死神さんは隣にいる。
45.全力疾走
ごちゃごちゃと乱立した木々が、視界を大きく制限する中、問答無用とばかりにPK達は襲い掛かってきた。シオンが僕を背負っていたのを見て、手負いだとでも思ったのだろうか。はたまた少年少女位ならと余裕かましていたのだろうか。なんにせよアホの所業である。
しかしそんな奴らに構っている時間はないし、そもそもあとでどうせ一人残らず皆殺しになるのだから放置してさっさと行きましょう、そうシオンがさり気なくこの後の虐殺を確定した提案をしたので、それの内容はともかくとりあえず逃げた。しかし手負いで逃亡とさらに好条件だとでも思ったのか、さらに人数が増えたのだ。
人数は百人を超えたあたりから数えてはいない。とりあえず強行突破を繰り返してたら敵が全員吹っ飛んでいたというわけだ。『ドレッド・ブレイク』の連打はよくないと思いました。
しかし、このゲームはリスポーンするまでの間、そのキャラクターの死体はその場にとどまる。意識はないのだがそこに残るだけで普通に走路妨害である。邪魔なので蹴り飛ばしたら首が変な方向に回って千切れ飛んだ。南無。
しかし、こんなゴミがたくさん置いてある場所では、いくらシオンといえども完璧に、まして大鎌と人を一人背負っている状況で走り抜くのは困難である。
僕みたいにSTRが高いなら大丈夫かもしれなかったが、如何せんシオンはβテスト時と同じらしいので、おそらくまた極端な振り方をしていると考えられる……。
何を隠そう、このゲーム内において、極振りステの元祖である。
このシオンに釣られ、多くの人が極振りステを使いだし、そして向いていないと去っていったことか。最終的になじむようにはなるとはいえ、序盤は非常に大変である。
まあ、当然極振りだけではなんにでも勝てるなんてことはありえないので、スキルやらギミックやらを多用するのだが、当然それは隙を作る。アーツ終了時、スキル終了時、カラぶった時の意識の空隙、当然一撃死も有り得るし、それを怖がっていたら目も当てられない。
しかし、シオンはそんなこと、気にも留めない。無駄だと感情を省いているのだ。
シオンの行動原理は一に効率二に合理性、三四計画五に行動という徹底した効率主義で超がつくほどの慎重派である。故に、仕損じることを許容しない。
決めたことは徹底して、完璧に、スピーディに。故に、躊躇うことや恐怖すること、驚愕することに油断することまでも彼女は完璧に切り捨てている。だからこそ、極振りを選んだ。あくまで上昇率だと割り切って。
そんなシオンだから、まさか僕を背負って走るなど考えていなかったに違いない。何せ、前の僕はシオンより早かったのだから。
「ふむ、リスポンした連中が仲間に位置を伝えていますね。明らかに追手が早すぎます」
「うん、ほぼそれで間違いないと思う」
そして、そんな背負い中でも遠慮なくPK共はやってくる。いや、もうもどきといったほうがいい。ここまでアホな雑魚はPKと呼ぶことすら烏滸がましい。
多数で囲まなきゃ戦うこともできない雑魚。木っ端の下っ端風情が、数で囲んでイキってるだけだ。
そして、そんなもどき共が、仲間に僕らの位置を伝え、それを聞いた馬鹿どもが、実力差も考えずに延々やってくるわけだ。非常に鬱陶しい。僕を背負ってるせいかシオンは攻撃を避けるのに精一杯だし、大鎌を振り回すたびに身体がぐらつくから少し怖い。いや、それすらも計算のうちだったり……?
まあ、なんにせよこの連中を撒かなくては、待ち合わせ場所に到達することすら難儀だ。強行突破すると会合、つまるところの拠点の場所が割れる。手助けのつもりが返って災厄を引き寄せたなんてことは犯したくない。
僕は、目の前にいる大剣使いのPKもどきと火魔法使いのPKもどきをもろとも吹き飛ばしつつ、連中に殺気を放つ。
「死にたくなかったら、どけ」
殺気に当てられたか、数人が退いた。しかし、それでも引かない頑固者が、目に恐怖を湛えながら片手剣と盾を構えていた。
そいつを一撃で塵に帰しつつ、シオンに走らせる。
「どうする?」
「そうですね、こういう追手が多いときは、どこかに隠れてやり過ごすのが得策かと」
「う~ん、それだと時間かかるんだよねぇ」
「でしたら、少し頑張るしかないですね。大鎌をしまってくれますか?」
「ああ、うん。どうするの?」
「簡単な話です。見つかるのが怖いなら、視界に入らなければいいのです」
暴論だのぅ。
「ちょっと本気で走ります。振り落とされないでくださいね」
「あんまり強く握っちゃうとシオンの意識が落ちちゃうけど?」
「冗談が言えるなら余裕ですね、トップスピードで行きます」
「れっつらご~!」
………………………………………………
ターン、ターンと軽快なステップ音が響く。その一歩を踏み出す度に速度が速まり、さらに視界が一瞬で流れていく。
街の中にもとうぜんPKもどきはいて、それにすら見つからないために、シオンは視界に映らないことを提案した。故に。
――――シオンは、空を跳んでいた。
「ねえ、シオン」
「なんですか?」
「シオンて、こんな空を飛べるようなスキル、持ってたっけ?」
「いえ、持っているスキルの組み合わせです。割と何とかなるもんですね」
「え、まだできるかどうか確認せずにやったの!?」
「理論上はできるんですよ。実際にできましたし」
にっこりと空を駆け抜けつつ、シオンは言うが、それもしミスってたら僕たち墜落してたってことだよね……?
高度を確保するために街の高台まで登り、そこからダッシュし始めたところで流石にビビったのだが、まさか試験運用すらまだの技術だったとは……。恐ろしいことをする。しかもそれを一発で成功させたのだからすごい。
ギミックは理解できる。やり方も、まあわかる。しかし、これ、相当ムズイぞ……?
僕はシオンのやっていることの高難度さに気付き、口の端を引き攣らせた。更にそれをほとんど片手間でやっているシオンが「退屈ですね、しりとりでもしますか?」と聞いてきたあたりで「ぶっ」と吹き出した。
「大丈夫ですよ落ちたりしませんから」
「そりゃそうなんだろうけども……」
確かにシオンだからこそ安心できる訳だが、もしこれが赤の他人なら僕は今すぐにでも首を切り落とす。そうしないのは一重にシオンを信頼しているからである。
だが、それでも怖いものは怖い。ここは既に地上から数十メートル程は上だ。観覧車のてっぺん近い高度で地面に平行に移動している。
というか、こんな高度にいて平気で居られるシオンの心臓はどうなってるんだろうか。僕は別段高所恐怖症という訳でもないが、それでも少し怖い。
「うーん、仕方ありませんね」
「へ?   何が……わひゃっ!?   へぶっ」
「よーし、よし」
それは一瞬の出来事だった。
突然下から足を引っ張られたかと思いきや、頭が半円を描く様に外に放り出され、物理法則に従って落ちるかと思いきや重力に反して何か柔らかいものにぶつかった。続いて、優しい感じの柔らかいものが頭に降りてきたのである。
そう、僕はシオンから急な体勢変更をさせられ、そのまま抱きしめられたのである。更にそこから息子を宥める母親のようになでりこなでりこ……て、ちょっと?
え、ええ、えええ?   うぇ?  あぇ?   なんで、ホワイ?
「よしよし、怖くないよー」
「……こ、子供扱いするな!」
そんなに怖かったわけじゃないやい!  そりゃちょっとは怖かったけど、そこまでされる程怖いわけじゃ……っ!?
一瞬でパニックに陥った僕は空中で暴れたせいか、シオンの腕がぱっと離れた。でも、今僕は背中ではなく胸に抱かれていたわけで……要するに、拠り所がないわけで。
当然、落ちる。
――――直前で、シオンが足を引っばりあげた。
「……」
「あの、大丈夫ですか?」
「……う、うん」
割と本気で死ぬかと思った……。本当に怖かった……。……ぐすっ。
……うぬっ!?
「ほら、大丈夫です、もう怖くないですよー」
「う、ううううう」
シオンに抱き締められ、そして頭を撫でられる。それがとても安心できて、頼れて、なんか、なんかこう、心が暖かくなって、それで。
さっきと違って、それを拒むような自分がいなくて、それを受け入れてしまって、それで。
……それで、ちょっぴり悔しかった。だって、僕は男だし……。
しかしそんな奴らに構っている時間はないし、そもそもあとでどうせ一人残らず皆殺しになるのだから放置してさっさと行きましょう、そうシオンがさり気なくこの後の虐殺を確定した提案をしたので、それの内容はともかくとりあえず逃げた。しかし手負いで逃亡とさらに好条件だとでも思ったのか、さらに人数が増えたのだ。
人数は百人を超えたあたりから数えてはいない。とりあえず強行突破を繰り返してたら敵が全員吹っ飛んでいたというわけだ。『ドレッド・ブレイク』の連打はよくないと思いました。
しかし、このゲームはリスポーンするまでの間、そのキャラクターの死体はその場にとどまる。意識はないのだがそこに残るだけで普通に走路妨害である。邪魔なので蹴り飛ばしたら首が変な方向に回って千切れ飛んだ。南無。
しかし、こんなゴミがたくさん置いてある場所では、いくらシオンといえども完璧に、まして大鎌と人を一人背負っている状況で走り抜くのは困難である。
僕みたいにSTRが高いなら大丈夫かもしれなかったが、如何せんシオンはβテスト時と同じらしいので、おそらくまた極端な振り方をしていると考えられる……。
何を隠そう、このゲーム内において、極振りステの元祖である。
このシオンに釣られ、多くの人が極振りステを使いだし、そして向いていないと去っていったことか。最終的になじむようにはなるとはいえ、序盤は非常に大変である。
まあ、当然極振りだけではなんにでも勝てるなんてことはありえないので、スキルやらギミックやらを多用するのだが、当然それは隙を作る。アーツ終了時、スキル終了時、カラぶった時の意識の空隙、当然一撃死も有り得るし、それを怖がっていたら目も当てられない。
しかし、シオンはそんなこと、気にも留めない。無駄だと感情を省いているのだ。
シオンの行動原理は一に効率二に合理性、三四計画五に行動という徹底した効率主義で超がつくほどの慎重派である。故に、仕損じることを許容しない。
決めたことは徹底して、完璧に、スピーディに。故に、躊躇うことや恐怖すること、驚愕することに油断することまでも彼女は完璧に切り捨てている。だからこそ、極振りを選んだ。あくまで上昇率だと割り切って。
そんなシオンだから、まさか僕を背負って走るなど考えていなかったに違いない。何せ、前の僕はシオンより早かったのだから。
「ふむ、リスポンした連中が仲間に位置を伝えていますね。明らかに追手が早すぎます」
「うん、ほぼそれで間違いないと思う」
そして、そんな背負い中でも遠慮なくPK共はやってくる。いや、もうもどきといったほうがいい。ここまでアホな雑魚はPKと呼ぶことすら烏滸がましい。
多数で囲まなきゃ戦うこともできない雑魚。木っ端の下っ端風情が、数で囲んでイキってるだけだ。
そして、そんなもどき共が、仲間に僕らの位置を伝え、それを聞いた馬鹿どもが、実力差も考えずに延々やってくるわけだ。非常に鬱陶しい。僕を背負ってるせいかシオンは攻撃を避けるのに精一杯だし、大鎌を振り回すたびに身体がぐらつくから少し怖い。いや、それすらも計算のうちだったり……?
まあ、なんにせよこの連中を撒かなくては、待ち合わせ場所に到達することすら難儀だ。強行突破すると会合、つまるところの拠点の場所が割れる。手助けのつもりが返って災厄を引き寄せたなんてことは犯したくない。
僕は、目の前にいる大剣使いのPKもどきと火魔法使いのPKもどきをもろとも吹き飛ばしつつ、連中に殺気を放つ。
「死にたくなかったら、どけ」
殺気に当てられたか、数人が退いた。しかし、それでも引かない頑固者が、目に恐怖を湛えながら片手剣と盾を構えていた。
そいつを一撃で塵に帰しつつ、シオンに走らせる。
「どうする?」
「そうですね、こういう追手が多いときは、どこかに隠れてやり過ごすのが得策かと」
「う~ん、それだと時間かかるんだよねぇ」
「でしたら、少し頑張るしかないですね。大鎌をしまってくれますか?」
「ああ、うん。どうするの?」
「簡単な話です。見つかるのが怖いなら、視界に入らなければいいのです」
暴論だのぅ。
「ちょっと本気で走ります。振り落とされないでくださいね」
「あんまり強く握っちゃうとシオンの意識が落ちちゃうけど?」
「冗談が言えるなら余裕ですね、トップスピードで行きます」
「れっつらご~!」
………………………………………………
ターン、ターンと軽快なステップ音が響く。その一歩を踏み出す度に速度が速まり、さらに視界が一瞬で流れていく。
街の中にもとうぜんPKもどきはいて、それにすら見つからないために、シオンは視界に映らないことを提案した。故に。
――――シオンは、空を跳んでいた。
「ねえ、シオン」
「なんですか?」
「シオンて、こんな空を飛べるようなスキル、持ってたっけ?」
「いえ、持っているスキルの組み合わせです。割と何とかなるもんですね」
「え、まだできるかどうか確認せずにやったの!?」
「理論上はできるんですよ。実際にできましたし」
にっこりと空を駆け抜けつつ、シオンは言うが、それもしミスってたら僕たち墜落してたってことだよね……?
高度を確保するために街の高台まで登り、そこからダッシュし始めたところで流石にビビったのだが、まさか試験運用すらまだの技術だったとは……。恐ろしいことをする。しかもそれを一発で成功させたのだからすごい。
ギミックは理解できる。やり方も、まあわかる。しかし、これ、相当ムズイぞ……?
僕はシオンのやっていることの高難度さに気付き、口の端を引き攣らせた。更にそれをほとんど片手間でやっているシオンが「退屈ですね、しりとりでもしますか?」と聞いてきたあたりで「ぶっ」と吹き出した。
「大丈夫ですよ落ちたりしませんから」
「そりゃそうなんだろうけども……」
確かにシオンだからこそ安心できる訳だが、もしこれが赤の他人なら僕は今すぐにでも首を切り落とす。そうしないのは一重にシオンを信頼しているからである。
だが、それでも怖いものは怖い。ここは既に地上から数十メートル程は上だ。観覧車のてっぺん近い高度で地面に平行に移動している。
というか、こんな高度にいて平気で居られるシオンの心臓はどうなってるんだろうか。僕は別段高所恐怖症という訳でもないが、それでも少し怖い。
「うーん、仕方ありませんね」
「へ?   何が……わひゃっ!?   へぶっ」
「よーし、よし」
それは一瞬の出来事だった。
突然下から足を引っ張られたかと思いきや、頭が半円を描く様に外に放り出され、物理法則に従って落ちるかと思いきや重力に反して何か柔らかいものにぶつかった。続いて、優しい感じの柔らかいものが頭に降りてきたのである。
そう、僕はシオンから急な体勢変更をさせられ、そのまま抱きしめられたのである。更にそこから息子を宥める母親のようになでりこなでりこ……て、ちょっと?
え、ええ、えええ?   うぇ?  あぇ?   なんで、ホワイ?
「よしよし、怖くないよー」
「……こ、子供扱いするな!」
そんなに怖かったわけじゃないやい!  そりゃちょっとは怖かったけど、そこまでされる程怖いわけじゃ……っ!?
一瞬でパニックに陥った僕は空中で暴れたせいか、シオンの腕がぱっと離れた。でも、今僕は背中ではなく胸に抱かれていたわけで……要するに、拠り所がないわけで。
当然、落ちる。
――――直前で、シオンが足を引っばりあげた。
「……」
「あの、大丈夫ですか?」
「……う、うん」
割と本気で死ぬかと思った……。本当に怖かった……。……ぐすっ。
……うぬっ!?
「ほら、大丈夫です、もう怖くないですよー」
「う、ううううう」
シオンに抱き締められ、そして頭を撫でられる。それがとても安心できて、頼れて、なんか、なんかこう、心が暖かくなって、それで。
さっきと違って、それを拒むような自分がいなくて、それを受け入れてしまって、それで。
……それで、ちょっぴり悔しかった。だって、僕は男だし……。
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