死神さんは隣にいる。
46.演出の意味とは……。
しばらくシオンになされるがままにされていると、大分それらにも慣れてきて、そんな自分が嫌になって、でも拒めなくて……そんな虚しい繰り返しをし続け、堂々巡りにも飽き飽きしてきた頃、漸く目指していた場所が見えてきた。
地上よりはるか遠い上空から見下ろすと、正しくゴミのように黒とか白とか赤とか青とか、金や銀も珍しくはなく、ピンクに茶色、山吹色とはずいぶんと渋いな。ともかく、いろんな頭髪が点々に見える。恐らくあれが集合場所だろう。
シオンもそれを見つけたようで、そこへ向けてゆっくりと降下――――せず、そこより少し離れた場所に降りた。
「どうしたの?」
「いえ、空から人が飛んで来たらビックリするでしょうし」
「それもそうだね」
確かにそうだ。
「あと、演出にこだわりたかったもので」
「演出?」
「はい、演出です」
そう言って、シオンは人差し指を唇に持ってきて「しー……」と小さく息を吐き、こっそりと、おそらく会議中であろう一堂に会している面々に近づいて行った。もちろん僕を背負いつつ。
ゆっくり、ゆっくりと、音を立てずに移動するシオン。何をしようとしているのかよくわからないが、何かやってはいけないことを企んでいることだけはわかる。咄嗟に止めようとしたが、静かにと怒られてしまった。ごめんなさい。いや僕謝る必要ないよね?
そして、もはやいつ見つかってもおかしくない木の陰に隠れた後、そっと僕を下ろした。流石に僕も音をたてないように葉っぱを踏むことは造作もないのでそっと地面に降り立つ。忍び足はお手の物である。いやだから何これ。普通に出ていこうよ。なにやってるのさ。
そんな疑問符を顔に浮かべた僕の耳元で、シオンは囁いた。耳がくすぐったい。
「これから私が一人で赴きます。隠れながらあの上座の椅子に座っていてください。合図をしたら、ご挨拶を」
「……ねえ、これやる意味あるの?」
「あります。断言します」
「……シオンがそう言うなら」
仕方ない。ここまで頑ななら、もうどうしようもないし、諦めてくれそうもない。とりあえず、言われたことを熟すとしよう。なあに、言われたことも僕のスキルを以てすれば余裕だ。
宣言通り、まずはシオンが赴いた。
――――宣言していなかったところは、出合頭にブチかましたところかな。
「『侵食』」
そう一言呟き、シオンはいつの間にか生み出した土塊を握りしめた。それはどことなく長剣を想起させた。
土塊の剣は、見る見るうちに黒く、悍ましく染まっていく。シオンからも黒いオーラのようなものが立ち込め、辺りに漂う――――否、蝕む。それはまるで、空間を侵食しているようだった。
そして、そのオーラは周囲の地面も黒く染め、木々を、小石を、落ち葉を、周囲の物体全てを黒く染めていく。
ミシリ、ミシリと何かが軋んでいる音がする。空気が侵食され、悲鳴を上げている。何もかもを飲み込み、喰らい、侵していく。それでも尚黒く、ただひたすらに黒くあたりを染め上げていく様は狂気的に思えた。
不意に、バキンッと音が鳴った。シオンが地面に落ちている黒く染まった小枝を、踏み抜き折ったのだ。僕はすぐに隠形スキルをかけた。次の瞬間、視線が一気にシオンの方へ向いた。
しかしシオンは動ずることなく、ただにやりと顔を悪く歪めた。
そして――――
「『壊絶・砲』――――ッ!!」
黒く染まった土塊の剣は、その黒を周囲に振りまき、悍ましく肥大化させた。黒土塊の長剣は弾けるように砕け、内側から黒いオーラを大量に噴出した。
それら一切合切が寄り集まって形を成し、大剣のように見えなくもない、巨大な何かに変わった。それを握りしめ――――シオンは、両手を振り抜いた。
途端、轟音。絶叫、後にそれらは驚愕から悲鳴へと変わり、敵襲を知らせる警戒になった。地面を抉り取るように放たれた黒が、会議机とその周囲を分断するように薙がれたため、うかつには動けないと思ったのか、リーダーたちは声を上げるだけに留める。
警戒が全員に行き渡ったところで、首謀者が出てきた。
そう、シオンだ。
「! ……な、んで。シオンさん」
サレッジは割れんばかりに目を見開き、呆然としている。そんなにショックかね。まあこの構図なら、シオンが敵に見えるか。そりゃ絶望か。
僕だって、シオンとはなるべく戦いたくないし。僕はいそいそと会議机の上座にある席に、椅子をこっそり持ってきて座る。
「サレッジ、さん。ですよね。合ってますか?」
「え、ええ。そうですけど。なんで俺の名前を? いや、そうじゃなくて、ええと」
「ええ、言いたいことはわかります。なぜこんなことをしたのか、ですか?」
「……はい」
「なぜって、そんなの簡単なことですよ」
「かん、たん……ですか?」
「ええ。非常に」
サレッジはいまだに呆然としている。まあ、言いたいことはわかる。絶望が来た理由は実はちょっとした演出のためで、正直それ以外に興味はない、なんて馬鹿みたいな、本当に簡単な理由でやられるとは思うまい。
しかし、シオンはそれを口には出さず、あえて別の言葉を送った。
「『侵食』『崩壊・霊』」
またあの悍ましいオーラが周囲一帯に広がっていく。それだけじゃない。今度はその黒いオーラが幽体のような形を象った。それらが落ち葉や枝に触れる度、それらが塵となり崩壊していく。時折心を削るような狂声を上げた。
地面が黒く染まり、境界線が出来上がる。まるでここは自分の領土だとでもいうように黒く染まっていく。黒の領域はゆっくりと、しかし着実に広がり、周囲のプレイヤー達に恐怖を与えた。
そんな中、少しずつ歩みを寄せて行くシオン。トン、トンと地面を丁寧に踏みしめる音が響き、それに合わせて周囲に幾本かの黒土塊の長剣が生み出された。それらがまるで檻のように、亡霊の進行を止めた。
サレッジの前にくると、シオンは止まって、呟いた。
「あなた等が、覇王の御前で無礼を見せるから。……気づいてないのですか?」
「!」
サレッジは最早警戒も何もなく、ただ周囲をきょろきょろと見まわした。が、気づかない。僕の方も何度か向いていたが、不完全とはいえ迷彩化と、それなりにレベルが上がった気配遮断のスキルのおかげか、全く気にも留められなかった。
どこにもいないことに焦りだすサレッジ。それにシオンは嘲笑で返し、僕の方に手をかざした。亡霊たちが悍ましく騒ぐ。
視線が、一斉にこっちを向いた。合図ってこれですか? マジで?
「あー……えっと」
全く心の準備ができていないというのに、流石にビビるんだけど。ちょ、これはない。流石にないって。待って。マジ待って。無理。無理無理無理。今からいろいろ考えるから、せめてあと少し、時間をください。
一時、気まずい静寂が流れる。周囲には「なんだあのガキは?」っていう訝しむ顔と、「あのガキが何だってんだ」と舐めてる態度をとった顔の二つがあった。しかし、サレッジだけは顔を引き攣らせ、絶望したような表情をこちらに向けている。
……あー、もう。
わかったよ。やればいいんでしょ、やれば。いつも通りでいいんだよね? シオンにそう目で訴えるとこくりとうなずいた。
……やるか。
――――僕は、背負った大鎌を右手で構え、柄を全力で地面に叩き付けた。ズドォォォォォン! というすさまじい轟音が鳴り、次いで、その衝撃に土煙が舞い上がる。これが一番目を変えやすい。
「頭が高い、跪け」
僕は、なるべく感情を込めないでそう言った。目には殺意を込め、指示に従わぬものが出たのなら、問答無用で首を狩ると意志に示し、なるべくトラウマになるよう、深く深く、威圧する。
次の瞬間、その場の全員がザッ! と地面に片膝を付き、頭を垂れた。これで良し。さて、挨拶するとしよう。
「さて、話を聞く体勢が漸くできたな。自己紹介だ。余の名はシキメ。知っているだろうが、第一エリアボス『オークプラントウルフ』初踏破者だ。貴様らには、覇王とも呼ばれていたな」
とりあえず、普通に自己紹介。まずは自分のことを知ってもらわないとね。あなたたちの予想は間違ってないですよー、みたいな。ちょっと全力の威圧かけてるけど、気にしないでね―みたいな。
余? あはは、そうしろってシオンが言ったんだもん。結構前に。
「それで? 御託やはぐらかしは気に入らん。単刀直入に聞こう。サレッジ、余に何をさせる気だ?」
僕の質問に、果たしてサレッジは――――
「――――無礼を承知で、お頼み申し上げ奉る。どうか、願いを聞いてほしい」
――――ぶはっ。
ちょ、ふいうちやめて。超真面目な顔してそんな厨二くさいこと言うのやめれ! しかもなぜに古風なんだよ! なんで和風なんだよ! 洋風でいいじゃん! やべ、ツボる、これはマジあかん奴! だ、だめだ、ここだからこそ耐えねば。しっかりと、気を強くもて! もつんだ!
しかし、僕の固い意志とは無関係に、僕の表情筋は思ったより緩いらしく、少し口の端が吊り上がってしまった。
「……それで? 聞くだけなら聞いてやろう。話してみるがいい」
すこし威厳とか、威圧が解けたりとか、空気が緩んだりしてない? 大丈夫? 舐められてるとかない?
そんなことを思いつつ、サレッジに話を促してみる。
「ええ、それでは、話させていただきたく。まず我々は、この状況、つまるところの初期プレイヤーがPK側に寄ってしまったことによるゲーム全体の進行速度の低下を懸案し――――」
そこから、サレッジの状況説明が始まった。そして、この流れは僕も、恐らくサレッジやシオンも予期していたものだ。
まず、この場には初期もしくは初心者、初めてこのゲームを始めた連中のほとんどがPK側に行ってしまったことの重要性をよくわかっていない馬鹿が多すぎる。この序盤のゲーム状況でほとんどが進行に関係のない育成をしてしまったのだ。それはつまり、そのまま停滞を意味する。
停滞したネトゲほど詰まらんものはない。それはつまり、更新がない、アプデが来ないのと同じなのだから。
故に、その辺の諸々の事情を僕が推察したものと大まかに照らし合わせて、ある程度結論付けるためにこの流れにした。もしこれで間違ってた部分があったら、それで失敗を誘いかねないからね。
サレッジの話を聞き、ある程度は推察したとおりだが、多少出来事の時間にズレがある。そこらへんはまた埋めていくとして、ある程度は把握している通りだとわかった。
「――――と、以上が大まかな状況の説明で、現状どれだけ絶望的かということについて」
「ふむ、まあまあ把握していた通りだったか。余の感も鈍っちゃいないな。それで?」
そう、随分長々と丁寧に説明してくれたのは構わないのだが、本題である頼みごとについて、僕は一切、何も聞かされていない。ある程度のことは引き受けるつもりでいるが、いきなりトイレ掃除とか雑用とかさせられたらこの場の全員の首を刎ねて始まりの街に放り投げてやる。
そんな冗談はさておき、サレッジは少し躊躇し、頭を悩ませた後、やがて決心がついたかのように口を開いた。
「……我々が、あなた方に望むのは……敵と、味方の監視です」
うん、それお前らでもできるよね? ……味方? なぜに?
地上よりはるか遠い上空から見下ろすと、正しくゴミのように黒とか白とか赤とか青とか、金や銀も珍しくはなく、ピンクに茶色、山吹色とはずいぶんと渋いな。ともかく、いろんな頭髪が点々に見える。恐らくあれが集合場所だろう。
シオンもそれを見つけたようで、そこへ向けてゆっくりと降下――――せず、そこより少し離れた場所に降りた。
「どうしたの?」
「いえ、空から人が飛んで来たらビックリするでしょうし」
「それもそうだね」
確かにそうだ。
「あと、演出にこだわりたかったもので」
「演出?」
「はい、演出です」
そう言って、シオンは人差し指を唇に持ってきて「しー……」と小さく息を吐き、こっそりと、おそらく会議中であろう一堂に会している面々に近づいて行った。もちろん僕を背負いつつ。
ゆっくり、ゆっくりと、音を立てずに移動するシオン。何をしようとしているのかよくわからないが、何かやってはいけないことを企んでいることだけはわかる。咄嗟に止めようとしたが、静かにと怒られてしまった。ごめんなさい。いや僕謝る必要ないよね?
そして、もはやいつ見つかってもおかしくない木の陰に隠れた後、そっと僕を下ろした。流石に僕も音をたてないように葉っぱを踏むことは造作もないのでそっと地面に降り立つ。忍び足はお手の物である。いやだから何これ。普通に出ていこうよ。なにやってるのさ。
そんな疑問符を顔に浮かべた僕の耳元で、シオンは囁いた。耳がくすぐったい。
「これから私が一人で赴きます。隠れながらあの上座の椅子に座っていてください。合図をしたら、ご挨拶を」
「……ねえ、これやる意味あるの?」
「あります。断言します」
「……シオンがそう言うなら」
仕方ない。ここまで頑ななら、もうどうしようもないし、諦めてくれそうもない。とりあえず、言われたことを熟すとしよう。なあに、言われたことも僕のスキルを以てすれば余裕だ。
宣言通り、まずはシオンが赴いた。
――――宣言していなかったところは、出合頭にブチかましたところかな。
「『侵食』」
そう一言呟き、シオンはいつの間にか生み出した土塊を握りしめた。それはどことなく長剣を想起させた。
土塊の剣は、見る見るうちに黒く、悍ましく染まっていく。シオンからも黒いオーラのようなものが立ち込め、辺りに漂う――――否、蝕む。それはまるで、空間を侵食しているようだった。
そして、そのオーラは周囲の地面も黒く染め、木々を、小石を、落ち葉を、周囲の物体全てを黒く染めていく。
ミシリ、ミシリと何かが軋んでいる音がする。空気が侵食され、悲鳴を上げている。何もかもを飲み込み、喰らい、侵していく。それでも尚黒く、ただひたすらに黒くあたりを染め上げていく様は狂気的に思えた。
不意に、バキンッと音が鳴った。シオンが地面に落ちている黒く染まった小枝を、踏み抜き折ったのだ。僕はすぐに隠形スキルをかけた。次の瞬間、視線が一気にシオンの方へ向いた。
しかしシオンは動ずることなく、ただにやりと顔を悪く歪めた。
そして――――
「『壊絶・砲』――――ッ!!」
黒く染まった土塊の剣は、その黒を周囲に振りまき、悍ましく肥大化させた。黒土塊の長剣は弾けるように砕け、内側から黒いオーラを大量に噴出した。
それら一切合切が寄り集まって形を成し、大剣のように見えなくもない、巨大な何かに変わった。それを握りしめ――――シオンは、両手を振り抜いた。
途端、轟音。絶叫、後にそれらは驚愕から悲鳴へと変わり、敵襲を知らせる警戒になった。地面を抉り取るように放たれた黒が、会議机とその周囲を分断するように薙がれたため、うかつには動けないと思ったのか、リーダーたちは声を上げるだけに留める。
警戒が全員に行き渡ったところで、首謀者が出てきた。
そう、シオンだ。
「! ……な、んで。シオンさん」
サレッジは割れんばかりに目を見開き、呆然としている。そんなにショックかね。まあこの構図なら、シオンが敵に見えるか。そりゃ絶望か。
僕だって、シオンとはなるべく戦いたくないし。僕はいそいそと会議机の上座にある席に、椅子をこっそり持ってきて座る。
「サレッジ、さん。ですよね。合ってますか?」
「え、ええ。そうですけど。なんで俺の名前を? いや、そうじゃなくて、ええと」
「ええ、言いたいことはわかります。なぜこんなことをしたのか、ですか?」
「……はい」
「なぜって、そんなの簡単なことですよ」
「かん、たん……ですか?」
「ええ。非常に」
サレッジはいまだに呆然としている。まあ、言いたいことはわかる。絶望が来た理由は実はちょっとした演出のためで、正直それ以外に興味はない、なんて馬鹿みたいな、本当に簡単な理由でやられるとは思うまい。
しかし、シオンはそれを口には出さず、あえて別の言葉を送った。
「『侵食』『崩壊・霊』」
またあの悍ましいオーラが周囲一帯に広がっていく。それだけじゃない。今度はその黒いオーラが幽体のような形を象った。それらが落ち葉や枝に触れる度、それらが塵となり崩壊していく。時折心を削るような狂声を上げた。
地面が黒く染まり、境界線が出来上がる。まるでここは自分の領土だとでもいうように黒く染まっていく。黒の領域はゆっくりと、しかし着実に広がり、周囲のプレイヤー達に恐怖を与えた。
そんな中、少しずつ歩みを寄せて行くシオン。トン、トンと地面を丁寧に踏みしめる音が響き、それに合わせて周囲に幾本かの黒土塊の長剣が生み出された。それらがまるで檻のように、亡霊の進行を止めた。
サレッジの前にくると、シオンは止まって、呟いた。
「あなた等が、覇王の御前で無礼を見せるから。……気づいてないのですか?」
「!」
サレッジは最早警戒も何もなく、ただ周囲をきょろきょろと見まわした。が、気づかない。僕の方も何度か向いていたが、不完全とはいえ迷彩化と、それなりにレベルが上がった気配遮断のスキルのおかげか、全く気にも留められなかった。
どこにもいないことに焦りだすサレッジ。それにシオンは嘲笑で返し、僕の方に手をかざした。亡霊たちが悍ましく騒ぐ。
視線が、一斉にこっちを向いた。合図ってこれですか? マジで?
「あー……えっと」
全く心の準備ができていないというのに、流石にビビるんだけど。ちょ、これはない。流石にないって。待って。マジ待って。無理。無理無理無理。今からいろいろ考えるから、せめてあと少し、時間をください。
一時、気まずい静寂が流れる。周囲には「なんだあのガキは?」っていう訝しむ顔と、「あのガキが何だってんだ」と舐めてる態度をとった顔の二つがあった。しかし、サレッジだけは顔を引き攣らせ、絶望したような表情をこちらに向けている。
……あー、もう。
わかったよ。やればいいんでしょ、やれば。いつも通りでいいんだよね? シオンにそう目で訴えるとこくりとうなずいた。
……やるか。
――――僕は、背負った大鎌を右手で構え、柄を全力で地面に叩き付けた。ズドォォォォォン! というすさまじい轟音が鳴り、次いで、その衝撃に土煙が舞い上がる。これが一番目を変えやすい。
「頭が高い、跪け」
僕は、なるべく感情を込めないでそう言った。目には殺意を込め、指示に従わぬものが出たのなら、問答無用で首を狩ると意志に示し、なるべくトラウマになるよう、深く深く、威圧する。
次の瞬間、その場の全員がザッ! と地面に片膝を付き、頭を垂れた。これで良し。さて、挨拶するとしよう。
「さて、話を聞く体勢が漸くできたな。自己紹介だ。余の名はシキメ。知っているだろうが、第一エリアボス『オークプラントウルフ』初踏破者だ。貴様らには、覇王とも呼ばれていたな」
とりあえず、普通に自己紹介。まずは自分のことを知ってもらわないとね。あなたたちの予想は間違ってないですよー、みたいな。ちょっと全力の威圧かけてるけど、気にしないでね―みたいな。
余? あはは、そうしろってシオンが言ったんだもん。結構前に。
「それで? 御託やはぐらかしは気に入らん。単刀直入に聞こう。サレッジ、余に何をさせる気だ?」
僕の質問に、果たしてサレッジは――――
「――――無礼を承知で、お頼み申し上げ奉る。どうか、願いを聞いてほしい」
――――ぶはっ。
ちょ、ふいうちやめて。超真面目な顔してそんな厨二くさいこと言うのやめれ! しかもなぜに古風なんだよ! なんで和風なんだよ! 洋風でいいじゃん! やべ、ツボる、これはマジあかん奴! だ、だめだ、ここだからこそ耐えねば。しっかりと、気を強くもて! もつんだ!
しかし、僕の固い意志とは無関係に、僕の表情筋は思ったより緩いらしく、少し口の端が吊り上がってしまった。
「……それで? 聞くだけなら聞いてやろう。話してみるがいい」
すこし威厳とか、威圧が解けたりとか、空気が緩んだりしてない? 大丈夫? 舐められてるとかない?
そんなことを思いつつ、サレッジに話を促してみる。
「ええ、それでは、話させていただきたく。まず我々は、この状況、つまるところの初期プレイヤーがPK側に寄ってしまったことによるゲーム全体の進行速度の低下を懸案し――――」
そこから、サレッジの状況説明が始まった。そして、この流れは僕も、恐らくサレッジやシオンも予期していたものだ。
まず、この場には初期もしくは初心者、初めてこのゲームを始めた連中のほとんどがPK側に行ってしまったことの重要性をよくわかっていない馬鹿が多すぎる。この序盤のゲーム状況でほとんどが進行に関係のない育成をしてしまったのだ。それはつまり、そのまま停滞を意味する。
停滞したネトゲほど詰まらんものはない。それはつまり、更新がない、アプデが来ないのと同じなのだから。
故に、その辺の諸々の事情を僕が推察したものと大まかに照らし合わせて、ある程度結論付けるためにこの流れにした。もしこれで間違ってた部分があったら、それで失敗を誘いかねないからね。
サレッジの話を聞き、ある程度は推察したとおりだが、多少出来事の時間にズレがある。そこらへんはまた埋めていくとして、ある程度は把握している通りだとわかった。
「――――と、以上が大まかな状況の説明で、現状どれだけ絶望的かということについて」
「ふむ、まあまあ把握していた通りだったか。余の感も鈍っちゃいないな。それで?」
そう、随分長々と丁寧に説明してくれたのは構わないのだが、本題である頼みごとについて、僕は一切、何も聞かされていない。ある程度のことは引き受けるつもりでいるが、いきなりトイレ掃除とか雑用とかさせられたらこの場の全員の首を刎ねて始まりの街に放り投げてやる。
そんな冗談はさておき、サレッジは少し躊躇し、頭を悩ませた後、やがて決心がついたかのように口を開いた。
「……我々が、あなた方に望むのは……敵と、味方の監視です」
うん、それお前らでもできるよね? ……味方? なぜに?
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