもかかわらず彼らを頼り、あまつさえ捨て駒に使おうとするなど、愚の骨頂。
ここは消耗を恐れて、まず休憩などを挟んでから、長期戦及びそれに似た耐久戦をすべきですね。そうすれば少なくとも大局的には利益もありつつ、それなりに戦えたというのに。
――――なんて、他人事のように、私は冷静に考えていたのです……ですが。
「うおおおおおお! あの中心の女王を狙え! 奴こそが情報に在った【終末最強の女王】、シオンだ!」
――――その声に、私は耳を震わせ、いえ、自身の耳を疑いました。
彼らは、私を前に、狙え? どの口が?
まさか、そんなこと、いくら愚かとはいえ、そんなふざけた言葉を発するはずがないでしょう。私の耳も、少しおかしくなってきていたのでしょうか?
しかし、現実には、こんなにも私に向かって襲い掛かる愚か者ばかり。ああ、それはまるで罠にかかった蝶を追い詰める蜘蛛のように、悍ましい勝ち誇ったような顔で。
否が応にも、理解せざるを得なかった。
「…………」
今回は私が蹂躙するわけでも出張って衝突するわけでもなかった。あくまで私は補佐。指示も出しますし多少身を守る程度のことはしますが、それ以上は出しゃばり過ぎというもの。そうなれば上位陣が何を言い出すか知れたものではない、という話だったのに。
何より今回は、新規勢が雪辱を果たすことこそが目的。元部外者の私はこの戦いに本腰を置いているわけではないのですから、私を狙わず、追わず、徹底して逃げていれば、殲滅だけは逃れられたのに。
ああ、残念です。彼らは私を狙った。
狙え、なんて、侮って。
「……全部隊、強制招集。全域に向け『侵食』開始」
出した命令に従い、淡々と地面を侵していく霊たち。
戦場が、黒く、黒く。狂気と怨嗟に苛まれ、悍ましく色を変えていく。黒よりも尚、漆黒に、残酷に、凄惨に――――
「こんにちは、PKの皆様方」
まずは挨拶を、陛下の右腕と見られているのだから、それに恥じない礼節を以て、完璧に、かつ圧倒的に。
「混沌よりも尚惨たらしく、鮮烈に、凄絶に。嗚呼、果てもなく永遠に」
これは主を、陛下を讃える讃美歌。陛下への忠誠と、絶大な信頼と、その神々しさと、完全さと、そのすべてに負けぬと誓う、私自身の熱情を、最大限に込めて謳う、心よりの賞讃の歌。
「世界の何よりも尊き御身、その者神など霞むほどに」
この身を懸けて世界のすべてに、今こそ届けと願い祈る。
この身は全て彼の者に捧げ、嗚呼それでもまだ足りない。
私だけでは足りていない、貴様らも潔く跪いて明け渡せ。
「全ての存在は王へ捧げられ、永遠はここに成される――――」
人も、動物も、植物も、あるいはただの物でさえ。
すべては彼の者、ただ一人のために在る。
ならば捧ぐは世界の道理。永遠すら王の為の言葉。
神か、あるいは悪魔でさえ、永遠を捧ぐ為に希うのだから。
「――――至高たりし覇王『シキメ』様。その右腕たる私に、こともあろうに狙え、などと?」
先程の発言、ありえないと、幾度となく思いましたが、彼らの眼を見て事実なのだろうと、仕方なく理解いたしました。
まさかこの者たちは、陛下に仇成すばかりでなく、よもやその幹部を拝命している私を、獲物だとでも思っている、なんて。
無礼千万、言語道断。それを言い出し、あまつさえ広めたあの真ん中の天井知らずな愚か者は、塵も残さず、まして遺言など一笑に付して、生き汚く愚かしく、戻っても失せてもその身に恐怖が残るように。
徹底的に、終わらせましょう。
「ああ、ほら、ほらほら、何をしているのですか?」
声高々に、努めて冷静に放った言葉は戦場に深く浸透し、まるで鐘のように響いた。だというのに、これを聞いて尚、まだ立ち止まる愚か者が、まさかここにはいませんよね?
さあ、感動に打ち震えている場合ではないんですよ? そうです、最早ここはあなた方の戦場ではありません。私の聖戦です。
MPの回復速度が霊の使役、召喚の消耗速度を上回っているため、未だに増え続けている霊たちに、それでも尚足りぬと忙しなく指示を出し、相手の一挙手一投足まで完璧にコントロールする。一歩目から続いて二歩と足を踏み出す瞬間、その時には勝負が終わっているのです。そして相手はそれを知らない。ふふっ、なんと愚かしい。
道化のごとく戦場を戦術も恥も捨て去った残念な連中であふれかえる様は見ていて滑稽の一言……いえ、一周回って圧倒的と評すべきですね。最早何が起こっているのか自分でもわかっていないのでしょう。
私は、そんな全パーティがくるくると真円を描くように回っている様を見ながら、思わず微笑が零れます。余りにも脳がお粗末なもので、まさかこんな遊びが本当にできるなんて、自分自身驚いているのです。
人間は愚かで、知恵ありきと称する癖にその知恵を本能で扱う。故にどれだけ思慮深くとも結果は愚物の一言に終わる、そんなことは世界の歴史が証明しています。
しかしまさか、ここまで馬鹿であったとは思いもしませんでした。こんなにも人間で遊んだことは一度もありませんでしたね。いやはや、やってみるものです。犬へのおまわりの指令は、人間にも使えるのですね、ふふふっ。
隊列を乱そうとするものは霊たちを使って抑え込み、時折発狂して暴走する謎の連中は新規勢に処理を任せ、新規勢がPK達を、上位陣が新規勢の手助けを、PK達は一人でも多く、後続のために上位陣をと仕掛けた結果、まさか自分を中心にぐるぐる回りだすなんて。
「Hの六番、動きが遅くありません? 怠惰は許しませんよ。Kの八番、F隊の援護へ向かいなさい。I隊はCの五、十、十二番が後退するのでそれのカバーを、ああ、別に倒してしまっても構いません」
とはいえ、笑ってばかりいるとせっかく楽しい遊びを誰かが崩してしまいかねません。作った粘土細工はそこからさらに工夫を凝らすのが楽しいのです。決して誰かに踏みつぶされるのが望みではありません。
霊たちは、私が思う通りに動きます。声に出す必要は特にありませんし、というかいちいち声に出していたら追いつきません。思考し、脳で命ずるのが一番早い。だからこそ命令を迅速にこなし、それを含めて演算できるのですから。
まあ、時折フェイクを混ぜて相手をだますのが楽しい、ので。
「Jの八番、右斜め上に上昇し、狙撃を落としなさい」
「……なっ、このルートならば霊たちは別の戦場へと……」
「戦力の逐次投入が愚策なのは、各個撃破されて無駄死にさせるのが忍びないからであって、無駄でなければ問題はないんですよ?」
生まれ続ける霊たちは、当然私から出現する。故に私は霊たちの拠点であり、その拠点に霊が一度でもいないということはありえない。
ああ、なぜこんなこともわからないのでしょうか。愚か、実に愚か。しかし、偶にはいいでしょう。とても自分が上の存在に思えて、優越感が堪らない!
「クソっ、なんだあの女、こんな戦場で気味悪い満足気な笑み浮かべやがって……!」
「よせっ、相手はあの女王だぞ!?」
「うるせぇっ、どうせもう俺らは終わりだ!」
おやおや、仲間割れも始まっているみたいですね。まあ、予想の範囲内ですが。
しかし、陛下からは、「皆殺し」の命を賜っているのであるが故、ただ一人も逃すわけにはいきません。
「嗚呼、とても素晴らしい。今日は何ていい日なんでしょう」
陛下とこのゲームで再会し、さらにはこんな見世物を、自由に扱えるだなんて。
私はいまだ衰えぬ勢いで増え続ける霊たちに愉悦の表情を向け、さらに広範囲に侵食を発動。そして、指示を。
「殲滅です。欠けなく包囲し、潰しなさい」
大量の霊たちが咆哮を上げながら、一気呵成に、勇猛果敢にPK達に食らいつき、そのデータ上の肉を、骨を、装備を鎧を武器を全てを、崩壊の牙で噛み砕いていきます。
弱い者はそれで容易くHPを0にされてしまいますが、、まだマシな者は数ドット程度HPを残らせ、後の新規勢に見せ場を残します。。物量攻撃はあまり楽しくはありませんが、これも一興と思うことにしましょう。
いつの間にか数千を超えた霊たちが殺すギリギリでPKのHPを削り取り、そのすべてを新規勢が破壊させていきます。勇猛果敢に(あるいは臆病ながらそこまでして漸く)新規勢が追い立てるのを見ている上位陣が私に怯えた小動物のような表情を向けてきましたが、そういうのは陛下にしてもら……っと、口が滑りました。
まあ、ソレはさて置いておくとして。
そろそろ増えすぎて万の域に達しそうな霊たちをさらに班で分け、隊列を組ませて、さらに『黒金冥府』で強化し、広く広く、戦場を超えてさらに遠く、遠くへ。
そろそろ来るであろう敵の本陣の方向へ霊たちを向かわせます。拠点は確かに大勢いるのでしょうが、宣戦布告なんて上等な手段をとる愚行は犯しません。有力な連中は今狩りに出ているはずです。故に、この状況を知ればすぐに帰ってくることでしょう。
しかし、怒りに任せてまっすぐ帰る馬鹿ならここまで面倒な会議等をする必要がありません。恐らく奇策を衒って南東の歩きにくい岩場を集団で通り抜けてから来るので、その岩場に仕掛けておきましょうか。
「『霊操共感』」
霊たちと感覚の共有を行うスキルを発動。こちらはMP消費もないので楽ですね。ただまあ、まさか今の今まで一度も使う必要がなかったなんて、思いもしませんでしたが。
……あら? 少し遅かったですね。交戦が発生していますが、少し消耗率が低めです。交戦の音が小さいので、私たちにバレない様にするための余裕があるご様子。
もう少し増やしましょうか。
U隊とV隊に命令。まあ、軽く100匹ほど向かわせます。
こちらは『黒金冥府』で強化せず、ただビックリさせるための仕掛けみたいなものですので、あまり強くはないのですが……ふむ、これくらいですかね。撤退しないが捨て置けもしないほどの消耗率は多分これくらいでしょう。予想通りの布陣になりましたね。
先頭を機動力重視の魔法使い、要するに手数命のPKで固め、左右翼は槍兵等、リーチの長い武器を持った者たち、後部は純正の魔法使い、すなわち本来の殲滅要員ですか。大方先頭部の連中は捨て駒ですね。引っ掻き回したところを後部の連中で諸共終わらせる感じですか。
先の霊たちがちょっかいをかけたところもあって、後部が少し慎重ですね。MPを大分消費したみたいです。数にものを言わせての特攻は消耗させるにはうってつけですから。
そんなところですかね。悪としては随分と普通な戦法です。奇抜な方法を下手な失敗はできないと思ったのですかね。シンプルでまあまあといったところでしょうか。
しかし、この状況で、私がいるというのに管理が面倒だからとシンプルな陣形で、しかも先ほどのトラブルから陣形の変更もしなかったのですかね。随分と相手側の参謀は無能ですね。
これでは最初の段階に穴ができるでしょうに。
「うおっ?」
「あ、クソっ、待ちやがれ!」
「な、なんでそんな簡単に抜けて……」
「クソっ、先頭の連中は何をやってんだ!」
「突撃陣形が、壊れて……!?」
先程の霊たちにより、機動性重視の攪乱用魔法使い自体のMPが損傷し、多少ですが絶対数すら減っているはずです。にもかかわらず彼らを頼り、あまつさえ捨て駒に使おうとするなど、愚の骨頂。
ここは消耗を恐れて、まず休憩などを挟んでから、長期戦及びそれに似た耐久戦をすべきですね。そうすれば少なくとも大局的には利益もありつつ、それなりに戦えたというのに。
――――なんて、他人事のように、私は冷静に考えていたのです……ですが。
「うおおおおおお! あの中心の女王を狙え! 奴こそが情報に在った【終末最強の女王】、シオンだ!」
――――その声に、私は耳を震わせ、いえ、自身の耳を疑いました。
彼らは、私を前に、狙え? どの口が?
まさか、そんなこと、いくら愚かとはいえ、そんなふざけた言葉を発するはずがないでしょう。私の耳も、少しおかしくなってきていたのでしょうか?
しかし、現実には、こんなにも私に向かって襲い掛かる愚か者ばかり。ああ、それはまるで罠にかかった蝶を追い詰める蜘蛛のように、悍ましい勝ち誇ったような顔で。
否が応にも、理解せざるを得なかった。
「…………」
今回は私が蹂躙するわけでも出張って衝突するわけでもなかった。あくまで私は補佐。指示も出しますし多少身を守る程度のことはしますが、それ以上は出しゃばり過ぎというもの。そうなれば上位陣が何を言い出すか知れたものではない、という話だったのに。
何より今回は、新規勢が雪辱を果たすことこそが目的。元部外者の私はこの戦いに本腰を置いているわけではないのですから、私を狙わず、追わず、徹底して逃げていれば、殲滅だけは逃れられたのに。
ああ、残念です。彼らは私を狙った。
狙え、なんて、侮って。
「……全部隊、強制招集。全域に向け『侵食』開始」
出した命令に従い、淡々と地面を侵していく霊たち。
戦場が、黒く、黒く。狂気と怨嗟に苛まれ、悍ましく色を変えていく。黒よりも尚、漆黒に、残酷に、凄惨に――――
「こんにちは、PKの皆様方」
まずは挨拶を、陛下の右腕と見られているのだから、それに恥じない礼節を以て、完璧に、かつ圧倒的に。
「混沌よりも尚惨たらしく、鮮烈に、凄絶に。嗚呼、果てもなく永遠に」
これは主を、陛下を讃える讃美歌。陛下への忠誠と、絶大な信頼と、その神々しさと、完全さと、そのすべてに負けぬと誓う、私自身の熱情を、最大限に込めて謳う、心よりの賞讃の歌。
「世界の何よりも尊き御身、その者神など霞むほどに」
この身を懸けて世界のすべてに、今こそ届けと願い祈る。
この身は全て彼の者に捧げ、嗚呼それでもまだ足りない。
私だけでは足りていない、貴様らも潔く跪いて明け渡せ。
「全ての存在は王へ捧げられ、永遠はここに成される――――」
人も、動物も、植物も、あるいはただの物でさえ。
すべては彼の者、ただ一人のために在る。
ならば捧ぐは世界の道理。永遠すら王の為の言葉。
神か、あるいは悪魔でさえ、永遠を捧ぐ為に希うのだから。
「――――至高たりし覇王『シキメ』様。その右腕たる私に、こともあろうに狙え、などと?」
先程の発言、ありえないと、幾度となく思いましたが、彼らの眼を見て事実なのだろうと、仕方なく理解いたしました。
まさかこの者たちは、陛下に仇成すばかりでなく、よもやその幹部を拝命している私を、獲物だとでも思っている、なんて。
無礼千万、言語道断。それを言い出し、あまつさえ広めたあの真ん中の天井知らずな愚か者は、塵も残さず、まして遺言など一笑に付して、生き汚く愚かしく、戻っても失せてもその身に恐怖が残るように。
徹底的に、終わらせましょう。
「ああ、ほら、ほらほら、何をしているのですか?」
声高々に、努めて冷静に放った言葉は戦場に深く浸透し、まるで鐘のように響いた。だというのに、これを聞いて尚、まだ立ち止まる愚か者が、まさかここにはいませんよね?
さあ、感動に打ち震えている場合ではないんですよ? そうです、最早ここはあなた方の戦場ではありません。私の聖戦です。
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